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有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

カテゴリ:ナノテクノロジー

Choon Hwee Bernard Ng and Wai Yip Fan
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja506625y

 様々な形状をしたナノ結晶について,特にここ20年ほどの間に多くの報告がありました.今回ご紹介するのは,これまになかったルーローの三角形の塩基性硝酸ビスマス(Basic Bismuth Nitrate)のナノ結晶を作ることに成功した研究です.

 ルーローの三角形とは下図のように,正三角形の各頂点を中心に半径がその正三角形の1辺となる円弧で結んでできる定幅図形(差渡しの幅が常に一定となる図形)で,ギターピックやマンホールのふたに用いられます.(この形をしたマンホールのふたを日本であまり見ることがありませんが,外国ではよくあるのでしょうか).

Kamitsubo41_fig1

 作製方法は下図のように,硝酸ビスマス5水和物を溶かした水溶液に,shape-directing agentとしての2,3-bis(2-pyridyl)pyrazine (= dpp)をエタノールに溶かしたものを加えて結晶成長を促します.ここで他の化合物を使うと六角形の結晶になるので,dppを使うことがポイントのようです.

dpp
dpp

 また,下段に示した経路をたどって成長することがSEM測定から推測されますが,詳細なメカニズムについては現在検討中とのことです.

Kamitsubo41_fig2

 この結晶ならではの機能が何か見出されているわけではありませんが,高い均一性と収率を容易に再現できる手法を見出したことで,結晶成長に関するコンピューターシミュレーションの分野にも影響を与えることができるのではないかと筆者らは期待しています.

<参考> 塩基性硝酸ビスマスとは,Bi3+,NO3-,O2-,を含む化合物の総称です.中世において消化不良などの薬として使われていた記録があり,現代でもピロリ菌除去剤の成分の一つとして利用されているということです.(2014.9.4.改)

Cheng Tian, Xiang Li, Zhiyu Liu, Wen Jiang, Guansong Wang,* and Chengde Mao*
Angew. Chem. Int. Ed., Early View DOI:  10.1002/anie.201400377

 ☆DNAで多面体を作る
 DNAは生命の遺伝情報を担う、重要な機能を持った分子ですが、これを素材として見ても大きな可能性を秘めています。二重らせんは柔軟かつ化学的に安定ですし、 これを組み立てたり切り貼りしたりする道具(制限酵素など)が揃っており、いろいろな造形が可能です。

 こうした研究はDNAナノテクノロジーと呼ばれ、現在ホットな分野の一つです。時に「DNA折り紙」などと呼ばれますが、まあちょっと折り紙ファンからすると違和感のあるネーミングで、あやとりのほうが近いんじゃないかという気もします。まあそれはともかく、DNAの立方体、星形やニコニコマークなど、様々なパターンがすでに作成されており、今も進展の著しいジャンルです(参考)。

1000yen
DNA折り紙といってもこういう意味ではない。

  例えばDNAで分岐構造を作るには、下のように4本のDNA鎖をからませてやればよく、こうした構造も自在に作り出せます。4方向だけでなく、3方向、5方向などの分岐も同様に作成可能です。

cross
DNAによる交差パターン

 DNAの断片同士をつなぐには、二重らせんから数塩基分飛び出した一本鎖部分が、相補的な配列の一本鎖部分と自発的に水素結合する作用を利用します。末端部分がくっつき合うので、この部分を「粘着末端」と呼びます。
Sticky

 ただし、粘着末端を持った分岐DNAをそのままお互い結合させると、単に平面的に広がった格子ができ上がるだけです。そこで著者らは、DNAの二重らせんをさらに二重にし、結合相手に指向性を持たせることでこれをクリアしています。このへんは説明が難しいので、できれば論文の方をご覧下さい。

 こうした工夫により、分岐DNAを混ぜて結合させるだけで、自己組織化によって正八面体など各種デルタ多面体を形成させることに成功しています()。DNAだけで、これだけ複雑なシステムを作れるものかと驚きます。

 こうしてできたDNAの「かご」は、医薬分子を包み込み、患部へ届けるドラッグデリバリー、タンパク質を包み込んで結晶化させ、X線解析するなどの応用が考えられています。まあそうした応用が実現するのはだいぶ先かもしれませんが、とりあえず見た目だけで、ナノ世界の妙技に感心してしまう研究です。

Elisabeth Bianco, Sheneve Butler, Shishi Jiang, Oscar D. Restrepo, Wolfgang Windl, and Joshua E. Goldberger*
ACS Nano Article ASAP DOI: 10.1021/nn4009406

◆ポイント
・グラファンに似たシート状のゲルマニウム材料・Germanane(ゲルマナンと読む?)を得ることに成功した

◆今後予測される展開
・Germananeは、グラフェンと同様にエレクトロニクス分野で様々な用途に応用できる可能性がある

◆概要
 炭素が蜂の巣状に連結した物質・グラフェンは、原子一つ分の厚みしか持たない二次元材料として、現在非常に大きな注目を集めています。
250px-Graphen
グラフェン

 一方、これを水素化し、シクロヘキサン環が平面的につながった形の「グラファン」も、2009年にGeimらによって報告されています。今回は、このグラファンの炭素を、同族元素であるゲルマニウムに置き換えた形の材料が合成されたという話です。

 ゲルマニウム化カルシウム(CaGe2)は、ゲルマニウムでできた蜂の巣状シートの間に、カルシウムイオンが挟まった形の物質です。これを固相状態で反応させ、カルシウムを抜いて水素と置き換えることで、原子レベルの厚さのゲルマニウムシートを得ることができました。

germanane
germanane(緑がゲルマニウム)

 このゲルマニウムシートは酸化されにくく、75 ℃程度までの温度に耐えます。グラファイトからグラフェンを剥ぎ取るようなイメージで、単原子レベルの厚さのシートとして剥離することができ、Si表面などに設置することも可能です。Germananeのバンドギャップは1.53 eVほどで、バルクのゲルマニウムのバンドギャップである0.67 eVより大きく、GaAsのそれよりも大きいとのことです。また、バルクのゲルマニウムと比較して、電子移動度は5倍程度にも及びます。

 炭素族元素であるゲルマニウムによる驚異の新素材が以上のように報告されました。これは、大変興味深い材料であり、様々な用途で今後応用されるのではないかと期待されます。例えば、Germananeは直接遷移形の半導体 [1] であるとのことで、GaAsよりも短波長の発光をするLEDや太陽電池、FETなどに使用できる可能性があるのではないかと思います。グラフェンのバンドギャップは0 eVといわれているので、それとは対照的な材料といえます。

ちなみに、硫化モリブデン(MoS2)もグラフェン様化合物を形成することが知られており [2] 、FETとしての応用が検討されています。グラフェンをはじめとする層状化合物によるナノテクノロジーの発展は、これからも大きく発展を遂げると期待されます。


◆脚注
[1] バンドギャップ間の電子とホールの再結合のエネルギーを光子として放出できる半導体のこと。一方、間接遷移形の半導体というものがあり、こちらは再結合のエネルギーを光子として放出することはなく、運動量(フォノン)として放出する。詳しくは、キッテルの「固体物理学入門」などの教科書をご参照ください。

[2] B. Radisavljevic et al.,Nature Nanotechnology 2011, 6, 147. ちなみに、10 K以下でMoS2は超伝導性を示すことが分かっています。

☆ナノ粒子の固相合成

Sanyal, U.; Jagirdar, B. R. Inorg. Chem. 2012, 51, 13023. DOI: 10.1021/ic3021436

◆ポイント

・金属ナノ粒子を無溶媒の固相で合成した


◆新規性

・金属ナノ粒子の凝集を固相においても上手く抑え込んだところ


◆今後予測される展開

・金属ナノ粒子の合成手法が発展する可能性がある

・プリンタブルエレクトロニクスの発展等に寄与するのでは


◆概要

近年、金属ナノ粒子の合成研究が盛んに行われている。金属ナノ粒子は、触媒としての応用、センサとしての応用、色素としての応用、印刷による配線パターンの形成への応用などに有用であると考えられ、産業上の利用価値が高いためである。金属ナノ粒子の作成手法として、バルク材料をボールミルなどで砕くトップダウンのアプローチ、金属塩を還元剤で還元して凝集させることで金属ナノ粒子を形成するボトムアップのアプローチ、CVDによるボトムアップのアプローチなどが今までにあった。これらの手法は、気相での合成もしくは液相での合成手法と言えるものである。


本論文では、固相合成による金属ナノ粒子の合成が報告されている。推測であるが、金属ナノ粒子の固相合成は簡単ではない。なぜならば、生成した金属ナノ粒子間の距離がどうしても近くなるからである。液相合成では、溶媒が金属ナノ粒子間に介在することで金属ナノ粒子の距離を離し、金属ナノ粒子の二次凝集を防止する。また、金属ナノ粒子の凝集防止剤 [1] を加えることで、凝集を防ぐこともできる(というより、分散剤を加えることが一般的な手法である)。著者らは、アンモニアボラン [2] 、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン [3] を還元剤として用い、各種金属塩(AgNO3 [4] , HAuCl4, CuCl2, Pd(CH3COO)2, H2IrCl6及びそれらの組み合わせ)を固相で還元させることでAg, Au, Cu, Pd, Ir及びそれらの合金の金属ナノ粒子を得ることに成功している。金属ナノ粒子の粒径は、数 nm~数十 nm程度であった。この反応では、アミンボラン化合物が還元剤としてはたらくとともに、凝集防止剤としてはたらくことも分かった。還元剤と凝集防止剤を兼ねた固体の化合物を用いれば、同様に固相で金属ナノ粒子を合成できる可能性がある知見である。また、還元剤の種類によって、金属ナノ粒子の粒径のバラつきが変化することが分かった。アンモニアボラン、トリメチルアミンボランによる金属ナノ粒子の粒径はシャープであるが、ジメチルアミンボランによる金属ナノ粒子は粒径がブロードである。還元能の違いや、凝集防止効果の違いに起因するものと考えられるが、金属ナノ粒子の粒径制御の手法として興味深い知見である。固相合成反応時の温度も、粒径に影響を与えるではないかと考えられる。



 本論文は、応用可能性の高いものと思います。固体の還元剤と金属塩を混ぜるだけで、安価な様々な金属ナノ粒子を作成できる可能性があるからです。


◆脚注

[1] http://www.nims.go.jp/news/press/2012/10/p201210030.html NIMSによる研究成果の例。アルカンチオールは超分子的な作用を有しているが、金ナノ粒子の凝集を防ぐ作用もあると考えられる

[2] アンモニアとボランの錯体。固体。無機化学の教科書では配位結合の説明のために頻出する化合物である

[3] Abstractではtriethylamine boraneとあるが誤植である

[4] 硝酸銀を用いた金属ナノ粒子の合成は、極めて発熱的であるとのこと。注意が必要である(酸化性のある硝酸塩だからであろう)。同様に、この種の固相合成を行う場合は、細心の注意が必要である

Dr. Jinying Zhang, Zhen Zhu, Prof. Dr. Yanquan Feng, Hitoshi Ishiwata, Dr. Yasumitsu Miyata, Dr. Ryo Kitaura, Dr. Jeremy E. P. Dahl, Prof. Dr. Robert M. K. Carlson, Dr. Natalie A. Fokina, Prof. Dr. Peter R. Schreiner, Prof. Dr. David Tománek, Prof. Dr. Hisanori Shinohara,*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.201209192

 ☆史上最も細長いダイヤモンド
  ダイヤモンドの人工合成技術はずいぶんと進んでいますが、何とカーボンナノチューブ(CNT)内で極めて細長いダイヤモンドを造るという手法が発表されました。二層構造のCNTの端に穴を開け、ジアマンタン-4,9-ジカルボン酸と共存させておくと、毛細管現象によって内部に吸い込まれていきます。
DDC








 これを12時間、600度に加熱すると、内部でジアマンタン同士が融合し、細長いダイヤモンド骨格ができあがるということです。ダイヤモンドができたことは、電子顕微鏡やラマンスペクトルなどで確認されています。

 針状ダイヤモンドは、走査型プローブ顕微鏡の探針として理想的である他、用途はいろいろ考えられそうです。量産などは今後の課題でしょうが、とにかく面白い物質が誕生したといえそうです。

Ming Hu,* Alexei A. Belik, Masataka Imura, Yusuke Yamauchi*
J. Am. Chem. Soc. 2013, 135(1), pp 384-391 DOI: 10.1021/ja3096703

 ☆空洞のあるプルシアンブルー
シアノ架橋型金属錯体について,さまざまな形状の空洞を有するナノ結晶を作成する方法を見出したという論文です.使用している錯体は,Fe-Fe系,Co-Fe系,Ni-Co系で,エピタキシャル成長(下地の結晶面に揃えて配列し,結晶成長すること)とエッチング(腐食,溶解を利用した表面加工法)の技術によってユニークな形状を作り出しています.
Kamitsubo04_fig1

エッチングに用いているのはいずれの場合も塩酸のみとシンプルですが,濃度や温度が系によって多少異なるので,この条件設定が空洞の形状をコントロールするポイントなのでしょう. 物性としては窒素ガス吸蔵や磁性について調べていますが,今回合成した結晶の場合,特にガスの脱着(放出)が起こりづらいという特徴を持つとのことです. (ちなみにYolkとは卵の'黄身'のことです.)

☆究極の分析手法




Nakamura, E. Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 236.  DOI: 10.1002/anie.201205693




◆ポイント

・単分子のTEM [1] 観察(single-molecule, real-time TEM: SMRT-TEM)技術に関するレビュー




◆今後予測される展開

・分子の新しい分析手法として注目されるのでは

・量子化学やDFTなどのシミュレーション技術の発展に寄与するのでは




◆雑記

「分子の動きを直接肉眼で観察してみてぇなぁ・・・。」



化学者なら誰もが夢想するこの欲求にようやく応える手法が見出されてきたという内容です。なぜ分子を直接観察することが難しいか?それは、言うまでもなく分子が非常に小さいことに起因しています。1 mm1000分の一の1000分の一の10分の一のスケールの世界は、光学顕微鏡で観察することができません。しかも、分子は何かに固定しておかないと熱によって気ままに運動・飛散し、ある程度の濃度になると単分子の観察を大いに邪魔します。こりゃあ単分子観察なんぞできねぇや、と、今まではDFTなどを用いた分子構造のシミュレーションや、NMRを用いた間接的な分子構造の観察・推測、FT-IRを用いた水素結合の有無の間接的な推測などを行うしかありませんでした。また、単結晶X線構造解析という強力な手法もありますが、単結晶を作ることが職人的な神業であったり、動的な情報が得られないという問題点があります。

本レビューでは、CNT [2] 中に分子を閉じ込めTEMを用いて分子鎖の動的な観察を行っている様子が記されています。また、カーボンナノホーン [3] 上に単分子を結合させてTEM観察を行っている様子が記されています。さらに、CNT中での化学反応の観察に関しての記述があります。厳密には、観察した分子はCNTπ電子の摂動を受け、TEMからの電子の摂動も受けるため、完全にナチュラルな状態の分子を観察できているわけではありませんが、CNTやカーボンナノホーンによって分子の半固定を行うことが可能となり、また分子同士を完全に隔絶することが可能となり、単分子の定点観察を可能にしたことは、未来を感じさせる驚異の技術であると思います。この技術を生かすことで、動的な構造が分からないタンパク質の高次構造の観察、それを基にした医薬の研究開発などができるかもしれません。また、化学反応に関する基礎的な知見が得られるかもしれません。分子の分析技術のニューパラダイムとして注目されます。なお、本レビューの補足情報には動画が付いております。ご覧下さい。




◆脚注

[1] 透過型電子顕微鏡のこと。観察対象に電子線をあて、それを透過してきた電子が作り出す干渉像を拡大することで、観察対象を観察する

[2] カーボンナノチューブのこと

[3] CNT様の突起を多数有する雲丹状構造のナノカーボン粒子のこと



 





Kaisheng Yao, Weiwei Lu, Xinying Li, Jianji Wang, and Jiongliang Yuan
Chem. Comm. Advance Articles DOI: 10.1039/C2CC38375F


 ☆イオン液体でナノ構造体を作る

 水と混合しないイオン液体と水との界面で銀のナノ構造体の作りわけに成功したという研究です.硝酸銀の水溶液と,還元剤であるo-エトキシアニリンをイオン液体に溶かしたものを接触させ,40℃に一定時間保つというシンプルな方法です.

 カチオンは1位にアルキル鎖を持つ3-メチルイミダゾリウムで,アニオンを変えることで,フィルム,ベルト,丸みを帯びたキューブといった異なった形状の生成物が得られています.このような形状の銀のナノ構造体は有機溶媒と水の界面では報告のないものであるため,新しいコンセプトのナノマテリアル合成法であると述べています.

imidazolium
用いられたイオン液体

 また,アルキル鎖長の違いによる形状への影響についても検討していますが,鎖が長くなるにつれてフィルムの大きさや厚み,均一性が増す傾向があったものの,アニオンの違いほどの大きな影響は見られなかったということです.


 (用語解説)イオン液体は、液体で存在する塩(えん)のこと。 通常、イオン性物質は固体であるが、長いアルキル鎖を持ったアンモニウム塩などは、液体で存在するものがある。陽イオンとして、今回用いられたイミダゾリウム系の他、ピリジニウム塩などの対応が研究されている。導電性を持つ、水とも有機溶媒とも混じり合わない、回収再使用がしやすいなどの特徴があり、応用研究が盛んに行われている。

Yonggang Ke, Luvena L. Ong, William M. Shih, Peng Yin
Science 30 November 2012: Vol. 338 no. 6111 pp. 1177-1183 DOI: 10.1126/science.1227268

☆DNAのレンガを積み上げる
◆ポイント
※500本以上の32塩基オリゴ鎖を用いて、10×10×10のブロックからなるDNAナノ構造体(一辺が約25nmの立方体)を作成した。
※1000個の中から任意のブロック(ブロックに相当するオリゴ鎖)を組み合わせることによってによって、任意の構造体を作成した。
※簡単にデザインができるDNA三次元構造体の手法を提唱した。

◆解説  生体分子(DNAやタンパク質)は精巧な認識能力、自己集合性などの特徴を示すため、ナノマシンの作製において有力なツールと考えられています。その中でも利用可能性が高いと考えられている材料が、DNAです。DNAは、安定性が(生体分子の中では)高く、ワトソン・クリックの相補性により高い分子認識能力と自己集合性を持ち、また人工合成・修飾も容易です。

 そのため、DNAを利用したナノテクノロジーは40年ほど前から行われていましたが、ここ5年ぐらいで大きな進展を迎えています。"DNA origami"[1]や"DNA tile"[2]と呼ばれる手法が開発され、100ナノメートル程度の構造体を簡単に設計開発できるようになりました。しかし、この二つの手法は主に平面構造体に限られていました。三次元も設計できるのですが、決して簡単とはいえず、また単純なものしか作ることができていませんでした。

 しかし、今回筆者らが開発した手法"DNA Bricks"(DNAレンガ)は三次元構造体を容易にしました。"DNA Bricks" は、 数百本の32塩基(一部16塩基)の一本鎖のオリゴ鎖を用います。オリゴ鎖は8塩基からなる4つのドメイン(16塩基の場合2つ)で構成されています。それぞれのドメインは、相補的な配列をもつ他のドメインと二重鎖を形成することで、2つのオリゴ鎖を結びつけます。32塩基のオリゴ鎖は、8塩基のドメインを介して、他の4本の32塩基オリゴと結合し、構造体へと自己組織化します。今回は、500本以上のオリゴ鎖を用いて、8塩基ドメインが10×10×10に並んだ立方体を作成しました。

 次に、立方体から一部のブロック(ドメイン)だけを選ぶことによって、100以上の形の違う構造体を設計し、作製に成功しました。このように、”DNA Bricks”は10×10×10のブロックからなるDNA構造体の3Dキャンバスとみることができます。  これらのオリゴ鎖の配列設計はPC上で行なっています。そのため、使いやすいソフト化されると、DNAから三次元物体を構築する上で有力な手法となりそうです。

 また、Youtubeの動画が、非常に良くできているので、是非見て下さい。オリゴ鎖の4つのドメインは、動画中のブロックの4つの凸凹に相当します。 



  雑記になりますが、今回の100近いパターンを作成するのに必要となったオリゴ鎖は4454種類となっています。こう複雑になってくると、実験設備の自動化は必須なように見えてきます。また、Supplementary Materialsも200ページ超えです。こういった論文は、Supplementaryが多くなりがちですが、すごい量です。

◆脚注
[1] DNA origami は天然の長い1本鎖のDNAを短いオリゴを用いて、短く編みたたむことによってDNA構造体を作る手法 P. W. K. Rothemund, Nature 440, 297 (2006).
[2] DNA tiles は 一本鎖でできたタイルを1ピクセルとみなして、それを組み合わせることによって、平面構造体を作る手法。 B. Wei et al. Nature 485, 623 (2012)

☆酸化グラフェンを用いた有機薄膜太陽電池

Liu, J.; Xue, Y.; Gao, Y.; Yu, D.; Durstock, M.; Dai, L. Adv. Mater. 2012, 24, 2228.  DOI: 10.1002/adma.201104945

◆ポイント

・酸化グラフェン及び炭酸セシウムで処理した酸化グラフェン誘導体をそれぞれ有機薄膜太陽電池の正孔取り出し層及び電子取り出し層として機能させることに成功した



◆新規性

・酸化グラフェン端部のカルボン酸の簡易な誘導体化のみで、電子や正孔の移動性を制御できることを見出したところ



◆今後予測される展開

・酸化グラフェン誘導体による各種機能材料の開発(ITO [1] の代替電極、有機ELデバイスの電荷輸送層等)



◆雑記

近年、グラフェンがマテリアル系の雑誌やナノテクノロジー系の雑誌の誌面を賑わせています。今、最も熱い材料であると言っても過言ではないでしょう。グラフェンは、層状構造のグラファイトの一層のみを剝がした構造を有する材料であり、ハニカム状に炭素原子が結合した薄い層状化合物です。様々な応用が考えられていますが、グラフェンが非局在化したπ電子を持ち電気を通す性質があること、共有結合による剛直な構造を有することからエレクトロマイグレーション [2] への高い抵抗性を有すること、nmオーダーのサイズの材料として取り扱えること、などから半導体デバイスを構築する材料としての研究が盛んです。グラフェンの興味深い数々の応用例は、別項にて後日報告したいと思います。

さて本論文ではグラフェンの誘導体にあたる酸化グラフェンを用いた有機薄膜太陽電池に関する報告がなされています。酸化グラフェンの合成はグラファイトを硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムで酸化することでなされています [3] 。ちなみに、グラフェンの合成は古くはテープでグラファイトの層を何度も剥がすという手法で行われ、現在はCVD [4] による合成が盛んに研究されているようです。またグラフェンナノリボンという長方形の微小グラフェンはカーボンナノチューブを酸化し、カーボンナノチューブを裂くようにして得ることができるという報告もあります [5] 。酸化グラフェンは面内にエポキシ環やヒドロキシル基を有し、端部にはカルボキシル基を有しています。酸化グラフェン自体は正孔取り出し層として機能するのですが、Daiらは酸化グラフェン端部のカルボキシル基を炭酸セシウムで処理してセシウム塩とすることで、酸化グラフェンを電子取り出し層という逆の機能を有する材料に変換できることを見出しました。これは、有機化学で言うならばグリニャール試薬生成時の極性変換現象のようなイメージの現象と言えるでしょう。カルボン酸の誘導体化により酸化グラフェンのHOMOLUMOのエネルギーレベルに変化が生じることが、材料特性の変換の理由となっています。

今後の研究の発展に関して、皆さまもご存じの通りカルボン酸の誘導体化には様々な手法があります。還元、アシル化剤への転換を行ってからアミド・エステル・酸無水物等を形成させる、Hunsdiecker反応による臭素化、変わったところではMetal-Organic FrameworkMOF)の構成材の一部として・・・有機合成化学的手法による様々な誘導体化により酸化グラフェンのHOMOLUMOのエネルギーレベルの調整、高機能化が期待できると考えられます。酸化グラフェンの誘導体化により、新しい高機能性材料を合成してみませんか?

ところで、グラフェンは多環芳香族炭化水素の一つとして捉えることもできます。多環芳香族炭化水素といえば、マックス・プランク研究所のKlaus Müllen教授の研究が有名ですが [6] 、グラファイトを酸化するようなトップダウン [7] によるアプローチでは無く、合成によるボトムアップのアプローチでも機能性のグラフェンを作成できるように思います。トップダウン・ボトムアップ手法に関しては、別項で後日報告したいと思います。ボトムアップアプローチ(有機合成)による今までにない新しいグラフェンを合成してみませんか?



◆脚注

[1] 酸化インジウムスズのこと。導電性と透明性を合わせ持つ電極として知られている。ディスプレイや太陽電池等に用いられている。インジウムがレアアースであることから代替材料が模索されている

[2] 電子が原子に衝突することで起こる欠陥のこと。配線の抵抗値の上昇や断線の原因となる

[3] Xue, Y. et al. Chem. Commun. 2011, 47, 11689.

[4] 化学気相成長のこと。薄膜を作成する一般的な手法の一つである

[5] Tour, J. M. et al. Nature 2009, 458, 872. ナノプシャンやナノカーなどの研究で知られるライス大学のTour教授による、そのようなことが本当に起こるのか?という驚愕の内容の論文である。得られるグラフェンナノリボン端部のケトンを誘導体化することでグラフェンナノリボンの導電性を制御できる。これも、グラフェン類端部の官能基の誘導体化による機能化の一例と言えるだろう

[6] 例えばMüllen, K. et al. Chem. Eur. J. 2002, 8, 1424.

[7] マクロな材料を加工することで微細化していくものづくりの手法のこと。対照的に、ボトムアップとは原子・分子レベルから自己組織化などを利用してものづくりする手法である

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