ChemASAP

有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

タグ:触媒機構

  • Michael B Lazarus, Jiaoyang Jiang, Tracey M Gloster, Wesley F Zandberg, Garrett E Whitworth, David J Vocadl & Suzanne Walker
Nature Chemical Biology, 8, 966–968 (2012)  doi:10.1038/nchembio.1109

O-GlcNAc転移はどう起こる? その2

彼らは触媒反応の最初と最後の結晶構造を比較することにより触媒機能を明らかにしようと考えましたが、その鍵となったのはUDP-5SGlcNAcでした。通常のUDP-GlcNAcでは結晶化の間に転移反応が進行してしまい、反応の初期段階の結晶構造が得られなかったのです。このUDP-5SGlcNAcはOGTの阻害剤として既に知られており、天然型UDP-GlcNAcと比べ圧倒的に基質になりにくい性質を利用しています。


120312 2012 Nat Chem Biol Lazar
彼らの結論は

○求電子的転移機構で反応が進行する(糖加水分解酵素でよく見られる反応機構)

○水分子を介してAsp554が水酸基の水素を引き抜く

他のポイントとしては

○Lys842,Thr921,糖アセトアミドが安定化に寄与

○His498,558は距離が遠すぎて引き抜きは不可能、Tyr841も同様。

○alpha-リン酸基は3.5A以内にあり、距離的には引き抜き可能に見えるが、pKaを考えると難しい。また、その場合はアノマー位への攻撃が難しい位置関係になってしまう。


両論文とも得られた構造は非常に似ているように感じましたが、結晶構造の解釈の違いで結論が違うものになっています。現時点でどちらが正しいのか筆者にはなかなか判断がつきませんが、ひとまず後続の論文を楽しみに待ちたいと思います。

  • Marianne Schimpl, Xiaowei Zheng, Vladimir S Borodkin, David E Blair, Andrew T Ferenbach, Alexander W Schüttelkopf, Iva Navratilova, Tonia Aristotelous, Osama Albarbarawi, David A Robinson, Megan A Macnaughtan & Daan M F van Aalten
Nature Chemical Biology, 8, 969–974 (2012) doi:10.1038/nchembio.1108

O-GlcNAc転移はどう起こる? その1

b-O-GlcNAc修飾は近年注目を集めている翻訳後修飾の一つであり(下図参照)、リン酸化との関係も指摘されるなど多くの研究が行われています。数多くのタンパク質がこのb-O-GlcNAc修飾を受けることが判明しているものの、その触媒機構や基質特異性などは不明なままでした。今回Nat Chem Biolでは2つのグループの論文を掲載しており、ケミカルプローブと結晶化を駆使してb-O-GlcNAc修飾の反応機構解析を行っています。その結果について簡単に紹介します。

120312 2012 Nat Chem Biol shimpo

O-GlcNAc転移酵素(OGT)が行うO-GlcNAc付加は立体反転を伴うため(Sn2様反応)、アクセプター水酸基の脱プロトン化が重要と考えられています。これまではヒスチジン残基が水素の引き抜きに関わると考えられてきましたが、今回筆者らはUDPのリン酸基がその機能を担うと報告しています。(下図)

120312 2012 Nat Chem Biol shimpl

その他の論点を箇条書きで記します。

・アセトアミドがある部分は割と空間がある:アセトアミドの改変は許容される理由(2-N3含む)

・プロトン引き抜きを担うと考えられてきたHis489 or 558は距離的に遠すぎて不可能。

・Lysine842を変異させると触媒活性を失う。

・糖ヌクレオチドのコンフォメーションが通常の糖転移酵素と大きく異なる

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