渡辺正,中林誠一郎,朝倉書店,1994.

 ☆電子が動き、化学が動く
 化学とは「物質を対象とする学問です」,と高校時代に習った記憶がありますが,いろいろ見ていて思うのは,やはり結局は「電子」に興味の軸足を置いた分野だなあ,ということです.言うまでもないことではありますが,有機合成化学,分析化学,生物化学などにおいても,総じて化学的性質とは電子の状態,動きに依拠しているという前提に立っているようです.(余談ですが,核化学というのは物理学の分野で,放射化学は化学分野です:wikipediaより.)

 そんな風に考えてみると,電気化学という,やや地味目なテーマも大変に重要かつ化学の中心的ジャンルであると思えてきます.ここではそんな「電気化学」の考え方について知ることのできる入門書としてこの本をご紹介したいと思います.
目次
序章 むかし習った電気分解を忘れよう
第I部 平衡論
1. エネルギーと化学平衡
2. 標準電極電位
3. ネルンストの式
4. 光と電気化学
5. 光合成ー天然の光電気化学プロセス

第II部 速度論
6. 化学反応の道すじ
7. 電極反応の道すじ
8. 活性化エネルギーの正体
9. 分子・イオンの流れ
10. 表面反応の世界
 やはり序章の「むかし習った電気分解を忘れよう」に、他にはないこの本の良さが凝縮されており,読者を引き込みます.電気化学にご興味がなくとも,この序章だけでも,もっといえばや<参考>と銘打ったコラム欄だけでも覗いてみてはいかがでしょう.「エネルギー」という言葉を誰が,いつ言い始めたか,というお話など,読みものとしても楽しめる構成になっています.

 一方で、一筋縄でいかない複雑怪奇さについてもきちんと端々に述べられているので,電気化学のイメージをつかみ,親しむにはとても良い本です.・・・と紹介しておきながらなんですが,自分も100%理解しているわけではないので,これを機会にきちんと復習してみたいと思います.