ChemASAP

有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

カテゴリ:材料科学

Hai Qian and Ivan Aprahamian*
Chem. Commun. Advanced Article DOI: 10.1039/c5cc03007b

 ☆ 「スマートな」ハイドロゲル
 光や磁場,圧力,電場など,様々な刺激に反応して性質を変える化合物は,最近ではSmart materialと総称されるそうですけれども,その一角をなすハイドロゲル、水と混ぜることによってゲル化する化合物が本研究のテーマです. 
Kamitsubo59_fig1

ゲルになる低分子量の化合物にはLow Molecular weight gelators(LMWG)という名称がついております.これまで一番低分子量なものとして知られているのは,分子量88のN, N’-ジメチルチオ尿素だそうですが,今回著者らは(一番でないにしても)低分子で,pHを変えることによってゾル-ゲル転移と発光をコントロールすることができる化合物を発見しました.上右図に示したコントロール化合物と比較することで水素結合によるゲル化が起こっていることを推測しています.Serendipitous discoveryという言葉が繰り返し使われており,狙って作ったものではないことを強調しているのもこの論文の特徴です.

Kamitsubo59_fig2

性質をまとめると,上段の図で表すことができます.酸性になるとゲル化し,またゲル化した状態のみ紫外光照射によって発光します.この性質を実際に利用する方法として,著者らは下段のような食品の鮮度試験のセンサーを一つの例として挙げています.

魚が腐るときにできるカダベリン,プトレシンなどのアミン類は塩基性なので,ゲルを破壊して発光しなくなります.このため,腐った魚の液を滴下した赤丸で囲った部分のみ発光しなくなります.(これはイメージ図ですが,論文では実際の写真が掲載されていますので,そちらをご覧いただければと思います.)

ここまで広がる化合物を偶然発見したこと自体とても興味深いことですが,どのような過程で見つかったのか,サイドストーリーが書かれているとより面白いのではないかなと思いました.

<参考>
*M. George, et al., Chem. -Eur. J. 2005, 11, 3243.→N, N’-ジメチルチオ尿素について.

Debora Ressnig and Markus Antonietti
Chem. Mater. ASAP DOI: 10.1021/cm501475b

 ☆「銀の泡」を素早く作る
貴金属である銀は,燃料電池における触媒や,CO2還元,電気化学センサーにおいて利用されていますが,利用価値の高いポーラス材料であるfoamを大きいサイズで作ることは困難でした.そこで著者らは,2種類のUltrafast synthesisによってこれを克服することを試みました.一つ目は一瞬で起こる燃焼反応を利用しています.前駆体であるAg2NCNのペレット(錠剤)に空気中においてマッチで着火するだけで銀のポーラス材料を作製することに成功しており,確かに超高速だと言えます.

Kamitsubo40_fig1

前駆体に含まれる有機元素は燃焼後に,C3N4などのCxNy高分子が副生成物となります(ref. M. Jansen et al. J. Mater. Chem. 2010, 20, 4183.).空気中における有機物の燃焼というと,酸化物になるイメージが強いのですが,そうでない場合もあるのは興味深いと思いました.

Kamitsubo40_fig2

一方,もう一つのUltrafast synthesisは,化学還元反応を利用したものです.Ag2NCNペレットをNaBH4水溶液に投入することで,一瞬でポーラス材料に変換することができました.

Kamitsubo40_fig3

今回報告した合成方法は他の貴金属に応用できる可能性もあり,特に化学還元法ではペレットに混合する素材や溶液の種類を変えるなど,様々な工夫によって新しい素材を生み出す可能性を秘めているということです.

<余談> 文中にowing to the wide spectrum of possible applications(応用可能性の幅が広いため)という英語表現を見つけました.spectrumという言葉が測定データをあらわす目的ではなく使われることもあるようです.この語に付随して,なにか鮮やかなイメージが思い浮かびました.

A. Funatsu, H. Tateishi, K. Hatakeyama, Y. Fukunaga, T. Taniguchi, M. Koinuma, H. Matsuura and Y. Matsumoto
Chem. Commun. Advanced Article DOI: 10.1039/c4cc02527j

 ☆白金の単原子膜
 これまでありそうでなかった,白金の単原子膜シートを作製したという報告です.白金は凝集しやすい性質があるため,担体のないシートを作製するのは困難でしたが,今回それに成功しました.研究の全体像をまとめると以下の図のようになります.重要なのは一番上のスキームで,ドデシル硫酸ナトリウムを使って前駆体となる多層膜を作り,化学的に剥離したあと電気化学的に還元すると,ぺらっとした白金単層フィルムの出来上がりです.
Kamitsubo37_fig1

 反応式にすると以下のようになります.生成した膜は酸素を還元する反応における触媒効率が非常に高いことも確かめられました.貴重な資源である白金触媒の高効率化は常に求められている命題です.

Kamitsubo37_fig2

興味深いのは,最後の段階で電気化学的にではなく,化学的に還元した場合は穴だらけの微粒子が集合したような構造になるということです.やや意外なことにも思われますが,ナノレベルのサイズになると,電気化学的な処理の方が化学的な処理よりも,均一に作用させる手段になりうるということでしょうか.

<参考> *白金ナノ構造の例
(1) Y. Yamauchi et al. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131,9152-9153.←デンドリマー型白金ナノ粒子
(2) G. Zhao et al. J. Phys. Chem. C 2009, 113, 13787-13792.←3次元ポーラス白金ナノシート
(3) Y. Lei et al. J. Phys. Chem. C 2010, 114, 18121-18125.←白金ナノチューブ,白金ナノフラワー

Michael G. Olah, Jessica S. Robbins, Matthew S. Baker, and Scott T. Phillips*
Macromolecules 2013, 46, 5924–5928.

☆新規刺激分解型高分子
通常の条件では安定な一方、酸・塩基・光など、特定の刺激によって迅速に分解する高分子は、ドラッグデリバリーやセンサーなどへの応用が期待されている。この分野で代表的な高分子は、末端官能基の脱保護により分解されるポリフタルアルデヒドで、ペンシルベニア州立大学の Phillipsグループを中心に研究されている。

そのPhillipsグループから新規刺激分解型高分子としてポリベンジルエーテル(Poly(benzyl ethers))が報告された。ポリフタルアルデヒドは、酸・塩基・熱に対して不安定だが、ポリベンジルエーテルは安定であるため、より扱いやすい、実用的な刺激分解型高分子といえる。今回は、アニオン重合により末端に官能基を導入したポリベンジルエーテルの合成法を開発した。
PBE2

tert-ブチルジメチルシリル(TBS)またはアリルカーボネートを末端に有するポリベンジルエーテルに対し、それぞれを脱保護するフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)またはパラジウム触媒を作用させると速やかに分解が起こりモノマーが得られることが確認された。
PBE1
 

モノマーを3ステップかけて合成する必要があることが今後の改善点として挙げられる。一方、主鎖中のベンゼン環に様々な官能基を導入することで、親水性などさまざまな機能性を付加することが期待される。
PBE3 

Subramaniam, C.; Yamada, T.; Kobashi, K.; Sekiguchi, A.; Futaba, D. N.; Yumura, M.; Hata, K.
Nature Commun. 2013, 4, 2202. ; DOI:10.1038/ncomms3202 

 ☆全く新しい導電性材料
◆ポイント
・単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と銅のコンポジット [1] の作成に成功した
・このCNT-CuコンポジットはCuAuなどの導電体と比較して極めて高い電流容量 [2] を示し、高い電気伝導率 [3] を示した

◆今後予測される展開
・半導体デバイス用の新しい配線材料として注目されるのでは
CNTと異種材料の新しい複合化技術として注目されるのでは

◆概要
本論文は、CNTCuのコンポジットの作成手法とその電気伝導特性についての報告がなされています。CNTと樹脂のコンポジット化は溶融した樹脂にCNTを分散させること等で可能ですが、CNTCu(金属)はどうやってコンポジット化したらいいと思いますか?Cuを同じく溶融して導入することを考える場合、Cuの融点は1085 ℃でありCNTの燃焼温度が500 ℃前後であるため、この方法はとてもできそうにありません。

○正解は、CNT表面にCuを電気めっきすることでコンポジット化がなされる、です。

といっても、単純な電気めっきではありません。CNT表面は撥水性であるために、Cuイオンを含有した水溶液を用いた電気めっきを行うと、水溶液をCNTが弾いてしまい、CNT間の電気めっきを行うことはできないとのことです。

そこで、酢酸銅と有機溶媒(アセトニトリル)の溶液を用いた電気めっきを行って銅化合物からなる核をCNT表面に形成させ、核を水素ガスで還元して銅のシードとして、そのシード上でCuイオンを含有した水溶液を用いた電気めっきを行うことで、CNT-Cuコンポジットを作成することができたとのことです。

油相での電気めっきプロセスを一旦行うことがキーであり、汎用性の高い手法であると思います。類似した手法を駆使すれば、グラフェン、フラーレン、カーボンナノホーンなどと金属のコンポジットを作成できる可能性もあるかと思います。

本論文で報告されているコンポジット材料は、CNTの高いエレクトロマイグレーション [4] 耐性の長所とCuの高い電気伝導率の長所を併せ持った材料となっています。高温でも高い電気伝導率を発現し、長時間電気を流しても材料が劣化しにくいとのことです。熱力学的な解析から、CNTCuの拡散を防止する作用を持っているようです。Cuの粒界はエネルギーが高い状態にあることから(粒界エネルギー)、CNTが結合しやすくなっているのではないかと推測されます。その影響によりCuが拡散しにくくなっているのでしょう。

CuとCNTの界面はどのような結合状態となっているのか(化学反応している?CNTのπ電子とCud軌道が相互作用している?CNTLUMOCud電子が相互作用している?など)?バンド理論 [5] ではこの結果をどう解するべきか?電気めっきする材料の種類によってはショットキー障壁 [6] ができるのか?カイラリティの異なる種類のCNTMWCNT, 変性したCNT [7] を用いるとどうなるか?シードに電気めっきするのではなく、CVDで成膜するとどうなるか?CNTと金属をコンポジット化することで金属の材料力学特性は向上するのか / 金属材料の軽量化は可能か?・・・など、理論 / 新規材料としての両面で、今後の研究の発展が大いに気になる報告です。

近年、半導体デバイスの配線幅は20 nmを切るほどに細くなっており [8] 、国際半導体技術ロードマップ(ITRS)によれば現行のCu配線等では、これ以上の半導体デバイスの微細化を行うことは難しくなることが予測されております。今回報告されたCNT-Cuコンポジット材料は、ITRSの推奨性能値を上回る性能値が達成されているとのことです。

本論文の材料は、半導体デバイスの新しい配線材料として注目されるかもしれません。また、この研究以外にもCNTIBMT. J. Watson研究所などで半導体デバイスを構成する材料の一つとしての研究がなされております [9] 。今後も、半導体デバイスを構成する材料の一つとして、CNTは注目されると思います。

◆脚注
[1]複数の材料を組み合わせた複合材料のこと
[2]送電線が許容する最大の送電電力値のこと
[3]物質の電気伝導のしやすさを示す値のこと
[4]電気伝導に伴って移動する電子と原子が衝突して、原子が移動する現象のこと。抵抗値の増大化や断線の原因となる
[5]結晶中の電子の状態をあらわす理論のこと
[6]金属と半導体界面にできるエネルギー障壁のこと
[7]例えば、Y. Miyauchi et al., Nature Photonics 2013, Published online 07 July 2013
[8]例えば、
http://ednjapan.com/edn/articles/1305/21/news096.html
[9]A. D. Franklin et al.,Nano. Lett. 2012, 12, 758.

Mita Dasog, Larissa F. Smith, Tapas K. Purkait and Jonathan G. C. Veinot*
Chem. Commun. 2013, 49, 7004-7006. DOI: 10.1039/c3cc43625j

kamitsubo15_fig1

 ☆二酸化ケイ素から炭化ケイ素へ
炭化ケイ素は、炭素とケイ素が1:1で化合し、ダイヤモンド構造をとったものです。天然にもわずかに存在しますが、現在では工業的に合成が行われています。炭化ケイ素は化学的,熱的,機械的に安定な材料で,電気素子,研磨材,耐火材などに使われています.また,ナノ結晶は発光材料としても注目されており,その安定性から生体への応用も期待されています.今回は、炭化ケイ素のナノ構造体を作ったという論文です。

方法は簡単で、二酸化ケイ素のナノ構造体に直接炭素を作用させて炭化ケイ素の構造体を合成しています.これまでにない低温(通常1000℃以上のところ,600℃)で合成できたことも新規な点ですが,構造を維持したまま変換できているところが面白いと思いました.市販のグラスウールを原料にすることも可能だそうです.形状は同じでもサイズが拡大されているのは,Si-OとSi-Cの結合長の差(~1.6Å, 1.9Å)からきており,計算とほぼ一致しています.

手順は,SiO2, Mg, Cの粉末をまぜてアルゴン雰囲気下で焼き,生成した粉末を塩酸で処理して酸化マグネシウムを取り除くのみで,とても簡便です.マグネシウムがポイントで,まずMg2C3が生成して,それからSiO2とのメタセシスが起こっていることを実験で確かめました.結晶系については,分析によると今回得られたものは,β-SiCであることを確認したということです.

他の合成法についても紹介されていたので,以下の参考文献にまとめました.

参考文献
*SiC基板を電気化学的にエッチングする
・ Phys. Rev. Lett. 2005, 94, 026102.→発光挙動が分かる写真も
・ J. Non-Cryst. Solids, 2008, 354, 2272.→実験手順が分かりやすい
・ App. Phys. Lett. 2008, 92, 253112.→同じく発光の様子も
*多孔性シリコンにフラーレンを導入して焼く ・ App. Phys. Lett. 2000, 77, 1292.→自己集合膜作製の技術でフラーレンを導入
*イオン・インプランテーション(ケイ素基板にダイヤモンドにカーボンのイオンビームを当てる)
・ Diamond Relat. Mater. 2003, 12, 1241.
・ Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. Sect. B, 2012, 282, 88.
*金属触媒を用いる(触媒が残るデメリットあり)
・ Chem. Phys. Lett. 2004, 383, 441.→FeCl2触媒でナノロッド作成 ・ Nanoscale Res. Lett., 2009, 4, 814.→Tb(NO3)3触媒でナノロッド成長

Yosuke Niko, Susumu Kawauchi, and Gen-ichi Konishi*
Chem. Eur. J. Early View DOI: 10.1002/chem.20130120

 ☆溶媒で色を変える分子
 外部からの刺激に応じて,物質の色や蛍光が可逆的に変化する現象を「クロミズム」と呼びます.光で色が変わる「フォトクロミズム」は,色の変わるサングラスなどとして身近です.その他,熱で色が変わる「サーモクロミズム」,圧力で色が変わる「ピエゾクロミズム」などの例が知られています.

 溶媒の極性に応じて,ある化合物の発光波長や吸収波長が変化する現象を「ソルバトクロミズム」といい,いくつもの例が報告されています.今回合成された分子の一番の売りは,溶媒の極性によらず量子収率が非常によい,ということにあります.これまで特に無極性(ヘキサンなど)およびプロトン性溶媒(メタノールなど)におけるソルバトクロミズムと量子収率が両立した化合物は報告されていないため,この点で新規性の高い性質であるといえます.
Kamitsubo13_fig1

色調変化の様子はTable of contentsに端的に表現されており,溶媒の違いによっておこる,きれいな色の変化が見てとれます.なんと言ってもこうしたビジュアルの楽しさが,醍醐味ですね.

1979年にFarrisとWeberにより発表された,Prodan(Biochemistry, 1979, 18, 3075-3078.)がモデルということではありますが,他にもこれまでに報告された他の研究と比較もしており,馴染みのない分野の人にも背景がわかりやすい内容になっています.ご参考までに,ソルバトクロミズムを示す分子の例を以下に示します。 
Kamitsubo13_fig2

 TD-DFT計算から,今回の化合物はProdanと異なり,n-π*遷移エネルギーが極性の低い溶媒中でも高いことが示唆されています.このため,項間交差や内部転換が起こりにくく,ヘキサンなどの溶媒中でも高い量子収率を示すのではないかということです.プロトン性溶媒中でも良好な収率を示すことについては,Prodanと似た挙動であるため,もともとの良い性質を損なうことなく改良できたと言えます.

現在,本論文で報告した研究をベースにして,2光子吸収を起こす,より強くソルバトクロミズムを示す分子を開発中とのことです.

<参考文献>
* Anthradan: R. J. Twieg et. al, J. Org. Chem. 2006, 71, 9651-9657.
* 6DMN-GlyoMe: B. Imperiali, et al. J. Am. Chem. Soc. 2005. 127, 1300-1306.
* 7AHC: L. Geiordano, et al. J. Phys. Chem. Lett. 2012, 3, 1011-1016.
* Nile Red: A. G. Gilani, et al. Dyes Pigm. 2012. 92.1052-1057.
 

Kohei Miyata, Yuji Konno, Dr. Takayuki Nakanishi, Dr. Atsushi Kobayashi, Prof. Dr. Masako Kato, Prof. Dr. Koji Fushimi, Prof. Dr. Yasuchika Hasegawa*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View  DOI: 10.1002/anie.201301448

 ☆温度で色が変わる「カメレオン発光体」
 「サーモクロミズム」という言葉があります。温度が上下すると色が変わる現象を指す言葉で、暖めると色の変わるインクやネクタイピンなど、ご覧になったことのある方も多いと思います。今回は、温度によって発光色が変わる、耐熱性の高い材料が開発されたという話です。

 希土類元素の化合物には、紫外線を当てることでいろいろな色に発光するものがあり、これまで様々な分野で応用されてきました。これまで著者らは、ホスフィンオキシドなどを配位子として用いることで、無機結晶よりもはるかに強い発光を示す化合物を報告してきています。

 ただしこれらは、有機分子を配位子として持つ関係上、どうしても熱に弱いという弱点を持ちます。そこで著者(北大・長谷川靖哉教授)らは、二座配位子を用いて錯体を直線上の高分子とすることで、熱に安定な発光体を作り出しています(ChemPLUSChem 77, 277 (2012)) 。

 下図のように、トリフェニルホスフィンオキシドを2つつないだような配位子と、ユーロピウム錯体を混合することで配位高分子としたものです。この高分子は、ユーロピウムの配位子のフッ素原子と、ホスフィンオキシド配位子のC-Hの間に相互作用(C-H…F)が働き、このため鎖同士がしっかり束ねられるので、熱に強いのです。

polymer

配位高分子。中心金属はユーロピウム、黄緑がフッ素、オレンジがリン。

  さらに今回、緑色に光るテルビウムを99%、赤色に光るユーロピウムを1%の割合で用いることにより、温度によって発光色が変わる材料の開発に成功しました。-23度では緑、室温では黄色、127度では赤に発光するそうです。これによって温度測定が1度単位で行え、繰り返し使うことも可能です。
20130511k0000e040167000p_size5 
温度と発光色(毎日新聞の記事より)

 この色調変化から、著者らは新材料を「カメレオン発光体」と名付けています。今後、発光体の大量合成法について、航空機や自動車、塗料メーカーなどと共同研究したいとのことで、いろいろな用途が出てきそうです。

Elisabeth Bianco, Sheneve Butler, Shishi Jiang, Oscar D. Restrepo, Wolfgang Windl, and Joshua E. Goldberger*
ACS Nano Article ASAP DOI: 10.1021/nn4009406

◆ポイント
・グラファンに似たシート状のゲルマニウム材料・Germanane(ゲルマナンと読む?)を得ることに成功した

◆今後予測される展開
・Germananeは、グラフェンと同様にエレクトロニクス分野で様々な用途に応用できる可能性がある

◆概要
 炭素が蜂の巣状に連結した物質・グラフェンは、原子一つ分の厚みしか持たない二次元材料として、現在非常に大きな注目を集めています。
250px-Graphen
グラフェン

 一方、これを水素化し、シクロヘキサン環が平面的につながった形の「グラファン」も、2009年にGeimらによって報告されています。今回は、このグラファンの炭素を、同族元素であるゲルマニウムに置き換えた形の材料が合成されたという話です。

 ゲルマニウム化カルシウム(CaGe2)は、ゲルマニウムでできた蜂の巣状シートの間に、カルシウムイオンが挟まった形の物質です。これを固相状態で反応させ、カルシウムを抜いて水素と置き換えることで、原子レベルの厚さのゲルマニウムシートを得ることができました。

germanane
germanane(緑がゲルマニウム)

 このゲルマニウムシートは酸化されにくく、75 ℃程度までの温度に耐えます。グラファイトからグラフェンを剥ぎ取るようなイメージで、単原子レベルの厚さのシートとして剥離することができ、Si表面などに設置することも可能です。Germananeのバンドギャップは1.53 eVほどで、バルクのゲルマニウムのバンドギャップである0.67 eVより大きく、GaAsのそれよりも大きいとのことです。また、バルクのゲルマニウムと比較して、電子移動度は5倍程度にも及びます。

 炭素族元素であるゲルマニウムによる驚異の新素材が以上のように報告されました。これは、大変興味深い材料であり、様々な用途で今後応用されるのではないかと期待されます。例えば、Germananeは直接遷移形の半導体 [1] であるとのことで、GaAsよりも短波長の発光をするLEDや太陽電池、FETなどに使用できる可能性があるのではないかと思います。グラフェンのバンドギャップは0 eVといわれているので、それとは対照的な材料といえます。

ちなみに、硫化モリブデン(MoS2)もグラフェン様化合物を形成することが知られており [2] 、FETとしての応用が検討されています。グラフェンをはじめとする層状化合物によるナノテクノロジーの発展は、これからも大きく発展を遂げると期待されます。


◆脚注
[1] バンドギャップ間の電子とホールの再結合のエネルギーを光子として放出できる半導体のこと。一方、間接遷移形の半導体というものがあり、こちらは再結合のエネルギーを光子として放出することはなく、運動量(フォノン)として放出する。詳しくは、キッテルの「固体物理学入門」などの教科書をご参照ください。

[2] B. Radisavljevic et al.,Nature Nanotechnology 2011, 6, 147. ちなみに、10 K以下でMoS2は超伝導性を示すことが分かっています。

Dechao Geng, Bin Wu, Yunlong Guo, Birong Luo, Yunzhou Xue, Jianyi Chen, Gui Yu, Yunqi Liu*
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja402224h

 ☆炭素で作る雪の結晶
 単体という最もシンプルな組成であるにも関わらず,炭素材料は様々な表情をみせてくれます.

今回,筆者らはグラフェンのエッチングによる加工で雪の結晶のようなフラクタル構造を作り出しました.近年の報告と比較しても(PNAS 2012, 109, 7992:同じ著者らによる報告や,ACS Nano 2012, 6, 126など)驚くべき微細構造です.PNASにおける報告では,六角形の形状をつくりだし,FET特性評価も行っていますが,今回は構造制御のみでのJACS掲載です.
Kamitsubo09_fig1
 方法は以下の図に示した通りです.ポイントはエッチングに用いるアルゴン/水素混合気体の比率と流量の条件で,形状が変化するということです.実際のSEM画像は本文をご覧いただければと思います.

Kamitsubo09_fig2

 原子レベルでの構造制御についての検討は,機能へつながる今後の新たな展開が楽しみです.

このページのトップヘ