ChemASAP

有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

カテゴリ:糖化学

Dr. Jianbin Zheng, Dr. Kaveri Balan Urkalan, Dr. Seth B. Herzon
Angewandte Chemie International Edition, Early View, DOI: 10.1002/anie.201301264

 ☆新機構でβ-N-グリコシドを効率的に合成
 糖を付加するグリコシル化反応は長い歴史がありますが、基本的に反応機構は下図のように纏めることができます。
aw1

 今回の報告ではこれまでとは異なる反応機構を通じてN-グリコシドを構築しています。特徴はaza-wittig反応の利用で、アクセプターはazide基の状態から反応が開始されます。

aw2

 Staudinger反応により、azide基はiminophospholaneへと変換され、その後還元糖のアルデヒドと反応、再環化によりβ-N-グリコシドを与えるという機構です。

mecha

 この方法を利用して様々なN-グリコシドを合成していますが、特にN-グリカンの根本構造の合成が可能であることも示しています。

aw3

 近年、古典的な反応機構を経由しないグリコシル化法が相次ぎ報告されていますが、N-グリコシド生成に関して本方法論は非常に有力なものではないかと思います。

Edited by Alexei V. Demchemko

 ☆糖合成に従事している方へ
・contents
1. General Aspects of the Glycosidic Bond Formation
2. Glycoside Synthesis from Anomeric Halides
3. Glycoside Synthesis from 1-Oxygen Substituted Glycosyl Donors
4. Glycoside Synthesis from 1-Sulfur/Selenium-Substituted Derivatives
5. Other Methods for Glycoside Synthesis
 この数十年、タンパク質の科学は飛躍的に進展しました。遺伝子組み換えなどの技術によって好きな配列のものが得られることが大きな要因です。しかし糖鎖はタンパク質や核酸に比べてまだ研究が進んでいない部分が多く、分子生物学における重要なフロンティアとなっています。

 これは、糖鎖の構造が複雑であり、生物工学的手法による合成も進展していないため、必要な化合物が手に入れにくいことがネックになっています。糖合成はちょっと特殊な分野と見られがちですが、これからの学問の発展を考える上では極めて重要です。


 糖合成における花形と言えば、グリコシル化反応がまず挙げられるかと思います。これまでに数えきれない程の方法論が開発・報告されてきていますが、本書籍はそのグリコシル化法に特化した書籍と言えます。相当数の例が記載されており、研究計画立案時だけでなく実験でも役立つであろう一冊です。

SampleThioglycoside
グリコシル化の一例

 実際の実験操作例は少なめと言えますが、典型的な実験例が取り上げられており、ニーズが合う場合には参考になると思います。原著論文リストも充実(2000以上)しており、すぐに原著にアクセスできる点も素晴らしいと思います。入門書というよりも多少経験のある方に最適な書籍ではないでしょうか。内容としては、第1章ではグリコシル化法に関する背景を、第2~5章ではグリコシル化各論の解説となっています。

 ・この本のブックレビュー:JACS誌 ACIE誌

Author: Thisbe K. Lindhorst
 ☆糖化学の全体像をこれ一冊で

・contents
1. Introduction
2. Structure of saccharides
3. Protecting groups for carbohydrate
4. Important modifications and functionalizations of the sugar ring
5. O-glycoside synthesis
6. Structure and biosynthesis of glycoconjugates
7. Glycobiology
8. Purification and analysis of carbohydrates
9. Literature of carbohydrate chemistry
 糖科学の入門書として私はこの本を推薦します。この本を読めばある程度糖科学の全体像を把握できるのではないかと思います。洋書なので中身は英語で書かれてはいますが、論文へ進む前段階として挑戦してみるのはいかがでしょうか。

 この本の特徴は化学だけでなく生物の基礎的な部分にも言及がある点だと思います。また、糖合成に携わる人にとっては具体的な実験操作の記述もあり、実践的にも非常に有益な本だと思います。保護基・グリコシル化反応、そしてその背景にある生物学的な意義を踏まえた上で論文へ進めば、自分の研究をより深く理解できるのではないでしょうか。

Mélissa Boultadakis-Arapinis, Elise Prost, Prof. Vincent Gandon, Dr. Pascale Lemoine, Dr. Serge Turcaud, Dr. Laurent Micouin, Dr. Thomas Lecourt
Chemistry-A European Journal, Early View DOI: 10.1002/chem.201203725

☆糖とカルベンの出会い

カルベンの化学は教科書で一章を占める程に大きな分野の一つですが、糖の世界では見かけることは稀ではないかと思います。(不勉強であることについてはご容赦下さい。。。) そんな経緯もあって、カルベンを用いた糖の誘導化についての論文を紹介します。
021913 EurChemJ carbene
筆者らの目的はアノマー位を四級化すること、言い換えればアノマー位の水素を炭素に置き換えることです。その為に二位の先にカルベンを発生させて、アノマー位のC-Hに挿入させる戦略を取りました。(1,5-挿入) 筆者らの予想通り反応が進行する系がほとんどですが、予想外の反応としてベンジル位のC-Hに挿入したり(1,8-挿入)、メチルエーテルのC-Hに挿入した(1,11-挿入)系もあり、結果としてマクロラクトンが得られている点にも興味をひかれました。

Wataru Muramatsu and Yuki Takemoto
J. Org. Chem., Article ASAP DOI: 10.1021/jo3024279

☆スズを使って水酸基を区別する

糖は水酸基の塊と言っても良く、例えば無保護のグルコースは5つの水酸基を持っています。それらを上手く区別することが出来れば非常に美しい合成になるのでしょうが、なかなか簡単ではありません。酵素が有効に働く場合もありますが、ご存じの通り万能ではありません。
この論文ではアノマー位を除く4つの水酸基が存在するにも関わらず、非常に良好な収率・位置選択性でチオカルボニルやエステル・スルホン酸エステルを導入しています。
021213 JOC tin
グルコースの場合、比較的大きなブチル基を有するスズ試薬を用いると2位に、立体障害の小さいメチル基で置換されたスズ試薬では6位に官能基を導入できます。異なる糖が混在している系(たとえばグルコースとガラクトース)であっても導入される位置選択性は高いままです。その機構については、1,3-ジアキシャル反発や遠隔でのアノマー効果、O-Sn-Oの角度等が提唱されています。選択性や収率の高さ、適用範囲の広さを見ると糖だけではなく一般的な化合物でも非常に有効な手法になるうるのではと感じました。

Patricia Balbuena, Rita Gonçalves-Pereira, José L. Jiménez Blanco, M. Isabel García-Moreno, David Lesur, Carmen Ortiz Mellet, and José M. García Fernández
J. Org. Chem., Article ASAP DOI: 10.1021/jo302178f

☆オルトキシリレンの活用法

二股の保護基を一つ挙げて下さいと聞かれたとき、何を思い浮かべるでしょうか?ベンジリデンやボロン酸エステル、シリルアセタール等が代表的な例として挙げられると思います。今回筆者たちは新たな二股の保護基としてオルトキシリレンに注目し、その活用法を報告しています。オルトキシリレンは昨年立体選択的グリコシル化に利用された例もあります。(1
020513 JOC xylylen
保護はα,α′-dibromo-o-xyleneを用いて行い、生成物は8員環構造となります。そのせいもあってか、保護基を掛ける段階の収率に関しては良いとは言えないものもありますが(分子間での反応も起こるため)、eq-eqの関係にある水酸基が好まれることや、プロトンの酸性度によって位置選択性が出せることなどが述べられており、上手く利用できる系ではステップ数の短縮が見込めると思います。環状オリゴ糖(シクロデキストリン)においても利用することが出来、糖同士の間ではなく同じ糖の中でキシリレン保護が起こる点なども興味深いと思います。今回いくつかの基質に対して試されていますが、より思いがけない活用法があるような気もします。

Tobias Gylling Frihed, Marthe T. C. Walvoort, Jeroen D. C. Codée, Gijs A. van der Marel, Mikael Bols, and Christian Marcus Pedersen
J. Org. Chem., Article ASAP DOI: 10.1021/jo302455d

☆beta-マンノシル化の鍵はどこにある?

ひとえにグリコシル化といっても、難しいものから簡単なものまで多岐に渡ります。長年最難関の一つと考えられていたのがbeta-マンノシル化です。直接かつ実践的なbeta-マンノシル化が発表されたのが1996年と割と最近であったことがその難しさを物語っていると思います。(1) Crichらが発表したこのbeta-マンノシル化法については多くの研究が現在でも行われており、少なくとも様々な要因が複合的に絡み合っていることがわかっています。この方法の特徴はドナーのみを先に活性化しalpha-triflate中間体を形成させることが挙げられます。(2
013013 Pedersen JOC-1
本論文の主題は6位酸素がこのbeta-マンノシル化にどう影響を与えているのかです。それを調べる為に下図右のような7位炭素糖を合成しています。
013013 Pedersen JOC-2
グリコシル化の結果を見ると、この2つにはそれほど大きな違いは見られませんでしたが、反応中間体を見てみると興味深い知見が得られています。
013013 Pedersen JOC-3
この6位炭素ドナーは広く中間体として受け入れられてきたalpha-triflate(2)を形成しただけでなく、oxosulfonium ion中間体も形成していることがわかりました。(過剰にPh2SOが入ってはいますが) この中間体は初めて観測されたものです。
彼らの結論としては、6位酸素はグリコシル化反応に大きく影響を与えるわけではないということですが、個人的に興味深いと感じたのは立体選択性の起源を反応性から議論している点です。これについては少し込み入った話になってしまうので、また別の機会に書いてみようと思っています。

Jeyakumar Kandasamy ,  mattan hurevich and Peter Seeberger
Chem. Commun., 2013, Accepted Manuscript DOI: 10.1039/C3CC00042G

☆オリゴフラノシドの自動合成

糖鎖合成のゴールの一つは自動合成と言ってもよいでしょう。ペプチドにおけるメリフィールド法のような合成が糖鎖でも可能になれば、誰でも簡単に望みの糖鎖を手に入れられる、そんな夢のような世界が実現します。しかし、現実にはそう都合のいいものはそうそう見つかってはいません。しかし、それに挑み続けている研究者は存在します。その一人、Seeberger教授は世界に先駆けて化学合成によるオリゴ糖自動合成を2001年に報告しています。(1
012413 ChemCommun Seeberger

彼はその後も自動合成によるオリゴ糖合成をいくつも発表してきていますが、今回はオリゴアラビノフラノシドの合成を報告しています。構造が比較的単純とは言え、6糖をわずか40時間強で合成完了してしまう点は注目に値すると思います。現状としては目的とする糖鎖構造により”場合分け”が必要で(とはいえ、これは現状では不可避なのですが)、メリフィールド法の領域に達するまでにはまだいくつものブレイクスルーが必要ではないかと感じますが、自動合成の先駆けとして今後も注目していきたいと考えています。

Robin Daly, Thomas McCabe and Eoin M. Scanlan
J. Org. Chem., Article ASAP DOI: 10.1021/jo302487c

☆水酸基を空けたままグリコシル化する方法論

グリコシル化の際、望みの位置以外の水酸基は何らかの保護を施しておくのが一般的な方法論と言えます。しかし、隣接する保護基の性質を上手く利用すれば、必ずしもすべてを保護する必要はないといった方法論が報告されました。
011513 JOC 3OH Fuc gly
この方法論の鍵は立体障害の大きなTBS基を使用したことです。糖ドナーであるフコースの3位水酸基は無保護になっていますが、隣接する2,4位のTBSの立体障害により求核攻撃が著しく起きにくくなっているのです。この性質を用いて、上図のような3糖を上手く合成しています。懸念されるポリマー化は観察されなかったとのことです。
糖合成では保護基戦略が成功や段階数短縮に大きく関与します。保護をしなくともカップリングがうまく進行する今回の知見は地味ながらも活躍する機会は少なくないのではないかと感じました。

Chris Spicer and Benjamin G Davis
Chem. Commun., 2013, Accepted Manuscript DOI: 10.1039/C3CC38824G

☆鈴木・宮浦カップリングを細胞へ応用

2010年にノーベル賞を受賞した鈴木・宮浦カップリング。その偉大さは説明するまでもないでしょう。(1,2) この鈴木・宮浦カップリングは相手が細胞であっても利用可能であることを筆者らは以前に報告しています。(3,4,5) 今回筆者らは鈴木・宮浦カップリングを用いてバクテリア表面に糖を導入し、O-結合型糖鎖ミミックを合成しています。
011213 ChemComm BG
鍵はpara-iodophenylalanineを組み込んでおくこと、そしてホスフィンリガンドを必要としないパラジウム触媒です。(3,4,5) 確認はレクチンを用いて行っており、糖がきちんと導入されていることが示されています。導入された糖はリンカーを介していたり、結合部位がフェニルアラニン(筆者らはチロシンのO-結合型ミミックと呼んでいますが)であったりとミミック構造ではありますが、水中でも反応が問題なく進行する鈴木・宮浦カップリングの有効範囲の広さを改めて思い知らされる報告ではないでしょうか。

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