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有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

カテゴリ:議論・エッセイ

Harvey Motulsky
Advances in Regenerative Biology 2014, 1: 25155

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 ☆「有意な」という言い回し
ある方のツイッターで見かけて興味を持った,オープンアクセスジャーナルからの論文です.‘significant’はよく使ってしまう単語だと思いますが,その曖昧さを問題視した意見です.著者はGraphPadというソフトウェア会社のCEOかつ創立者で,significantという言葉を使わない代わりにどうしたら良いか3つのケースに分けて対策案を示していますので,以下にまとめます.
追加すべき情報や数値を赤字表現方法は青字で記載します.
 
ケース1:科学的に有意,臨床的に有意,という表現.
・○○% decrease in disease incident in......具体的な割合を示す.
・○○ level was as high as typically seen in .......比較級を使う.
The change in the number of ○○ is trivial (<xx%), so is unlikely to have any impact.
差や変化量を具体的な数字で.
 
ケース2:ある現象に対して2種類のモデルを仮定してフィッティングして比較する場合.
We fit both ○○ and a △△ model to the data and compare the goodness-of-fit (sum-of-squares) using the extra sum of squares F-test. The P-value (0.xxxx) is less than our preset threshold of 0.xx, so we used the △△ model as a basis for interpreting our data and designing future experiments.
The ○○ model fits the data only slightly better than did the △△ model (the sum-of-squares was about xx% smaller). The P-value from the extra sum of squares F-test was large (0.xx), so we used the simpler ○○ model when interpreting the data.
P値やF検定の数値を示す.
 
ケース3:ある現象に対して2種類の処理を施して比較する場合.
A lowered the mean B by xx with a xx% confidence interval ranging from xx to xx. Because the drop in B is substantial with a reasonably narrow confidence interval, we conclude that A denervation worked as........
・ Pretreatment with ○○ by a factor of xx (xx% CI: xx to xx; P 0.xxxx). A two to threefold shift is large enough to ........
・ Among samples, the correlation between ○○ and △△ count was substantial (r0.xxxx; P0.xxxx). However, because the xx% confidence interval is very wide (0.xxxx-0.xxxx), we can only conclude with xx% confidence that there is a positive correlation, but we do not have any evidence about how strong the correlation
really is.
信頼区間を示す.
 
いかがでしょうか?化学分野に馴染むもっとよい言い方があるかもしれませんが,会話の中でもつい「有意な・・・」と言ってしまいがちですし,閾値をどう設定するかもとても難しい問題なので考えさせられました.具体的な考え方と表現方法が示されているので,生物系の文献とはいえ,参考になるのではないでしょうか.


 ※論文の言葉遣いは日本語・英語問わず、あいまいさをなるべく排除しなければならないのですが、ついぼかした便利な言い回しに逃げてしまいがちです。こんなツイートも回っていたようですが、おっしゃる通りです(さとう)


 

Alexander P. Demochenko, Jozef Heldt, Jacek Waluk, Pi-Tai Chou, Pradeep K. Semgupta, Larissa Brizhik, and Juan Carlos del Valle
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10. 1002/anie.201405222

 ☆光化学を作った男
光化学において大変重要なKasha則にその名を刻んだMichael Kashaについてのエッセイです.ある研究者の歴史がほとんどその分野の重要発見の歴史であることに驚かされますし,生き生きとした物語付きの教科書のようです.主に7つの研究テーマについて解説していますが,その中から3項目を選んで以下に簡単にご紹介します.

*一重項-三重項遷移(項間交差)
G. N. Lewis, M. Kasha, J. Am. Chem. Soc. 1945, 67, 994-1003. 
M. Kasha, Chem. Rev. 1947, 41, 401-419.

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今となっては当然のように受け入れられている禁制遷移を師匠(Gilbert N. Lewis)とともに提唱し,Lewisの急逝後は一人学界で戦った背景があったということなどにも触れられています.博士論文のタイトルも‘Triplet States of Organic Molecules’であったということですから,有機化合物の三重項励起状態についての考察はKashaのキャリアの出発点といえるでしょう.

*Kasha則
M. Kasha, Discuss Faraday Soc. 1950, 9, 14-19. 

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アズレンなど例外も存在するものの,こちらも光化学の常識となっている考え方の一つです.

*励起状態プロトン移動
J. Heldt, D. Gormin, M. Kasha, Chem. Phys. Lett. 1979, 68, 382-385. 

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ガーデニングが趣味だったというKashaは,色鮮やかな花を咲かせるワスレグサ(Daylily)が特に好き(育種も手掛ける程)で,その色素分子であるフラボン類は最後まで研究テーマとしてもKashaを惹きつけたようです.励起状態でプロトン移動を起こす現象の発見は,3-ヒドロキシフラボンを紫外光で励起すると大きくストークスシフトを起こす理由を解明することから始まりました.

これらの他にも励起子,スピン軌道相互作用,重原子効果,一重項酸素の発見などについても解説されています.このように幅広く深い興味と自由な発想で業績を残したKashaが大切にしていたことは,文献をチェックすることよりもむしろ人との対話や全体像を見渡すことで,その重要性を常々弟子たちに語っていたということです.

<参考>
1.Daylily(ワスレグサ,ワスレナグサではない)についてはこちら 
2.Serendipityとは‘happy accident’, ‘pleasant surprise’, ‘fortunate mistake’. 英英辞典のような説明ですが,意外とはっきりかかれているのを見かけないので敢えて掲載しました.Kashaの仕事部屋の一つは「Serendipity room」と名付けられていたといいます.

Jay D. Keasling, Abraham Mendoza & Phil S. Baran
Nature 492, 188–189 doi:10.1038/492188a

 ☆合成生物か、有機合成か?
 Nature誌News&Viewsから。 最近、遺伝子組み換えによって細菌のDNAを改変し、特定の化合物を大量生産させる技術が大きく進展しています。この、いわゆる「合成生物学的」生産法と、有機合成による化合物生産のどちらが優れているか、前者をJ. D. Keasling、後者をA. MendozaとP. S. Baranが代表して誌上ディベートを行っています。

VS
 
  合成生物学的手法では、希少な医薬化合物や燃料を作る細菌から遺伝子を取り出し、量産が可能であること、中間体の精製や保護・脱保護の手間がないため環境にやさしいこと、光学的に純粋なものが得られること、最終物の分離が容易であることなどを利点として挙げています。

 一方有機合成では、必要な化合物を必要な量だけ供給する手法が確立していること、天然物をヒントに構造を変換し、より優れた物質を創り出せること、 有機半導体や、超分子化学・ケミカルバイオロジーなどに必要な非天然物を自在にデザインして合成できることなどが挙がっています。

 もちろん両手法はどちらがより優れているといったものではなく、それぞれ一長一短があります。どちらかがどちらかを駆逐するというようなものでなく、互いに短所を補い合いながら発展していく性質のものでしょう。両者の融合したところに、新たな可能性が見えてくるだろうとも思います。

 それにしても、こういう風に比べられるようになってきたか、有機合成を代表して語る人物は大御所たちでなくBaranなのか……と、いろいろ時代の流れを感じる議論ではありました。

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