☆一風変わったキラリティの作成手法


Yamaguchi, T.; Kimura, T.; Matsuda, H.; Aida, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 6350.  DOI: 10.1002/anie.200461431

◆ポイント

・スピンコート [1] というマクロな動作によりキラリティを作成した

・スピンコートの方向によりキラリティを制御できる




◆新規性

・マクロな力によって不斉誘起ができるということ

・キラルソース無しに不斉誘起ができるということ




◆今後予測される展開

・マクロな力を不斉合成に援用できるかも?




◆雑記

過去の論文を整理していたらいろいろと面白い論文を見つけましたので、記述いたします。さて皆さま、キラルなものを作成する手法としてどのようなものを思い浮かべますでしょうか?チタンの酒石酸ジアルキル錯体を用いたアリルアルコールの不斉エポキシ化、キラルなsalen錯体を用いた不斉エポキシ化、フルクトース誘導体を用いたShi不斉エポキシ化、BINAPDIOPDIPAMPDuPHOSなどの不斉有機リン化合物を配位子とする金属錯体による不斉還元、Co salen錯体による不斉シクロプロパン化、最近であればプロリンによる不斉アルドール反応や不斉4級アンモニウム塩による不斉アルキル化などを思い浮かべる方が多いのではないかと思います。以上の方法は、キラルな化合物を起点としてキラルなものを作成するという手法です。一方、この論文ではメソ位にデンドリマーとカルボン酸を導入したポルフィリン亜鉛錯体のクロロホルム溶液を、ガラス上でスピンコートすることにより不斉誘起しています。キラルな化合物無しにキラルなものを作成するという点が非常に面白い論文です。

他にも、このような類の一風変わったキラリティの作成手法が報告されております。例えば、Cu(111)上にキラル化合物であるヘプタヘリセンを蒸着させるとキラリティが増幅する現象 [2] 、円偏光を用いたアミノ酸の不斉分解による不斉誘起 [3] 、円偏光によるヘキサヘリセンの不斉合成 [4] 、ジアルキル亜鉛によるアルデヒドのアルキル化反応を用いた不斉自己増殖現象 [5] 、キラルな光増感剤を用いた不斉cis-trans異性化反応などです [6] 。他にも、不斉誘起するアイディアとしてマクロな電場を用いて分子の配向を強制的に一定の向きにして反応させることが提案されています [7]

余談ですが、1969年にオーストラリアに落下したマーチソン隕石にはアミノ酸が豊富に含まれており、そのアミノ酸はL型の方が多いということが分かっています [8] 。なぜL型が過剰なのかは分かっておりませんが、上述した一風変わったキラリティの生成手法によりアミノ酸が不斉誘起されているのかもしれませんね。




◆脚注

[1] 平坦な基板の上に液体を設置し、基板を高速回転させることで薄膜を製膜する技術のこと。半導体デバイスの製造などによく用いられている

[2] Fasel, R. et al. Nature 2006, 439, 449.

[3] Nishino, H. et al. Org. Lett. 2001, 3, 921.

[4] Kagan, H. et al. J. Am. Chem. Soc. 1971, 93, 2353.

[5] Soai, K. et al. Nature 1995, 378, 767.

[6] Inoue, Y. et al. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 406. 溶媒や温度によって% eeが大きく変化するという現象が見られる。一般のキラル化合物による不斉合成では見られない現象ではないだろうか

[7] Bielski, R. et al. Can. J. Chem. 2003, 81, 1029. 実行が可能そうな内容であるが、誰かやったものは居ないのであろうか。液晶分子と超分子化学を組み合わせることでより簡易にできそうな気も・・・

[8] Engel, M. H. et al. Nature 1997, 389, 265.