今日は！自在業の櫻井です。
新穂の「へんじんもっこ」の次ぎには、携帯電話の英字や数字が書かれたボタン（キーシート）を製造し、世界最大の携帯電話機メーカー フィンランドのノキアに納めている畑野のサンアロー化成（株）に向かった。
そこは、初め予定していなかった。次のようなイメージを持っていたからである。
部品メーカーであるからユニーク性は薄い。携帯電話の技術進歩は急速で、少し前まで脚光を浴びたといっても、奈落に落ちる可能性が強い。ケータイに関し世界市場は、かってのような急成長は望むべくもない。
しかし、別の観点では 佐渡から世界へ向けたケータイ部品を製造販売していることは、普通では全く考えられないすごい事で、どうしてそこまでに至ったか記しておく価値はある。同社の会社紹介をネットで拾うと「佐渡からグローバルに活動展開し、世界市場約１０％のシェアを誇る携帯電話キーシート（ボタン）の開発・製造」とある。
５年位前 新潟日報の「ビジネス ひと ストーリー」に実質創業者の駒形勝也さんの記事が連載された記憶がある。すべて読んだわけではないが、事業に関する貴重な体験と考え方が記されていると思っていた。
関心事は、携帯電話に関連した事業を興すに至った過程と世界的な会社と取引できることになったキッカケの２点。
当日は、沢根で再び飛び込み取材の予定。新穂へ来たのであれば畑野は通り道だから、とにかく行って見ることにした。目的は、新聞記事。
本社工場に入るとロビーの壁際に、当工場で作られた製品展示コーナーがあった。その多くは携帯電話の主要部品として、海外へ出荷されるものだろう。
近くに受付電話があった。部署毎各人の内線番号簿があり、そこで総務課の番号を適当に選び電話して用件を伝えた。すると、エレベーターで４階までどうぞということになった。
受付で概略説明した後、総務課課長の知本さんが応対された。そこで目当ての新聞掲載のコピーをいただくことができた。４回シリーズでいつの新聞記事か記してないため、年月日不明。記事の中に（株）サンアロー ０５年８月期売上高３９０億円達成とあるから、新潟日報記者が駒形さんを取材したのは０５年１１月以降から０６年初めにかけてであることがわかってきた。ここでは、一々新聞社へ問い合わせたり 図書館へ行ったりして調べはしない。
文章は、駒形さんの語り言葉になっているから、親しみやすく分かりやすい。そのコピーとホームページを元にまとめた。なお、サンアロー化成（株）は、東京に本社のある（株）サンアローの子会社でキーシートの量産生産工場という位置づけにある。
１．創業以前
�。隠坑械掲�、佐渡・畑野の農家に１０人きょうだいの８男として生まれる。
�■隠坑毅暁�佐渡高校卒業後、父に言われ、北海道・札幌で雑貨屋をしていた叔父の手伝いをした。
１）ご用聞きで前掛けしめて法被（はっぴ）着て、「味噌や醤油はいかがですか」と取って来た注文を帳面につけ、品物を届け伝票を切る。住み込みで月給１，５００円。当時、ラーメン１杯３００円。
２）３年して、叔父の店がつぶれ、東京の兄を頼って上京。月給取りに憧れた。商店は盆と正月しか休めないが、会社勤めは、日曜と祭日は休める。
�Ｅ豕�・飯田橋の職業安定所へ行って、サンアローの前身・特殊ゴム製作所に入社。
１）職安では「一番小さくて新しい会社がいい」と言ったところ、「変わっていますね」と驚かれた。そこは、社長と事務員１人だけの会社だった。
２）ゴム製品の注文を取り、工場に下請けに出す仕事をした。働いて３年、突然社長から「辞めて欲しい」と宣告された。「よく働く社員は危ない。いつか寝首をかかれるぞ」と社長の友人から吹き込まれたらしい。
�ぜ，暴⊃Δ靴燭里�、接着剤メーカーの東京スリーボンド。
１）そこは学歴社会で、くやしくて売上目標は１００％、集金実績は１５０％を３ヶ月連続で達成。集金の１５０％というのは、前金をもらってきたから。
２）受付の女性を振り向かせたかった。「足は短いし、がに股、だみ声で、学歴もない。商いで勝負し、いいとこを見せたかった。嫁に行っちゃって、がっくりきました。でも、負けても、”かつなり（勝也）”」
３）「給料も年に２００円しか上がらんし、思い切って自分で会社を始める決意をしました」
２．独立・創業
�。隠坑僑廓�２６歳の時、現在のサンアロー本社の立つ東京・八丁掘で駒形ゴム工業を創業。
�◆屮▲僉璽箸琉貅爾鮗擇蠅銅�営の道を歩み始めました。電話の債権が１３万円なんてころでしたから、電話は置かず、外の公衆電話で『ご用はありませんか』と注文を取るところから始めました」
�Ｆ販�して２年後、前に理由なく辞めさせられた特殊ゴム製作所の社長が病気に倒れ戻ってきてくれと言うので戻った。
１）専務として復帰すると社長に逆に辞めてくれと言い渡した。その頃、社員７人、年商７００万円くらいの会社で、時計やライターのパッキンを上場企業に納めるようになっていた。
２）社長は、経営のセンスなく同業の仲間うちばかりで仕事をやろうとするため、取引先が広がらなかった。「それじゃ、時代の変化についていけない。ダメだ」と引退を願った。
�ぃ隠坑沓闇�、自ら興した駒形ゴム工業と会社を併合し社長に就任。社名をサンアロー交易に変更。
社名は、毛利元就の「三本の矢」からとった。製品の金型を作る会社とゴムを加工する会社、売る会社の三本の矢が力を合わせ、やっていこうという思いをこめた。
�ヂ莪貅．�イルショックの頃（１９７３年）、下請けの８割を任せていた会社が突然、下請けをやめた方がもうかると抜けてしまった。「この時は頭が真っ白になりました。今思えば、自前の工場を持つきっかけになったんですけどね」
（１９７３年：４月佐渡畑野にサンアロー化成（株）設立）
３．業容発展・展開
�。隠坑沓闇�代初め伝導性シリコーンゴム加工に成功
１）信越化学工業が世界で初めて導電性のシリコーンゴムを開発。それを新聞記事で読んだ。
２）「連絡したら、向こうもちょうど加工先を探していたんです。子会社の信越ポリマーと連携し、開発に取り組むことになりました」
３）「まだ小さな会社で、大卒の技術者には見向きもされず、採用でいませんでした。付き合いのあった型屋や技術屋と相談しながら、何とか加工技術を完成させ、電卓のゴムスイッチを開発しました」。それが、楽器のキーボードに至るまで応用範囲が広がっていった。
（１９８３年：７月茨城工場開設、９月サンアロー（株）に社名変更）
��電卓などの需要で業績が伸びる中、プッシュホン式の電話機作りも手がけるようになった。受発信の機能を除いた「半完品」を下請けで作った。
１）「アメリカ最大の電気通信事業者Ａ＆Ｔ社やベル研究所にも挑むような気持ちで製品を持ち込みました。１７、８年前でしょうか（１９８８年頃か）、モトローラにも売り込み、仕事を受けるようになりました」
２）「小型交換機で出てきたスウェーデンのエリクソンの下請けもやるようになりました」
３）「当時は中小企業の社長だとか限られた人の持ち物でしたが、個人が持つ携帯電話の時代が来ると直観しました」
��事業思想
１）「世界のモトローラも、いつ王座から転落するかも分かりません。常に『当てたら逃げろ』の精神で、うまくいっても次の展開を考えました」
２）「よそがやらないこと、やりたがらないことは何かと、生き残るための開発に必死でした」
４．経営危機
�。隠坑坑闇�代に入り、自動車や家電・情報機器など国内外のメーカが、東南アジアに生産拠点を移動。
��円高が進み、１ドル８０円を切るかどうかの頃、電卓やリモコン部品を海外に輸出していたが、円高による差損で大打撃。
��「市場は成熟すると、価格競争一辺倒になります。そんな中で、人件費の平均が世界一高いと言われる日本で物を作っても勝負にならんし、もうからんと思いました」
知人の紹介で海外では初めてタイに工場を出した。１９９１年４月タイ工場操業。
�ぅ侫�ンランドの携帯電話機メーカー ノキアとの出会い。
１）タイ工場の建設中、現地である会社の広告塔を見た。それが、ノキア。
２）「ノキア モバイルフォン」と言う看板が立っており、英語は出来なかったが、モバイルフォンの意味はわかった。ノキアは、聞いたこともない名前だった。
３）その頃、携帯電話の世界市場は、エリクソン（スウェーデン）やモトローラ（米国）がずっと上。「ですが、将来伸びる会社かもしれないと思い、営業マンをすぐにフィンランドに調査に生かせました。当時、世界上位のエリクソンやモトローラの部品を作っていましたが、下請け企業としては、取引先がいつこけても大丈夫なように次の展開を考えておく必要がありましたからね」
４）ノキアには最初国際特許を取った「ライト（光る）キー」を持ち込んだが、ノキアは「ゴムが文化だ」（ノキアの原点は、長靴や電線）と主張し、合成樹脂との複合品を受け入れなかった。最初はノキアの言う通り、シリコーンゴムのラバーシートを納めていて、肝心かなめ製品の発注を受けるまでに３年かかった。
��１９９３年バブル経済が崩壊し、深刻な経営危機に見舞われた。
１）国内メーカーからの受注が半減し、最大で６０億円あった売上が３年間で半分近くまで落ち込み。借入金が１８億円に上がり、創業以来、最大のピンチ。
２）「このまま最後まで行って、どぼーんとつぶれるのもいいかとも思いました。しかし、社会的な責任や将来のある若い社員のことを考え、生き残るために苦渋の選択をしました。役員を半減、社員の３割を人員整理し、最初に建てた埼玉工場を閉鎖しました。そして利益の少なくなった電卓やリモコンなど、会社を大きくした主力製品を全部やめ、携帯電話端末の部品に特化してやっていこうと決断しました」
５．生き残りへの対応
�〃搬單渡辰良�品製造に事業を一本化し、ノキアの仕事が中心になってから、経営も軌道に乗り始めた。
１）「ノキアもね、倒産寸前から事業を携帯端末に絞って、世界市場でトップの４割を占有するまでになった会社です。企業は生き物です。事業がうまくいっても、それは一瞬です。比率から言えば、悪い状況の方が多い。いかに情報を早く集め、分析し、決断を下すかが肝心です」
２）ノキアの戦略に従い、２００１年から中国、欧州など海外に生産拠点を移した。（０１年：深せん工場、０２年北京工場、０３年フィンランド工場・ハンガリー工場、０４年：廈門（アモイ）工場）
�∈農菽宍蚕僂粒�発拠点の整備
１）０２年見附市の工業団地に研究開発と量産工場の機能を兼ねた新潟工場を出した。
２）新潟市に自社設備の設計と製造をする工場を造る。「単なる下請けでなく、取引先に提案していけるような製品作りで生き残っていう基盤を考えました」
３）「ノキアもうちの会社も『永遠』ではなく、いつこけるか、一寸先は闇です。携帯電話の時代はテレビや冷蔵庫と同じで今後も続くでしょう。市場の成熟に伴ない、メーカーの要求は、『清く、正しく、美しく』がモットーの宝塚音楽学校より厳しく、美しさのほかに、少量生産や受注量の変動、多品種、短納期に対応できる体制が求められます。苦労は耐えませんが、さまざまな要求にこたえられる『ベストサプライヤー（供給者）』として努力し続けてまいります」
６．まとめ
�，覆失甘呂如＼こ�最大級の携帯電話キーシート（ボタン）製造工場が、存続しているのか？
１）事業や会社は永遠でないから今後の保証はないに決まっているが、それにしてもである。島にあって作る物は変わっても、サンアロー化成は３７年間に及んでいる。駒形さんが、佐渡畑野の出身で郷里の振興のため工場を出しただけでは、説明にはならない。
２）島のハンディは、原材料や製品を運ぶのに船賃と時間がかかる。仮に、いくら人件費が安いといっても、日本において他の地方と比べ大きな差はないはずだ。人件費をいうのなら中国や東南アジアなどの方が安く、その方が有利だろう。
３）関係者に聞けばすぐに解かるのであろうが、次のように推察。
a．キーシートには開発力が欠かせない。それには、柔軟な発想を持った人材が必要。工程・作業改善も同じ。
社員教育で、「コップを逆さにして水を飲むにはどうするかと問いかける。皆、大抵答えに窮してしまうが、水だと思うからこぼれるけど、氷にしたら？」
b．良い物を量産するのに設備装置が物をいう。労働生産性より設備生産性。また、それだけに設備装置を働かせ、不具合を早期発見し、故障した場合すぐに直せる人材レベルにかかわってくる。同時に、原材料の検査・配合等の目利き人材も同じく重要。
c．製品検査や梱包なども、人材力を要す。同社社訓は、「速く！ 激しく！（情熱） 正確に！」
d．製品は、小型・軽量・量産。従って運賃コストは、それほど負担にならない。
連載記事には、「『佐渡工場は、品質面で一番信頼できる』と胸を張る駒形社長」と載っていた。品質の信頼性は、人件費や運賃の安さには換えられない。
�△�目当ての連載記事を知本さんから頂き、目的は果たせたと礼を述べていたら、さらに０７年に新潟日報に載っていた記事のコピーを持ってきていただいた。
１）「佐渡の会社 会議室は発泡スチロール ドーム型でお目見え」でそのドームの写真が載っている。
２）これには、思い当るものがあった。昨年５月２３日に佐渡の延喜式式内社を主体とした神社巡りで、畑野の飯持神社から同じく御食（みけし）神社へ向かう途中にあった。後で、その記事に目を通すと、参考になることが書いてあった。
その会議室は「楽しい会議室がコンセプト。奇抜な会議室から新しい発想を生み出したい」と同社は期待を寄せている。携帯電話のキーシート（ボタン）などを製造する同社は、島外から人材を集め佐渡の活性化を図ることなどを目的に『アリギリス村』と銘打ち、約３，６００�屬良瀉呂縫蹈哀魯Ε垢亮丗陦掬錣覆匹魴�設してきた。・・・駒形社長は『本音をぶつけ合う会議ができるムードをつくりたい。世界に先駆けた発想を島から発信したい』と話している。
「アリギリス村」といいログハウスといい、昨年通った時 非常にハイカラで 自治体が造ったわけでないし、民間の開発業者でもこういう所に大規模なものを作って募集するわけはないと思って、それっきりになっていたのが、これで思考回路がつながった。
実質創業者の駒形勝也さんは、現在 グループ合わせて６，０００人の従業員を擁するサンアロー（株）の取締役最高顧問。新潟日報に連載された時の年齢は６７歳で世界相手の激しく厳しい業界での３００億企業社長、発想力と決断力と故郷想いに敬意。
以上
追記
書き込み完了数時間後、自分の持っているケータイは実はＮＯＫＩＡ製であることに気づいた。
�〆�のものに取り替えて２〜３年経つ。その時、ノキアの表示を見て「これが世界一」と思ったことあったが、操作すると漢字・仮名、数字、英字変換やっかいで使い勝手悪いと思った。それは現在も同じ。前のメーカー名は覚えてないが、それが良かった感じがする。
��一つだけさすがと思ったものがあった。それは、ボタンを押す場合親指の爪先で行なっていたが、そうしなくても意図するボタンに親指全体を付け軽く押せば思いどうりの表示が出ること。まさに、機械でなく人間に合わせて作られている。他メーカーと比較したわけでないが、それに気づいてノキアのすごさを感じたのは事実。
��私が今使っているケータイのボタンは、サンアロー化成の製品に間違いなかろう。灯台下暗しであった。同社は、日本はもちろん世界に向けている。
以上
