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有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

カテゴリ:ケミカルバイオロジー

Valentina Bevilacqua, Mathias King, Manon Chaumontet, Marc Nothisen, Sandra Gabillet, David Buisson, Cline Puente, Alain Wagner, and Frdric Taran*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View. DOI: 10.1002/anie.201310671

 ☆生体内でも素早くクリック
 クリックケミストリーの概念は21世紀になってから急速に普及し、化学・生化学の領域を大きく変えつつあります。どんな溶媒中や生体内でも、副生成物を出さずに素早く進行し、確実に2つのパーツを連結する――これにより、例えばタンパク質に「目印」となる蛍光タグを導入するような、今まで難しかったことが可能になってきています。

 ただし、生きた細胞相手にクリック反応を行うのは、まだ制約があります。クリック反応の代表とされるアジドとアルキンの[3+2]付加環化反応は、銅(I)イオンによって大きく加速します。しかし銅イオンには細胞毒性があり、生体内で使うには問題があります。

 これを防ぐため、いくつかのアプローチが開発されています。ひとつは、アルキン側にひずみの高いシクロオクチンなどを用いて反応を速める方法で、こちらについては筆者が現代化学2014年2月号に記事を書いております。

 そしてもうひとつは、銅イオンに配位子を結合させ、毒性を低減させる方向です。たとえば下のような、トリアゾールを3つ持った配位子を導入する方法が報告されています。

Cu_Ligand

  今回著者らは、この配位子とアジドを一分子に組み込んだ形の、下図のような分子を設計しました。この配位子に銅イオンをキレートさせれば、分子内でアジドを活性化し、素早くアルキンと反応するという理屈です。
azide
 実際、この化合物と硫酸銅(II)を17.5μMという低濃度で溶解させ、アスコルビン酸ナトリウム(還元剤)存在下アルキンと反応させたところ、わずか40秒で反応が終了しました(活性化されていないアジドを用いた場合16時間)。この化合物のカルボン酸部分に蛍光タグを結合させ、アルキンで修飾した生きた細胞表面に作用させたところ、細胞の機能を損なうことなく蛍光タグが導入されました。

 銅の使用量を最小限にし、 細胞毒性なしにクリック反応を行う、優れた手法と思います。いずれ、試薬として市販されるようになるのではないでしょうか。それにしても、クリックケミストリーの応用範囲の拡大ぶりには、驚くばかりです。

Ryo Okamoto,* Kalyaneswar Mandal, Morris Ling, Andrew D. Luster, Yasuhiro Kajihara, and Stephen B. H. Kent
Angew. Chem. Int. Ed., Early View DOI: 10.1002/anie.201310574

 ☆糖タンパク質もフラスコで作れる
 CCL1はケモカインの一種で、炎症の形成に寄与するなど重要な化合物です。その実体は73個のアミノ酸から成る小さなタンパク質で、29番目のアスパラギン残基に、9糖から成る糖鎖が結合しています。今回著者らは、このCCL1と、糖鎖をなくしたSer-CCL1を化学合成し、その作用を比べています。

 こうした糖タンパク質は、遺伝子組み換えによっても合成できませんし、化学合成も難しいとされてきました。糖鎖は酸などに弱いため、アミノ酸結合や脱保護などの繰り返し操作に耐えないからです。

 しかし最近、ネイティブケミカルライゲーション(NCL)という手法の登場により、こうした糖タンパク質も次々に合成が可能になっています。これは、C端にチオエステルを持ったペプチド鎖と、N橋にシステインを持ったペプチド鎖を混合することで、両者がチオエステル交換を経て結合するというものです(下図)。この方法の登場以来、さまざまな糖タンパク質が合成可能になっており、たとえば2012年にはDanishefskyらによってエリスロポエチンの全合成が達成されています。

NCL

 ただしチオエステル結合も、脱保護操作を繰り返すうちに分解されていきます。そこで著者らは、N-アシルウレアを経てチオエステルに変換するDawsonらの手法を用い、これを解決しています。

CCL-1
CCL1
 
 糖タンパク質は、非常に重要な機能を担っているものの、入手の難しさゆえに解明が遅れていました。しかし近年、このあたりは合成手法の進歩によって大きく進展しつつあります。こうした手法で、今後さらに多くの糖タンパク質の機能が、明らかになっていくと思われます。

Charles N. Birts, A. Pia Sanzone, Afaf H. El-Sagheer, Jeremy P. Blaydes, Tom Brown, and Ali Tavassoli*
Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 2362 (オープンアクセス)

 ☆人工DNAからタンパク質を作る
 先日Chem-Stationに、人工DNAに関する記事が掲載されました(DNAに人工塩基対を組み入れる人工DNAから医薬をつくる!)。こちらにもあります通り、DNAの類縁体を作る研究は昔から数多く行われており、核酸塩基部分を置き換えたもの、リボース部分を他の環に変えたもの、リン酸エステル結合を他の官能基にしたものなど、ありとあらゆる変換が行われてきています。

 しかし現在に至るまで、二重らせん鎖を成す部分を改変した人工DNAで、細胞内で遺伝子として機能する――すなわち、RNAに転写され、翻訳されてタンパク質を作る――ようなものは、ひとつも知られていません。DNAの遺伝情報読み出しは極めて精妙な系であり、少しでも違う官能基を持ったものは受け付けられなかったのです。

 しかし今回著者らは、初めてこうした人工DNAを創り出したとしています。その構造は、DNAのリン酸エステル結合を、1,2,3-トリアゾールで置き換えたものです。これは、クリックケミストリーの代名詞ともいうべき、アルキンとアジドの[3+2]付加環化反応で作れる置換基です。

DNAs

 mCherryという蛍光タンパク質(黄色~緑色の励起光を照射した時、赤色に光る)をコードしたDNAを合成します。このDNAのうち、フルオロフォア(蛍光を発する原子団)部分に当たる部分の1ヶ所は、リン酸エステル結合でなく、上記のクリック結合で結びついています。これを組み込んだプラスミドを大腸菌に取り込ませ、発現させると、mCherryの赤色蛍光が観察されました。つまり、クリック結合したDNAが、間違いなくタンパク質へと翻訳されたということです。

 クリック結合がリン酸エステル結合を肩代わりできるということは、いろいろな面で興味深いと思われます。ひとつには、本物のDNAのリン酸エステル結合を作るのは面倒ですが、官能基許容性の極めて高いクリック結合であれば、いろいろにモディファイしたDNAの化学合成が簡便に行えることがあげられます。また、大きなDNAのフラグメント同士を結合させることなども、より容易になることでしょう。さらに、クリック結合で作ったDNAを鋳型にして、本物のDNAを作る可能性も開けてきます。

 と、いろいろと面白そうですので、ちょっと前の論文ですし、専門外ではありますが紹介してみました。今後、いろいろな応用が出てきそうです。 

 ある低分子化合物を、特定のタンパク質に結合させる手法は、非常に重要になっています。たとえばガン細胞の表面タンパク質を認識する抗体をつくり、そこに低分子の抗ガン剤を載せてやる「ミサイル療法」はその例です。その他、いわゆるケミカルバイオロジー分野でも、こうした手法は重要な研究ツールとなりえます。

 低分子を結合させる手段は今までにもありましたが、多くはOH基やカルボキシ基、アミノ基など反応性の高い置換基を利用するものがほとんどでした。つまり、こうした置換基のない化合物は、タンパク質への導入ができません。またこうした置換基は、相手方となる標的タンパク質 との結合に重要な役割を果たしていることが多く、ここに「ひもをつけて」しまうと、肝心のターゲットとの結合力が失われることもしばしばです。

 さて先日もここで紹介した通り、スクリプス研究書のBaranらは、ヘテロ環を含む化合物をフルオロアルキル化できる試薬を報告しています。たとえば下図のように、ごく簡便な条件でカフェインのC-H結合が切れて、フルオロアルキル化が起こっています。

alkyl

 Baranらはこの試薬を、修飾しやすい官能基を持たない化合物に応用し、「ひも付け」することを考えました。末端にアジドを持ったNaO2S(CH2)6N3のような化合物を用いてアルキル化を行い、その後にアジド部位を用いたクリック反応でタンパク質に結合させてやるという発想です。

 例として、ピリジンやピロールなどのヘテロ環を持った医薬化合物のアルキル化が行われています。たとえば禁煙治療薬バレニクリン(チャンピックス)は収率53%で、図の位置にアルキル化を受けます。アミノ基、OH基、エステル、アミドなどの置換基があっても、反応は問題なく進行します。

tagging

  こうしてできたひも付き低分子化合物を、 シクロアルキン部位を持たせたタンパク質と反応させることで、導入が行えます。

click

 今まで「ひも付け」できなかった化合物を、タンパク質へ導入する道を開いたのは重要かと思います。ただ、導入には酸性条件、酸化剤の存在が必要なので、これに耐える化合物である必要はあります。また、これで導入した「ひも」が、標的タンパク質との結合を妨害する可能性ももちろんあります。とはえこの反応には、まだまだ応用が出てきそうであり、今後の展開が楽しみです。 

Manfred Schrewe, Nadine Ladkau, Bruno Bühler,* and Andreas Schmid
Adv. Synth. Catal. Early View DOI: 10.1002/adsc.201200958

 ☆大腸菌をC-Hアミノ化触媒にする
 C-H結合官能基化反応は、現代の有機化学における最重要フロンティアのひとつですが、アルカンのC-H結合を選択的に官能基化する反応は、いまだ最も難しいテーマです。有名なのは、Hartwigによるロジウム触媒を用いた、アルカン末端の選択的ホウ素化反応でしょうか。

 今回の論文でBühlerらは、これと全く異なるアプローチで、ドデカン酸メチルの末端(ω位)にアミノ基を導入する手法を報告しています。大腸菌にオキシゲナーゼ(酸素導入酵素)とトランスアミナーゼ(アミノ基転位酵素)の遺伝子を組み込み、以下のような反応を一気に行える「生きた触媒」としてしまおうというものです。

amination

 各種最適化の結果、2.9mMのドデカン酸メチル溶液をこの大腸菌で処理し、0.13mMの12-アミノドデカン酸メチルを得ることに成功しています。化学収率という意味ではまだまだながら、合成化学的手法では困難な反応を実現できた点に価値があると思います(何ぶん筆者の専門外の論文ですので、勘違いなどあったらご指摘下さい)。

 この手法で、将来的には立体選択的な反応なども実現する可能性もありそうです。 化学者がなかなか実現できずうんうんうなっている反応を、これからこういう手法で全部持って行かれてしまうのかもしれません。こういうこともウォッチする必要があるのだろうなということで、専門外ながら取り上げてみました。

Chris Spicer and Benjamin G Davis
Chem. Commun., 2013, Accepted Manuscript DOI: 10.1039/C3CC38824G

☆鈴木・宮浦カップリングを細胞へ応用

2010年にノーベル賞を受賞した鈴木・宮浦カップリング。その偉大さは説明するまでもないでしょう。(1,2) この鈴木・宮浦カップリングは相手が細胞であっても利用可能であることを筆者らは以前に報告しています。(3,4,5) 今回筆者らは鈴木・宮浦カップリングを用いてバクテリア表面に糖を導入し、O-結合型糖鎖ミミックを合成しています。
011213 ChemComm BG
鍵はpara-iodophenylalanineを組み込んでおくこと、そしてホスフィンリガンドを必要としないパラジウム触媒です。(3,4,5) 確認はレクチンを用いて行っており、糖がきちんと導入されていることが示されています。導入された糖はリンカーを介していたり、結合部位がフェニルアラニン(筆者らはチロシンのO-結合型ミミックと呼んでいますが)であったりとミミック構造ではありますが、水中でも反応が問題なく進行する鈴木・宮浦カップリングの有効範囲の広さを改めて思い知らされる報告ではないでしょうか。

Yonggang Ke, Luvena L. Ong, William M. Shih, Peng Yin
Science 30 November 2012: Vol. 338 no. 6111 pp. 1177-1183 DOI: 10.1126/science.1227268

☆DNAのレンガを積み上げる
◆ポイント
※500本以上の32塩基オリゴ鎖を用いて、10×10×10のブロックからなるDNAナノ構造体(一辺が約25nmの立方体)を作成した。
※1000個の中から任意のブロック(ブロックに相当するオリゴ鎖)を組み合わせることによってによって、任意の構造体を作成した。
※簡単にデザインができるDNA三次元構造体の手法を提唱した。

◆解説  生体分子(DNAやタンパク質)は精巧な認識能力、自己集合性などの特徴を示すため、ナノマシンの作製において有力なツールと考えられています。その中でも利用可能性が高いと考えられている材料が、DNAです。DNAは、安定性が(生体分子の中では)高く、ワトソン・クリックの相補性により高い分子認識能力と自己集合性を持ち、また人工合成・修飾も容易です。

 そのため、DNAを利用したナノテクノロジーは40年ほど前から行われていましたが、ここ5年ぐらいで大きな進展を迎えています。"DNA origami"[1]や"DNA tile"[2]と呼ばれる手法が開発され、100ナノメートル程度の構造体を簡単に設計開発できるようになりました。しかし、この二つの手法は主に平面構造体に限られていました。三次元も設計できるのですが、決して簡単とはいえず、また単純なものしか作ることができていませんでした。

 しかし、今回筆者らが開発した手法"DNA Bricks"(DNAレンガ)は三次元構造体を容易にしました。"DNA Bricks" は、 数百本の32塩基(一部16塩基)の一本鎖のオリゴ鎖を用います。オリゴ鎖は8塩基からなる4つのドメイン(16塩基の場合2つ)で構成されています。それぞれのドメインは、相補的な配列をもつ他のドメインと二重鎖を形成することで、2つのオリゴ鎖を結びつけます。32塩基のオリゴ鎖は、8塩基のドメインを介して、他の4本の32塩基オリゴと結合し、構造体へと自己組織化します。今回は、500本以上のオリゴ鎖を用いて、8塩基ドメインが10×10×10に並んだ立方体を作成しました。

 次に、立方体から一部のブロック(ドメイン)だけを選ぶことによって、100以上の形の違う構造体を設計し、作製に成功しました。このように、”DNA Bricks”は10×10×10のブロックからなるDNA構造体の3Dキャンバスとみることができます。  これらのオリゴ鎖の配列設計はPC上で行なっています。そのため、使いやすいソフト化されると、DNAから三次元物体を構築する上で有力な手法となりそうです。

 また、Youtubeの動画が、非常に良くできているので、是非見て下さい。オリゴ鎖の4つのドメインは、動画中のブロックの4つの凸凹に相当します。 



  雑記になりますが、今回の100近いパターンを作成するのに必要となったオリゴ鎖は4454種類となっています。こう複雑になってくると、実験設備の自動化は必須なように見えてきます。また、Supplementary Materialsも200ページ超えです。こういった論文は、Supplementaryが多くなりがちですが、すごい量です。

◆脚注
[1] DNA origami は天然の長い1本鎖のDNAを短いオリゴを用いて、短く編みたたむことによってDNA構造体を作る手法 P. W. K. Rothemund, Nature 440, 297 (2006).
[2] DNA tiles は 一本鎖でできたタイルを1ピクセルとみなして、それを組み合わせることによって、平面構造体を作る手法。 B. Wei et al. Nature 485, 623 (2012)

Dr. Ping Wang, Dr. Suwei Dong, Dr. John A. Brailsford, Dr. Karthik Iyer, Dr. Steven D. Townsend, Dr. Qiang Zhang, Dr. Ronald C. Hendrickson, Dr. JaeHung Shieh, Dr. Malcolm A. S. Moore, Prof. Samuel J. Danishefsky
Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 11576–11584, DOI: 10.1002/anie.201206090


☆糖たんぱく質(エリスロポエチン)の全合成、ケミカルバイオロジー

Danishefsky研より。彼らは今年もすごい数の論文をJACSやACIEに掲載していますが(既に15報以上…)、その中からエリスロポエチン(EPO)全合成の論文を紹介します。

今回の標的分子はErythropoietinで、分子量2万(!)を超える生体高分子(糖たんぱく質)です。主に腎臓などから放出されるホルモンで、赤血球の増加を促す働きがあります。このため悪性貧血患者の治療薬として広く用いられ、近年のバイオ医薬として最も成功したもののひとつです。また酸素運搬能力を高めるため、スポーツ選手のドーピングに用いられたりもしています。

1970年代にペプチド固相合成が登場して以来、ずいぶん長いペプチドの合成も可能になっていますが、それでも限界はあります。しかし1994年、NCL(Native Chemical Ligation) が登場して、この状況は一変しました。N末端のシステイン残基を利用して、無保護のペプチド鎖同士を結びつける技術で、これによって100以上のアミノ酸から成る「タンパク質」も、化学合成のターゲットに入るようになりました。

NCL
NCLの原理。チオールエステル交換から、S→N転位によってペプチド結合を形成。

ただしこの方法は、都合のよい位置にシステインがないと使えません。そこで今回彼らは、重金属などを用いずにシステインをアラニンに変換する反応を開発し、この難点を克服しています。この他、KCL (Kinetic Chemical Ligation) やAspartylationなども駆使して、単一の糖鎖構造を持つEPOの合成に成功しています。

120612 angew danishefsky
アミノ酸だけでも166残基のこのEPO。糖鎖付の場合は4つの断片に、糖鎖なしの場合は3つの断片を繋ぎあわせることで合成を達成しています。興味深いことに、糖鎖なしのEPOは取り扱いが大変だったようです。活性も糖鎖有りEPOの方が強かったそうで、糖鎖はたんぱく質の安定化や生物活性に重要なのではないかと推測しています。生物活性については少し触れているのみではありますが、究極のケミカルバイオロジー研究と言えるのかもしれません。

今回の報告では、N-glycan(アスパラギン残基から伸びる糖鎖)が本来のものより簡略化され、Chitobioseのみになっており、これはin vivoでは活性を示しません。近いうちにハイマンノースなどのより複雑なN-glycanを持つたんぱく質の合成もなされるのではないでしょうか。また、ここまで巨大な分子が精密合成可能になると、たんぱく質の折り畳み問題にも合成化学的にアクセスできるようになるのかもしれません。
(図は大まかなコンセプトを示したつもりですが、色々ご容赦下さい。。。是非ご自分で原著をご確認ください。)

  • Michael B Lazarus, Jiaoyang Jiang, Tracey M Gloster, Wesley F Zandberg, Garrett E Whitworth, David J Vocadl & Suzanne Walker
Nature Chemical Biology, 8, 966–968 (2012)  doi:10.1038/nchembio.1109

O-GlcNAc転移はどう起こる? その2

彼らは触媒反応の最初と最後の結晶構造を比較することにより触媒機能を明らかにしようと考えましたが、その鍵となったのはUDP-5SGlcNAcでした。通常のUDP-GlcNAcでは結晶化の間に転移反応が進行してしまい、反応の初期段階の結晶構造が得られなかったのです。このUDP-5SGlcNAcはOGTの阻害剤として既に知られており、天然型UDP-GlcNAcと比べ圧倒的に基質になりにくい性質を利用しています。


120312 2012 Nat Chem Biol Lazar
彼らの結論は

○求電子的転移機構で反応が進行する(糖加水分解酵素でよく見られる反応機構)

○水分子を介してAsp554が水酸基の水素を引き抜く

他のポイントとしては

○Lys842,Thr921,糖アセトアミドが安定化に寄与

○His498,558は距離が遠すぎて引き抜きは不可能、Tyr841も同様。

○alpha-リン酸基は3.5A以内にあり、距離的には引き抜き可能に見えるが、pKaを考えると難しい。また、その場合はアノマー位への攻撃が難しい位置関係になってしまう。


両論文とも得られた構造は非常に似ているように感じましたが、結晶構造の解釈の違いで結論が違うものになっています。現時点でどちらが正しいのか筆者にはなかなか判断がつきませんが、ひとまず後続の論文を楽しみに待ちたいと思います。

  • Marianne Schimpl, Xiaowei Zheng, Vladimir S Borodkin, David E Blair, Andrew T Ferenbach, Alexander W Schüttelkopf, Iva Navratilova, Tonia Aristotelous, Osama Albarbarawi, David A Robinson, Megan A Macnaughtan & Daan M F van Aalten
Nature Chemical Biology, 8, 969–974 (2012) doi:10.1038/nchembio.1108

O-GlcNAc転移はどう起こる? その1

b-O-GlcNAc修飾は近年注目を集めている翻訳後修飾の一つであり(下図参照)、リン酸化との関係も指摘されるなど多くの研究が行われています。数多くのタンパク質がこのb-O-GlcNAc修飾を受けることが判明しているものの、その触媒機構や基質特異性などは不明なままでした。今回Nat Chem Biolでは2つのグループの論文を掲載しており、ケミカルプローブと結晶化を駆使してb-O-GlcNAc修飾の反応機構解析を行っています。その結果について簡単に紹介します。

120312 2012 Nat Chem Biol shimpo

O-GlcNAc転移酵素(OGT)が行うO-GlcNAc付加は立体反転を伴うため(Sn2様反応)、アクセプター水酸基の脱プロトン化が重要と考えられています。これまではヒスチジン残基が水素の引き抜きに関わると考えられてきましたが、今回筆者らはUDPのリン酸基がその機能を担うと報告しています。(下図)

120312 2012 Nat Chem Biol shimpl

その他の論点を箇条書きで記します。

・アセトアミドがある部分は割と空間がある:アセトアミドの改変は許容される理由(2-N3含む)

・プロトン引き抜きを担うと考えられてきたHis489 or 558は距離的に遠すぎて不可能。

・Lysine842を変異させると触媒活性を失う。

・糖ヌクレオチドのコンフォメーションが通常の糖転移酵素と大きく異なる

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