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タグ:鈴木-宮浦カップリング

Anamitra Chatterjee, Hendrik Mallin, Juliane Klehr, Jaicy Vallapurackal, Aaron D. Finke, Laura Vera, May Marsh and Thomas R. Ward*
Chem. Sci., 2016,7, 673-677 DOI: 10.1039/C5SC03116H

 ☆人工酵素で鈴木-宮浦カップリング
  パラジウム触媒と酵素は同じ触媒といいながらまるで縁遠いと思えますが、この両者を融合させ、鈴木-宮浦カップリングを触媒する人工酵素「スズキアーゼ」を創り出したという報告です。

 タンパク質の一種ストレプトアビジンは、ビオチン分子と極めて強く結合することが知られています。 この際、ビオチンのカルボン酸部分は、ストレプトアビジンの外部にはみ出す形になります。そこで、このカルボン酸に各種官能基を導入して利用する手法は、ケミカルバイオロジーの分野でよく用いられています。

 
biotin
 著者らはこれを利用し、ストレプトアビジン表面にパラジウム錯体を結合させ、不斉鈴木-宮浦カップリングを行なえる触媒を作ることを考えました。下図のように、軸不斉を持ったビナフチル骨格を作る反応です。

Suzukimiyaura

 著者らはパラジウム錯体をビオチンと結びつけたものを用意し、ストレプトアビジンと結合させて鈴木-宮浦カップリングを行なって不斉収率などを調べています。数種のパラジウム錯体を用いた他、結合部位周辺のアミノ酸を変化させたストレプトアビジンと組み合わせて検討し、最適の触媒を選び出しています。結果、90%ee、TON(触媒の回転数)50という「スズキアーゼ」を創り出すことに成功しています。

suzukiasecore
「スズキアーゼ」触媒中心部分。青緑色の球がパラジウム、オレンジがリン。

 こうした反応では、タンパク質が変性しない反応条件でなければなりませんし、コストや管理の手間など、いろいろ制約がありそうではあります。また、触媒を最適化するための合理的な戦略を立てるのも、現状では難しそうです。とはいえコンセプトとしては面白く、生体内で働く人工触媒という夢に近づくための、重要な武器ともなりそうです。

Junqi Li*, Steven G. Ballmer*, Eric P. Gillis, Seiko Fujii, Michael J. Schmidt, Andrea M. E. Palazzolo, Jonathan W. Lehmann, Greg F. Morehouse, Martin D. Burke
Science 2015, 347,1221 DOI: 10.1126/science.aaa5414

 ☆分子の3Dプリンタ
 現在、ペプチドや核酸などの生体高分子は、全自動の機械による合成が可能になっています。しかしそれ以外の複雑な低分子化合物に関しては、長い段階と高度な技術を要する、手作業に頼る他ないのが現状です。

 今回著者らは、かなり多様な低分子化合物を作り出す「有機合成マシン」を開発しました。有機化学の未来を考える上で、かなり衝撃的な報告です。

 多様な低分子を作るアプローチとして、たとえば植物の作るテルペン類はよいモデルになります。 5炭素から成るイソプレン単位がいくつか直線的につながり、これが環化・官能基化することで、複雑な化合物群を作り出します。
terpene
イソプレン単位がいくつかつながったところから、多様な骨格が生み出される

 著者Burkeらはこれと同じように、鈴木-宮浦カップリングでいくつかのビルディングブロックを連結し、後に必要に応じて各種変換を行うアプローチを採用しました。この時、自身が開発したMIDAという保護基を利用して、くり返しのカップリングを可能にしています。

 MIDAはN-メチルイミノジ酢酸の略で、ボロン酸を下図のようなMIDAエステルとすると、クロスカップリング反応を受け付けなくなります。MIDAエステルはアルカリ水溶液で処理すれば、脱離して元のボロン酸を再生し、カップリング反応に対して活性になります(詳細)。

MIDA
MIDAエステル(左)は、アルカリ加水分解によってボロン酸(右)となる

  ペプチド合成では、アミノ酸のカップリング-脱保護をくり返して、長いペプチド鎖を作る方法を採ります。このMIDAを利用したくり返しカップリングを活用すれば、同じようなことが一般の低分子でも可能になります。たとえば著者Burkeらは、以前にこの方法を活用してペリジニンの合成を報告しています。

  今回発表された機械は、MIDA基脱保護、クロスカップリング、精製を行うモジュールを持ち、原料をセットしてスタートボタンさえ押せば、これらの操作を自動で行なってくれます。たとえば、下にあるクロカシンCという天然物は、全自動で2日のうちに8.6mg合成可能です。

crocacin
クロカシンC

  その他、太陽電池などに用いられるポリチオフェン類や、各種生理作用を持つ化合物が、この方法で合成可能です。下に示したのはその例です。

polythiophene
kinaseinh
Cainh
上からポリチオフェン、キナーゼ阻害剤、カルシウムチャンネル拮抗剤

 この方法で作れるのは、 こうしたsp2炭素主体の化合物だけではありません。自動合成された化合物を、Diels-Alder反応などで環化させることにより、下図のようなかなり複雑な骨格も合成されています。もちろん、使用する原料を変えれば、これらの類縁体を自動合成することも容易です。なお一番下のセコダフナン骨格は、有名なHeathcockのユズリハアルカロイド全合成を下敷きにしたものです。

citreofuran
oblongolide
secodaphnane

 現状のBurkeの合成マシンはまだ制約も多いですが、それでも医薬品研究などには大いに影響を与えるものと思われます。当然、今後使える反応が増え、合成可能な化合物も多くなっていくことでしょう。そうなっていった場合、化学はどう変わり、有機合成化学者の立場はどうなっていくのか、いろいろ考えさせられる研究です。

(Burke教授インタビュー)
 

Susan L. Zultanski and Gregory C. Fu *
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP DOI: 10.1021/ja311669p

 ☆三級アルキル基での鈴木-宮浦カップリングが実現
 全くタイトルの通りで、多言を要しません。ニッケル塩を触媒として、三級アルキルハライドと芳香族ホウ素化合物のクロスカップリングがついに実現しました。

Fu

 Gregory Fu教授の仕事は非常に実用的に使える反応ばかりで、これもリガンド(ビピリジン誘導体)が少々特殊である他は、ごく入手容易な試薬だけであり、すぐにでも試してみたいような反応です。この条件を見つけるまでどれだけの苦労があったか計り知れませんが、とにかく敬意を表するものです。

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