こんにちは！佐渡の本間です。
「九州の旅」シリーズの投稿も一段落し、「司馬遼太郎と佐渡」をテーマにします。九州の旅で良かったことは、『胡蝶の夢』を途中まで読んでいた舞台の一つが長崎であったこと、最後に訪問した下関が歴史的に重要な地であったことを旅行後に全巻読み終え、知ったことです。（前回「下関と佐渡」《追記》ご参照）
司馬遼太郎については、『街道をゆく』を中心に据え『胡蝶の夢』も一部加えた２冊の本から取り上げます。私の見ている全集の中の８０余頁が「佐渡のみち」で、基本的には書かれている順に従い、そこで「おやっ！」と関心を持った事、場合によってはそれに関連して自分なり調べたりしたこと等をまとめていきます。
１．『街道をゆく』における「佐渡のみち」の位置と内容構成
� 愕稿擦鬚罎�』は、昭和４６年（１９７１）から司馬遼太郎の亡くなる平成８年（１９９６年）の約２５年にわたり「週間朝日」に連載された作品。
��朝日文庫全４３巻（日本に限らず外国を含む）中の第１０巻（「羽州街道（山形県）」・「佐渡のみち」）にある。なお、第１１巻は「肥前（佐賀・長崎）の諸街道」。
�Ｍ菘腓靴診�月は、昭和５１年（１９７６）１０月半ばすぎ。（「山形県の旅が、１９７６年９月２３日〜２６日の４日間」とだったというネット記事から類推）
�ね菘腓量榲�は、メインとしての『街道をゆく』の取材の外にもあった。
a.第２節目の文章の後半に「私にはべつに大切な思惑があって、幕末の佐渡が生んだ洋学者司馬凌海の生家のあとを訪ねたかった」とある。
b.司馬凌海は、小説『胡蝶の夢』に登場する主人公の一人で、「伊之助」の名で出てくる。
c.『街道をゆく』の「佐渡のみち」に続く第１１巻では、「肥前」で平戸・長崎を取り上げている。『胡蝶の夢』に描かれているのは、「伊之助」が長崎の医学伝習所でオランダ人ポンペからオランダ医学を学んでいたこと、その後平戸である家系の婿養子（一時的）となって住んでいたこと。
d.以上より、その時既に司馬遼太郎の頭の中には、題名は後からとしても『胡蝶の夢』を書く構想があった。
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８０余頁から成る内容構成は、次のとおり。
(1)「王朝人と佐渡」、(2)「大佐度・小佐渡」、(3)「あつくしの神」、(4)「真野の海へ」、(5)「倉谷の大わらじ」、(6)「小木の海」、(7)「鼠（ねずみ）浄土」、(8)「辻藤左衛門の話」、(9)「孫悟空と佐渡」、(10)「室町の夢」、(11)「黄金の歴史」、(12)「藤十郎の運命」、(13)「二人の佐渡奉行」、(14)「無宿人の道」
２．歴史に記述されている「佐渡」
�，気垢�に,稀有（けう)な歴史小説家。「佐渡へ行く前、この島の名前が出ている古い書物をさがしてみた」とある。
紹介したのは、「古事記」・「日本書紀」・「今昔物語」・「宇治拾遺物語」・「佐渡風土記」等。（※「・・・・」の部分は『佐渡のみち』から、それ以外は他からの引用で自分なりにまとめたもの。以下、同様）
a.古事記：712年に太朝臣安萬呂（おほあみやすまろ）によって献上された日本最古の史書。イザナキとイザナミが大八島を生み出したとされる七番目が、佐渡島（さどのしま）。（６月８日号「世阿弥と佐渡」《参考》ご参照）
「古くは、『古事記』の国生みのくだりに出てくる。ということは、７、８世紀の大和盆地の人々の可視範囲に、当然なことながらこの北方の海にうかぶ孤島が入っていたことになる。可視範囲に入っていただけでなく、無視できぬ土地としてすでに存在していたとも言えそうである」
b.日本書紀：720年に舎人（とねり)親王らの撰（せん）により完成。
「『日本書記』の欽明５（５４４）年のくだりに、『佐渡に粛慎人が上陸した』という記述がある。この当時、大和政権の版図は、新潟県にまではとてもおよんでいない。そのくせ、海上にうかんでいる佐渡のほうは版図に入っていたようである。このことはあるいは海流によるかもしれず、たとえば対馬暖流が北流して佐渡を包みつつさらに北流する。明治までの上方（かみがた）からの航路も、この海流に乗る。瀬戸内海から下関をまわって日本海航路をとるのが奥州への主要航路で、新潟港をめざす北前船も、風待ちなどで大ていは佐渡に寄港することが多かった。このため佐渡の言葉は上方アクセントが基礎になっており、越後弁とは異なっている」
c.今昔物語：平安時代末期（1000〜1100年頃）に成立したと見られる説話集。
d.宇治拾遺物語：13世紀前半（1200年頃）に成立した説話物語。
（前掲のcとdについて）「双方、噺（はなし）が似ている。佐渡が、はじめて黄金の出る島として登場するのである」
1)その話は次のとおり。佐渡に黄金が出るという話を聞いた能登の役人がその男に佐渡へ行って取って来るよう命じ、その際条件を請われて舟・食料等を提供。一月ほどして男が戻り、役所に現れ目配せし、「二人きりの場所で対面すると、男はずっしりと布に包んだ黄金を、袖から袖へ移した」「男は、それきり能登から姿を消してしまった」。
2）「これは能登の国司の場合である。となると、平安時代、佐渡国の国司（佐渡守）というのは一体なにをしていたのかという疑問が湧く」「王朝の公家どもというのは、政治という面では、まことにだらしのないものであった。貪欲なくせに冒険心がかいもくなく、右の説話の・・・ように、物を買うことは好きでも自分から波濤を越えて佐渡へ行ってみるということはしない」
3）「律令制の地方制度として、諸国に国府が置かれたが、佐渡にも当然ながら置かれている。また官立の寺として国分寺および国分尼寺が置かれたが、佐渡にはその二つながら置かれている。そのくせ、都から国司がやって来ない」
・国分寺・国分寺尼寺は、聖武天皇が741年に国状不安を鎮撫（ちんぶ）するため各国に建立を命じた。佐渡は、その時の全国７０箇所のうちの一つ。
・私の知る限り、役人が佐渡に常駐するのは１２２１年承久の変の後。時の鎌倉幕府が朝廷軍によるクーデターを収拾し、今の神奈川県厚木市出身の本間氏が佐渡国守護職となり、その時は常駐しなかったが１、2代後の子孫の代になると佐渡に土着。（司馬遼太郎（以下は、「司馬」で統一）は、「あらたな地方長官である『守護』になって佐渡へわたったという鎌倉武士がいない・・・」と書いている。それは司馬の問題では全くなく、我々佐渡人の知識レベルか情報提供の問題である）
e.佐渡風土記：「佐渡の砂金に人が目をつけるのは『佐渡風土記』では室町末期からである。歴史的には、越後の国主上杉景勝が金銀をめあてに佐渡を侵寇してからであった。となると、商品経済が人間の冒険心を育てるものらしいということが、仄（ほの）かに思えてくる」
f.佐渡年代記：「慶長６（１６０１）年から嘉永４（１８５１）年にいたるまでの251年間の佐渡奉行所の記録である。これだけ長大な時間にわたっての官庁記録が残っているというのはめずらしい」
その中で、「おろしゃ船」（ロシア船）への警戒警備に対する司馬自身の強い関心が窺える。（対馬の場合、「ロシア艦は」「占領する意図があって一時、海兵を上陸させ、藩兵と多少の争闘があった」）
（佐渡でも出没があったようで）「文化５年（１８０８）のくだりになると、もっと切迫してくる」「非常の場合の動員体制は『国中平野の村々より８００人ほどさし出す。合図は鐘である。合図があれば昼夜に限らず、相川の御役所へ駆けつけよ』というもの」「佐渡の場合、・・・百姓を動員するしかない。もともと百姓には戦士としての自覚も義務もないから迷惑しごくなことであった」
３．記述外の佐渡
これは、司馬の記した『街道をゆく』の範囲外の項目。
�〆甘呂砲郎�から1万２千年ほど前の国指定の縄文遺跡がある。小木半島にある「長者ヶ平遺跡」である。研究者によれば、縄文前期とされ広大な面積を持つ集落遺跡で、火焔式土器や石器が大量に出土し、住居跡・土壌・配石遺構などが検出された。
�¬鐇源�代を代表する装飾品とされる勾玉（まがたま）は、佐渡で多く製造され全国に移出したとされる。現代の科学では、どこの・いつ頃のものか客観的に究明できるとされるが、例えば青森県のある遺跡から佐渡で作られた勾玉が出土。
