Dr. Ping Wang, Dr. Suwei Dong, Dr. John A. Brailsford, Dr. Karthik Iyer, Dr. Steven D. Townsend, Dr. Qiang Zhang, Dr. Ronald C. Hendrickson, Dr. JaeHung Shieh, Dr. Malcolm A. S. Moore, Prof. Samuel J. Danishefsky
Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 11576–11584, DOI: 10.1002/anie.201206090


☆糖たんぱく質(エリスロポエチン)の全合成、ケミカルバイオロジー

Danishefsky研より。彼らは今年もすごい数の論文をJACSやACIEに掲載していますが(既に15報以上…)、その中からエリスロポエチン(EPO)全合成の論文を紹介します。

今回の標的分子はErythropoietinで、分子量2万(!)を超える生体高分子(糖たんぱく質)です。主に腎臓などから放出されるホルモンで、赤血球の増加を促す働きがあります。このため悪性貧血患者の治療薬として広く用いられ、近年のバイオ医薬として最も成功したもののひとつです。また酸素運搬能力を高めるため、スポーツ選手のドーピングに用いられたりもしています。

1970年代にペプチド固相合成が登場して以来、ずいぶん長いペプチドの合成も可能になっていますが、それでも限界はあります。しかし1994年、NCL(Native Chemical Ligation) が登場して、この状況は一変しました。N末端のシステイン残基を利用して、無保護のペプチド鎖同士を結びつける技術で、これによって100以上のアミノ酸から成る「タンパク質」も、化学合成のターゲットに入るようになりました。

NCL
NCLの原理。チオールエステル交換から、S→N転位によってペプチド結合を形成。

ただしこの方法は、都合のよい位置にシステインがないと使えません。そこで今回彼らは、重金属などを用いずにシステインをアラニンに変換する反応を開発し、この難点を克服しています。この他、KCL (Kinetic Chemical Ligation) やAspartylationなども駆使して、単一の糖鎖構造を持つEPOの合成に成功しています。

120612 angew danishefsky
アミノ酸だけでも166残基のこのEPO。糖鎖付の場合は4つの断片に、糖鎖なしの場合は3つの断片を繋ぎあわせることで合成を達成しています。興味深いことに、糖鎖なしのEPOは取り扱いが大変だったようです。活性も糖鎖有りEPOの方が強かったそうで、糖鎖はたんぱく質の安定化や生物活性に重要なのではないかと推測しています。生物活性については少し触れているのみではありますが、究極のケミカルバイオロジー研究と言えるのかもしれません。

今回の報告では、N-glycan(アスパラギン残基から伸びる糖鎖)が本来のものより簡略化され、Chitobioseのみになっており、これはin vivoでは活性を示しません。近いうちにハイマンノースなどのより複雑なN-glycanを持つたんぱく質の合成もなされるのではないでしょうか。また、ここまで巨大な分子が精密合成可能になると、たんぱく質の折り畳み問題にも合成化学的にアクセスできるようになるのかもしれません。
(図は大まかなコンセプトを示したつもりですが、色々ご容赦下さい。。。是非ご自分で原著をご確認ください。)