ChemASAP

有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

カテゴリ:有機金属

Fu-Lin Zhu, Yuan Zou, De-Yang Zhang, Ya-Hui Wang, Xin-Hu Hu, Song Chen, Jie Xu,* and Xiang-Ping Hu*
Angew. Chem. Int. Ed., 2014, 53, 1410.

 ☆脱炭酸しながら不斉点を作る
 近年の新規反応の開発において、理想的な反応が満たすべき条件として、「より穏和な条件下で進行する」という条件があげられます。 不斉プロパルギル位置換反応は、アルキン部位を持つ化合物を選択的に合成する手法の一つで、アミンを筆頭に様々なヘテロ原子を求核剤として用いることが可能ですが、単純なケトンエノラート(およびその等価体)を用いるケースは、これまでごく限られた例しかありませんでした。
fig1

 今回著者らは、β-ケトカルボン酸のプロパルギルエステルを反応基質として用い、銅触媒存在下、反応系中でエノラート等価体を穏和な条件下で発生させ、脱炭酸を伴う置換反応を行いました(脱炭酸によってエノラートを発生させる手法は、パラジウム触媒を用いる反応系でよく知られています)。

fig2

 さらに、この反応の不斉化も行われています。市販品である(S)-DPPNH2から合成できるP,N,Nの三座配位子が有効で、最高98%eeという高いエナンチオ選択性を示します。

fig3

 脱炭酸を伴う反応では、反応基質のお膳立てにやや手間がかかり、原子効率の観点からは短所とも言えますが、例えば活性種を触媒量だけ発生させることで反応の制御が容易になるなど利点も多く、様々な化合物へのアプローチがまだまだ出てきそうです。

Hongli Bao, Liela Bayeh, and Uttam K. Tambar*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View  DOI: 10.1002/anie.201309134 

 ☆合わせ技でC-H結合活性化
 90年代以降、通常安定なC-H結合を活性化して切断し、官能基化する手法が急速に進展しました。これらにより、以前では考えられなかったような反応が次々と実現し、有機合成化学の考え方を大きく変えています。

  その多くは、切断したいC-H結合近傍に遷移金属元素を近づけ、C-H結合に割り込ませるような形で、結合を切るやり方です。しかし今回著者らは、入手容易な有機試薬によってアリル位のC-H結合を活性化し、アルキル化する汎用的な手法を報告しました。

 手品の種になったのは、サルファージイミド(BsN=S=NBs, Bsはベンゼンスルホニル基)と呼ばれる試薬で、これは市販もされています。この試薬を末端オレフィンと反応させると、エン反応を起こして二重結合が移動した形の付加体が得られます。これを単離することなく、Grignard試薬と銅塩(CuBr・SMe2)を加えると、C-S結合が切れて置換し、カップリング体が得られるという仕組みです。
Coupling
 温和な条件(サルファージイミドの付加が4℃、Grignardの付加が-78~-20℃)で反応は進行し、収率も全般に70~80%台と良好です。一級~三級のアルキル、またはアリールGrignard試薬が利用可能であり、エステルなどの官能基が分子内にあっても問題ありません。生成物のオレフィンはE:Z=20:1以上と、ほぼE体選択的です。

 この反応自体もよさそうですが、さらなる応用や改良版もこの後出てきそうです。 

Wubing Yao, Yuxuan Zhang, Xiangqing Jia, Prof. Dr. Zheng Huang*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View  DOI: 10.1002/anie.201306559

 ☆アルカンとアルケンを入れ替える
 アルカンのsp3炭素-水素結合を切断し、官能基化するのは、最もシンプルにして最も困難な反応の一つです。C-H結合が非常に安定である上、分子内に多数存在しているC-H結合から選択性よく特定の結合を切断することも困難であるからです。

 しかしこれが実現できれば、石油由来の単純な炭化水素から、高付加価値な化合物を効率よく合成できます。このため、sp3炭素-水素結合切断は、非常にチャレンジングかつ社会的要請の高い研究テーマといえます。

  アルカンを脱水素化してアルケンとする反応については、イリジウムのピンサー型錯体を用いる研究が進んでいます。立体障害の大きい3,3,-ジメチル-1-ブテンを水素の捕捉剤として用いることにより、たとえばシクロオクタンの脱水素化が行われています。
 
dehyd

 今回、著者の黄正(中国科学院)らは、触媒として下図のような錯体を用いました。これは、既存の触媒の酸素をひとつ硫黄に変え、tert-Bu基をイソプロピル基に変えただけですが、ターンオーバー数などがかなり改善されています。
IrComplex

 また今回、n-オクタンの末端のみを脱水素化して、1-オクテンにできることも示されました。2-オクテンへの異性化も起こりますが、条件次第で最小限に抑えられます。THFはフランに、インドリンはインドールになどと、ヘテロ環の酸化にも適用されています。
 
 ちょっとした触媒の構造の差ですが、ずいぶん適用範囲を広げでいます。sp3炭素-水素結合活性化反応の可能性は、まだまだ広そうです。

Yuzuru Kobayashi, Masaaki Nakamoto, Yusuke Inagaki, and Akira Sekiguchi*
Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 10740 –10744 

 ☆テトラへドランをつなぐ
 炭素を正四面体の頂点に置いた化合物・テトラへドラン(C4H4)は、有機化学分野における「夢の化合物」として、昔から議論の対象になってきました。

THD
テトラへドラン

 しかしテトラへドランはあまりにひずみが大きく不安定なため、この化合物そのものの合成・単離はいまだ成功していません。ただし、4つの頂点に大きな置換基を取りつけてやると、外界からの攻撃からガードされ、単離が可能になります。特にトリメチルシリル(TMS)基を立体保護基として使うと、ケイ素からの電子供与のためにテトラへドラン骨格が安定化され、300度くらいまで安定に存在できるようになります。

TMSTHD
テトラキス(トリメチルシリル)テトラへドラン
 
 ただし、これ以上の複雑な誘導体の合成は難しく、このことがテトラへドランの化学の展開を妨げてきました。しかし今回、筑波大学の関口らはクロスカップリング反応によって、テトラへドラン骨格を保ったままに他の化合物と連結が可能であることを示しました。

 上記の、TMS基で置換されたテトラヘドランに、メチルリチウム(CH3Li)を作用させると、TMSがひとつリチウムと置き換わり、テトラヘドリルリチウムが生じます。これをパラジウム触媒(Pd(PPh34存在下でハロゲン化アリールと反応させてやると、クロスカップリング反応が進行して付加体を与えます。1,3,5-トリヨードベンゼンと反応させれば、下図のようにテトラヘドランが3つ結合した化合物が得られます。

trisTHD

 通常、有機金属化合物の中でもアルキルリチウムはクロスカップリングが進行しにくく、マグネシウムやスズにトランスメタル化させて反応を行うのが常ですが、この場合はリチウムそのままが最もよい結果を与えたそうです。

 テトラへドラン誘導体合成の道が拓かれた意義は大きく、今後その特異な性質が次々に解明されることと思われます。今後の展開に期待です。

 <参考>
テトラへドランの特異な性質の例:最短の単結合 

Ewa Pacholska-Dudziak,* Michał Szczepaniak, Aleksandra Ksiazek, and Lechosław Latos-Grazynski*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View  DOI: 10.1002/anie.201304493

 ☆パラジウムが骨格に入ったポルフィリン
 ポルフィリンというのは奥の深い化合物で、今まで様々なバリエーションが発見・合成されています。 ピロールの数が異なるもの、間の炭素が増えたものや減ったもの、窒素以外のヘテロ元素(酸素・硫黄など)を含んだもの、窒素の位置が異なるものなど、数えきれないほどの親類筋が存在します。

 今回、その中でも非常な変わり種といえる、パラジウムを骨格内に含んだポルフィリンが初めて合成されました。報告したのは、ポーランドのヴロツワフ大学のチームです。

 彼らは、ポルフィリンの向かい合わせの窒素が2つテルルに変わったジテルラポルフィリンに対し、パラジウム塩を作用させることでできたようです。X線結晶解析の結果、下図のようにパラジウム(青い球)とテルル(オレンジの球)、窒素とテルルが結合し、これが上下の窒素に対して素早く入れ替わっていることがわかりました。
Pd_Porphyrin

 すぐに何かに応用できるというものではないかもしれませんが、面白いものができるものだなあと思わされます。底なしに奥深いポルフィリンワールドに、また新たな1ページが付け加わったようです。

Shima T.; Hu, S.; Luo, G.; Kang, X.; Luo, Y.; Hou, Z.
Science 2013, 340, 1549. DOI: 10.1126/science.1238663

☆究極の化学反応
◆ポイント
・ヒドリドクラスター錯体を用いることで、N2をアンモニアまで還元することに成功した

◆概要
究極の化学反応とは何だろうか?個人差があるだろうが、私は以下を挙げたい。

 1.太陽光を用いる二酸化炭素の還元反応
 2.水の水素と酸素への分割(Water splitting)
 3.窒素分子N2の固定


1.及び2.は、人工光合成というテーマで研究が進められている [1] 。太陽光のエネルギーを貯蔵・運搬等が可能な化学エネルギーに変化させることが可能な技術であることから、学術的にも産業的にも大変なインパクトのある研究である。2010年のノーベル化学賞を受賞した根岸英一・米パデュー大学特別教授が、人工光合成の研究を進めるようにはたらきかける発言をしたことは記憶に新しいところである。以前よりエネルギー問題に苦しめられ、脱原発の機運が高まった日本国にとって、これほど重要な研究は他にはないのではないかとすら思う。

 さて、今回ご紹介する論文は、3.の窒素固定に関する論文である。窒素分子は、従来Haber-Boschプロセスにより固定化が行われてきた。Haber-Boschプロセスは世界を変えたとすら言われるほどに大きなインパクトをこの世に残したが、この反応系は、皆さまもご存じのとおり、多大なエネルギーを消費するプロセスである。

 Haber-Boschプロセスを完遂するには400~600 ℃という高温、200~1000 atmにも及ぶ高圧が必要であるためである。最近は、K/Ru/C触媒をアンモニアの合成に用いる例もあるが(尾崎・秋鹿触媒)、それでも反応条件は苛烈である。それほどの反応条件を要するほどに、窒素分子N2は安定であり、誘導体化は困難であるともいえる。

 N2の誘導体化がなぜ難しいのか?それは、窒素と窒素の結合が非常に強く(945 kJ/mol)、無極性であるためであろう。無極性であるために、有機電子論的なアプローチは難しい。また、N2の励起はσ-π*遷移となるために禁制であり、N2のπ結合の方がむしろσ結合よりも強いとされているため、アルキンやアルケンのような感覚でπ結合を切ることはおそらく難しい。

 このため、N2を酸化させるか、還元するかで結合次数を下げるか [2] 、N2の錯体を作って反応させる [3] といったことが試みられてきた。変わったところでは、フラーレンのシクロデキストリンの包摂化合物がN2を還元するという話もある [4] 。だが、どの反応系も強力な還元剤を要したり、特殊な有機金属化合物を還元剤として用いたり、TONが低かったりと、問題が多い。以上のように、現在においてもN2の還元反応は非常に困難である。

 この論文では、今までとは異なるアプローチでN2の還元が行われている。要点は、以下である。

・チタンとヒドリドとシクロペンタジエニルからなる三核錯体(クラスター)を還元剤として用いることでN2の還元に成功した
・3つのチタンが効果的にN2の結合を切断している
・ヒドリドが還元作用を発現する

 多核錯体を用い、金属を協同させることで効果的に結合を切断する様子は、固体触媒表面での、局所的で特異な原子の集合体・構造が触媒活性点になるというアンサンブル効果を想起させるものである。本論文にある驚異の反応を見て、固体触媒での触媒反応メカニズムを錯体の設計に生かせるのではないかとか、逆に錯体での反応を固体触媒の設計に生かせるのではないか、などといった感想を持った。

 クラスターは、バルク金属のように金属-金属結合を持ちながらも金属原子がⅠ~Ⅲ価といった中間酸化状態を取ることが多く、電子的にsoftであるという特色を持ち [5] 、新規反応・触媒の設計のためのモデル化合物として使用できるのではないかと思う。N2の還元以外にこの錯体を用いるとどうなるかなども気になるところである。

 なお、ヒドリドクラスター錯体は、ニトリルのC≡N結合を切ることができるという研究例がある [6] 。今までにない新規反応を構築できる高いポテンシャルを持つ化合物なのかもしれない。


※今回の研究では、チタンヒドリド錯体によって窒素分子を切断することに成功しています。できた錯体を水で分解すればアンモニアが得られますが、触媒的に窒素からアンモニアを得るまでには至っていません。ただし、特殊な還元剤などを用いずに窒素からアンモニアを合成した意義は大きく、触媒化が成功すれば極めて大きなブレークスルーになりそうです。

◆脚注
[1] 光を吸収すると電荷分離する化合物(錯体、半導体など)を用いることで、触媒的な酸化還元反応を起こすプロセスを開発する研究である。光誘起電子移動(PeT)した電子を如何に還元反応に用いるか、PeTに伴い生じたホールを如何に酸化反応に用いるかがポイントとなる。二酸化炭素の還元反応と水の酸化反応は、非常に困難とされる
[2] ChemASAPの過去の記事
[3] D. V. Yandulov, R. R. Schrock Science 2003, 301, 76.  根粒菌などの窒素固定を行う細菌が持っている酵素のモデル錯体(モリブデン錯体)を用いたN2の還元反応である
[4] Y. Nishibayashi et al., Nature 2004, 428, 279.
[5] 例: R. Bal et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 448.
[6] T. Kawashima et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 485.

Tsuyoshi Ueda, Hideyuki Konishi, and Kei Manabe*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.201303926

 ☆サッカリンを有機合成に使う
 ハロゲン化アリールを、パラジウム触媒存在下で一酸化炭素(CO)によってカルボニル化し、アリールアルデヒドやエステルを得る反応は、広く用いられています。非常にきれいに進行する反応ではありますが、毒性の気体であるCOを使わねばならないのがネックで、実験には大きな危険を伴います。

 これに代わる試薬も報告されていますが、基質が限られるのが難点で、たとえば臭化アリールなどはCO以外でカルボニル化できないとされてきました。しかしこの論文で著者らは、N-ホルミルサッカリンがCOの代わりに使えることを示しました。

formylation

 上図に示すように、N-ホルミルサッカリン1.5当量をパラジウム触媒・塩基・トリエチルシランと反応させることで、収率よくアルデヒドを得ています。N-ホルミル基がまるごと生成物に取り込まれるのではなく、COのみが入っています。生成物のアルデヒドのHは、還元剤であるトリエチルシラン由来です。 シランの代わりにアルコールを使えば、エステルを直接得ることも可能です。

 N-ホルミルサッカリンは、試薬として販売されているので容易に入手可能です。特に小スケールの反応では、とても使いやすい反応ではと思います。 

Massimo Giannerini, Martı´n Fan˜ana´s-Mastral and Ben L. Feringa*
Nature Chem. doi:10.1038/nchem.1678

 

☆常識破りのリチウムクロスカップリング


 有機金属と有機ハロゲン化物を、パラジウムまたはニッケル触媒によって結合させる「クロスカップリング反応」は、数ある有機合成反応の中でも最も重要なもののひとつです。2010年には、R. Heck, 根岸英一,鈴木章の3氏がノーベル化学賞を受賞したことは記憶に新しいことでしょう。

cc

 クロスカップリング反応は、有機金属側に用いられる金属元素別に、開発者の名前がついています。( )内は報告された年です。

マグネシウム……熊田-玉尾-Corriuカップリング(1972)
亜鉛……根岸カップリング(1976)
スズ……右田-小杉-Stilleカップリング(1977)
ホウ素……鈴木-宮浦カップリング(1979) 
ケイ素……檜山カップリング(1988) 

 ご覧の通り、檜山カップリング以外は1970年代に発表されたものです。そしてもうひとつ気づくのは、この中に有機化学者にとって最もなじみ深い有機金属化学種である、リチウムの名がないことです。実のところ有機リチウム化合物はハロゲン-金属交換を起こしやすいため、クロスカップリングには(特殊な場合を除いて)向かないとされてきたのです。

  しかしクロスカップリング反応登場から41年目になり、ついにリチウムによるクロスカップリングが実現しました。今回の論文で著者らは、リチウム-ハロゲン交換より速く、パラジウムへの酸化的付加を行えばよいという発想に基づき、これを実現しました。

  そのために、(1)有機リチウム化合物の会合状態状態をコントロールする(2)パラジウム触媒の活性を高め、酸化的付加を速めるという方法を採っています。溶媒としてトルエンを選ぶことで(1)を、パラジウムへの配位子としてトリ(tert-ブチル)ホスフィンを用いることで(2)を満たしました。

 メチル、n-ブチル、イソブチル、アリールなどのリチウム化合物が、カップリングに使用可能です。ハロゲン化物側の官能基許容性はかなり広く、エーテル、アミン、エステル、アルコールなどを持った臭化アリールが問題なくカップリングします。また臭化アルケニルも、収率よくカップリング体を与えます。

LiCC

 最も入手しやすく、毒性の副生成物などを与えない有機リチウム化合物が、クロスカップリングに用いられるようになった意義は大きそうです。個人的に驚きだったのは、この論文の著者が、分子モーターや「ナノ四駆」などの研究で知られるBen Feringa教授であった点です。ナノテク分野のみならず。こうした基礎的な反応開発でも成果を挙げるというのが、さすが一流であるなあと感心した次第です。


Hanna M. Wisniewska, Elizabeth C. Swift, and Elizabeth R. Jarvo *
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP DOI: 10.1021/ja4034999

 ☆OH基をメチル基に変える
 反応式としては単純なのに、いまだ実現されていない反応はいくつもあります。今回、OH基をメチル基に変えるという、極めてシンプルかつ重要な反応が達成されました。用いられているのは、根岸カップリング反応です。

 近年、クロスカップリング反応におけるリガンドの開発が進み、反応性の低い基質でもカップリングに用いられるように変わってきています。OH基は、かつてはトリフラートなどに変換して反応させる必要がありましたが、近年では単純な脂肪酸エステルなどでも反応が進行する例が出てきています。

 今回著者らはこの脂肪酸部分に、触媒金属に配位しうるような配向基を取り付けることで、反応性をさらに高めることを試みました。各種の配向基を試した結果、メチルチオアセチル基が適切であることがわかりました。ここにジメチル亜鉛、ニッケル塩、ホスフィン配位子を加えて根岸クロスカップリング反応を行うことで、メチル基が導入されます。メチル基は、元のOH基の立体が反転した形で組み込まれます。

OHtoMe
 基質がベンジルアルコールに限られるなどの制限はあるものの、CBS還元などで容易に手に入るキラルな二級アルコールを、そのままキラル三級不斉点に変換可能なのはありがたいところです。できればジメチル亜鉛以外でも反応が進行してくれるとさらにありがたいところではありますが、今後の進展に期待しましょう。

Gregor Kiefer, Loc Jeanbourquin, and Kay Severin*
Angew. Chem. Int. Ed. 52, 6302–6305 (2013) DOI: 10.1002/anie.201302471

 ☆笑気でクロスカップリング
 亜酸化窒素(N2O)は麻酔作用のある気体で、吸い込むと顔の筋肉が弛緩して笑っているように見えるため、「笑気」という別名があります。構造からわかる通り酸化作用がありますが、有機合成の分野においてはあまり利用されて来ませんでした。

 今回著者らは、Grignard試薬同士のカップリング反応に、この亜酸化窒素が使えることを報告しました。鉄、コバルト、銅などの塩を触媒として、亜酸化窒素雰囲気下でGrignard試薬の溶液を撹拌すると、ホモカップリング体が収率よく得られます。
homo

 今まで酸素を使った同様の反応も報告されていましたが、それよりもずっと少量の触媒できれいに進行します。触媒の添加量を増やせば、メシチル基(2,4,6-トリメチルフェニル基)同士のカップリングなども収率87%で進行するので、立体障害に対してもかなり強いのはよいところです。

  またアルキルGrignard試薬のカップリングも可能で、Li2CuCl4を触媒として8割前後の収率で二量体が得られています。tetr-ブチルGrignardでは44%に落ちますが、まずまずといえるでしょう。

  これだけですとインパクトも今ひとつですが、この条件で異なるGrignard試薬同士のクロスカップリングも可能です。うまく行っているのはアリールとアルキルのカップリングで、後者を2当量使い、触媒にLi2CuCl4を使用する条件にたどり着いています。
cross

 反応終了後に残るのは、少量の触媒、酸化マグネシウム、そして窒素ガスだけということで、非常にクリーンであるのはよいところでしょう。亜酸化窒素は、この他にも可能性があるのではないかと思えます。

このページのトップヘ