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有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

カテゴリ:電気化学

A. Funatsu, H. Tateishi, K. Hatakeyama, Y. Fukunaga, T. Taniguchi, M. Koinuma, H. Matsuura and Y. Matsumoto
Chem. Commun. Advanced Article DOI: 10.1039/c4cc02527j

 ☆白金の単原子膜
 これまでありそうでなかった,白金の単原子膜シートを作製したという報告です.白金は凝集しやすい性質があるため,担体のないシートを作製するのは困難でしたが,今回それに成功しました.研究の全体像をまとめると以下の図のようになります.重要なのは一番上のスキームで,ドデシル硫酸ナトリウムを使って前駆体となる多層膜を作り,化学的に剥離したあと電気化学的に還元すると,ぺらっとした白金単層フィルムの出来上がりです.
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 反応式にすると以下のようになります.生成した膜は酸素を還元する反応における触媒効率が非常に高いことも確かめられました.貴重な資源である白金触媒の高効率化は常に求められている命題です.

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興味深いのは,最後の段階で電気化学的にではなく,化学的に還元した場合は穴だらけの微粒子が集合したような構造になるということです.やや意外なことにも思われますが,ナノレベルのサイズになると,電気化学的な処理の方が化学的な処理よりも,均一に作用させる手段になりうるということでしょうか.

<参考> *白金ナノ構造の例
(1) Y. Yamauchi et al. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131,9152-9153.←デンドリマー型白金ナノ粒子
(2) G. Zhao et al. J. Phys. Chem. C 2009, 113, 13787-13792.←3次元ポーラス白金ナノシート
(3) Y. Lei et al. J. Phys. Chem. C 2010, 114, 18121-18125.←白金ナノチューブ,白金ナノフラワー

トップページ→ http://www.bas.co.jp/index.html
資料室→ http://www.bas.co.jp/1645.html

今回は論文でも書籍でもなく,無料メールニュースのご紹介です.BASとは電気化学機器メーカーで,ビー・エー・エスと表記されることもあります.このメールニュースに自分がどういう経緯で登録したか全く覚えていないのですが,もう何年も続けて受け取っています.

最近,動画配信についての記述から,専門家によるセミナーを視聴できることを知りました.You Tubeにアップされている短い動画だけでなく,最近では,メールニュース会員向けに販売終了したビデオを期間限定で全編見られるサイトも出来たようです.(YouTubeで見られるものはこちら)

電気化学の教科書を読むだけでなく,このような映像による教材も活用すると,より理解しやすいかもしれません.自分も興味を持ったものから視聴してみたいと思います.

Stephen E. Fosdick, Kyle N. Knust, Karen Scida, and Richard M. Crooks*
Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 10438-10456. DOI: 10.1002/anie.201300947

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バイポーラ電極とは上図のように,電圧をかける駆動電極と接触せずに電解液中に配置した電極を意味しています.電圧の印加によって分極するので,材料や設計次第でさまざまな機能を発現させることができます.筆者はこのようなジャンルがあることをこのレビューで初めて知りましたが,1960年代にすでに報告されていたものだということです. 目次に沿って内容を簡単にご紹介します.

<1>. 序論   その発祥は古いものの,2000年代に報告された研究内容を主に取り上げています.古くは電解合成や電池,光電気化学セルとしての興味が中心でしたが,近年では燃料電池,センサーやスクリーニングデバイスとして利用したものなど多岐にわたります.

<2>. バイポーラ電気化学の基礎   バイポーラ電気化学においてはopen型とclose型があり,このレビューでは図に示したopen型について主に取り上げています.close型とは絶縁体によってバイポーラ電極の両端が物理的に分離されている構造を指します.分極の様子を,pH指示溶液を用いた色変化として視覚的に検討している研究があります.

<3>. 材料の作製と修飾   金属めっきの要領で,ナノサイズの金属ワイヤーを作製したり,分極する現象そのものを利用して,材料にグラジエントを作り出すことができます.

<4>. センサーやスクリーニングデバイスへの応用   電流を測定するだけでなく,発光する錯体分子などを修飾して光を検出,銀などをめっきしておいて,その溶解現象を検出するなど,センサーとして利用できます.カーボンファイバーなどをバイポーラ電極として数百本並べた構造を作成すればスクリーニングデバイスにもなります.   
<5>. Bipolar Electrode Focusing   バイポーラ電極のセンサーの感度を高めるために,分析対象物を高濃度に(極小範囲)に集める技術をBipolar Electrode Focusingといいます.

<6>. Microswimmers   これも日本語でどう表現したらよいのかわからなかったので,英語のまま載せました.金属微粒子をバイポーラ電極として用い,たとえば過酸化水素の電気分解反応を微粒子表面で起こしたときに,一方向に向かって生じる酸素・水素の泡を動力として電極そのものを動かすことができます.

<7>. まとめと展望   ワイヤレス電極ともいえる構造から,モバイル電極を利用することができます.この特徴から,<1>の序論でも述べているように,生物科学や物理学など,広い分野で活躍する可能性を持っています.

以上,長くなりましたが,電極なのに直接的に通電していない,という自己矛盾(?)とも思える構造につい見入ってしまいました.工夫次第で,色々楽しめそうな素材ではないでしょうか.

Hiroshi Ueno, Ken Kokubo, Yuji Nakamura, Kei Ohkubo, Naohiko Ikuma, Hiroshi Moriyama, Shunichi Fukuzumi and Takumi Oshima*
Chem. Commun., 2013, 49, 7376-7378. DOI: 10.1039/c3cc43901a 
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 ☆リチウム内包フラーレンの使い道
金属内包フラーレンは種々の化合物が知られておりますが,リチウム内包フラーレン合成の報告はつい3年前のことでした(Nature Chemistry, 2010, 2, 678.).その高い電子受容性や光電子移動反応の起こりやすさなどが,材料としての利点だと考えられています.本研究では,この化合物を新しい電解質として利用できることを示しています.

 有機溶媒中における電気化学測定では,電解質としてテトラブチルアンモニウム塩(TBA+)が通常用いられますが,[Li+@C60](PF6-)はTBA+PF6-に比べて,o-ジクロロベンゼン中におけるイオン移動度がより高いことが分かりました.

この性質を利用して,他の電解質を一切含まない[Li+@C60](PF6-)を長時間電解することでラジカルアニオンを合成することもできました.もちろん何も細工していないフラーレンC60ではこのような性質を示しませんので,金属内包フラーレンならではの性質を引き出していると言えます.

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電解合成は直接電子を授受することができるため,グリーンケミストリーの観点からもメリットがあると言われていますし,ここから何かユニークな研究が生まれるのかもしれません.

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