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有機化学を中心に、興味ある新着論文の情報を提供してゆきます。

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Bruno C. Barista and Oliver Steinbock
Chem. Commun. 2015, Advanced Article DOI: 10.1039/c5cc04724b

 ☆「化学の植物園」の作り方
タイトルのChemical gardenという言葉を見かけて,それは一体どのようなものだろうかと興味を持ったので,取り上げることにしました.Silica gardenという言い方もあり,本来は核となる小さな塩の粒を,ケイ酸塩溶液(いわゆる水ガラス)に置くことよって得られる,植物のような形をした構造体を意味しています.銅,鉄,ニッケル,コバルトなど各種の遷移金属塩を用いることで,色とりどりの枝を成長させることもできます.


ケミカルガーデンのタイムラプス動画

近年ではもっぱら教育目的で作られることが多いそうですが,コロイドと溶液における沈殿やゲル膜透過などの現象として追うことによって金属の腐食やセメントの加水などについての理解が深まるため,工業的な意義もあるといいます.

この論文では種々の金属イオンと水酸化ナトリウムを反応させることで,ケイ酸塩がなくてもChemical gardenを作製することができるという新たな知見を報告しています. 作製方法はいたってシンプルで,金属塩の溶液に水酸化ナトリウム溶液を細いテフロンチューブから一定流速で上向きにインジェクトするだけです.

本研究で作成されたチューブ状の金属水酸化物の構造体のいくつかの例のイラストを下に示しました.なかでも詳しくは説明されていませんが,バナジウムについて振動現象(溶解と成長を繰り返す)が観察されているのは特に興味深いことだと思いました.ただし,全体的に成長の反応過程について流速を変化させたり溶解度を考慮するなどして評価を試みているものの,なかなかすっきりとした系統的な結論には至っていないようです.

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理解するのは容易でない反応によって作られる構造体ではありますが,以下に挙げた参考文献にも多種多様(一種異様?)なChemical gardenの色とりどりの写真が掲載されています.安価に入手できる一般的な試薬ばかりを使った実験ですし,日頃つい忘れそうになる化学ならではの遊び心を思い出させてくれます.

<参考>
L. M. Barge, et al., Chem. Rev. 2015, DOI: 10.1021/acs.chemrev.5b00014.
J. H. E. Cartwright et al., Langmuir, 2011, 27, 3286-3293.

Takuya Yoshida, Wen Zhou, Taniyuki Furuyama, Daniel B. Leznoff, and Nagao Kobayashi
J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 9258. DOI: 10.1021/jacs.5b05781

 ☆フタロシアニン骨格の安定ラジカル
安定な有機ラジカルは外部刺激によって容易に酸化されたり還元されたりするため,基礎化学的な興味のみならず,実用としても蓄電池などへの応用が検討されています.これまでの報告としては下図のようなものが挙げられますが,ラジカルは容易に空気中で酸化されやすいなど扱いが難しいものが多いため,これを克服することが求められています.

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一般にラジカルを安定なものにするための分子設計としては大きく分けて2つの戦略があります.一つは嵩高い置換基を導入して分子間のカップリングを防ぐ方法,もう一つはπ共役系を利用して電子を非局在化させることです.著者らは,これまで金属フタロシアニンをモチーフにしてこの課題に取り組んできました.

Pc-4はいくつか単離されているものの,Pc-3はとても少なく不安定であるため,その性質に関するクリアなデータもない状態でしたが,電子が欠損したマクロサイクルであれば還元状態を安定化できるのではないかと考え多くの化合物を合成しました.そしてついに今回テトラアザポルフィリンのリン(V)錯体のラジカルが大変安定であることを見出すことができたのです.合成手順は以下の通りです.
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電気化学測定や吸収スペクトル測定,EPR測定の結果から,確かにリンが+5価で環全体として-3価の中性ラジカルであることが示されました,アブストラクトの写真にもある通り、この化合物は空気中でも全く安定に取り扱えます。また安定であるゆえに単結晶X線構造解析などでも明確なデータ解析ができたことも大きな成果であるといえます.引き続き著者らは19π電子系の探索を行っているということですので続報が楽しみです.

<参考文献>
*安定な有機ラジカルを二次電池などに応用した例
(1) Shin, J.-Y, et al. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 3096-3101.→ ノルコロールニッケル錯体
(2) Maruyama, H. et al. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 1324-1328.→パーシリル置換14族元素化合物
(3) Morita, Y. Nat. Mater. 2011, 10, 947-951.→トリオキソトリアンギュレン
*環状化合物について
「有機化学美術館分館」より“ノルコロール~できるはずのなかった化合物

伊丹敬之 東京理科大学MOT研究会 編著,日本経済新聞社,2015年
ISBN978-4-532-31996-0

 ☆
 常識の先を行く,と銘打った「現場発の技術経営のメッセージ」をまとめたもので,著者らにとってシリーズ5冊目にあたるということです.大学組織から出たことのない筆者からみても,企業の方だけでなく多くの分野の組織人にとって役に立ちそうな指摘がいくつもあると思いましたので,そういった視点でご紹介してみたいと思います.本書の内容は以下のような構成になっています.

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特に2章で述べられている枯れた技術とは,すでにこなれている,比較的安価で誰でも調達しやすい技術のことを言っており,先端技術の特許の場合と下のような図で比較することができるとしています.

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現代では医薬品などを除いて,一つの製品を数件の特許権でカバーすることはまず不可能であり,複数社の特許権を互いに使い合うクロスライセンス契約を結ばないことには市場が成立しない.そのため,先端技術の開発によって基本特許がとれても,必ずしも「長期的な参入障壁」を構築できているとは限らない’という指摘などは筆者には興味深く思われました.枯れた技術の細かな特許は,それらを回避した商品づくりをすると価値を低下させてしまうため,そのような特許を束にして持つことでクロスライセンス材料となるような特許を取得できる余地をなくせる場合があるということで,「テプラ」をその例として説明しています.

第7章では研究現場などの組織統合について,研究もあくまで人間がやっていることだおいうことを大前提として,かなり現実的な視点で提案が列挙されています.大学などで研究室が統合されたというような話は聞いたことがありませんが,例えば同じグループ内で研究テーマが似通ってきてしまった場合などにどういう方向へ持っていくか,多様なラボ出身の研究者・技術者をどう生かすか,というようなことについては役に立つ部分もあるかもしれません.

以上,近いようで知らない世界の本も読んでみたいという気持ちから本書をご紹介させていただきました.何かご参考になればと思います.

-キログラム,モル,アボガドロ定数の現在と将来-
倉本 直樹,東 康史,藤井 賢一
ぶんせき,2015,6,229‐236.

2018年に予定されている,国際単位系(SI単位)の一つであるキログラム(質量)の再定義に関する国際プロジェクトの解説記事です.

当初,基本単位では時間や長さの単位はメートル原器などで定義されていましたが,これらは現在では物理量による定義に置き換えられており,重量の単位のみが人工物である「キログラム原器」で定義されています.キログラム原器は気密容器内で厳重に保管されていますが,表面吸着や洗浄によって重さが変化することは避けられません.

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キログラム原器

国際キログラム原器(IPK )の承認からすでに120年以上経過した現在でも同じ分銅が使われており,長期安定性が近年の計測技術の進展においては無視しえない大きさとなりつつあるため(相対的に5×10-8の変動幅に相当すると推定),人工物に頼らない質量標準の確立が望まれています.

そのような中,キログラムの実現に必要なアボガドロ数とプランク定数をIPKの長期安定性よりも小さな不確かさで測定できた(それぞれ相対不確かさ3.0×10-8;,7.0×10-10)ことを受けて,2011年にCGPMにおいてキログラムの再定義について決議が採択されました. 本記事ではその後の進捗状況も含めて背景やモルの改定にも触れています.

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キログラム再定義のため,28Si濃縮単結晶のX線結晶密度法から直接決定できるアボガドロ数から求める方法と,ワットバランス法によるプランク定数から求める方法(参考)の二通りが採用されています.著者らの所属する産業技術総合研究所では,前者の研究を40年も前から行っているため,主にその内容の紹介がされています(電気標準における利便性から,定義そのものはプランク定数).同位体濃縮したシリコン結晶でも表面は酸化物などの不純物の層で覆われているため,その評価を行ったことなども紹介されていて,根気の要る現場の苦労が伺えます.現在の大きな課題としては2つの方法で得られた値の整合性の問題だということです.どのようにクリアされるのかとても興味深いところです.

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キログラム原器のお世話も大変な気苦労があるようですから,物理定数を基準にして誰でもキログラムを実現できるようになるとさびしい反面ホッとする方も多いかもしれません.まだ途中段階の大きな国際プロジェクトですので,今後の動向を見守りたいと思います.

<参考> 産業技術総合研究所 “普遍的な物理定数に基づく新しいキログラムの再定義に道を拓く”  (発表・掲載日:2012/02/27)
キログラム原器の扱いについては、こちらの本に面白いインタビュー記事があります。 メタルカラーの時代 12 空前絶後のスーパー仕事師

Yanlong Wang, Zhiyong Liu, Yuxiang Li, Zhuanling Bai, Wei Liu, Yaxing Wang, Xiaomei Xu, Chengliang Xiao, Daopeng Sheng, Juan Diwu, Jing Su, Zhifang Chai, Thomas E. Albrecht-Schmitt, and Shuao Wang
J. Am. Chem. Soc. ASAP, DOI: 10.1021/jacs.5b02480

 ☆ウランでセシウムを捕まえる
放射性廃棄物の処理をどう行うかという問題は原子力発電所を持つ国ならどの国でも頭を痛める問題です.本論文では特に水溶液中のセシウムを取り込む吸着材になるウラン錯体について報告していますので日本人としてはやはり注目してしまいます.配位子として以下の1, 2を合成し,酸化ウランと錯形成させると,単結晶X線結晶構造解析から下段のような原子配置を取ることが分かりました.2についてはひずみが大きく,配位原子が平面上にないという特徴を持ちます.
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このため配位子2の場合は下図のようなカテナン様の構造体(Metal Organic Frameworks: MOF)を形成します(1はハニカム構造がp-pスタックした状態になります).種々の測定から,pH3-12の広い範囲で安定な細孔を形成しており,表面積の広い材料を作ることができたことが分かりました.このカテナン様の錯体は水溶液中のセシウムをウランとの比でほぼ1:1の割合で吸着することができます.

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また,妨害金属になりうるLi+, Na+, K+, Rb+, Mg2+, Ca2+と共存した状態でもセシウムをほぼ問題なく選択的に取り込むことができるということも大きな利点です.規模の問題もありますので実用化の可能性については議論や検討が必要だと思いますが,このように原子力技術関係のみでない多くの分野の人たちが根気よく問題解決に向けて提案を続けていくことが大切なのではないかと改めて思わされました.

<参考>
Umbellate:散系花序の,傘状の

Hai Qian and Ivan Aprahamian*
Chem. Commun. Advanced Article DOI: 10.1039/c5cc03007b

 ☆ 「スマートな」ハイドロゲル
 光や磁場,圧力,電場など,様々な刺激に反応して性質を変える化合物は,最近ではSmart materialと総称されるそうですけれども,その一角をなすハイドロゲル、水と混ぜることによってゲル化する化合物が本研究のテーマです. 
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ゲルになる低分子量の化合物にはLow Molecular weight gelators(LMWG)という名称がついております.これまで一番低分子量なものとして知られているのは,分子量88のN, N’-ジメチルチオ尿素だそうですが,今回著者らは(一番でないにしても)低分子で,pHを変えることによってゾル-ゲル転移と発光をコントロールすることができる化合物を発見しました.上右図に示したコントロール化合物と比較することで水素結合によるゲル化が起こっていることを推測しています.Serendipitous discoveryという言葉が繰り返し使われており,狙って作ったものではないことを強調しているのもこの論文の特徴です.

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性質をまとめると,上段の図で表すことができます.酸性になるとゲル化し,またゲル化した状態のみ紫外光照射によって発光します.この性質を実際に利用する方法として,著者らは下段のような食品の鮮度試験のセンサーを一つの例として挙げています.

魚が腐るときにできるカダベリン,プトレシンなどのアミン類は塩基性なので,ゲルを破壊して発光しなくなります.このため,腐った魚の液を滴下した赤丸で囲った部分のみ発光しなくなります.(これはイメージ図ですが,論文では実際の写真が掲載されていますので,そちらをご覧いただければと思います.)

ここまで広がる化合物を偶然発見したこと自体とても興味深いことですが,どのような過程で見つかったのか,サイドストーリーが書かれているとより面白いのではないかなと思いました.

<参考>
*M. George, et al., Chem. -Eur. J. 2005, 11, 3243.→N, N’-ジメチルチオ尿素について.

Loredana Leone, Alessandro Pezzella, Orlando Crescenzi, Alessandra Napolitano, Vincenzo Barone, and Marco d’Ischia
ChemistryOpen 2015 Early view DOI: 10.1002/open.201402164
  
 Cryptographyとはクロマトグラフィーの親戚…では全くなく,「暗号」という意味の情報関連用語です.Molecular Cryptography(: MoCryp)というジャンルは,これまでDNAをベースとしたものがほとんどでしたが,本論文ではトリコシアニンという多機能色素を使うという,コンセプチュアルな点に重きを置いています.

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トリコシアニン類の構造

官能基の異なるシリーズを8種類合成し,pHをコントロールすると,下の図のような(実際掲載されているのは写真です)バリエーションに富んだ色を示します.それだけでも目を引くので,オープンアクセスジャーナルに投稿してアピールするのに向いた内容だと思いました.

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 これらをどのように暗号として用いるかを簡単に示すと以下のようになります.二進法による暗号伝達手段として,溶液群Aというグループの中から一つ,Bというグループの中からやはり一つを選んで混合したものをとし,受信者はその吸収スペクトルを測定し,さらに計算化学の解析結果と照合することで,0 or 1の判別を行うというものです.
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 行っていることは有機合成,溶液化学,計算化学と,基礎化学そのものの手法ばかりですが,その包括的な活かし方として,このようなことも考えられるというのは大変興味深いことではないでしょうか.

・DNAを使ったmocrypの文献の例 *L. M. Adleman, Science, 1994, 266, 1921.
*A. Prokup et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 13192. 

Vignesh Neyak, Mannekote Shivanna Jyothi, R. Greetha Balakrishna,* Mahesh Padaki,* and Ahmad Fauzi Ismail
ChemistryOpen 2015, Early view DOI: 10.1002/open.201402133

 ☆六価クロムを消す方法
その名もChemistryOpenというWileyのオープンアクセスジャーナルから選びました.創刊から3年程の新しい雑誌ですが,内容的に他のWileyのジャーナルとどのような違いが出てくるのか今後楽しみに追ってみたいと思っています.この論文では,水中の六価クロムを三価クロムに低毒化しつつ吸着する膜を作製したという成果を報告しています.皮革の染色,顔料の製造,鉱業などによってどうしても生じてしまう有毒なクロム除去は,環境問題解決のための大切なテーマの一つです.

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キトサンは上図の構造をした高分子で,近年分離膜として利用する研究材料として注目されています.かにやえびの甲羅に含まれる生体高分子であるキチンを脱アセチル化することで得られ,無毒無臭・生分解性でかつ反応活性なアミノ基やヒドロキシル基が表面に出ているため,安心して使える活用の幅の広い素材だといえます.

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本研究では,ポリスルホン膜表面部分に酸化チタンを浸透させた基板に,スピンコーティング法によってキトサンの膜作成を行い,これが図のような低毒化と吸着機能を合わせ持つことを確認しました.実はタイトルにCompleteと掲げていることが気になってこの論文に目を留めたのですが、どうCompleteかというと,膜を浸した六価クロム溶液の紫外可視吸収スペクトルにおけるピークが吸着と還元によって消失するという意味合いのようです.膜面積当たりクロムを吸着するのか知りたいと思いましたが,10ppmのクロム水溶液を使って調べているという情報しかないため,もう少し詳しく書かれていると良いなと思いました.

ただ,吸着だけでなく還元もできた例は他になく,また目視でわかる色変化(黄色から淡緑色)も示す点は大変興味深いため,妨害する他の金属元素からの分離など,課題が克服されることを期待しています.

<参考> * M. S. Sivakami et al., J. Biol. Macromol. 2013, 57, 204.
* X. J. Zuo et al., Carbohydr. Polym. 2013, 92, 2181.
* H. K. No et al., Rev. Environ. Contam. Toxicol. 2000, 163, 1.

高松尚久 著,株式会社タロウ,2003年.

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ISBNはついていないので,MOL-TALOUという分子模型の説明書という位置付けに近い書籍です.この分子模型が世に出て十数年とのことですが,筆者はその頃すでに分子模型を使った講義を受けるような学部学生でなく,また有機化学分野の研究室配属でなかったこともあってかちょうど出会う機会を逸していたようです.

最近になって,やはり分子模型から考えてみたいと思うところがありまして,MOL-TALOUはきれいで可愛らしい見た目と厳密さを両立させた分子模型だと知り,購入しました.読者の中には何を今更,と思う方も多いかと思いますが,筆者と同じように見逃してしまっている方向けにご紹介したいと思います.

モル・タロウの特徴は本書では16項目にまとめられています.それらの中から重要な部分を抜粋してみます.
*拡大率はすべて1億2500万倍.
*原子球の大きさはその原子の相対的な大きさを表現.
*原子球の手の形は単,2重,3重結合用で異なる.
*原子球の大きさ,手の種類および出方は実測に基づいている.
*スリーブは単,2重,3重結合用の3種類.
*水素結合用スリーブ,ファンデルワールス結合用スリーブはそれぞれ一種類だけで実測結合距離を表現できる.
*実際の分子の原子間距離および空間充填モデルの寸法を求めやすい.専用のスケールも付属している. etc....

個人的にはホウ素パーツがないことをやや残念に思っているものの,全体としては種類が多いため,実際に本書のガイドに従って簡単な分子も端折らずに組み立ててみた方が仕組みが分かりやすいと思います.MOL-TALOUを使うなら手元に置いておくと良い一冊ではないでしょうか.

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<参考> http://www.talous-world.com/ 

 <佐藤コメント>モルタロウ、筆者も愛用しております。見た目の美しさ、結合の棒が柔らかいのでひずんだ結合も再現できるなど、優れている点が多いと感じます。コンピュータ上でのモデリングも大きく進化していますが、やはり手にとって実感できることの効果は大きいです。 鈴木章先生のノーベル賞を記念して、ノーベル賞委員会にモルタロウで作ったパリトキシンの模型が寄贈されるなど、もはやスタンダートの地位を確保したといってもよいのではないでしょうか。上記リンクより購入できます。

Hirofumi Naito, Yasuhiro Morisaki,* and Yoshiki Chujo*
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.201500129

オルトカルボランは,隣接した2つの炭素を含むホウ素の多面体クラスターです.アルキンとデカボランの付加によって得られ,合成は比較的容易です.その熱的および化学的安定性から中性子捕捉療法や断熱材への利用に向けた研究が主に行われてきましたが,近年 π共役系 と連結させることによって発光材料をつくる研究が注目されています.

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これまでにもAIE(Aggregation-Induced Emission)やCIE(Crystallization-Induced Emission)を発現する材料についての報告がいくつもありましたが(参考文献参照),本研究では上記の ようにアントラセンを結合させて多様な刺激による発光挙動を示す材料をつくることに成功しました.

アントラセンを選定したのは,強い発光特性をもつこと,官能基付加が簡単にできること,また集合状態の違いによって固体状態での発光波長を変化させることができることなどの理由によります.

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得られた化合物は上図のような様々な発光挙動を示し,また適した条件下で蒸 気に曝露することで取り込む溶媒を交換することもできます.基本的にこの化合物では発光色は赤系統ですが,修飾可能な部位が いくつもあるため工夫次第で色のチューニングなどもできそうです.

 参考文献
* Y. Chujo et al., J. Org. Chem. 2011, 76, 316-319.
* B. Z. Tang et al., Chem. Commun. 2007, 1740-1741.


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