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有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

タグ:銅

Patrick J. Moon, Heather M. Halperin, and Rylan J. Lundgren*
Angew. Chem. Int. Ed., Early View DOI:10.1002/anie.201510558

 ☆C-C結合も作れるあの反応
 芳香族アミンやエーテルを作る反応としては、古くからUllmannカップリングが用いられてきました。ハロゲン化アリールとアミン(あるいはフェノール)を、過剰量の銅粉あるいは銅塩とともに加熱するというもので、強い条件を必要とする上に精製が面倒であるなど、欠点の多い反応でした。

 しかし1998年、Chanら、Evansら、Lamらの3グループは同時に、この反応の優れた変法を報告しました(総説)。ハロゲン化アリールの代わりにアリールボロン酸を用い、Cu(II)塩の存在下反応を行なうというもので、Ullmannカップリングよりずっと温和な条件で進行する上、処理も楽であるなど優れた反応です。求核剤としては、アミンやフェノールの他、ヘテロ環やアミドの窒素、チオールなども利用可能です。筆者も現役時代、よくお世話になりました。

CEL

 この報告から18年を経て、この条件がC-C結合生成にも使えることが報告されました。下図のように、マロン酸エステルのエノラートを求核剤に用いて、アリール化が行えるのだそうです。30℃、48時間で収率は86%と良好です。銅塩はCu(OTf)2、塩基はトリエチルアミンが最も適切で、酢酸セシウムなしでは収率が低下します。

C-C

 収率はやや低下しますが、2-アルキルマロン酸エステルでも反応は進行し、4級炭素が構築できます。α-スルホニル酢酸エステルなど、電子求引基のついたエステルも利用可能です。

 生成物のフェニルマロン酸エステルは脱炭酸によって、合成する手段が少ないアリール酢酸へと変換できますから、非常に有用な反応といえそうです。今後、さらに適用範囲が広がることを期待したいところです。

Valentina Bevilacqua, Mathias King, Manon Chaumontet, Marc Nothisen, Sandra Gabillet, David Buisson, Cline Puente, Alain Wagner, and Frdric Taran*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View. DOI: 10.1002/anie.201310671

 ☆生体内でも素早くクリック
 クリックケミストリーの概念は21世紀になってから急速に普及し、化学・生化学の領域を大きく変えつつあります。どんな溶媒中や生体内でも、副生成物を出さずに素早く進行し、確実に2つのパーツを連結する――これにより、例えばタンパク質に「目印」となる蛍光タグを導入するような、今まで難しかったことが可能になってきています。

 ただし、生きた細胞相手にクリック反応を行うのは、まだ制約があります。クリック反応の代表とされるアジドとアルキンの[3+2]付加環化反応は、銅(I)イオンによって大きく加速します。しかし銅イオンには細胞毒性があり、生体内で使うには問題があります。

 これを防ぐため、いくつかのアプローチが開発されています。ひとつは、アルキン側にひずみの高いシクロオクチンなどを用いて反応を速める方法で、こちらについては筆者が現代化学2014年2月号に記事を書いております。

 そしてもうひとつは、銅イオンに配位子を結合させ、毒性を低減させる方向です。たとえば下のような、トリアゾールを3つ持った配位子を導入する方法が報告されています。

Cu_Ligand

  今回著者らは、この配位子とアジドを一分子に組み込んだ形の、下図のような分子を設計しました。この配位子に銅イオンをキレートさせれば、分子内でアジドを活性化し、素早くアルキンと反応するという理屈です。
azide
 実際、この化合物と硫酸銅(II)を17.5μMという低濃度で溶解させ、アスコルビン酸ナトリウム(還元剤)存在下アルキンと反応させたところ、わずか40秒で反応が終了しました(活性化されていないアジドを用いた場合16時間)。この化合物のカルボン酸部分に蛍光タグを結合させ、アルキンで修飾した生きた細胞表面に作用させたところ、細胞の機能を損なうことなく蛍光タグが導入されました。

 銅の使用量を最小限にし、 細胞毒性なしにクリック反応を行う、優れた手法と思います。いずれ、試薬として市販されるようになるのではないでしょうか。それにしても、クリックケミストリーの応用範囲の拡大ぶりには、驚くばかりです。

Ryan W. Evans, Jason R. Zbieg, Shaolin Zhu, Wei Li, and David W. C. MacMillan*
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP DOI: 10.1021/ja4096472

 ☆α位アミノ化
 「こんな反応が、なんで今まで見つかってなかったの?」と思うようなごくシンプルな反応が、時にJACSに載ったりするものですが、これもその一つ。カルボニルのα位メチレンを、酸化的にアミノ化するというものです。条件は、カルボニル化合物と二級アミン、10mol%のCuBr2を、DMSO中室温で撹拌、とこれだけです。

amino

 カルボニル化合物としては、ケトン・アルデヒド・エステルが利用可能です。触媒のCuBr2は反応によって還元されますが、空気によって再酸化されるので、別個酸化剤などを加える必要はありません。大量合成では、空気が入るよう撹拌効率が反応速度に効いてそうです。

  この反応のデモンストレーションとして抗血栓薬プラビックスを合成していますが、まさに製薬企業であれば明日すぐ使いたいような反応です。ひとつ、レパートリーに加えてみてはいかがでしょうか。

Janelle E. Steves and Shannon S. Stahl *
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP DOI: 10.1021/ja409241h

 ☆アルコールの簡便な空気酸化
 一級・二級アルコールから、対応するカルボニル化合物への酸化は、有機合成の中で最も汎用される反応のひとつでしょう。これまで様々な試薬が開発されていますが、中でもTEMPOなど、ニトロキシルラジカルを用いる酸化反応は有力なものの一つです。次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)などを共酸化剤とし、一級アルコールをアルデヒドへ酸化する方法がよく知られています(参考、PDFファイル)。

 また東北大の岩渕らは、アダマンタン型骨格を持ったTEMPOの誘導体・AZADOを用いて、亜硝酸塩存在下で空気を酸化剤にアルコールの酸化を行えることを報告しています(参考、PDFファイル) 。これも非常に有力な酸化方法です。
TEMPO_AZADO
 今回、著者のStahlらは、銅塩を共存させることで、一級及び二級アルコールを室温1時間という条件で酸化する反応を報告しました。 酸化剤は空気ですので何よりも安価で安全、そして共存する官能基を傷めずにすみます。
ox
 配位子や酸化触媒の検討を詳細に行い、上図の条件にたどり着いています。隣にtert-ブチル基などかさ高い置換基がついていても、反応は室温1時間でほぼ定量的に進行します。今まで報告されてきた多くの酸化反応の中でも、簡便さ・反応性など総合的にトップレベルといえるのではないでしょうか。あとは、試薬をたくさん入れるのが面倒なので、最初からこれらがミックスされた「Stahl酸化セット」でも発売されれば、とても便利そうです(笑)。

Marcos G. Suero, Elliott D. Bayle, Beatrice S. L. Collins, and Matthew J. Gaunt* 
J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 5332. DOI: 10.1021/ja401840j

 ☆アルキンからアルケニルトリフラートへ
 アルケニルトリフラートは、クロスカップリング反応などの基質になりうるため、重要な合成中間体です。カルボニル化合物に塩基の存在下でTf2Oを作用させて合成するのがよく用いられる方法ですが、生成物の幾何異性体制御などに問題を残します。

 今回、銅触媒を用いて、内部および末端アルキンからアルケニルトリフラートを合成する触媒反応が開発されました。 強い電子求引性の対アニオンを持つヨードニウムトリフラートを用いる事によって、ヨウ素上のアルケニル基とトリフラートを同時にアルキンに導入できるようになりました。四置換オレフィンの選択的合成法として、有用であると思われます。

iodonium

 ヨードニウム塩を用いた反応はAngew. Chem., Int. Ed. 2009, 48, 9052.の総説にもまとめられています。 触媒反応の系そのものは、二種類の基質と塩化銅と溶媒のみ、ととてもシンプルです。 ヨードニウム塩の調製がより容易になれば、アクセスしやすい合成方法になると思います。

Takefumi Kuranaga, Yusuke Sesoko, Komei Sakata, Naoya Maeda, Atsushi Hayata, and Masayuki Inoue*
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP DOI: 10.1021/ja401457h

 ☆ペプチドにしてペプチドに非ず
 東大の井上研究室より、ペプチド構造を持つ細胞毒性化合物ヤクアミドAの全合成です。というとなんだペプチドか、といわれそうですが、このヤクアミドは多数の異常アミノ酸を含んでおり、中でもデヒドロイソロイシンが厄介です。このアミノ酸はE配置・Z配置のものが両方含まれており、これを選択的に作り分けることが今までなかなか難しい問題でした。
DHIL

 今回著者らは、銅触媒を用いたアミドとヨードオレフィンとのクロスカップリングを開発し、これを立体選択的に合成することに成功しています。
amidecoupling


 この部分は、他のアミノ酸のカップリングなどの際に異性化を起こしやすいのですが、COMUというアミドカップリング試薬を使用することで、これを乗り越えています。
COMU
COMU

 ヤクアミドの全合成は、見た目よりはるかに難しかったかと思われます。カップリング試薬や保護基の選択など、いろいろ参考になる点がありそうです。

Kun Wen,Han Wang,Jinbo Chen,He Zhang,Xiaodan Cui,Chao Wei,Erkang Fan,and Zhihua Sun*
J. Org. Chem. ASAP DOI: 10.1021/jo4000477

 ☆α-アミノボロン酸の不斉合成
 抗がん剤ボルテゾミブ(商品名ベルケード)は、ホウ素を含む珍しい医薬で、図のようにペプチドのC末端がボロン酸に変化した構造です。この部分でプロテアソームの活性中心に結合し、その働きを阻害します。つまりこのα-アミノボロン酸骨格は、酵素阻害剤などとしてポテンシャルを秘めていると考えられます。

bortezomib
ボルテゾミブ

 今回の論文の著者Sunらは、このα-アミノボロン酸の効率的不斉合成法を報告しています。Ellmanらが開発した不斉補助基(tert-ブチルスルフィニル基)を利用し、銅触媒存在下でジボロン酸を反応させるというものです。

aminoboron

 選択性は、アルデヒド由来の基質(R2=H)であればほぼ完全に単一異性体が得られ、ケトン由来(R1=R2=アルキル基あるいはアリール基)でも3:1程度となっています。反応は穏和な条件で進行し、収率もおおむね80%以上です。

 ちょっと変わった構造の阻害剤を作ってみたいという方は、試してみてはいかがでしょうか。それにしても、tert-ブタンスルフィニル基の汎用性の高さには驚きます。

Jing Wang, Dr. Chao Liu, Jiwen Yuan, Prof. Aiwen Lei*
Angew. Chem. Int。Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.201208920

 ☆アルデヒドとアルケンのカップリング
 α, β-不飽和ケトンの合成法はたくさんありますが、そこに新顔が加わりました。

coupling

 反応式だけ見ると、何だこりゃ?と思うような反応です。要するに、銅塩とtBuOOHからラジカルが発生し、これがアルデヒドと反応してアシルラジカルになって、オレフィンと結合するという経路です。ラジカル禁止剤を加えると、反応は進行しません。

 論文内で用いられている化合物は、R1・R2・R3がいずれもアリール基のものばかりであり、基質にはかなり制限があるようです。とはいえ形式として面白く、今後いろいろな展開が期待できそうです。

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