Takasuke Mukaiyama, Hayato Ishikawa , Hiroyuki Koshino, and Yujiro Hayashi *
Chem. Eur. J. Early View DOI: 10.1002/chem.201302371 

 ☆タミフルのワンポット合成、遂に成る 
  インフルエンザ治療薬タミフル(リン酸オセルタミビル)は、いろいろと話題を呼んだ薬ですので、たいていの方はご存知と思います。この薬の原料供給が追いつかなくなり、新たな合成法が必要となったため、5年ほど前から世界中で合成研究が盛んに行われました。

Tamiflu
オセルタミビル

  中でも林雄二郎らのクループは、有機触媒を活用したタミフルの短段階合成に取り組み、多くの成果を上げてきました。2009年には3ポット、2010年には2ポットでの合成が達成されています(合成ルートはこちらにあります)。 

 そして今回同グループは、ついに完全なワンポットでの全合成を完成しました。これまでのルートでは、アセトアミドの窒素をCurtius転位によって導入していましたが、今回は最初からアセトアミド部位を持った原料を用いています。
Michael
 この時、ギ酸を少量加えておくことが、収率・エナンチオ選択性にとって決定的に重要であったようです。このあたりは、論文内で詳しく考察されています。

 この合成で特筆すべきは、今回は完全なるワンポット合成である点です。今までのルートでは、途中で溶媒留去・交換などのステップが入っていましたが、今回はひとつのフラスコに、順次試薬を加えていくだけのルートになっています。このため、全ての反応に適合する最適な溶媒探索が行われ、クロロベンゼンがベストとの結論に達しています。このクラスの化合物で、完全にワンポットで全合成が行われた例は、おそらくないのではと思われます。

  全合成においては、反応工程数や通算収率といったファクターが注目されますが、大量スケール合成を行う場合には、後処理や精製の回数が鍵を握ります。抽出・溶媒留去・シリカゲルカラムといった工程は、小スケールではさほどでないものの、プロセススケールにおいては非常な手間とコストになるからです。その意味で、「ポット数」というファクターは、これからの全合成においてもっと注目されてよいものと思います。