2021年12月28日

今年は3回戦と準々決勝は気になった組の動画を見る程度で、準決勝は全部見ています。

・モグライダー さそり座の女 637点
初決勝組の中では期待されていたモグライダーがトップバッターに。
「さそり座の女はイントロのところで美川憲一さんに星座と性別を聞いた人がいる」という話題の切り出し方が衝撃的なネタ。準決勝ではうねるような爆笑が起きて、私も胃が裏返るぐらい笑いました。
前のモグライダーのネタはおそらく中身をあまり決めていなくて、ともしげさんが言い間違えていくのを芝さんが臨機応変に完璧に拾っていくというものでした。でも今回はきっちり構成を決めてきて、そうしたら準決勝に初めて進出して決勝にも来られたという。
トップバッターでこの点数は素晴らしいです。もっと後の出番なら確実に上位に絡んでいたはず。

・ランジャタイ 風猫 628点
「何やってるんだ」と思っているうちに面白くなってくるのがランジャタイだと思います。なので「何やってるんだ」と思ったまま置いて行かれてしまう人もいる漫才ではあるのですが、去年の敗者復活で知名度を上げてこの一年は露出が増えていたので、見る人を巻き込む力が増してウケるようになっていたと思います。準決勝はバスケ(バスケットボールゴリラ漫画ゴリラとは違うネタ)で、今回のネタの方がかなり笑いどころをわかりやすくしていたかなと。
笑神籤で呼ばれた時も、スタジオまでの長い廊下を歩く時も、ずっと国崎さんがウケていたのが印象的です。「浅草キッド」を見た後なので、もしたけしさんなら絶対全箇所でボケるだろうなと思いました。
点数は628点。ちゃんとウケてその後の受け答えでも笑いを取るという理想的な展開だったと思います。後の組の審査コメントでもたびたび名前が出てきましたし。

・ゆにばーす ディベート 638点
準決勝と同じネタ。準決勝は最初の手拍子のつかみでドカンといって、その後もずっと爆笑を取っていました。
準決勝は序盤にニューヨークが「ドラマ」のネタで男女の違いみたいなものを扱っていて、切り口としてはゆにばーすがそれを上回ったような印象がありました。でも今回の決勝だと「やっとまともな漫才が出てきた」という感じになってしまったのかもしれません。審査コメントでもありましたが、はらさんが本当にうまくなっています。
ウケていたのに点数が伸び切らず。この点では優勝できないと悟ったかのような川瀬さんの表情が印象的でした。

・ハライチ(敗者復活) 636点
準決勝とも敗者復活とも違うネタ。ハライチはネタが多彩な分、岩井さんがやりたいものと見る側が期待するものが一致しない時があり、今回はそれに当たってしまったかなと思いました。それでも審査員は高評価の人もいたので、最後に見せたい自分を見せるという岩井さんの意図は当たったと思います。エリートで前のM-1から決勝に進んでずっと売れ続けてきたハライチが完走したんだなあと思いました。

・真空ジェシカ 一日市長 638点
準決勝と同じネタ。
審査コメントでも触れられた通り、センスに溢れた漫才をする人たちです。一つ一つのボケは卓越した発想力から生み出されたもので、それが全て刺さる人もいる反面、ボケが並列になっていると感じる人もいると思います。なので、真空ジェシカがはまる人はなぜはまらない人がいるのかいまいち理解できず、はまらない人はなぜはまる人がいるのかいまいち理解できないという、意外と好みが別れる芸風だと思います。
私の中では川北さんは霜降り明星の粗品さんと対になっている人です。それは2013年に見たR-1の準決勝に二人ともいて、二人ともセンスを爆発させた羅列型のフリップネタを披露していたからです。粗品さんは売れる前だから確か髪がボサボサで(エントリー名も「霜降り明星佐々木」でした)、見た目の印象も重なっていました。卓越したフリップネタの発想にせいやさんという表現者を得て完成したのが霜降りの漫才なのだと思います。

・オズワルド 友達 665点
ここまでの5組が10点差以内に収まる接戦。頭一つ抜け出す人を求める空気の中、本命視されたオズワルドが登場。
畠中さんの朴訥とした風貌と不穏なボケのギャップ、伊藤さんの多彩なツッコミの技術。東京漫才の粋を極めたネタだし、ありネタをブラッシュアップしきったオズワルドのベストアルバム的なネタと思います。準決勝でもニューヨーク、見取り図といった常連組の中で頭一つ抜けた爆笑を取っていました。
ここまでで一番のウケを取り、審査員から軒並み高得点を獲得しました。

・ロングコートダディ 生まれ変わり 649点
準決勝と同じネタ。生まれ変わりをおかしなものにされる設定もさることながら、「宣告される」→「細かい設定をもらう」という二段構えの構造にうなります。別に同じ人が設定も言ったっていいんですが、移動して設定を聞かされるという面白さによって「天界全体」というスケール感が出てくるんですよね。そしてなぜ肉うどんなのか。肉と麺と出汁で一つの自我なのか。
準決勝ではこれは行ったなというウケでした。決勝でも立派にウケて649点。打ち上げの配信によると、最後のワゴンR以外の候補は若女将、ワイルドスピード2、割り勘のアプリだったそうです。全部面白い。

・錦鯉 合コン 655点
準決勝と同じネタ。準決勝の錦鯉は序盤からめちゃくちゃ面白くて、さらに後半でバキバキに笑いを取るネタなので完成度がすごかったです。(その直後に出てきて同じバカ路線でやっぱり爆発したモグライダーもすごかったですが)
去年のパチンコのネタはいわば準決勝の壁を突破するためのネタで、錦鯉のこれまでのネタの中ではややトリッキーだったと思います。一度突破した後は自分たちの強みを発揮したネタを出してくるというさすがの周到さでした。

・インディアンス 心霊動画 655点
2019年に「おっさん女子」のネタで準決勝の壁を突破したのがインディアンスです。今回の準決勝は最後に「どうも〜、インディアンスで〜す!」で喝采をもらうことでまた壁を乗り越えたように思いました。
漫才はとにかくすごい、今回は出番順も後半で流れに乗ってウケまくる。でも頭一つ抜けるには至らない程度の点数。上沼さんが98点を付けましたが、他は全員94点以下。厳密に考えれば一つの笑いどころあたりの点数がとても低いことになるし、こんなにウケてこの点なの?と思うとさらにトータルで減点されて付いているような点数です。

・もも 欲しいもの 645点
わずか結成4年目。去年M-1前の時期に劇場で予備知識なしで初めて見て、近い将来必ずM-1の決勝に行く人たちだと確信しました。たぶん彼らを見たことがある人はみんなそう思っているはずです。そして思ったより早く上がれたのがすごい。
こちらは準決勝とは違うネタ。巨人さんにも指摘されていましたが、意外とスロースタートなんですよね。見終わった後は「○○顔」の応酬のような記憶が残るのに、もう一度見るとそれが始まるのが意外と遅い。全ウケに至らなかったのが残念でした。まもる。さんがせめる。さんをいじるターンの方が打率が高いように感じたので、ヤンキー顔をいじって笑うことに抵抗を感じる人が多いんでしょうか。とはいえ、これからにもとても期待ができるコンビです。こんな殴り合いの言葉の応酬ができる発想も技術もすごい。松本さんの「3年後優勝顔」は最高のコメントですね。

以上10組が終わり、上位のオズワルド、錦鯉、インディアンスが最終決戦へ。

・インディアンス
1本目にひけを取らないぐらいにウケているので、他がいまいちなら全然あるかもという出来でした。

・錦鯉 猿を捕まえる
50歳が合コンに行く設定も十分面白いのに、「猿を捕まえたい、業者よりうまくやれる」って!
まさのりさんの何がすごいって、セリフはもちろんバカなんですが、細かい仕草も全部ちゃんとバカなんですよね。手の振り方とか足の置く場所とか口の動かし方とか目のギョロつかせ方とか、細部に至るまでしっかりとバカが行き届いている。だからバカキャラとかじゃなくて、まさのりさんという人そのものの面白さが迫ってくる感じがあります。
そしてそこに渡辺さんのツッコミです。みんな言っていることですが、「じゃあもういいじゃねえかよ」が痺れましたね。
最後の寝かせるところ、中盤の回収になっているところももちろんですが、緩急というか、あんな静かにかつバカバカしく終われるところに中年の悲哀以上の余裕を見ました。そして「ライフイズビューティフル!」の意味を実はまさのりさんは知らないという。

・オズワルド 割り込み
1本目1位のオズワルド。ウイニングランが始まるのかどうなのかという目で見始めた我々の前で繰り広げられたのは、なんだかどうしてもウケきらない漫才。あれ、あれ、そろそろ盛り上がり始めないと…とみんながじりじりしていただろうし、本人たちはもっと焦っていたと思います。
打ち上げの配信で、伊藤さんが「君らは猿は出さないの?という目で見られた」「喋れば喋るほど目に見えて優勝が遠のいた」と言っていました。セリフも間違えてしまったとのこと。アナザーストーリーでも、錦鯉のネタに起こる笑いに耳を塞いでいるように見える伊藤さんが映っていました。

これですべてのネタが終了。
最終結果は錦鯉5票、オズワスド1票、インディアンス1票で錦鯉の優勝!

固く抱き合うまさのりさんと渡辺さん、そして大号泣するまさのりさん。塙さんや富澤さんも泣いていたのが印象的でした。

というわけで今年の優勝は錦鯉でした。M-1、キングオブコント、R-1を通じて北海道出身者の優勝は初めてです。そしてSMAは吉本以外の事務所では初めてこの三つの賞レースを全て制覇したことになります。おめでとうございます。

インディアンスは打ち上げ配信で「優勝するのって難しいんですね」と言っていましたが、かなりウケていたし他が圧倒的にウケたわけでもないのに点が付かない。それで視聴者から「なんでインディアンスが優勝じゃないんだ」「なんで点数がもっと伸びないんだ」という声がたくさん上がるわけでもないのがインディアンスだなあと思います。

超本命視されたのはオズワルドでしたが、終わってみれば錦鯉の横綱相撲に見えました。
去年はまさのりさんのキャラを知ってもらうネタで準決勝を突破し、今年は準決勝と決勝の両方でネタの構成が見事にはまったウケを取り、ネタ巧者といえるオズワルドに見事に勝利しました。単にバカキャラで押し切ったからではなく、去年M-1決勝に初進出して今年勝ち切る、理想的な展開での優勝。まさに横綱相撲だったと思います。

さて、ファイナリストが発表された時は「まるで地下ライブのよう」「地下芸人の勝利」みたいな言われ方が多かったですが、準決勝は紙一重の戦いだったと思うので、吉本が全然ダメで非吉本がすごかったというようなことは全くないと思っています。準決勝ではマユリカ、ヘンダーソン、カベポスターといった漫才劇場勢が非常に惜しかったと思いますし、ニューヨークや見取り図ももちろん上がってもおかしくなかったと思います。本当に紙一重の戦いでした。

そんな中でも、モグライダーが決勝に進出したのが印象的です。
もちろん記憶違い認識違いはあるかもしれませんが、東京ライブ界隈についての自分の記憶によると、モグライダーが話題になり始めたのはTHE MANZAIの時期で、「ハプニングにアドリブでツッコミを入れるとんでもない漫才師がいる」と評判になりました。
当時はともしげさんが本当にただ間違えて、それに応じたツッコミを芝さんが入れるというのがモグライダーの漫才でした。
モグライダーは売れなきゃおかしい、芝さんは天才だと言われてきたものの、一度認定漫才師になって、M-1が再開されてからは準々決勝止まり。ハプニング性があってどう転ぶかわからないという漫才は、賞レースの場ではなかなか爆発しにくいんだろうなと思いました。作ってる感がないようにするのが漫才とはいえ、なさすぎるのも違うという印象になるのかもしれません。
二人の各所での話によると、この一年はM-1を目指してちゃんとした台本を作るようにしたそうです。準決勝で「さそり座の女」を見て、ちゃんと練ったモグライダーの漫才はこんなにすごいのかと思わされました。

東京非吉本の芸人さんを指して地下芸人と言うことが増えましたが、モグライダーは非吉本の中ではわりと知名度がありメジャーなライブに出ていたので(最近はわからないのですが)本来の意味での地下芸人ではないかもしれません。
ただ、圧倒的に才能がある芝さんは、メジャーなライブの中でさえ「どうしてこの人がここにいるのか」と思わされる存在でした。だからモグライダーが売れないのはおかしいと言われてきたわけで。
永野さんやザコシさんのように地下の帝王が地上に出てきてちゃんと売れたというパターンもありますが、錦鯉やモグライダーは「地下にはすごい芸人がいる」のではなく、「地下とは思えないほどちゃんとしたことをやっていた」という方がしっくりくる気がします。
一番話題になった時期も過ぎて、準々決勝止まりだったモグライダーが40歳手前になろうかという頃にこんな漫才を仕上げられて本当に良かったと思います。

東京非吉本の地下ライブも、地下ライブに分類されないライブも、芸人さんやお客さんにとってあまり快適な環境とは言えません。楽屋が小さいから外でネタ合わせをしないといけなかったり、入場待ちは外で並ばないといけなかったり、トイレが一つ二つしかなかったり。厳しい環境だから、必然的にお客さんもある程度若くて体力のある世代が中心になります。

あと、非吉本は劇場を持っていない事務所がほとんどで、芸人さんは外部の主催ライブに出ることになります。そして外部のライブはやはり集客が大事になるので、芸歴を重ねてくると出られるライブが少なくなってくるという現状があります。中堅以降の芸人さんが漫才協会に入ることが増えているのは、そうしないと立てる舞台がなくなるからというのもあると思います。
非吉本でM-1、KOC、R-1を制覇したのが劇場を持っているSMAであるという点は、おそらく偶然ではないはずです。

いかんせん「浅草キッド」を見た後なので、結局東京芸人の本拠地は浅草になるということがちょっと感慨深くもありますが、もう少し間口が広くなってほしいなと思います。
地下ライブに脚光が集まったとしても、そういった環境や現状が改善されることはなかなか見込めないので、いつかどうにかなってほしいなあと思う次第です。

M-1は今年も楽しかったです。お笑いブームが過熱する中、その期待に応えるようなハイレベルな戦いでした。芸人さん、スタッフの皆さん、ファンの皆さん、お疲れさまでした。


(21:49)

2021年10月04日


松本さん以外の審査員の変更が発表され、お笑いの日の中で一人ずつ発表された新審査員は東京03飯塚さん、バイきんぐ小峠さん、ロバート秋山さん、かまいたち山内さんというメンバーでした。

いずれも過去のチャンピオンで今も現役でネタをやっていて、かつテレビでもそれぞれの地位を獲得してきた人たちです。ネタ書き担当という点は共通していながら、トリオのツッコミ、コンビのツッコミ、トリオのボケ、コンビのボケと立ち位置がそれぞれに違っているのが面白いと思いました。

・蛙亭 人造人間
中野さんに悲鳴が!でもその後の緊張と緩和がしっかりと決まってちゃんと盛り上がったので、今年のお客さんは笑ってくれる人たちなのかなと思いました。
よくよく見ると中野さんはそこまで突飛な格好はしていないんですが、それでもものすごく気持ち悪い。
後半もまでずっとウケていましたが、もっとテンポが上がればもっと盛り上がったのかなと思います。ただそういうテンポでやる芸風ではないのも事実ですよね。
点数は461点。

・ジェラードン 幼なじみ
言っていることは合っている、でも…というタイプのネタの中ではとてもキャラクターが強く、そのインパクトでぐいぐいと笑わせていくネタ。
小峠さんのコメントで、海野さんが二人にあまり絡まない点を評価していましたが、この後登場人物同士の絡みがきちんとあるコントがどんどん出てきたところを見ると、そういうコントの後の出番だったらもっと点が伸び悩んだかもしれません。
点数は462点。

・男性ブランコ ボトルメール
顔の知らない文通相手と初めて会う、白いワンピースを着てきた彼女の見た目だけならまだギリ大丈夫かも、でも喋り始めたら…というところでまずドカンと来て、でも男性の方はイメージ通りだと喜んでまたドカン。そこからさらにどんどん笑わせていく、素晴らしいネタです。
こんな強烈な人でイメージ通りって、一体どんな文面をやりとりしていたんだと思うとめちゃくちゃ面白いです。
点数は472点。

・うるとらブギーズ 迷子センター
前半の慌てたお父さんも面白いし、そこから後半のアナウンスが始まった時の、「そうだよね、確かにそうなっちゃうよね」という面白さたるや。人のこういう感情を笑いに変えさせたら彼らの右に出る人はいないと思います。
聞いたことをそのまま言わなきゃいけないのが迷子センターだし、こういう服の何歳ぐらいの…と言うアナウンスを聞いた時に「他にもいたらどうなるんだろう」とちらっと思ったことは誰にでもあるかもしれません。それをこういう決して大げさでない形で笑いにするというのは、外見にそこまで特徴がなくて誰にでもなれる二人だからこそ絶妙に突けるポイントだと思います。
点数は460点。

・ニッポンの社長 バッティングセンター
反省会で触れられていましたが、当たる音が絶妙なんですよね。オチでおじさんがすごくバッティングがうまいのも最高です。ここで「うまいというオチだけどスイングはそこまでいいわけではない」という状態だと面白さは半減してしまうと思うので、きっちりスイングを仕上げているのも素晴らしい。そしてこれが面白いことをわかって作っているというのが一番すごいです。
点数は463点。

・そいつどいつ パック
刺身さんの女装や女性の演技って絶妙ですよね。背後の壁がコンクリート打ちっぱなしなことも、二人がどういうカップルなのかをなんとなくイメージさせます。ホラーあるあるで緊張と緩和を繰り返した後、一気に不穏な感じにさせてオチのセリフで終わりますが、彼氏がショック死したように見えました。
点数は456点。

・ニューヨーク ウェディングプランナー
若手随一の売れっ子で優勝候補のニューヨーク。いけすかないのに仕事ができない人かと思ったら競艇をやり始めて、そこから嶋佐さんの見え方が一変してくるのはさすがです。終盤はとにかくめちゃくちゃになっていく面白さがありましたが、それがその分のウケにつながっていたかというと…。目にテープを貼っているのはなぜだろうと思っていましたが、ギャンブルをしている人だからとなると確かにキャラクター性を出す効果はあるなと思いました。
準決勝でウケていたとされる方のネタを二本目に回した理由は女装ネタが多かったからとYouTubeで話していましたが、2020年のM-1決勝でチョウチョのくだりを変えたことといい、準決勝から決勝の間の「優勝するための判断」というのはとても難しいんだなと思いました。
点数は453点。決して低い点ではないですが、二本目に進めないことが確定してしまう得点。屋敷さんは2019年のM-1と同様に松本さんに必死に絡みに行っていましたが、優勝候補とされていたことからの強い動揺が見て取れました。

・ザ・マミィ 道を聞く
岡野陽一さんの一番弟子のような酒井さん。次世代クズ芸人のイメージそのままのキャラの酒井さんが醸し出す悲哀、それに接する林田さんの優しさとおかしさ、そこからまたさらに感じさせられる悲哀。知らない感情を知っていく系のネタだけど蛙亭を上回るぐらいのウケだな…と思っていたら、それをそのまま歌い出してまた爆発。とにかくよくできていて、よくできている分のウケを取っていました。
点数は476点。この時点で二本目への進出を確定させる高得点になりました。

・空気階段 火事
設定がわかった時点で爆笑が起きる、素晴らしいネタです。さらにそこからもかたまりさんの素性がわかり、二人で団結したところで他の階の人たちの前に現れ、もぐらさんの部下たちの前に出て行き…と、展開と面白さとカタルシスを全部取りに行くすごいネタでした。
本来の空気階段のネタの雰囲気とは違う気もしますが、それだけに「やるだけやって絶対に優勝する」というものすごい熱意を感じました。
点数は486点。審査員5人の採点になってからの最高得点が出ました。

・マヂカルラブリー こっくりさん
野田さんの三冠がかかったマヂラブがトリで登場。導入の怖い要素をこれでもかと詰め込んでいるという設定はとても面白かったし、野田さんが吹っ飛んだのもめちゃくちゃ笑いましたが、そこから「あ、いつものマヂラブだ」と思われてしまって伸びにくかったかなと…。
「死んだ人が10円玉に操られたらこうなる」という想像力とそれを動きで見せる説得力は本当にすごいです。指先にくっついているだけの10円玉を通してこっくりさんの姿と感情が見えてきます。
村上さんが役のままのコントもたくさんあるので、準決勝の片方で漫才に近い形のネタを選んだというのはわかるのですが、ここだけを見てしまうとなかなか難しいなと思いました。
点数は455点で9位に終わりました。放送後の反省会で野田さんが負けたことがすがすがしいと語っていたのが印象的でした。

一本目が終わり、上位の空気階段、ザ・マミィ、男性ブランコが二本目へ。

・男性ブランコ お菓子
平井さん演じる男性の絶妙な語彙力がじわじわ来ます。これ、落とす時は落とさないといけないし落としちゃいけない時は落としちゃいけないから大変だと思います。
点数は463点。

・ザ・マミィ 告発
緊張と緩和がメインになるネタです。楽しい雰囲気はずっと出ていましたが、緊張の部分がちょっと弱いので、緩和としての笑いという点ではちょっと足りないかなと思いました。
でも二本目まで進んでの大熱演はとても印象に残りました。
点数は459点。

・空気階段 コンセプトカフェ
メガトンパンチマンカフェ、いいですよね。声に出して言いたくなります、メガトンパンチマンカフェ。
知らないアニメや漫画のタイトルを、メディアミックスやグッズの名前から先に知ることって結構あるじゃないですか。鬼滅の刃より先に「ダイドー鬼滅コラボ缶」を知ったみたいな。
そういう先に知った名前から作品の内容を想像させていくネタかと一瞬思ったら、そもそもメガトンパンチマン自体一人のおじさんが昔書いた作品でしかないという。
これは今年の単独ライブ「anna」の中のコントで、実際はもっと長くて単独ライブを通した世界観の中の一つのコントなのですが、これだけを切り出してもちゃんと面白いのは「もともと(世間的には)ない作品のコンセプトカフェ」という設定の素晴らしさが大きいと思います。
世間的にはそんな作品はない、でもおじさんの思い出や頭の中にはある。それを再現する謎の通貨とその交換システムやメニューの名前、そして主役のメガトンパンチマン。きっとセグウェイはおじさんが昔書いた時には実在していなかったけど、デビルキック伯爵の乗り物にそっくりだったんでしょうね。この形のセグウェイが発売された時に、おじさんは「自分の書いたあれだ!」と思ったんだろうなと。

点数は474点で空気階段の優勝!
キャノン砲の吹雪の中、一気に号泣するかたまりさんが印象的でした。


今回の大きなトピックは、ニューヨークが勝てなかったことではないでしょうか。
この忙しさで単独ライブをやって決勝に進んだだけで十分な偉業なのですが、賞レースはどうしても売れている人から順に期待されるので、優勝するしかない状況になって追い込まれていたであろう二人の精神状態を思うと…。

それでも最下位の点数が付いた時に屋敷さんが松本さんにぐいっと噛みついたのはさすがのプロ意識でした。ただ、ニューヨークは2019年とは違ってもう売れっ子なので、そんな彼らが噛み付くと、前とは見え方が変わったのかもしれません。

ニューヨークは毒や偏見が持ち味とされていて、この日のネタ前のVTRでもそう言われていましたが、知名度が上がったことで、世間や他の芸人さんたちに向けてきた毒が自分たちに回ってくるようになったのかもしれません。それは、「今回はどんな毒や偏見を見せてくれるんだろう」という期待の目で見られることと、「毒や偏見をネタにしているあなたたち自身はどういう人なのか」と自分たち自身が客体化して見られるということです。前者はネタだけに関するものですが、後者はネタ以外にも言える話です。

ニューヨークはもう立派な売れっ子です。そろそろ他者に毒づいた時に「そんな自分たちはどういう人なのか」という視点で見られるようになり、それを提示していく時期に来ているんだろうなと思いました。ファンはもちろん嶋佐さんと屋敷さんがどういう人たちなのかよく知っていますが、これだけ売れると自分たちをよく知らない人たちの目にもどんどん入るわけですから、自分たちの見方を提示するのは大事になっていくんだろうと思います。

でも、「毒や偏見のあるネタを見せてくれるはず」という期待をかけられるのは大変ですね。ニューヨークのネタの切れ味に対する期待が高まりすぎて、ただ面白いネタをやるだけでは期待外れだと言われてしまうのですから。
まさかそんなことを言われるために毒や偏見を笑いにするネタをやっていたわけではないはずで、否定しないツッコミを生み出して評価されたはずが優しいことを言わないとがっかりされるようになったぺこぱを思い出しました。

優しいネタというと、今回の決勝はいわゆる優しい展開と言われるコントが多かった気がしますが、そこに「世間が求めているから」という理由を求めるのはちょっと違うかなと思います。

ネタで笑いを取る方法の一つとして「意外性」があります。「普通ならこうなりそうなのに違うことをする」というのが笑いになるわけです。
たとえば、ザ・マミィの一本目だと、道を聞く時に普通おかしなおじさんは選ばないのに声をかける、クラブに行く道なんて知らなさそうなのに聞く、すぐに信用して荷物を預ける。このネタが面白いのは、林田さん演じる人が優しいからではなくて、「普通しないことをしている」から、そして「普通ならこうしないというのが誰の頭にもあるから」です。みんながみんなおかしなおじさんに警戒心を抱かない世の中なら、このネタは成立しないのです。

TVerで過去の大会が配信されていましたが、前の大会であればあるほど変な人に出くわしてツッコミを入れ続けるネタが多かったように思います。
ただ大会が進んでくると、優しいネタにしたいからというより、その方が意外性が出るし後半の展開も付けやすい、他の出場者との差を付けやすいという理由で戦略的にそういうネタを作る人が増えてきた可能性はあると思います。

たとえば空気階段のネタの一本目は、SM好きな消防士と一般のSM好きなお客さんという設定で作ることもたぶんできます。でも、一般の人が消防士にずっと振り回されて「なんだよこいつー!」とツッコミを入れながら脱出していくより、途中でもう一人が警官だと明かしてそれぞれの職務を全うしていく形にした方がはるかに面白いんだと思います。
もちろん、消防士の振り回し方の大喜利や一般の人のツッコミの入れ方がめちゃくちゃ面白かったらそれを上回る爆発を起こせる場合もありますが、平均点として高いのはこちらの方なのかなと。

そもそも、面識のない変な人に出くわした場合、ツッコミを入れ続けるというのは状況としてとても不自然なんですよね。コンビニの店員さんが変だったら黙って立ち去るか黙って会計をして出て行くかで、その店員さんのやることに「いや何してんだよ!」といちいちツッコミを入れたりはしません。だからそういう系のネタの場合にはその場を立ち去れないという理由がちょっと加えられていることもあると思います。漫才コントで「俺コンビニの店員やりたいからお前客やって」とやる方が、漫才師が互いに役としてやっている以上、立ち去らずにツッコミを入れ続けることが不自然と思われにくいと思います。

今回の決勝は過去にないほどハイレベルで、どの組もちゃんとウケていました。以前はどの組もウケにくくて多少ウケたところの点数を上げざるを得ないという回もありましたが、みんながウケていることで、審査員がそれぞれの尺度で点数を付けられるようになりました。
その結果、出会った変な人にツッコミを入れ続けるネタよりも、受け手の方にも設定を乗せて、何かそれ以上の関係性を意外性としてネタを展開させていくタイプのネタの方が完成度が高いと審査員に評価されたのではないでしょうか。それは、意外性を出して展開を作っていく手法としての評価であって、優しいか優しくないかではないと思います。
とにかく賞レースの趨勢というのは動きが早いものなので、この結果を見て安易に「優しいネタを作ろう」と思う芸人さんは、来年のキングオブコントで埋もれてしまうかもしれません。それどころか、今年のM-1で早くもそれに対する揺り戻しが来ることもあり得ます。

さて、今回の決勝が盛り上がったのは、ちゃんと笑うお客さんが入っていたことと、そして審査員の顔ぶれによるところが大きいと思います。
このネタのどういう点がよかったのか、どういう点がいまいちだったのかをきちんと言葉にして話してくれる人たちだったから、反省会でもファイナリストの皆さんは納得したような表情をしていたのかなと思います。五人それぞれに尺度が違うことも伝わってきたから、「この人は自分たちを評価してくれた」という励みにもなりやすそうですし。

大会としての盛り上がりや運営面でいろいろと言われることの多いキングオブコントでしたが、新審査員に選ばれた四人は、優勝後本当に立派にキャリアを重ねてきた人たちでした。

単独ライブの動員を着実に伸ばし続け、舞台で食べていくコント師としての定評とお笑い愛の強い東京の兄貴分としての信頼を得た飯塚さん。
害虫駆除のバイトから劇的な優勝を果たし、アメ車に乗って革ジャンを着て賞レースドリームを体現し、ネタ番組にも出るしMCもガンガンこなす小峠さん。
メンバーそれぞれの得意分野がありながらトリオとしての活動もして、クリエイターズファイルなど誰にも作れない世界観で人を魅了し続ける秋山さん。
蓄え続けた実力でKOC優勝とM-1準優勝を勝ち取った末に華と人気も手に入れ、今や超売れっ子コンビのブレーンとして一目置かれるようになった山内さん。

すごいものを同時にたくさん手に入れていて、でもネタもちゃんとやっていて、さらにお笑いを言語化できる人たちを歴代チャンピオンから四人揃えられたことに、本当に痺れました。
松本さんが事前番組で「自分がいなくてもやれるようになってほしい」という趣旨のことを言っていましたが、こんな顔ぶれが揃えられるならそれも遠い日のことではないかもしれません。

ファイナリストのコントはどれも面白いし、審査員のコメントもためになるし、最高の賞レースでした。ただそれだけに、何かしらをシークレットにするのはもう勘弁してほしいです。

今は芸人さんが賞レースの感想を発信することも多いので、ここ数年は自分のような素人が感想を書くことに何か意味があるのかなと思っているのですが、素人なりにお笑いについて考えるのはやっぱり大好きだし、自分の考え方の整理や記録のためにこの記事を書きました。

芸人の皆さん、審査員の皆さん、ファンの皆さん、お疲れさまでした!


(23:58)

2020年12月21日


まずは一本目のネタ。
準決勝を含めた感想と、出た点数に対してこういう理由なのかなと思うところを書いていきます。

・インディアンス ヤンキー
敗者復活組がトップバッターになるという初のケース。速報で上位3組に入っていたのがぺこぱ、ゆにばーす、インディアンスで、お世辞にもウケていたとは言えないぺこぱが上位に入っていることでざわつきましたが、さすがに上がったのはインディアンスでした。
何といってもネタを飛ばさずにやりきれたことが何よりです。準決勝のネタは詰め込みすぎだった感があるのですが、それとは違うネタで出来もよく、楽しくてトップバッターにふさわしかったと思います。
点数は625点なので89点平均。ウケているのですがいかんせん彼らはそれ以上の加点要素を取りにくいコンビなので、ごくごく標準的な基準点という感じです。二人がやりきった様子で晴れやかな顔をしていたのがよかったです。

・東京ホテイソン 謎解き
若くて早くから予選を勝ち進んでいる、非吉本の期待のエリート。準決勝では「アンミカドラゴン」のくだりの一撃で沸かせて、ただ後半にかけてあまり盛り上がらなかったのが気になったのですが、決勝でも同じような感じになっていました。このネタの作りがどうしてもそうなってしまうんでしょうか。
点数は617点。インディアンスをやや下回ってしまいました。システムのみでここまで持って行っているのはすごいですが、問題はあまりにもシステムのみのむき出しな漫才なので、こういう形でやるともっとウケていないと点数を付けにくいと思います。
システムがわかったところでウケて、その後盛り上がっていかないとなると、漫才として、ネタとしての最低限のウケ方を満たしていないとなってしまうので、そうなるとシステムむき出しに見える点が減点要素になります。ただ、この若さで一度M-1の舞台で成績表をもらうことができたというのは間違いなく大きな経験になると思います。

・ニューヨーク 爆笑エピソード
去年はトップバッター、今年はKOCの準優勝を経て、予選の間でぐいぐいと売れてきて優勝候補になったニューヨーク。去年の歌ネタよりも毒があってこれぞニューヨークという漫才です。
中盤あたりの犬のフンを食べたという話が、準決勝では募金箱にチョウチョを潰して入れたという話でした。そこの修正がよかったのかはわからないですが、準決勝の方がトリ前という流れだったのでウケてたかなあと。あと、結構緊張しているように見えました。
点数は642点でした。構成的に確実に爆笑を取れるネタではないと思うので、その分を今の勢いでカバーできるかなと思いましたが、そこまでではなかった感じです。彼らはもうテレビで売れ始めている時期ですね。

・見取り図 個人マネージャー
準決勝ではぎりぎりのウケ具合だったと思いますが、こうして決勝の場で見るとやっぱりボケもツッコミも強いし漫才としての形がよくできているのは強みだと思います。リリーさんがえぐい噛み方をしたし、盛山さんも緊張しているのが見えて、どうなるかと思いましたが、動きもあって盛山さんのツッコミもはまって、いい出来だったと思います。漫才コントであっても、もともとの二人のキャラクターがそのまま生きている感じなのもいいです。
点数は648点。ニューヨークの点を少し上回りました。

・おいでやすこが カラオケ
準決勝で間違いなく一番ウケていたコンビ。小田さんのツッコミに相手がいるとこんなに面白いのかと思わされる爆発でした。準決勝はもっとすごくて、4分間ずっと小田さんが無双乱舞しているかのようでした。〇ボタン押しっぱなし。
ただ、R-1の出場資格の件があってこそ小田さんの悲哀が増して面白くなったというのは間違いなくあるので、「こんなに面白い人たちを出せなくするなんてR-1はやっぱりおかしい」というのは前後関係が違うかなと思います。R-1の件は悲しかったけど、それがここでプラスに転じたので悪いことばかりでもないという言い方になるかなと。
点数は658点。頭一つ抜け出しました。

・マヂカルラブリー フレンチ
2017年の苦い経験を経て、KOC決勝進出、野田さんのR-1優勝と、波に乗ってここまでやってきたマヂラブ。準決勝でやったのとは違うネタで、直前にこちらをやることに決めたそうです。
最初の野田さんの入店で大爆発して、その勢いを引っ張って走り切った感じでした。昔の写真のガリガリなタンクトップの野田さんから時が経って、愛嬌というかみんなが野田さんの笑い方をわかったというのも大きいと思います。
点数は649点。審査コメントにもあった通り、最初に最大瞬間風速が出てその後もウケたものの、もうひと盛り上がりがなかったので点が伸び切らなかったのかなと思います。

・オズワルド 改名
準決勝では伊藤さんのツッコミワードの強さでぐいぐい笑いを取っていました。が、決勝だとボケ、ツッコミ、笑いの起き方がいまいち噛み合っていないというか、どこか物足りないような感じがしました。でも本人たちは打ち上げの発言からすると手ごたえがあったみたいですね。
点数は642点。なんというか、こういう芸風だと前のコンビがウケていた場合、明確にそれを上回らない限り「上げどころ」として判断されにくいような気がします。だから評価が分かれたのかなと。そしてウケきらなかったのは、ツッコミとして小田さんと勝負しなければいけなくなったからかなとも思いました。

・アキナ 好きな女の子
私の感覚では準決勝はおいでやすこが、錦鯉、アキナの順にウケていたと思いました。8番目と出番順もよく、かっさらっていくのかなと思ったのですが、最初から明らかにウケていない。後半盛り上がるネタのはずなのに、後半もそのままウケない。こんなになるのか…と思ったまま終わりました。
点数は622点。明確な下げどころになってしまいました。
アキナってM-1もKOCも準決勝や決勝にたくさん出るし、どう見てもうまいし、今回の準決勝でもウケていたんだからいよいよ最終決戦までは残るかなと思ったのですが、どうしてこんなことになるんでしょう。見ていて思ったのは、山名さんって40歳なんですね。そうなると、題材がちょっと幼く見えるのかなあと。あと、ライブの楽屋に好きな子を呼ぶというシチュエーション自体、お笑いファンでないと映像がイメージしにくいのかなとか。
個人的には、2017年と2018年のかまいたちと重なりました。うまい以外のプラスアルファがなくて決勝の中だとウケきらないという状態で、大阪の実力者はそこの壁にまずぶち当たるのかなと。なぜか見取り図はその壁を超えている感じもしますが。
点数が出たら即座に恥ずかしがる方向にシフトして笑いを取っていましたが、なまじそれができてしまう分、ネタに対する客観性を持ちにくいのかもしれないと思いました。

・錦鯉 CRまさのり
東京のライブに通っている人ならみんな大好き錦鯉、みんな大好きまさのりさん。これだけ愛されていたらそのうち準決勝でそこそこウケるぐらいで決勝に上がれるかもと思っていたら、今回の準決勝ではきちんと爆発して文句なしの勝ち上がりだったと思います。
で、こういう場で見ると、もちろん東京のファンが愛するまさのりさんの魅力、渡辺さんのツッコミは変わらないのですが、明確に一段落ちて粗が見えてしまったように思いました。
準決勝で見るたびに気になっていたのはまず渡辺さんのツッコミの声が小さいことなのですが、このネタはパチンコが盛り上がっていくにつれて渡辺さんもヒートアップしていく展開なのでそこはカバーできていて、準決勝から上がれたのはそこが大きいと思っています。ただ決勝の舞台で見ると、やっぱり渡辺さんのツッコミがはまりきっていない。初手のツッコミがもううまくいっていなかったように見えました。
まさのりさんの面白おじさんぶりを引っ張って引き立てるのはやはりツッコミの力だと思うのですが、まだそこまでには至っていないし、そうなると面白おじさんの魅力も炸裂というところまでは行けません。また、まさのりさんもすごく素材むき出しなんですよね。もうちょっとの見せ方がプラスされると爆発できるのかなと思いました。
M-1は漫才の大会で、漫才はツッコミが輝くものだと思います。優勝するということは、ツッコミの人が歴代優勝コンビのツッコミに名を連ねることでもあるのです。
東京ライブシーンでは唯一無二の存在だから愛されている錦鯉ですが、もう一つも二つも上の舞台に出て客観的に見られるとこのぐらいの笑いになりこのぐらいの点数がつくというのは、本人たちにもお客さんにとってもいい経験だったのではないでしょうか。まさのりさん大好きという愛だけでは埋まらないものを見た気がしました。そこを埋めるのは見る側ではなく本人たちの仕事です。
錦鯉は今年一年で露出が増えたし、今後さらに増えると思います。ライブシーン以外の場での経験が増えれば増えるほど、客観性をもってネタを作れるようになると思います。
点数は643点。ニューヨークやオズワルドと同じ点数に終わり、見取り図に一歩及びませんでした。

・ウエストランド マッチングアプリ
ウエストランドもまた東京のお笑いファンから愛されています。井口さんは人気がないと言うかもしれませんが、東京のお笑いファンが彼らに何年も寄せてきた愛情と期待の大きさは尋常なものではないと思います。それはおそらく爆笑問題の事務所の漫才師だからというのが大きいです。タイタンに出てきた若手のしゃべくり漫才師だ、つまり爆笑問題を慕っていて爆笑問題に認められたということだから、能力があるに違いない、きっといつか売れるに違いない。だからウエストランドは一心に愛と期待を集めていました。
今回の準決勝では、これまでのウエストランドのネタの総決算、ベストアルバムのようなネタでぐいぐいと笑いを取っていました。特に「復讐だよ?」がはまったのが大きかったと思います。
が、決勝で彼らを見てみると…。河本さんが緊張して緊張して大変なことになっているのが目に見えて、井口さんもふわふわしているように見えました。
ここで露呈したのは、ウエストランドでも、若手の時からいいともレギュラーとかがあって準決勝にもそこそこ出ているウエストランドでも、踏んできた場数が圧倒的に少ないということです。何年も前から期待されて、エースになっていなければいけないような立場のウエストランドが、ようやく出られたM-1決勝の舞台でこんなにガチガチになってしまう。もちろん他のコンビも緊張していましたが、その上でのコンディションの差がありすぎる。これもまた、愛では埋まらないものだと思います。
点数は622点。松本さんが優しいコメントをしていたのが印象的でした。

ここまで上位のおいでやすこが、マヂカルラブリー、見取り図の3組が最終決戦へ。

・見取り図 大阪と岡山
さっきは漫才コント、今度はしゃべくり。どうも予選からして強いネタが二本ないように見えたのですが、それでも準決勝のギリギリさからは考えられないほどの大健闘です。二人のキャラクター性が出ていて面白くて、最初に決勝に出た頃はおとなしそうなリリーさんと怖そうな盛山さんに見えていましたが、二人ともかなり愛嬌が出てきたように思います。モハメド・アリとかドンキーコングとか、マニアックな箇所をフックのように入れていますが、そこで冷めさせないのもすごいです。盛山さんの一級品の声とイントネーション、それに負けないリリーさんの強さ。飛び道具の多かったこの大会で踏みとどまれたのは、とにかく地肩が強かったからだと思います。

・マヂカルラブリー 吊り革
準決勝でやったネタ。問題になりそうな箇所をきれいに修正していたのがさすがだと思いました。
このネタ、なんでこんなに面白いんでしょうね。笑って笑って、車内販売が出てくるところでいよいよわけがわからないほど笑ってしまうのは準決勝と同じでした。ということは、そういう風に作ってあるネタなんだろうなと。つくづくすごいです。

・おいでやすこが バースデーソング
今度はこがさんが休まずずっと歌い続けるネタ。この構成で一本調子にならないのがすごいです。そして途中ただ聞いている小田さんの顔でめちゃくちゃ笑いました。

そして最後の投票、見取り図2票、おいでやすこが2票、マヂカルラブリー3票という大接戦で、マヂラブの優勝!
泣き崩れる野田さんと笑顔の村上さんにこちらも泣いてしまいました。ついに二人でチャンピオンになれた!



というわけでマヂカルラブリーが優勝でした。

今年の決勝が飛び道具的なコンビが多く見えたのは、ひとえに準決勝の時のウケ順がこうだったからで、審査の傾向とかではないと思います。
で、準決勝は他の記事でも書きましたが、当日寒かったし、客席も間隔が空いていて満席ではありませんでした。最初と二番目のコンビの前半が気絶しそうなぐらいにウケない状態で、かなり重かったです。
そこに金属バットがようやく会場を温めて、次のウエストランドがしっかりウケて…と進んでいったのですが、全体として大きな声で振り切るネタがあの日はウケやすかったです。何せ寒かったですから。そういうものです。

だから、「暗い時代だからバカバカしいネタを上げた」とかそういうことはないと思います。あの日ああいうネタがよくウケたことに、今の時代というものが影響していないと100%言い切ることはできないですが。

あとは、もちろんお笑いはそれぞれの好み次第ですが、好みの前に先入観でありかなしかを分けている人も結構いて、それに縛られると苦しくなるなあと思います。
私は東京のライブや賞レース予選を見ることも大阪の劇場に行ったりTHE MANZAIのサーキットを大阪で見たこともあるので、東京非吉本のお客さんが吉本の芸人さんに冷淡にするところも、大阪のお客さんが東京非吉本の芸人さんに露骨に「誰?」となって静まり返るところも、どちらも目の当たりにしたことがあります。悪気があってやっているものではないにしろ客席の雰囲気として確実にあるものですし、本当に嫌なものです。
もちろんそれを覆して爆笑を取るのが実力というものだと言われたらそれまでですし、知ってる知らないといった印象から自由になることは絶対にできないのですが、知ってる芸人知らない芸人、事務所はどこか、誰と仲がいいかといった先入観を好みと履き違えてしまうと、出た結果に対して苦しくなることの方が多くなってしまうのではと思います。
もちろん、審査員にだって先入観も好みもあるので、自分の見ている世界が全てではないしもっと広い世界があるとわかっていた方が、たぶんいろいろ楽しめます。

さて、今回のチャンピオンはマヂカルラブリーでした。
マヂカルラブリーは、前のM-1の時から注目されていたコンビです。野田さんは尖った若い天才が現れたと言われ、細身にタンクトップ一枚でシュールに暴走する姿を、競技漫才を突き詰めつつあった当時のM-1の価値観が行き着く一つの形なのかもしれないと思いながら見ていた記憶があります。
野田さんはほんの16歳でに吉本に入り、村上さんとコンビを結成し、また吉本に戻りました。非吉本の芸人さんとも交流があり、そのため非吉本のファンからも好かれているコンビです。

昔は尖って取っつきにくいように見えていた野田さんでしたが、マッチョになり、Yシャツを着るようになり、「野田ゲー」を作り、ハムスターを飼い、えみちゃんに怒られ、R-1で優勝し、尖ったセンスのお笑い青年が様々な経験を経て大人の芸人になっていくところをお笑いファンは見てきました。「でっかいエビでーす」を昔の野田さんと今の野田さんが言うのでは、見る人の印象が全く違うと思います。
村上さんのツッコミも、たぶん昔と今では全く違います。村上さんみたいなメガネでふくよかで気が良さそうで達者なツッコミってジャンルとしてはかなり多いと思うのですが、そういう量産的な印象にはならず、野田さんに置いていかれもせず、野田さんのボケを村上さんのツッコミで大きな笑いに変えるという相乗効果をしっかり生んでいると思います。
そういう成長を目の当たりにしてきたマヂラブが、こんなにちゃんと爆発して漫才の大会で優勝した。あんなに尖って見えた若いコンビが、10数年後にこんなに受け入れられたと思うと、本当に感無量です。

例によってマヂラブのネタについて「これは漫才かどうか」という2年ぶり500回目ぐらいのトピックが出てきていますが、もちろん漫才です。だってサンパチマイクの前でやっているんですから。小道具も音響も使ってないですし。
それだけだと納得できないという場合はもう一つ、「同じことをコントでやったらより面白くなるだろうか」と考えてみるといいと思います。
フレンチも吊り革も、二人がそういう世界観でそういう役柄でやっても面白くならないはずで、野田くんが「やってみたい」と言い出して野田くんのままであれをやり、村上くんが村上くんとして横で叫んでいるから漫才として特別になるんです。大体なんですか電車があんなに揺れる世界観って。
他の形でやったら面白くなると素人が容易に想像できない場合、漫才という形で演じることに合理性があると言えるのですから、それは漫才でいいんだと思います。

たとえば前にR-1でおぐさんがやっていた複数人の声に振り回されるネタを、あれはピン芸ではないと思った人もいるらしいです。
じゃあコントの形にしてその複数人が舞台袖で同じ声を出していたらより面白いかというと、それは絶対にないと思うんですよ。他の形よりピン芸としてやった方が面白いのだから、あれはもちろんピン芸です。

片方がマイクの前でずっと喋って、もう片方がずーっと舞台の端にいても、もちろん漫才だと思います。
むしろ、片方が人間で片方が猿なのが漫才なのかというと、その方が怪しいのではないかと思います。じゃあ片方が犬なら、アリなら、人形なら、あらかじめ録音を吹き込んだロボットなら、あるいは声に反応するロボットならと、いろいろ考えるとわからなくなりますし。

何より、漫才コントという漫才とコントの境目として微妙なものがすでにある以上、ネタの性質で分けるのは無理だと思います。
コントの中には漫才コントにできるものとコントでしかやれないものがありますが、漫才コントはたぶん全部コントにできるんですよね。

結局、「これは漫才ではない」と言いたくなる人が本当に言いたいのは、「変なものを見せるな」なのではないでしょうか。

もう一つ準決勝で思ったのは、去年のM-1で「人を傷つけない笑いが求められている」と言われた時に、だからといってそちらに寄せたネタを作ってしまうとなかなかウケなくなるなということでした。ニューヨークはそちらに寄せず、むしろ正しさを求めてくる時代をネタにしていましたし、一口に人を傷つけない笑いをしようと思ってもやっぱり難しいんですよ。
お笑いというのは、寄せに行くよりきちんとカウンターの姿勢を示した方がウケやすくなるのかなと改めて思いました。

そして「人を傷つけない笑いっていいよね」に苦しめられたのがぺこぱだと思います。準決勝も、敗者復活も、彼らの苦しみだけが見えるようなネタでした。何か大きなものを期待されているのを自覚しているようなネタで、そうなるとちょっとウケにくいなあと。
M-1の放送中にはぺこぱのCMが流れていて、そこまで売れた人がエントリーを決めたのは本当に大変な決断だったと思います。ただ、ここまで苦戦すること、それなのに敗者復活でそこそこ票が集まってしまうほど自分たちが人気になっていることまではとても予想できなかったのではないでしょうか。
他にない漫才を目指したら人を傷つけない笑いとして注目されてしまい、そういう人たちの求めるもの以外をやったらがっかりされて下手をしたら攻撃されてしまう。そのリスクは、滑るよりよほど怖いもののように思いました。

今年のぺこぱが出たのと同じ賭けに勝ったのが去年のかまいたちではないでしょうか。実績も知名度も仕事ももう十分ある、でも出場していい結果を残せたら芸人としての地位が各段に上がる。その反面、失敗したらその年のファイナリストに仕事を食われるかもしれない。

かまいたちは見事に賭けに勝って、この1年で仕事を増やしただけでなく、冠番組を持つまでになりました。雛壇とMCの間には高い高い壁があると思うのですが、その壁を乗り越えたのは間違いなく去年のM-1効果だと思います。
春以降どうもかまいたちの仕事の格が上がっているぞと思っていたのですが、夏ごろに濱家さんが女性誌でイケメン付箋の人のイラストで描かれているのを見かけた時に、大げさでなく腰を抜かすほど驚きました。
あの怖そうな大阪ヤンキーツッコミだった濱家さんにこんな需要が生まれるなんて、2010年のKOCの準決勝でホームルームを見ていた時には夢にも思わないですから。背が高くて怖そうだったのが、その雑誌では「高身長を生かして高いところのものを取ってくれそう」という読者の声が載っていたので、何がどう転ぶかは本当にわからないものです。
で、今回のM-1ではかまいたちのCMが流れまくっていましたから。山内さんもめちゃくちゃ垢抜けて愛嬌が出てきていて、本当にかまいたちなの?と思うこともたまにあります。

売れる芸人さんはテレビや賞レースで今までたくさん見てきましたが、10年前から準決勝なりネタ番組なり雛壇で見てきた人たちがこの1年でこんな売れ方をするようになったというのは、私にとってはお笑いの流れというものに対する認識自体が根底から覆されるぐらいの衝撃でした。
以前「準決勝ー1グランプリ」という記事を書いたことがありますが、この2012年の時点でM-1やKOCの準決勝に一番出ているのはかまいたちでした。再集計するのが大変なのでやりませんが、おそらく今年までの分でまたカウントしてもかまいたちは1位か2位だと思います。
そんなかまいたちがようやく爆売れして、準決勝に数限りない回数出てきただけの実力をこれでもかと発揮しているわけで、こんなことってあるんですねえ…。そしてM-1というのはこうなるだけの力を持っているものなんですねえ。
かまいたちは優勝こそしていませんが、チャンピオンでもなかなかないぐらいのM-1ドリームをつかんだのではないでしょうか。

今年はコロナで大変な年でした。もしかしたら来年以降もすぐには元に戻らないのかもしれません。
私は私生活でそこまでコロナに大きな影響を受けていないのですが、仕事に行けない、外出もできないという時に救ってくれたのはやっぱりお笑いでした。録画したバラエティを何回も見たり、芸人さんのYouTubeをたくさん見たり、今までにないくらいお笑いにまた向き合った期間だったと思います。

コロナでライブが激減して、芸人さんたちは大変だったと思います。賞レースのネタを磨けないのももちろんですが、満員の客席が爆笑で揺れるあの快感を得られなくなったというのは、芸人さんたちにとってアイデンティティを奪われるものだったと思います。

吉本の劇場が再開された少し後、漫才師の間に立てられていたアクリル板がなくなったちょうどその日に、ルミネtheよしもとに行きました。
客席は確か2席ずつ空いていて、キャパは50人ほど。広いルミネの客席に、小規模なお笑いライブのような人数のお客さんが点々と座っていました。
でも生で見るネタはやっぱり面白くて、舞台が久しぶりだからと噛んでしまう組も、コロナの状況をネタにする組もいて、生身の人が目の前で面白いことをやって笑わせてくれるというのはこんなに楽しいことなのかと改めて思いました。

ただ、起きる笑いの絶対量がやっぱり少ないので、芸人さんはものすごくやりにくかったと思います。そしてそんな状況が今も続いています。

そういう中で行われた予選を勝ち抜いた人たちが戦ったのが今回のM-1です。出場した人はみんなものすごく苦しかったと思うし、自分が苦しい中で見る人を笑わせてくれた芸人さんたちは素晴らしいです。

無事に終わって本当によかったです。
芸人さん、スタッフの皆さん、ファンの皆さん、お疲れさまでした。M-1があってよかった!

(17:56)