コンドルズ小説・まわり道
 其の五 『一月、巣籠もりの頃に』

 冬の到来とともに、流行病が猛威を振るいはじめた。
 秋の行楽に浮かれた僕らが良くなかったのか、師走の賑わいが良くなかったのか、首都圏を中心に感染者は増えつづけ、再度、緊急事態宣言が出た。
 夜の八時を過ぎると外食もままならない。昼の生活も自宅待機やテレワークが増えた。が、日中の外出は、そんなに減ったのだろうか。去年の春のように不要不急の外出を牽制し、三密を避けろだの、会食は控えろだの、謡いつづけている。けれど、昼間の行動に大差はないような気がする。
 仕事もなく、さしてやることもない。日がな酒をなめ、ごろ寝して、テレビをつけては消し、本を開いては閉じ、だらだら生産性のない生活を無為に送っていた。昼に起き、夕方に起き、夜に起き、明け方に起き、午後に起き、また、夜中に起きた。
 腹が減った。酒も尽きた。
 夜の街に出た。真っ暗である。
 夜の十時前だというのに、どの飲食店も閉まっている。居酒屋やラーメン屋ばかりか、牛丼屋まで閑散として持ち帰り営業している。人通りもなく、閉まった店舗に時間短縮営業の張り紙。街灯だけが白々と店並や道路を照らしている。まるで出口の見えない暗渠を歩んでいるかのようだ。
 腹を空かし、酒を求め、ただ歩いているだけなのに。いったい僕はどこに向かっているのか。出口の見えない道は、ただの闇でしかない。上もなく下もなく、顔が向かっている方が、前なのか、後ろなのか。目眩がする。
 近くの電柱に手をやり、体の重みを預け、支える。うつむいた視界の先にある、地面がゆがむ。落ち着くのを待って、つと横を見ると、まっすぐな通りの向こうに、満月があった。
 右手に伸びる道は、やや細いけれどまっすぐとあり、先に満月が輝いていた。まるで洞窟にぽっかりと開いた、
「出口のようだ」と思った。
 こんな時でも月は変わらない。
 一年、五年、十年前くらいなら、きっと変わらない月なのだろう。
 とりあえず、そっちに向かって歩いてゆこう。何が出口か、どこが出口か、なんてわからないけれど。ともあれ、前に向かって歩いてみよう。そんな風に思ってみた。


            其の六に、つづく。