2009年07月01日

はやみ甲DC夢組「鬼の末裔/ROSE DROP」

6月28日(日)、はやみ甲DC夢組「鬼の末裔/ROSE DROP」12:30公演を見た。


まずは簡単なあらすじから。

とある高校の伝説同好会部員風央宙良)と彼女の桃世まな)、そして新入部員の香奈子音羽柚里)は鬼を封印したという岩をさがして大江山に来る。その岩はあるはずのところに行ってもなかったり、また見つかったりという不思議なもので、鬼を封じ込め、鬼切の剣が突き刺さっているという。「1000年後に鬼の血を引くものだけが封印を解くことができる」というが、鬼一族は滅亡したため、誰も封印は解くことができない。3人は案内人の香奈メイコ)の先導で、岩をさがしに行く。

平安時代。都では陰陽師安倍雷光希望なつ紀)が帝の信頼を受け、権勢を振るっていた。雷光安倍晴明の孫だが、晴明ほどの力を持たない。呪の依頼は能力を持つ姉の紫苑香奈メイコ)がすべて代わりに引き受けていた。宮廷では藤原氏が力を持ち、学識で帝の信頼を受けている右大臣菅原道貴珠希星佳)をうとましく思っていた。藤原氏当主の奥方孝子みどり麗子)は雷光菅原道貴をなき者にするよう依頼する。

呪をうけ体調のすぐれない菅原道貴のために妹由紀姫芽映はるか)は供の桔梗花風ひかる)とともに大江山に薬草を摘みに来る。大江山には都から追われた鬼一族が住むという。足をくじいた由紀姫は「鬼」一族の北斗初瀬みき)と出逢う。「鬼」とは北方から流れ着いた異国人であり、北斗はその孫であった。

由紀姫北斗は惹かれ合い、恋に落ちる。そのことを知り道貴は反対するが、由紀姫の必死の訴えに心を動かされ、大江山に北斗を見極めにやってくる。そこで「鬼一族」の正体と、北斗の母が先代の帝の姫白羅麻乃いづみ)であることを知り、また北斗が信頼できる人物であると見てとり、二人の恋を祝福する。

一方、安倍雷光は能力に欠ける陰陽師であるというコンプレックスを強く持ち、功績を挙げるため、大江山の「鬼」を「鬼」ではないと知りながら、退治することをたくらむ。また北斗が式神と話せる力を持つことを知り、極限の怒り、悲しみを与えれば鬼に転化するとふみ、大江山に乗り込み「鬼一族」を闇討ちのもと、皆殺しにする。北斗雷光の目論見通り、激しい感情を抱き、鬼に転化した。そこを阿部一族の鬼切りの剣で押さえ込み、岩に封印したのであった。

由紀姫北斗の子を身ごもっていた。ことの経緯を知った由紀姫は、貴族との縁談をすすめ、北斗の子を生むことを決意する。そして千年後まで北斗の血をつなげ、封印を解くことを誓うのだった。

ところは変わって現代。は実は由紀姫北斗の子から続く「末裔」だった。北斗の血を引くものだけが封印を解くことができるため、千年経った今、封印の岩をさがしているのだった。とは雷光の姉の紫苑であり、その先導のもと、岩にたどり着いたは封印を解く。鬼として怒り狂う北斗に、は千年前に由紀姫が残した手紙を読み上げ、北斗は正気にもどる。由紀姫、北斗、白羅をはじめ鬼一族と大江山の住民は(あの世で?)安らかに暮らすのだった。


初瀬みきがいい。温和で包容力あふれるやさしい若者と、激しい感情が芽生えて鬼に転化する落差が、まさにこの人ならではのキャラクターだと思った。

はやみ甲の魅力はとにかく振付。勢いがあってキレがある振付(しかも群舞)は他の追随を許さない。今回も充分堪能した。あらゆるシーンで「呪のダンサー」「闇のダンサー」が踊るたび、場面が引き締まり、あらゆる感情が表現される。振付とその振付を生かすことのできる技術を養成されたダンサーたち。この武器がある限り、この劇団(?ユニット?とにかく「はやみ甲組」という他ない組織)の作品はある一定水準を保って、見る価値のあるものを作り上げるに違いない、という安定感がある。少しぐらいの脚本の不都合やつじつまのあわなさ、その他諸々の不具合など、そんなものは取るに足らないものだと思わせる迫力と、ねじ伏せる力圧倒的な力がある。

そのことを前提に、少し考えたことを書いてみる。

まず、一番気になったことは大江山という山の存在。普通、鬼伝説の大江山とは、天橋立の手前にある大江山のことだ。「大江山いくの(生野)の道の遠ければ まだふみも見ず天橋立」の大江山。ところがこの話に出てくる大江山は、由紀姫が気軽に薬草を摘みに行く場所にある。由紀姫道貴に反対され、必死の訴えをしたその夜にひとりで大江山に向かい、北斗に会いに来る。

実際の大江山と都との距離は、私の手持ちの地図で計ったところ85km。

85kmってどんな距離かというと、首都圏でいうと、やはり手持ちの地図で計ってみると東京から箱根山を越えて三島の手前。というとわかっていただけるだろうか。

貴族の姫が気軽に一日で行ける距離ではもちろんない。

はやみ甲の頭の中では、「大江山」は多分東山とか北山の感覚なんだろう。

(ところで検索すると「大江山」は京都市西京区の「大枝山」とする説もあるそうで、それだとかなりこの作品の距離感覚には近くなる。ただし「大江山から鉱物が見つかった」というセリフからはやはり「大江山」を想像してしまう。)

実ははやみ氏は、地理にはこだわらない方らしく、「エルドラド」という夢組結成直前の2004年の公演ではエルドラドの王がファラオになるという、アメリカ大陸とアフリカ大陸が結合する壮大なエンディングを作り上げた。…多分意図せずに。

その後2008年のJAAジャズダンスフェスティバルでは「ROAD OF エルドラド」というタイトルで紹「『エルドラド(黄金郷)』のダンスナンバーをリメイクしてアラビアンな世界を作ってみました」「アジアンビーム届け〜」という紹介文を寄せている。

そんなことはどうでもいいと思ってきた。多分はやみ甲自身もそう思っている。山だの国だの、そういうものはモチーフにすぎないから切り刻んで自分のイメージに合うように加工すればいい。圧倒的なダンスの振付と、ダンス技術と、表現力の前にはそんなものどうだっていい。実際、ねじ伏せられるだけのものは、はやみ甲とそのユニット「はやみ組」は持っている。

だけど、今回初めて思ったのは、この「ねじ伏せられる力」こそがはやみ甲作品の強みであると同時に実は弱点ではないのか、ということ。アメリカ大陸とアフリカ大陸は違うのだ。アジアも。

つまり、この地理の齟齬は単なる地理的な齟齬ではなく、いかにこのユニット作品がはやみ甲の独力で作り上げられているかということを表してるとはいえないだろうか。もちろんこの独力は尋常ではなく、スーパーなレベルの能力なので、このような見応えのある作品に仕上がっているのだが、そこに独力であるがゆえの限界があるのではないか。独力であるがゆえの美意識の統一性や、表現したいものを際だたせるポイントの絞り方などは確かに見事だと思う。しかし、それはすぐれた(スタッフワークの)共同作業の前では果たして、勝つのだろうか。

理論上は「すぐれた共同作業」が勝つと思う。だけど最近、「すぐれた共同作業」をあまり見てないからなあ・・・。(何か腰砕けになっちゃいますなあ。)

まあ、「夢組」は「夢組」で、どこにもない「はやみ甲的世界」を構築するために年1回公演してくれるのを楽しみにしているし、全然文句はないんだけど、要するに「振付師はやみ甲」としての特化した能力が生かされるような舞台を切に切にのぞんでいるわけです。「振付師はやみ甲」が突出しない、それに負けない他者の演出力と、その他のスタッフワークが噛み合う舞台が見てみたい。

OSK南座公演では「振付師はやみ甲」が久々に登場するけれども、どうなんだろうか。などと思ったわけです。ちゃんと活かしてくれればいいんだけどなあ・・・・。・・・・・・・。

さて。OSKの公式サイトが大幅にリニューアルされましたね。劇団員ブログですか。いいですね。手の内をどこまで見せるのかというのは難しい線引きではあるけれども、何でもかんでも秘密にしたり、ファンの前ではものを食べなかったりなんていうのはタカラヅカ独特のもので、本来OSK(松竹歌劇)っていうのは楽屋での取材なんかも気軽に受けているんですよね。昭和20年代は楽屋着の浴衣姿の写真なんかもファン雑誌にばんばん出てるし。「霧とロマンスのイメージ作り」などに頼らなくても、どんなに楽屋着をさらしても、技術(主にダンスですが)でもって夢を壊すようなことはしない、という気概をかつては持っていたはずで、そういうところはタカラヅカの真似をすることはないと思うんですね。だからこういう試みには「いにしえ探検隊員」としても大いに賛成いたします。

ただ、劇団員さんたちの負担にならなければいいのだけれど、という心配はしています。

さて、トップページにはっきりいって

不満です。

いいですよ。スワンレイクの写真、素晴らしいです。ガンとせまってくる迫力、これぞOSKと言ってもいいです。でも

高世麻央がいない

もん。いっても仕方ないんですけどね。あの景には高世貴公子は出てなかったから。だから中詰め(というとその用語はタカラヅカ用語だ、と指摘されちゃうんですが)じゃなかった、松竹的には洋ナカ、というんですか、とにかく真ん中の盛り上がる景に高世麻央を出さなかったのは間違いだというんですっ(涙)さめざめ・・・。

動画にも出てくるのは一瞬だし。

バランスとるために動画はもう一本アップして、それは

ラバーナ様特集

にしてください。あっ、水兵さんをまぜてくれてもいいよ。(だれも聞いていませんか、そうですか・・・)



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この記事へのコメント

1. Posted by kuko   2009年07月02日 10:18
 ご気分が優れないのに詳細なレポートを有り難うございます!
「鬼の末裔」はOSKの「闇の貴公子」を彷彿させる作品だと思っていましたので、内容的には面白い物だと思っておりました。 はやみ甲さんの世界は、チョット受け入れられない処も有りますが、振り付け師として物凄く好きです!! ちどりさんのおしゃるはやみ甲さんの独力による限界!分かる気がします。 舞台は色んな人の能力で出来上がっているのですから・・・!
東京公演は友人達を誘って、単純に楽しみたいと思っています!!
2. Posted by go×3OSK   2009年07月03日 02:21
おっかないのは嫌だし、初瀬さんは観たいし…う〜ん(悩)
団員さんのブログは…夜、寝られなくなりそうです。
3. Posted by ちどり   2009年07月03日 22:07
>kukoさん。それがねえ・・本来専門家による分業の方が単独の力には勝つはずなんですが・・・理論上は。最近、共同作業が噛み合っていると感じる舞台があまりなくて・・・。結果、はやみ氏のスーパー単独作業の方が共同作業にはるかに勝つという事態が多いですね。南座では噛み合った共同作業を切に期待したいです。

>go×3OSKさん。初瀬さんいいですよね〜。今回もいいですよ。はやみ甲作品の初瀬さんの役はあったくてさわやかなところが感じられる人物が多いです。そして鬼とか麻薬中毒者とか、人間離れしたものに陥る姿もおステキです。おっかなくても一度見てくださいね。

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