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有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

カテゴリ:ヘテロ元素化学

Hirofumi Naito, Yasuhiro Morisaki,* and Yoshiki Chujo*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.201500129

オルトカルボランは,隣接した2つの炭素を含むホウ素の多面体クラスターです.アルキンとデカボランの付加によって得られ,合成は比較的容易です.その熱的および化学的安定性から中性子捕捉療法や断熱材への利用に向けた研究が主に行われてきましたが,近年 π共役系 と連結させることによって発光材料をつくる研究が注目されています.

Kamitsubo55_fig1

これまでにもAIE(Aggregation-Induced Emission)やCIE(Crystallization-Induced Emission)を発現する材料についての報告がいくつもありましたが(参考文献参照),本研究では上記の ようにアントラセンを結合させて多様な刺激による発光挙動を示す材料をつくることに成功しました.

アントラセンを選定したのは,強い発光特性をもつこと,官能基付加が簡単にできること,また集合状態の違いによって固体状態での発光波長を変化させることができることなどの理由によります.

Kamitsubo55_fig2

得られた化合物は上図のような様々な発光挙動を示し,また適した条件下で蒸 気に曝露することで取り込む溶媒を交換することもできます.基本的にこの化合物では発光色は赤系統ですが,修飾可能な部位が いくつもあるため工夫次第で色のチューニングなどもできそうです.

 参考文献
* Y. Chujo et al., J. Org. Chem. 2011, 76, 316-319.
* B. Z. Tang et al., Chem. Commun. 2007, 1740-1741.


Akihiro Tsurusaki, Chisato Iizuka, Kyohei Otsuka, and Soichiro Kyushin * J. Am. Chem. Soc., 2013, 135 (44), pp 16340–16343 DOI: 10.1021/ja409074m

 ☆ケイ素でベンゼンはできるか
 ケクレによって提案されたベンゼンの正六角形構造は、有機化学の基本ともいうべき美しい構造です。しかしケクレ以前には、C6H6の分子式に対して様々な構造が提案されていました。下図はその例で、いずれも実際に合成がなされています。
Benz
 ベンズバレン(benzvalene)の「バレン」は「(少なくとも紙の上で)原子価異性化を行うことができる分子」という意味だそうで、ご覧の通りベンズバレンの結合を一部切ってつなぎ変えれば、ベンゼンになります。

 さて、周期表で炭素の真下にあるケイ素でベンゼン環を作れるか、という試みはずいぶんなされてきました。しかし、Si6R6型の分子としてはプリズマンタイプのもの、また椅子型6員環のものなどができているものの、この「ヘキサシラベンゼン」はいまだ実現していません。

 今回著者らは、下図のような化合物、すなわちケイ素の5員環に塩素が4つついたものを用意し、これを金属ナトリウムで還元しました。狙いはおそらく、三量化によってヘキサシラベンゼンの合成を行うことだったと思われます。
pentasilane

 ところが出来上がったのは、ベンズバレン型の下図のような化合物でした。収率は19% 、緑色の粉末として得られましたが、結晶化させると紫になったとのことです。熱には安定であるものの、空気中に出すと分解するため、アルゴン雰囲気下で扱う必要があります。

silabenzvalene
 ちょっと意外な結果にも見えますが、理論計算を行うと、確かにベンゼン型よりこちらのベンズバレン型の方が、ケイ素では安定とのことです。 直感的には、プリズマン型の方ができやすそうにも思えますが、ちょっと意外です。

 これに限らずケイ素骨格化合物は、炭素からの類推では想像もつかないようなものができることが少なくありません。兄弟元素というものの、やはり別の元素であるということを改めて思わされます。

Erin M. Leitao , Titel Jurca and Ian Manners*
Nature Chem. 5, 817 (2013) DOI:10.1038/NCHEM.1749

 ☆ヘテロ元素をつなぐ触媒
 これまで有機化学分野において、触媒の果たしてきた役割は絶大なものがあります。その多くは炭素と炭素、炭素とヘテロ元素を結びつけるものであり、その発展は多様な有機化合物の合成を可能にしてきました。しかしこれに比べ、ヘテロ元素同士を結びつける触媒は、これまであまり研究されてきませんでした。

 この総説では、B, N, O, Si, P, S, As, Snなどの元素同士をつなぐ触媒が、まとめて紹介されています。単にP-Si, As=Asといった珍しい結合を作れるというだけでなく、B-N結合の着脱員よる水素貯蔵、 機能性無機ポリマーなどについても言及されており、未来への可能性を感じさせます。

 有機電子材料、創薬、配位子設計など、各ジャンルの研究者にインスピレーションを与えてくれる総説ではと思います。アイディアに行き詰まっている人は、ちょっと眺めてみてはいかがでしょうか。 

Ewa Pacholska-Dudziak,* Michał Szczepaniak, Aleksandra Ksiazek, and Lechosław Latos-Grazynski*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View  DOI: 10.1002/anie.201304493

 ☆パラジウムが骨格に入ったポルフィリン
 ポルフィリンというのは奥の深い化合物で、今まで様々なバリエーションが発見・合成されています。 ピロールの数が異なるもの、間の炭素が増えたものや減ったもの、窒素以外のヘテロ元素(酸素・硫黄など)を含んだもの、窒素の位置が異なるものなど、数えきれないほどの親類筋が存在します。

 今回、その中でも非常な変わり種といえる、パラジウムを骨格内に含んだポルフィリンが初めて合成されました。報告したのは、ポーランドのヴロツワフ大学のチームです。

 彼らは、ポルフィリンの向かい合わせの窒素が2つテルルに変わったジテルラポルフィリンに対し、パラジウム塩を作用させることでできたようです。X線結晶解析の結果、下図のようにパラジウム(青い球)とテルル(オレンジの球)、窒素とテルルが結合し、これが上下の窒素に対して素早く入れ替わっていることがわかりました。
Pd_Porphyrin

 すぐに何かに応用できるというものではないかもしれませんが、面白いものができるものだなあと思わされます。底なしに奥深いポルフィリンワールドに、また新たな1ページが付け加わったようです。

James T. Goettel, Nathan Kostiuk, and Michael Gerken*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.201302917

 ☆四フッ化硫黄の謎が解かれた
 タイトルの'The Final Piece of the Puzzle'というフレーズに惹かれて思わずピックアップしました.内容は,四フッ化硫黄の結晶構造解析に成功した,ということに尽きるのですが,通常は気体(融点-121℃)で,しかも反応性の高い猛毒であることを考えると何やらすごいと言わざるを得ません.これまでは分光学的な手法や電子線回折などによる気相中における構造決定はなされていましたが,これで最後のピースが埋められたということです.

 結晶作成の方法としては,2パターン行われており,一つはゆっくり冷却,もう一つはCF2Cl2溶媒から結晶化するというものです.得られたUnit cellは,ともにorthorhombicで同じでした.弱い分子間相互作用(S…F)によってネットワーク構造をとっており,アキシャルのフッ素原子がよりイオン的な性質を持っています.よって,これは鎖状もしくは二量体ではないかというこれまでの予想を覆すものでした.

Kamitsubo14_fig1

 アルコールやカルボニルに対するフッ素化試薬としても用いられるこの四フッ化硫黄ですが(Angew. Chem. Int. Ed. 1962, 1, 467-518; J. Org. Chem. 2012, 77, 47-56.),ニッケル,ステンレス,FEP(フッ素樹脂の一種)から成る真空ラインを乾燥させたあと,1気圧以上のフッ素ガスで処理してその中で扱ったとあります.フッ素化学を主に研究するグループなので,ノウハウが色々あるのだろうと思いました.

 引用文献の年代を見る限り,長らくあまり進展のなかった分野のようですので,その発見以来(Angew. Chem. 1929, 42, 810-811.)数十年の謎に決着をつけた成果であると言えるのではないかと思います.

Gang Liu, Li-Chang Yin, Ping Niu, Wei Jaio, and Hui-Ming Cheng*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.201302238  

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 ☆ ホウ素は光触媒
 一言でまとめると,ホウ素単体粒子が光触媒であることを証明した研究です. 単体で光触媒能を持つものは,他にもSi, Se, P, Sが近年分かってきており,可視光に応答するという大きな利点があります.そして今回,ホウ素も晴れてその仲間入りした というわけです.

 ただし単体といっても,実際に使用したサンプルには,若干酸素も含まれていると いうことです.格子には欠陥があり,結晶性のコアとアモルファスの表面から成るこ とも分かりました.光を照射することで生成したヒドロキシラジカル(・OH)が, 予め共存させておいたテレフタル酸と反応してできる2-ヒドロキシテレフタル酸の 発光挙動を追跡することで,光触媒能があることを証明しています.この方法は 2002年にNosakaらが発表した研究を基にしているようです(Langmuir, 2002, 18, 3247-3254).

Kamitsubo11_fig2

 余談ですが,この論文は文章として読みやすいと感じました.ある物質が 光触媒であるかどうか確かめる一連の手続きが示されているので教科書的な 意味でも勉強になりそうです.The finding may open a door to the development... というフレーズも印象的だと思いました.

P. Alex Rudd, Shengsi Liu, Dr. Nora Planas, Dr. Eckhard Bill, Prof. Dr. Laura Gagliardi,*, Prof. Dr. Connie C. Lu*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.201208686

 ☆異種金属間二重結合
 いうまでもなく、元素同士の結合は化学の基本です。新たな元素間の結合が創られることは、化学の新たな可能性を拓くことに他なりません。

 近年、立体保護基の開発などにより、今まで知られていなかった重原子間の多重結合が次々に合成されるようになりました。Cr-Cr五重結合など、教科書を書き換えるような発見も相次いでいます。

 今回、著者らは鉄とクロムが二重結合した化合物の合成に成功しました。異なる第一遷移金属の間で多重結合を作った化合物は、これが初めてとのことです。
Fe=Cr
紫がクロム、ピンクが鉄

 ポイントは配位子の設計で、窒素4つ・リン3つを持った配位子に対して順にクロムと鉄を結合させ、カリウム-グラファイトで還元して目的の化合物を得ています。得られた化合物はX線結晶解析が行われ、Fe=Cr結合の長さは1.943オングストロームと、通常の金属間結合に比べてかなり短いとのことです。 この配位子設計は他にも応用が利きそうで、さらに新しい化合物が出てくることになりそうです。

Annaliese K. Franz* and Sean O. Wilson
J. Med. Chem., Article ASAP DOI: 10.1021/jm3010114

 ☆ケイ素化合物は医薬になりうるか?
 ケイ素はクラーク数2位、炭素とよく似た性質を持ちながら、生体にはかなり縁の薄い元素です。このケイ素を含む化合物が医薬となりうるか?というレビューです。

 ケイ素を含む生理活性物質はいろいろと報告されています。例えば下図のシランジオールは、アミド加水分解の遷移状態のミミックとなり、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の阻害剤として働きます(IC50=3.8nM)。
ACEI
 
  その他、既存の医薬の炭素を一部ケイ素に置き換えたものも研究されています。抗がん剤カンプトテシンの誘導体・カレニテシンは、現在臨床試験中(Phase III)ということですので、医薬となる可能性も十分ありそうです。

 karenitecin

 その他、有機ケイ素化合物の合成法、脂溶性など各種ファクター、体内動態などについて論じられています。ちょっと「これが薬になるのか?」という感じはしてしまうのですが、可能性として考えてみるのはなかなか面白いと思います。

Paul W. Dunk, Antonio Rodrguez-Fortea, Nathan K. Kaiser, Hisanori Shinohara, Josep M. Poblet,* and Harold W. Kroto*
Angew. Chem. Int. Ed. doi: 10.1002/anie.201208244

 ☆ホウ素入りフラーレンC59B
 フラーレンの魅力は、置換基の導入などによって電子状態が変わり、様々な性質を引き出せる点にあります。今までC60に置換基を結合させるアプローチは数多くなされてきましたが、サッカーボール骨格そのものに異種原子を組み込んだ例は非常に稀です。よく知られているのは、1995年にWudlらが合成したC59N(及びその二量体)で、フラーレンから完全に有機合成的な手法で作られています(論文)。また窒素とホウ素を一つずつ含んだ、C58BNというものも知られています。
 C59NC58BN
C59N及びC58BN

 さて今回、初めてホウ素を組み込んだC59Bが合成されました。論文の著者には、1985年にフラーレンを発見した一人である、H. W. Krotoが名を連ねています。作り方は簡単で、ホウ素の蒸気にフラーレンをさらすだけだそうです。ちょっと驚きですね。
C59B
C59B


 これをどう使うかは筆者には思い浮かびませんが、C59NとC59Bの両方揃ったのはなかなか面白そうです。今後これが量産化できるのか、この手がナノチューブなどにも適用できるのか、期待大な研究です。

Eiji Yamamoto, Kiyotaka Izumi, Yuko Horita, and Hajime Ito*
J. Am. Chem. Soc., 2012, 134 (49), pp 19997–20000 DOI: 10.1021/ja309578k

 ☆金属触媒なしでのハロゲン-ホウ素交換反応
遷移金属触媒の化学は、有機化学に大きな進展をもたらしました。中でもパラジウムは、クロスカップリングを初めとしたC-C結合生成、C-ヘテロ元素結合生成に広く用いられ、大きな成果を挙げています。しかし近年、パラジウムなどを用いずに同様の反応を行う例が、次々に報告されています。

 ハロゲン化アリールからアリールホウ素化合物を作る反応は、生成物が鈴木-宮浦カップリングの基質になるため、非常に有用です。これまで、B-B結合を持った化合物と、パラジウム触媒の組み合わせを用いる方法が主流でした。しかし今回、B-Si結合を持った化合物を用い、同様の変換がパラジウムを用いることなく収率よく行えることが示されました。
BSi

 アミン・エステル・アミドなどの官能基が存在していても問題なく、立体障害のある基質でも反応は進行するようです。パラジウムを用いた場合、高温で数時間を要していましたが、この反応では30度・1時間で進行するとのことです。これも試薬としての登場が待たれますね。

 (参考)マイナビニュースの記事

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