Matthew Nava, Irina V. Stoyanova, Dr. Steven Cummings, Prof. Dr. Evgenii S. Stoyanov, Prof. Dr. Christopher A. Reed
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.201308586

 ☆史上最強を超えた酸
 以前、「史上最強の酸」として、カルボラン酸という化合物をご紹介したことがあります。2004年にC. Reedらによって合成されたもので、H+[CHB11Cl11]-という構造式を持ちます (論文)。炭素1つとホウ素11個がクラスターをなし、それぞれのホウ素に塩素が結合したものがアニオンで、これが水素イオンと対となっています。

 これ以前にもG. A. Olahらが開発した「超酸」と呼ばれる化合物群があり、100%硫酸より強い酸をさします。たとえばフルオロスルホン酸-五フッ化アンチモンの組み合わせは「マジック酸」と呼ばれ、ブレンステッド酸として最強とされてきました。カルボラン酸H+[CHB11Cl11]-は、単純な酸性度ではマジック酸に及ばないものの、腐食性のない超酸として大いに注目を集めました。

 そのカルボラン酸の塩素を、さらに電気陰性度の高いフッ素に置き換えれば、より強力なカルボラン酸ができるだろう、とは誰でも思いつくことです。そして今回Reedらは、ついにそのフッ素置換カルボラン酸H+[CHB11F11]-を、合成することに成功したのです。

carboranic
正20面体の見事なクラスター。ピンクがホウ素、黄緑がフッ素

 塩素をフッ素に置き換えるだけのことに、なぜ9年もかかったのかといえば、この化合物の合成及び精製が非常に難しかったからであるようです。合成については、カルボラン酸セシウムCs+[CHB11F11]-を作ってから、カチオンを4度も交換してプロトン置換に成功しています。できた酸は微量の湿気でも分解しますし、ちょっとでも有機物が残っていればこれと反応してしまいます。エクストリームな化合物の扱いは大変だなと思えます。

 得られたカルボラン酸は、炭化水素と容易に反応し、たとえばブタンと反応して水素ガスとtert-ブチルカチオンを生じます。 これは炭化水素の改質などにも利用できるでしょうし、強力な脱離基にもなりうるでしょう。応用は、いくらでも出てきそうです。

 ただ今回は、このフッ素化カルボラン酸がどのくらいの強酸なのか、数値は出ていないようです。 このあたり、ぜひ続報を待ちたいところです。