☆酸化グラフェンを用いた有機薄膜太陽電池

Liu, J.; Xue, Y.; Gao, Y.; Yu, D.; Durstock, M.; Dai, L. Adv. Mater. 2012, 24, 2228.  DOI: 10.1002/adma.201104945

◆ポイント

・酸化グラフェン及び炭酸セシウムで処理した酸化グラフェン誘導体をそれぞれ有機薄膜太陽電池の正孔取り出し層及び電子取り出し層として機能させることに成功した



◆新規性

・酸化グラフェン端部のカルボン酸の簡易な誘導体化のみで、電子や正孔の移動性を制御できることを見出したところ



◆今後予測される展開

・酸化グラフェン誘導体による各種機能材料の開発(ITO [1] の代替電極、有機ELデバイスの電荷輸送層等)



◆雑記

近年、グラフェンがマテリアル系の雑誌やナノテクノロジー系の雑誌の誌面を賑わせています。今、最も熱い材料であると言っても過言ではないでしょう。グラフェンは、層状構造のグラファイトの一層のみを剝がした構造を有する材料であり、ハニカム状に炭素原子が結合した薄い層状化合物です。様々な応用が考えられていますが、グラフェンが非局在化したπ電子を持ち電気を通す性質があること、共有結合による剛直な構造を有することからエレクトロマイグレーション [2] への高い抵抗性を有すること、nmオーダーのサイズの材料として取り扱えること、などから半導体デバイスを構築する材料としての研究が盛んです。グラフェンの興味深い数々の応用例は、別項にて後日報告したいと思います。

さて本論文ではグラフェンの誘導体にあたる酸化グラフェンを用いた有機薄膜太陽電池に関する報告がなされています。酸化グラフェンの合成はグラファイトを硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムで酸化することでなされています [3] 。ちなみに、グラフェンの合成は古くはテープでグラファイトの層を何度も剥がすという手法で行われ、現在はCVD [4] による合成が盛んに研究されているようです。またグラフェンナノリボンという長方形の微小グラフェンはカーボンナノチューブを酸化し、カーボンナノチューブを裂くようにして得ることができるという報告もあります [5] 。酸化グラフェンは面内にエポキシ環やヒドロキシル基を有し、端部にはカルボキシル基を有しています。酸化グラフェン自体は正孔取り出し層として機能するのですが、Daiらは酸化グラフェン端部のカルボキシル基を炭酸セシウムで処理してセシウム塩とすることで、酸化グラフェンを電子取り出し層という逆の機能を有する材料に変換できることを見出しました。これは、有機化学で言うならばグリニャール試薬生成時の極性変換現象のようなイメージの現象と言えるでしょう。カルボン酸の誘導体化により酸化グラフェンのHOMOLUMOのエネルギーレベルに変化が生じることが、材料特性の変換の理由となっています。

今後の研究の発展に関して、皆さまもご存じの通りカルボン酸の誘導体化には様々な手法があります。還元、アシル化剤への転換を行ってからアミド・エステル・酸無水物等を形成させる、Hunsdiecker反応による臭素化、変わったところではMetal-Organic FrameworkMOF)の構成材の一部として・・・有機合成化学的手法による様々な誘導体化により酸化グラフェンのHOMOLUMOのエネルギーレベルの調整、高機能化が期待できると考えられます。酸化グラフェンの誘導体化により、新しい高機能性材料を合成してみませんか?

ところで、グラフェンは多環芳香族炭化水素の一つとして捉えることもできます。多環芳香族炭化水素といえば、マックス・プランク研究所のKlaus Müllen教授の研究が有名ですが [6] 、グラファイトを酸化するようなトップダウン [7] によるアプローチでは無く、合成によるボトムアップのアプローチでも機能性のグラフェンを作成できるように思います。トップダウン・ボトムアップ手法に関しては、別項で後日報告したいと思います。ボトムアップアプローチ(有機合成)による今までにない新しいグラフェンを合成してみませんか?



◆脚注

[1] 酸化インジウムスズのこと。導電性と透明性を合わせ持つ電極として知られている。ディスプレイや太陽電池等に用いられている。インジウムがレアアースであることから代替材料が模索されている

[2] 電子が原子に衝突することで起こる欠陥のこと。配線の抵抗値の上昇や断線の原因となる

[3] Xue, Y. et al. Chem. Commun. 2011, 47, 11689.

[4] 化学気相成長のこと。薄膜を作成する一般的な手法の一つである

[5] Tour, J. M. et al. Nature 2009, 458, 872. ナノプシャンやナノカーなどの研究で知られるライス大学のTour教授による、そのようなことが本当に起こるのか?という驚愕の内容の論文である。得られるグラフェンナノリボン端部のケトンを誘導体化することでグラフェンナノリボンの導電性を制御できる。これも、グラフェン類端部の官能基の誘導体化による機能化の一例と言えるだろう

[6] 例えばMüllen, K. et al. Chem. Eur. J. 2002, 8, 1424.

[7] マクロな材料を加工することで微細化していくものづくりの手法のこと。対照的に、ボトムアップとは原子・分子レベルから自己組織化などを利用してものづくりする手法である