April 19, 2007

『イニシエーション・ラブ』

乾くるみ/文春文庫
イニシエーション・ラブ

真面目な大学生のたっくんは参加した合コンで繭子と出会い、恋に落ちる。
繭子と付き合いだしたたっくんは繭子の言うなりにセンスを磨き、教習所にも通うことに。
タイミング良くキャンセルの出たホテルも見つかり二人は最高のクリスマスを迎える。
受かっていた東京の大企業を蹴り、繭子の為に静岡の会社に就職したたっくんだったが、東京に転勤することになり遠距離恋愛になってしまう。

絶対に2度読みしたくなるミステリという触れ込みだったのですが、見事にその罠に陥ってしまいました。
きっとどこかに何か齟齬があるはずだと思い気負って読んでいたのですが、途中から普通の恋愛小説としてサラサラと読み進めてしまったが敗因かと。
いろいろなところに伏線があるのは感じました。
でもその伏線の解釈を間違えていたので、真実には全然たどりつけませんでした。

とりあえずは90年代の甘ったるい恋愛小説と思って読んでください。
そして小気味よく騙されてください。
脱帽です・・・。

April 18, 2007

『蛍』

麻耶雄嵩/幻冬舎


麻耶さんらしい作品だったと思います。
いや、麻耶さんにしては読みやすく、普通だったかな?
全体に散りばめられた「蛍」がオカルトな雰囲気を醸し出していて、つい引き込まれてしまいました。

作中では3つの事件が一見、別々の事件のようなんですが、実は複雑に絡み合っています。
一つ目は10年前のファイアフライ館での八重奏楽団の惨殺事件。
二つ目は半年前の殺人鬼「ジョージ」によるく若い女性の連続殺人事件。
その被害者の一人である対馬つぐみは、サークルのメンバーのうちの一人だった。
そして三つ目はファイアフライ館で再び起きる殺人事件。
3つの事件が繋がったときは「やられたっ!」と思ってしまいました。

何となく違和感を感じる文章がそこかしこに存在するのですが、最後まで読むまでわからずに、読み終わって「なるほどっ」という感想でした。
次々とピタピタピタ〜っとパズルのピースが嵌っていくようで、今までもやもやしていた分、爽快でした。

『翼ある闇』での衝撃や、『木製の王子』での時系列の複雑さからすると、ちょっと物足りない気がするかもしれませんが、王道を行くミステリで私自身はとても楽しめました。

April 03, 2007

『砂の城の殺人』

谷原秋桜子/創元推理文庫
砂の城の殺人 創元推理文庫

またもや、不可抗力によって武熊さんに怪我をさせてしまった美波は代わりにバイトを務めることになった。今回のバイト代は「2日で5万円」という破格のもの。
廃墟を撮影するカメラマンの撮影助手として雇われた美波は、向かった先の廃墟でミイラ化した死体を発見してしまう。
しかもそれは長年行方不明だった、雇い主であるカメラマンの母親だという・・・
その後、次々と起こる殺人事件の犯人は?そしてトリックは?!

3作目にして、今までで一番ミステリ色が濃い作品だったと思います。
現在の事件と過去の事件が入り混じって、二転三転する展開は結構読み応えがありました。
トリックは存外、ミステリの定石的なもので、一度は自分の中で否定してしまったものだったので、ちょっとビックリでしたが・・・。
謎解き部分もちょっとライトだったかな?
探偵役がころころ変わっていくのは面白いのだけれど、推理に深みが無いって言うか「そんな簡単にわかっちゃうんじゃ、誰でも解けるのでは・・・・」と思えてしまいました。
今作は、美波と修矢のラブロマンスはちょっとお預け。
でも次回、大きな転機を迎えそうな予感を残して終わっているので、楽しみです。

さらさら〜っと読めるので、あんまり深く考えたくない読書(笑)にはお薦めです。

April 02, 2007

『水に描かれた館』

佐々木丸美/創元推理文庫
水に描かれた館

佐々木丸美さんの「館3部作」の第2作目の作品。
舞台は『崖の館』の事件を引き摺っているので、単独の作品として読むよりは続けて読むのがお薦め。
前作で語られた千波ちゃんと二人のいとこ達の死は事故として片付けられた。
そこに、館の財産目録をつくるためにやってきた鑑定人は、4人と知らされていたのに5人。招かれざる客は誰なのか?
その夜、嵐の中彷徨っていた少女が館に保護された。そして少女は謎の失踪をする。
以降、繰り広げられる館での不思議な出来事はいったい誰の仕業なのか・・・?

この作品も前作同様、ミステリというよりは文学の匂いがします。
さらに謎自体もトリックやロジックを駆使するというよりはもっと観念的な要素が大きいので、謎が解かれて目の前の靄がぱっと晴れるということが、結局読み終わってもなんとな〜く霞がかかったような気分です。
次の作品(『夢の館』)への余韻を残してってことなのかなぁ。
心理作用、輪廻転生、超能力・・・と普通のミステリではあまり主軸として語られることの無い内容がテーマとなっています。

前作で提起された、現在の事件と2本立てで語られる「黒衣の少女」の謎が少し明らかになってきました。
それに伴って語り部の涼子が大人になって行くのも読みどころのひとつだと思います。
その涼子は前作の後半でいとこの哲文くんへの淡い恋心に気づくのですが、今作では情熱的な恋に心を焦がす女性へと変貌を遂げています。
それが、今回の事件の鍵の一つとなっているのですが、そのお相手は・・・
読み慣れないうちは涼子の熱い熱い、甘い甘い心の吐露にちょっと辟易するかもしれません。
そういうときは涼子と一緒に相手に恋をしてしまえばいいのですが・・・残念ながら出来ませんでした。

次回、完結作に期待です。

April 01, 2007

『EDGE』

とみなが貴和/講談社文庫
EDGE

美貌の心理捜査官・大滝錬摩は3年前の事件を契機に警察との関わりを絶っていた。
しかし、マスコミによって「黄昏の爆弾魔(ラグナロク・ボマー)」と名づけられた爆破事件の犯人を追うため、再び警察からお呼びがかかった。
その名が示すとおり、黄昏時に東京タワーや都庁などの建造物を狙った連続爆破事件を引き起こすこの犯人像に迫る錬摩のプロファイリングは如何に・・・?!

ホワイトハートで5巻完結しているらしいのですが、2巻までは講談社文庫版として出版されています。
ホワイトハートの表紙で買うのを怯んでしまう人は是非講談社文庫版で読むことをお薦めします。

内容は、錬摩と(元?)相棒の宗一郎を取り巻く環境は、宗一郎の不思議な力を病院がすんなり受け入れたり、警察が錬摩か事件に介入するまで明後日の方向の捜査をしていたり・・・とかなりご都合主義な部分がありますが、犯人については特別な人種ではなく、どこにでもいそうな人物だったり、人物の心理描写が巧みだったりとホホゥっと、感心させられる箇所も多く見られました。
侮るなかれ、ライトノベル!!

March 16, 2007

『空から見た殺人プラン』

柄刀一/祥伝社ノンノベル
空から見た殺人プラン

天才・龍之介が行く!シリーズの最新刊。多分8作目だと思います・・・(笑)
IQ190と天才的な頭脳を持ちながらも、お人よしでちょっとドンくさい龍之介が出会った様々な事件を解決していくシリーズですが、今作では祖父から受け継いだ多額の遺産を元に学習プレイランド建設の夢を叶えるために龍之介といとこの光章、光章のガールフレンド一美さんが奔走する旅の途中に出くわした事件が4つの短編と1つの中編として納められています。

第一話は学習プレイランドの予定地近くの秋田・仁賀保を舞台とした連続殺人事件の話。
動機もトリックも「そんなのわかるわけないじゃん!!」という感じの作品。
でも、このシリーズの今までの謎解きのパターン(クロスワード殺人とか・・・)には近いかもしれません。

第二話と第五話は大自然をトリックに用いた作品。なのでかなりスケールの大きな作品になっていると思います。
その自然の摂理についても龍之介の解説つきで読めばちょっと賢くなったような気分を味わえます。
でも2編ともドロドロした人間劇が動機なので、龍之介には似つかわしくないかも。
偏執狂の心のうちは読めても、女の愛憎や情念には疎そうなので・・・

今回はどれもこれも読み終わった後にいいのか悪いのかわからない妙なわだかまりが残る作品でした。
そんな人間関係の機微を感じて、学習プレイランドの経営者として龍之介が成長していくのかな・・・なんて思ってしまいました。

March 12, 2007

言い訳

最近、更新が滞っていてすみません。
本を読んでいないわけでも、記事にしたくなるような出来事が全く無いわけでもないのですが、2月の半ばにひいた風邪が残っていて、集中力が持続できないので、なかなか感想文がまとめられません。
「面白かった〜」とかなら言えるんですけどね、どこが面白かったのか、とかまとめないと感想文になりませんよね・・・。
しばらくは更新がポツポツとしか出来ないと思いますが、溜めている感想文を少しずつUPしていきたいと思っていますのでよろしくお願いします。
1週間に1度くらいのペースで・・・ってそれは今まで以上のペースかも(笑)

備忘録代わりに溜めている読了本を書いておきます。
ついでにわたしのお気に入り度も示しておきますので、もし参考になれば・・・と思います。
◆空の中 有川浩(メデイアワークス)ゥゥゥゥ
◆クジラの彼 有川浩(メディアワークス)ゥゥゥゥ
◆わらばな たなかしえ(ヤングジャンプ・コミックス))ゥゥゥ
◆水に描かれた館 佐々木丸美(創元推理文庫)ゥゥ

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March 02, 2007

『QED 河童伝説』

高田崇史/講談社ノベルス
QED 河童伝説

QEDシリーズ第13弾。
前作の『QED〜ventus〜御霊将門』エンディングを受けて、奈々たち一行は福島県の相馬野馬追祭を見に行くことになります。
また、その一方で、奈々たちが熊野で出会った神山禮子にストーカー行為を働いていた男が、河童の伝説の残る川で手首を切り落とされた死体となって発見されます。
事件は「河童」を軸に舞台を奈々たちのいる相馬へと移すことになります・・・

今作の歴史民俗講釈は平将門を交えながら、メインは河童のお話でした。
タタルさんの解説は「全部“そこ”へ帰着するんだ」と感動するか、「また“そこ”に結びつけるだ・・・」と辟易するか意見が分かれるところなんじゃないでしょうか?
わたしはちょっと食傷気味かな・・・とも思います。
初期の頃のもっと事件と密接に絡んだ民族学上の謎解きの鮮やかな印象が残っているからだと思いますが、欲張りなんでしょうか?

今回は実際にタタルさんが事件解決に一役買っているわけではないので、民俗学とのつながりは「河童の話」と「河童伝説のある地での殺人」というだけ。
でも病院と製薬会社のダークな部分が事件の核となっていて、臨床実験のくだりは現実にもありそうで、ついつい引き込まれて読んでしまいました。

March 01, 2007

『笑う怪獣 ミステリ劇場』

西澤保彦/新潮文庫
笑う怪獣ミステリ劇場

突如出現する巨大怪獣。地球侵略を企むナゾの宇宙人。そして人々に襲いかかる驚異の改造人間。いい年齢をしてナンパが大好きな、アタル、京介、正太郎の3バカトリオに、次々と恐怖が襲い掛かる! 彼らを救うヒーローは残念ですが現れない! 密室、誘拐、連続殺人。怪物たちは、なぜか解決困難なミステリを引き連れてくるのであった。空前絶後のスケールでおくる、本格特撮推理小説。(新潮社ホームページより抜粋)

特撮推理小説・・・と解説されながら、本当に怪獣が出てきました(笑)
それもばかばかしいくらい自然に登場して、話の中心にデンっと居座っていますがトリックは結構普通のミステリです。
登場人物はおバカ3人組、アタル、京介、正太郎。3人がナンパに成功すると必ず怪獣、宇宙人、改造人間・・・と人ならぬものが現われるという脱力な設定をきちんとミステリとして昇華させているのはさすが西澤氏。 
特に『怪獣は密室に踊る』はきちんとトリックも存在し、『女子高生幽霊綺譚』 は匠千暁シリーズのような印象で、ミステリとしての質も高かったのでは、と思います。
でも表紙がキクニさんなので、読後感はなんかキクニ漫画(『日本一の男の魂』とか・・・)を読み終わったときのようでした。
ホントいい意味で「あほくさっ」な作品でした。

February 08, 2007

『海の底』

有川浩/メディアワークス

海の底

横須賀に巨大甲殻類の大群が襲来した。
多くの一般人も巻き込み、横須賀は大パニック状態に陥った。
湾内に孤立した潜水艦『きりしお』には海自隊員の夏木大和と冬原晴臣が13人の子ども達と共に逃げ込んでいた。
場所が場所だけに救助が遅れ・・・
海の底から来た『奴ら』から、子供達を、横須賀を守れるか?!

『Sweet Blue Age』に収録された「クジラの彼」を読んで、どうしても読みたくなり図書館にリクエストして、昨日届きました。
そして一気読みです。
とても面白かったです。
横須賀に巨大ザリガニの群れが襲来って、トンデモナイ設定ない設定なのにすんなり物語の中に惹きこまれました。

夏木、冬原の二人をはじめ、13人の子供、警察官、機動隊員、自衛隊員・・・と登場人物はとても多いのに、キャラクターがしっかりしていて、それぞれの心情にココロ打たれる瞬間がありました。
特に機動隊の壊走シーンには電車の中で読んでいたにもかかわらず、不覚にも泣きそうになってしまいました。
自分の仕事にプライドを持って働く男たちって、カッコイイなぁ。
全体を通して派手な大立ち回りで場面が転換するわけではなく、心理描写が丁寧に描かれているので、時にはハラハラしながら、時には憤りながら、どっぷりと感情移入して楽しむことが出来ました。

「クジラの彼」を読んで、冬原に恋してしまったので本作を読んでみたんですが、先にこの作品を読んでいたらきっと夏木が好きになっていただろうな、と思います。
危機状態の異性は五割増・・・なのかもしれませんが、夏木の不器用さと誠実さは素敵ですね。
でもこの物語の裏に「クジラの彼」の冬原があるのだと思うと、ニヤニヤした笑いがこみ上げてくるのですが・・・

SFとしても、青春物語とても、自衛隊モノとしてもお薦めです。
なんか、購入して手元に置いておきたくなりました。


February 05, 2007

『アコギなのかリッパなのか』

畠中恵/実業之日本社
アコギなのかリッパなのか

これも図書館本。

21歳の大学生・佐倉聖は腹違いの弟を養うため、元大物国会議員・大堂剛の事務所に事務員として勤めている。
ここに持ち込まれるのは、大堂の弟子にあたる議員からの様々な問題。
飼い猫の毛の色が変わる謎、後援会幹部が何者かに殴打された事件の始末、宗教団体へ入信の秘書が寄進した絵画の奪還…などの厄介ごとに関わった聖は、元不良の負けん気と機転の利く頭で、センセイ方顔負けの“解決”を成しとげてしまうのであった―。
昔は不良だった事務員が、元大物代議士のもとに持ち込まれる陳情、難題、要望から、その裏にある日常の謎を解決する現代ミステリー。

物語は、大堂の弟子達から事務所に持ち込まれる様々な問題を聖が奔走し解決するという内容の連作短編集。
主人公の聖は元不良で元暴走族。でも今は大学生兼政治家事務所の事務員で、口は悪いけれども洞察力、行動力にも優れています。
なんか出来すぎのヒーローみたいな男の子ですが、全然嫌味なところがないのでとても好感が持てました。
政治家事務所だからといって持ち込まれる問題は献金とか利権とか政治に直接絡んだものではなく、猫の毛色が変わった・・・とか、ダイエットをしているはずのボランティアの男性が太った・・・という小さな謎ばかりです。
各編のタイトルに「色」が使われているのでなんとなく、加納朋子さんの『レインレイン・ボウ』みたいな感じです。

登場人物も、大堂氏をはじめとして、ウィットに富んだ大人やなんだか憎めない人が多くて、ほんわかした雰囲気の一冊でした。


February 02, 2007

『夜市』

恒川光太郎/角川書店
夜市

図書館本第2弾。

いずみは、高校時代の同級生、裕司に誘われ夜市に出かけた。
そこでは「何でも斬れる剣」など欲しいと望むものが何でも売られていた。ただし、何かを買わないと夜市からは抜け出せないルールがあった。
裕司は子供の頃にも夜市に来たことがあると言う。その時の過ちを取り返すために再び夜市を訪れたと聞かされ・・・

第12回日本ホラー小説大賞受賞作品なので、もっと怖い作品なのかと思い覚悟して読み始めたのですが、ファンタジーのようでとても読みやすかったです。
文章がとてもキレイなので、怖さよりも幻想的な描写の美しさに目が行ってしまいました。
ちょっと紗がかかったような懐かしい映像として、情景が目に浮かんできました。

でも、読み終わってふと振り返ってみれば、確かに背筋がスーッとするような感覚はあります。
「この世から存在自体がなくなるってどういうことなんだろう」と考えてもわかることではないけれど、ちょっと怖い。
その余韻がやっぱりホラーなんでしょうか。
物語のはこびとしては、脇役だと思っていた人物が実はかなり重要な役割を担っていて驚かされました。
最後に明かされる、二度と交わることの無い二人の人生がとても哀しい物語でした。

同時に収録されている「風の古道」も、異界へと続く道の物語です。
こちらももの哀しい、でも美しい世界が描かれています。
どちらかといえば、こちらの作品のほうがわたしの好みには合っていました。

February 01, 2007

『Sweet Blue Age』

有川浩 他/角川書店
Sweet Blue Age

ちょっと苦い青春をテーマしたアンソロジー。
発売当初から気になっていたのですが、なかなか購入する勇気が出ませんでした。
最近、会社のそばの図書館を友達に紹介してもらって借りることに成功しました。

若手の作家さん7名が10代、20代の青春を描いています。
割りとミステリっぽい作品を書かれる方の作品も多くて新鮮な感じでした。

まず、蜷川実花さんの極彩色の写真を用いた表紙が人目を引きます。
様々な個性が競合しているようで実はしなやかにな本書の特徴とよく似合っていると思いました。
本書の中で特に読みたかったのは坂木司さんの「ホテルジューシー」。
坂木作品の中でも特に好きな「シンデレラ・ティース」のサイドストーリーだったのでとても楽しみでした。
もうちょっとサキと四谷さんの話が書かれていて、読んでいるとニマニマしちゃうのかと思っていたらあんまり登場しませんでした(笑)
主人公の夏休みの時間を持て余す気持ちや、お年寄りにキツクあたっちゃったり、物事に対して「サイテー」って思ってしまったりという気持ちにはとても共感できたので、そのささくれが沖縄時間とゆるーい雰囲気を持った登場人物たちに徐々に解きほぐされていく様子には一緒に癒されました。

他の作品でとても気に入ったのは「クジラの彼」。
超ド真ん中の純愛ストーリーで、忘れかけてた乙女心が疼きました。
とても切ない遠距離恋愛で、きっとハッピーエンドで終わるんだろうとは思っていたのですが主人公に降りかかる出来事に一緒に一喜一憂を繰り返してしまいました。
自分自身ではあんな辛い遠距離恋愛はできないと思うけど、あんな風に相手を信じる自分でいたいと深く思うのでした。

で、この作品も別の有川作品『海の底』のサイドストーリーなんですね。
『海の底』はパニック作品かと思って読んでませんでした。
今度ぜひ読んでみたいと思います。

【収録作品】
「あの八月の、」   角田光代
「クジラの彼」   有川浩
「涙の匂い」   日向蓬
「ニート・ニート・ニート」   三羽省吾
「ホテルジューシー   坂木司
「辻斬りのように」   桜庭一樹
「夜は短し歩け世乙女」   森見登美彦

January 29, 2007

『わが身世にふる、じじわかし』

芦原すなお/創元推理文庫
わが身世にふる、じじわかし

八王子に住む、うだつの上がらない作家、ぼくの下に、ニューヨーク研修帰りの河田警部が例のごとく、夕飯時という絶妙なタイミングで食材と難事件を手土産にやって来た。
そしてその話を聞いたぼくの妻はちょっとしたヒントを手がかりに難事件を解き明かす・・・

ぼくの妻が安楽椅子探偵を演じる、「ミミズクとオリーブ」、「嫁洗い池」に続くシリーズ第3弾、6編の短編が収録されています。
今作も前作までと同様、河田警部の抱える謎が夕食時に語られ、ぼくの妻がその話を元に事件の真相を推理するというパターンが繰り返されます。
お馴染みのパターンなのに、いつも(わたしにとっては)珍しい讃岐料理の数々に彩られて毎回新鮮さを感じられました。
それと料理上手で、物事の洞察力にも優れた奥様と、ちょっと浮世離れした「ぼく」のアンバランスなようでいてとても良い夫婦仲もこの作品の大きな特徴。
河田警部との漫才のような掛け合いの中で語られる事件は結構エグい事件もあるのに、なんかほのぼのした雰囲気が漂っています。

日常の謎系の好きな方には、その発展系としてお薦めします。

January 23, 2007

『緑陰の雨 灼けた月』

高里椎奈/講談社文庫
緑陰の雨 灼けた月−薬屋探偵妖綺談−

薬屋探偵妖綺談シリーズ第5弾。
季節は夏。深山木薬店でも夏休みの温泉旅行を計画中。ところが、ゼロイチが連れてきた野狐のユノがリベザルたちといっしょに住むことになった。
一方、薬屋には女子高生車谷エリカが何者かに狙われているという相談に訪れた。
依頼を受けた秋と座木は、彼女の通う高校を調査し始める。その高校では、過去に多くの生徒が行方不明者になっていた・・・

今作のテーマは「人を好きになるとは・・・」。
恋愛だったり、家族だったり、友人だったり・・・と立場は違えど人と人とのつながりは個人だけでは成り立つことはなく、たとえ一方通行であったとしても二以上のベクトルでできているんだな・・・と。
双方が同じ方向を向いていたり、座木みたいに自分の事にはとことん鈍かったり、エリカみたいにうまく表現できなかったり、と様々ですけどね。

構成としては大きく2部に分かれています。
エリカ、リベザル、ユノの福島県温泉チームと秋、座木の事件調査チームの出来事が交互に描かれていて、あっちにもこっちにもハラハラさせられます。
秋の推理もあっちこっちに飛びまくっていて、ちょっと後手後手に回ったような印象です。
やっぱり秋は表に出ずに、誰かを掌の上で転がしているほうが似合うと思うんだけどな。

エリカちゃんのほうの事件は、妖怪話に落ち着いてしまったけれど、行方不明事件の真相は結構ミステリっぽかったです。
ただの怪談かと思っていたらところどころに伏線があったんですね、意外でした。

January 18, 2007

『ηなのに夢のよう』

森博嗣/講談社ノベルス
ηなのに夢のよう

不可解な状況での首吊り事件が発生した。現場には「ηなのに夢のよう」と書かれたメッセージが残されていた。
今回も事件に首を突っ込む加部谷たちだったが・・・
一方、西之園萌絵は、10年前に両親を失った飛行機事故の原因を知らされる。
天才・真賀田四季と事件との関わりは明らかにされるのか?
「φ」「θ」「τ」「ε」「λ」に続く、Gシリーズ第6弾。

Gシリーズ作品の多くに言えることですが、これはミステリですか?
神社の高い木の上で発見された首吊り死体、萌絵の友達、愛の部屋のベランダで発見された首吊り死体・・・と謎は存在するのですが、きちんと謎解きされていません。
というか、萌絵に「死」というものを深く考えさせるための添え物でしかないようです。

このシリーズは全編を通して、萌絵というフィルターを通して森先生の「死」に対する観念を語られているようで、それはそれで面白いのですが・・・、やっぱり森作品ということでどこかで理系ロジックの謎解きを期待してしまうので、物足りないさを感じてしまいました。
今後はS&M、V、四季シリーズに加え女王シリーズまで含めた壮大な物語が展開するようで今作はまだまだその序章でしかないようです。
真賀田四季と対峙させるため、萌絵を成長させるためのシリーズってこと?

登場人物も懐かしい人も多いのですが、Vシリーズを全部は読んでいないので、「この人だれだっけ?」という人も多く、ちょっと展開に付いていけなくなりそうです。

建築出身の森先生・・・結構身近に感じられて、大好きなんだけどなぁ。


January 15, 2007

Wii

Wiiを買いました。
金曜日にヨドバシアキバに立ち寄ったら、ちょうど入荷ところだったらしく、5分くらいウロウロしていたらWii購入の列が出来たので並んだら10分くらいで買えました。
・・・なんて書くととっても偶然運よく買えたみたいですが、実は前日の木曜日にも本屋に行くのにゲーム売り場の横を通った時に(ヨドバシアキバは6階がゲーム売り場で7階が本屋)Wii販売の列が出来始めてて、本屋での買い物が終わってもう一度通ったら完売してしまっていて、とぉ〜っても悔しかったので次の日も同じ時間に寄ってみたらちょうど入荷してたという訳です。
結構たくさん入荷されていたので、これから徐々に品薄も解消されるんじゃないですかね。

Wii本体は、相方への遅ればせながらのクリスマスプレゼントだったので、ソフトは取敢えず「はじめてのWii」だけ買いました。
後は好きなのを買ってくれ〜。
金曜日は重い荷物を持って帰るだけで精一杯だったけれど、土日でちょっとだけ遊びました。
まず、「似顔絵チャンネル」で自分のキャラクターを登録したんですが、自分の顔って難しい〜。
あんまり不細工なのもイヤだし、あんまり可愛くしても自意識過剰みたいで恥ずかしいし。
試行錯誤の上なんとなく出来ましたが、わたしというよりムーミンに出てくるチビのミィ?
このキャラクターでできるゲームもあるので楽しみです。
でも、わたし、対戦ゲームって超!苦手なんだよな・・・(トホホ)

January 14, 2007

『ダイニング・メッセージ』

愛川晶/光文社文庫


ダイニング・メッセージ

代理探偵根津愛シリーズの連作短編集。
父親譲りの料理上手で、合気道の有段者で、賢くて、超美少女の愛ちゃんが、父親の不在時に“キリンさん”こと桐野刑事の持ち込んだ事件の話を解決していまうというストーリーです。
今回は、第1話でキリンさんに美女とのお見合いが仕組まれ、彼女が以前体験したお見合いでの謎が披露されます。それを愛ちゃんが解くのですが・・・
それ以降の話でも、お見合い相手の彼女を軸に話が展開されます。

愛川さんの作品は、安心して読めるので好きです。
愛ちゃんは完璧な美少女のようで、情緒不安定になったりちょっと親しみやすいところがいいですね。
それよりもキリンさんに感情移入できてしまうのもポイント。
平凡なところ、気弱なところ、あぁ・・・わかる、わかる!という場面が多いので物語の中に入り込みやすいと思います。
愛ちゃんのことを大好きなキリンさんの気持ちがお見合い相手の彼女とであってどのように変わるのか・・・が読みどころです。
もちろんミステリとしての謎解きも秀逸で、すっかり謎解きが終わったと思ったら、またひっくり返されたりして、2度も3度もおいしい作品です。

各話の中心となっている料理もとてもおいしそうで、料理好きにもお勧めの一作です。



January 09, 2007

『僕と先輩のマジカル・ライフ』

はやみねかおる/角川文庫
僕と先輩のマジカル・ライフ

井上快人は、未だに夜9時に寝ることを頑なに守るカタブツ。幼馴染で霊能力者の春奈と共にこの春大学に合格した。
大学入学と同時に入居した家賃1万円の今川寮に住んでいたのは一風変わった人ばかり。その中でもとりわけ変人の先輩、長曽我部慎太郎になつかれてしまった快人は、だまされてあやしい研究会に入会してしまう。
身の回りに起こる「あやしい事件」に度々巻き込まれるが、そこには意外な真実があった・・・。

変人たちが織り成す日常の謎解き、はやみね節全快です。
結構、ハチャメチャな人物設定なのにすんなりとその世界に入っていけました。
人物に拒否反応が起きないのは登場人物は基本的にみんなイイヒトという、はやみね氏ならではの仕掛けのせいでしょうかね?

収録されている4編とも、面妖な事件と思っていたのに、蓋を開けてみれば超現実的な解釈が待ち受けていて、それを語るのがオカルト主義の長曽我部先輩だというのが面白かったです。
はやみね氏らしくジュブナイル・ミステリという感じなので、謎自体は難しくないのですが、ギャグかと思って読み飛ばした箇所までしっかり伏線になっているのには脱帽しました。
わたしが一番のお気に入りは第四話の「木霊」。事件の動機に脱力しました。

あとがきではやみね氏自身も書いてらっしゃいますが、続編を書くことを前提としていたようで、個々の事件は解決しても長曽我部先輩の謎は山積しているし、春奈の霊能力は全然活かされていません。
求む、続編。

January 08, 2007

『龍の館の秘密』

谷原秋桜子/東京創元社
龍の館の秘密

美波シリーズの第2弾。
今回は、前回のお詫びに、と武熊さんに紹介してもらったバイトは「立っているだけで2万円」という仕事。
でも現実はそんなに甘いはずも無く、またもや怪しい雲行き。
宴会の末、連れて行かれた京都のお屋敷で途方にくれる美波が出会ったのは親友・かのこだった。
ようやく人心地ついいたものの滞在することとなった通称「龍の館」で起きた殺人事件に巻き込まれ・・・。

本の冒頭に、「後半には重要な図案が含まれていますので不注意に開かないよう」という、ミステリ読みには垂涎ものの注意書きがあったのでかなり期待して読み始めました。
やっぱりライトノベルですね〜。
キャラクターものとしてはとっても読みやすいと思います。
前作よりも恋愛要素も多くなっていますし。
ミステリ主要なトリック部分はうまくできていたと思います。
アリバイトリックも秀逸!
伏線もきちんと張ってあって、それに気づけば犯人にたどり着くのは難しくはないですが、ヤマカンではないので満足感はありました。

でも、その事件自体にかかわるきっかけはちょっと強引?
今回のバイトはあまりにも「胡散臭い」ような気がするのですが・・・。いくら給料がよくても女子高生がホイホイっと受けるとは思えないんですがね。
修矢くんの介入の仕方も、せっかくの前半のお弁当云々の件がうまく活きてないように思うんですが・・・
残念!

ところで、このシリーズ何かに似ている・・・と思いながら読んでいたのですが、わかりました。
『心霊探偵八雲』に似ているんですね。内容が、ではなく美波と修矢の関係とか、表現とか。
“優しい目をして微笑んだ”とか、「陳腐な表現だな・・・」と思う一方、高尚な表現をされるよりわかりやすくて感情移入しやすいのかな?とも思ったりします。

次回作は完結編になるのかな?
美波と修矢の関係も気になりますが、モネとケンゾウも活躍しほしいですニャ。