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カテゴリ:バイオテクノロジー

Ryosuke Iinuma, Yonggang Ke, Ralf Jungmann, Thomas Schlichthaerle, Johannes B. Woehrstein, Peng Yin
Science, 2014 DOI: 10.1126/science.1250944

☆DNAで多面体を作る
DNAを用いてデルタ多面体を作るという研究目的は直前の記事と同じですが、この論文の意義はDNA多面体の大きさを飛躍的に大きくしたところにあります。

初めて5MDa以上のDNA多面体を作ることに成功した論文

DNA ナノテクノロジーの発展によってDNAで四面体、立方体、両錐、八面体...etcなど様々なデルタ多面体が作られてきました。しかしこれらのDNA多面体を大きくすることは難しく、これまで作られてきたものの大きさは80nm程度であり、その分子量は5MDa以下でした。

筆者らはDNA多面体の大きさを大きくするために『DNAコネクター』を使った多面体合成方法に着目しました。この方法は多量体の折れ曲がり部分に相当する構造をあらかじめ作っておき、それをモノマーと混ぜることでデルタ多面体を作る方法です。この手法で大きな多面体が作れないのはDNAコネクター作製の精度が低いためではないかと筆者らは考え、短いDNA鎖を利用して長い一本鎖DNAの構造を自由自在に折りたたむ『DNA折り紙法』を用いて高精度なDNAコネクターを作成しました。

この論文で、筆者らは『60°-60°-60°』と『90°-90°-90°』のDNAコネクターを作成し、それをモノマーと混ぜることで既存の報告よりもはるかに大きい20-60 MDのデルタ多面体を作ることに成功しました。
DNApolyhedra1













今回作成したDNA多面体は100nm程度と非常に大きいため、電子顕微鏡で観察するだけでなく、光学顕微鏡の分解能を超えた超解像度顕微鏡で観察することも出来ます。この論文では一分子の輝点の位置を決定する超解像度顕微鏡 (3D STOM) を用いて、溶液中でのDNAを多面体の構造を観察しました。電子顕微鏡とは違いサンプルを乾かして圧をかける必要が無いため、この手法ではより自然に近い構造が見れているのではないかと言っています。 非常にシンプルな発想で巨大な構造を作り上げている素晴らしい論文だと思います。Fig.3のTEM画像が綺麗なので是非論文の中身も御覧ください。

Silvana Konermann, Mark D. Brigham, Alexandro E. Trevino, Patrick D. Hsu, Matthias Heidenreich, Le Cong, Randall J. Platt, David A. Scott, George M. Church & Feng Zhang
Nature 500, 472-476 (22 August 2013) doi:10.1038/nature12466


細胞内におけるタンパク質の局在や機能を人為的に制御することができれば、生命現象をさらに理解できると考えられて様々な実験手法が開発されています。先週のNatureでは「動物の体内で、光の照射によって『転写』を制御する」ことに成功したと言う画期的な論文が報告されました。


この論文の背景

実を言うと、光で転写を制御する実験系を確立したのはこれが最初ではありません。LITEZ (light-inducible transcription using engineered zinc finger proteins)と名付けられた手法は、植物由来のGIGANTEAタンパク質と(FKF1タンパク質の) LOVドメインの二量体化を青色光の照射によって引き起こすことで転写を制御できることを示しました (JACS, 2012)。



しかしこの論文で用いたZIF (zinc finger protein) は特定のDNA配列としか結合することが出来ないため、目的の遺伝子を発現させるためには、DNAにZIF結合配列を導入しなくてはいけないと言う厄介な問題が残されていました。

そこで筆者らはTALE (Transcription Activator-Like Effector) と言う手法を応用しました。TALEは既に商業化されている手法であり、アデニン, チミン, グアニン, シトシンに特異的なユニットを人工的に合成して組み合わせることで、任意のDNA配列に結合するTALEを作製することが出来ます。


CRY2-CIB1とTALEを組み合わせることで自由自在な転写制御を達成した

筆者らはTALEと『CRY2とCIB1の二量体化を青色光の照射依存的に引き起こす手法 (Nature Methods, 2010)』を組み合わせ、LITE (light-inducible transcriptional effector) systemを開発しました。TALEにはCIB1、Cry2には転写活性化因子であるVP64を融合させており、青色光を照射することで二量体化が誘導され、TALEが結合した領域の転写が促進されます。


光依存的な転写調節の系は、光の照射によって迅速かつ可逆的に転写を誘導することが出来ます。この論文ではLITE systemをin vivoに適用し、生体動物の脳内でGrm2Neurog2などの転写を引き起こすことに成功しました。


LITE systemは様々な目的に応用できそう

LITE systemは複数の手法を組み合わせているので、まだまだ改良・応用の余地が残されています。


ゲノム編集のツールとして近年盛んに使用されているCRISPR-Casシステムを応用できれば、目的遺伝子の制御がより容易になるでしょう。また光依存的な二量体化にPhyA/BとPIF3/6の組み合わせを用いれば、赤色光での制御が可能になります。今回はVB64を用いて転写の制御を行いましたが、Fokl (DNAの組み換え) やKRAB (転写の抑制) を用いれば、さらに色々な生理現象が調べられるでしょう。


終わりに

LITE systemは生物を研究する上でのブレークスルーと成り得る実験手法です。これを用いることで今後どんな生理現象が明らかにされるのでしょうか。非常に楽しみです。

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