上海出張の機会を捉えて、『上海のお昼ご飯!』のふじもとさんと昼食を共にした。
場所は、ふじもとさんオススメの江南料理(上海料理)レストラン・『朵馥苑酒家』。
江南料理は酒のつまみになる涼菜(前菜)が充実しているので、敢えて涼菜メインの注文にして、
昼間から紹興酒をぐいぐいやろうという魂胆である。
テーブルが5つほどの小さな店ながら、テラス席もあるお洒落な作り。
清潔な真っ白のテーブルクロスや店員のきびきびした立ち振る舞いに、期待が高まる。
ガラス張りの店内には4月の柔らかな風と木漏れ日が差し込み、昼酒には絶好の雰囲気だ。
あれこれ悩んで注文を済ませ、古越龍山の8年もので乾杯すると、すぐに涼菜が運ばれてきた。
待たずにつまめるのが涼菜の良さだし、冷めるのを気にしなくていいので飲むのには都合がいい。
料理の感想を一言で言うなら、上品なのだけれど味のない薄味ではなく、
「この料理はこの味があってこそ」って部分をやり過ぎにならないギリギリまで攻める感じ。
ま、ここらへんの塩梅は人によりけりだから、要は僕の好みにぴったりってことなんだろうけど、
別の言い方をするなら「酒が旨くなる味」で、コップの紹興酒はどんどん水位を下げていく。
「こりゃいい店ですね。1人で来て、一杯やりながら冷菜だけつまんで帰ってもいい」と僕。
「そうなんですよ。ここのシェフは揚げ物だけはダメですが、他はどれもいいです。
それに、品書きになくても、季節ものを適当に作ってくれたりもします」
そう言うふじもとさんは、既に何度も通って全体の傾向まで掴んでいたのだった。
「何と言うこともない品ですが、ここのは旨いです」とふじもとさんが言った秘制醤黄瓜は、
確かに見た目は何の変哲もないキュウリの甘酢漬けで、特に江南料理とも言えないものだが、
甘さを恐れずつけた甘さが酢の酸味を上手く丸め込んで、「秘制」の名に恥じぬ味わいだ。
↓タレを吸ってしっとりしたキュウリの皮がポクポクとして旨い!
旬のタケノコを目当てに頼んだ涼拌双笋は、油と塩のバランスがいい。
双笋と言うからには2種類のタケノコが出るのかと思いきや、片方は緑のセルタス(窝笋)。
「なるほど、窝笋の『笋』だったわけですね」
「そういえば、セルタスも今が旬ですねえ」
小気味よくも微妙に異なる2つの食感が混じり合うのが楽しい。
色目も明るく鮮やかで、何とも春らしい爽やかな一品だ。
↓当たり前だけど、中華料理にだって「旬」はあるのだ!
定番・糖醋排骨(スペアリブの甘酢揚げ)がべらぼうに旨くて嬉しくなる。
黒酢をぐぐぐっと効かせていながらも、その酸味に尖ったところがまるでない。
その風味はあくまで柔らかく、下揚げした豚肉と旨みと溶け合って、噛むたびに美味しい。
この料理も列記とした涼菜で、冷ます過程で味が馴染んで美味しくなるのだ。
↓上海ならどの店にもある料理だが、それだけにレベルの高さが光る!
アヒルの卵を燻製にした熏鴨蛋は、この写真を載せておけばもう言葉は不要だろう。
鶏よりも濃厚なアヒルの卵が燻すことで更に風味を増して、喰ったら笑いがこみ上げてくる。
↓見よ、このトロリとした黄身!これに紹興酒を合わせるところを想像してくださいな!
どれもが見事に「酒の肴」。料理が「飲め飲め大いに飲め」と語りかけてくるようだ。
「紹興酒、もう1本いきましょう!これはもうやむを得ないですよ」
そういきり立つ僕にふじもとさんは笑って同意してくれて、目出度く2本目に突入した。
この店は熱菜(温かい料理)も実に美味で、咸菜黄魚脯はふじもとさんオススメの一品だ。
青菜の漬物とイシモチのとろみスープで、主な味付けは漬物の塩気だけだろう。
「これは酒が飲めるスープですね!漬物の料理って本当に偉大ですねえ」
「こういう料理は難しいんですよ。漬物の漬かり具合は毎日変わりますからね。
今日は少し塩辛いかもしれません。もう少し浅漬けのときの方が良かったです。
本当は漬かり具合を見て他の分量を変えるべきなんですが・・・」
「なるほど、分かる気はします。でもまあ、酒に合わせるならこれでもありですよ」
「酒があれば何でもいいんじゃないんですか?」
ぐは。最近は、すっかり僕の性根がバレてしまっている。。
↓たまらん!漬物が旨い店じゃないと、どうにもならない料理だ。
ふじもとさんには「本当はあと1、2カ月早い方がいいんですが」と言われたものの、
「上海でしか食べられないんで是非!」と押し切って頼んだのは、酒香草頭。
草頭とはクローバーのことで、クローバーを食べるの!?と思う人もいようが、
上海では極普通に食用されているもので、他の青菜にはないほろ苦さと香りが魅力だ。
特に草頭をジャッと炒めて白酒の香りを乗せた酒香草頭は上海時代の僕の大好物で、
これをほお張ると「上海の春」が口一杯に広がるような幸福感に包まれる。
「炒め方、いいですね!白酒と草頭の香りが混じった感じがたまらんのですよー」
「本当に好きなんやなあ(笑)」
最後は、ふじもとさんが「旨過ぎないところが今頼むにはいいかもしれない」と評した葱油拌面。
如何にもこの人らしい表現に思わず笑ってしまったが、現物を食べてみて納得。
確かに、この店より美味しい葱油拌面を探すのは難しくないだろう。
麺の専門店に行けば、葱をもっと香ばしく軽やかに揚げ、醤油と油の香りをぶわーんと立たせて、
「さあ、私をお食べなさい!」ってな感じに派手に仕上げたやつが、いくらでも食べられる。
ただ、そういう葱油拌面は、空腹時にそれだけを食べてこそ美味しいものなんだよな。
このときみたいに、さんざん飲み食いした後に〆として食べるには、
この店のちょいともそっとした地味な味わいが意外にハマッたのである。
考えてみると、ふじもとさんと外で中華料理を食べるのは初めてだったのだが、
厳しくも的確な中華料理の批評眼は、レストラン選びでも十全に発揮されていたのだった。
「いやあ、旨かったですねえ・・・!」
ふじもとさんの家で食後のプーアル茶を頂きながら、満たされた気持ちでため息をついた僕。
ここ数回の上海出張では接待で日本食ばっかり喰わされていたのだが、
その不満を補って余りある充実した一食となった。ふじもとさん、ありがとう!
■今日のお店■
『朵馥苑酒家』
住所:上海市昭化东路52号东方剑桥会所餐厅
電話:5237-1587
■今日の料理■
秘制酱黄瓜 mi4zhi4jiang4huang2gua1
凉拌双笋 liang1ban4shuan1sun3
糖醋排骨 tang2cu4pai2gu3
熏鸭蛋 xuan1ya1dan4
咸菜黄鱼脯 xian3cai4huang2yu2fu3
酒香草头 jiu3xiang1cao3tou2
葱油拌面 cong1you2ban4mian4
場所は、ふじもとさんオススメの江南料理(上海料理)レストラン・『朵馥苑酒家』。
江南料理は酒のつまみになる涼菜(前菜)が充実しているので、敢えて涼菜メインの注文にして、
昼間から紹興酒をぐいぐいやろうという魂胆である。
テーブルが5つほどの小さな店ながら、テラス席もあるお洒落な作り。
清潔な真っ白のテーブルクロスや店員のきびきびした立ち振る舞いに、期待が高まる。
ガラス張りの店内には4月の柔らかな風と木漏れ日が差し込み、昼酒には絶好の雰囲気だ。
あれこれ悩んで注文を済ませ、古越龍山の8年もので乾杯すると、すぐに涼菜が運ばれてきた。
待たずにつまめるのが涼菜の良さだし、冷めるのを気にしなくていいので飲むのには都合がいい。
料理の感想を一言で言うなら、上品なのだけれど味のない薄味ではなく、
「この料理はこの味があってこそ」って部分をやり過ぎにならないギリギリまで攻める感じ。
ま、ここらへんの塩梅は人によりけりだから、要は僕の好みにぴったりってことなんだろうけど、
別の言い方をするなら「酒が旨くなる味」で、コップの紹興酒はどんどん水位を下げていく。
「こりゃいい店ですね。1人で来て、一杯やりながら冷菜だけつまんで帰ってもいい」と僕。
「そうなんですよ。ここのシェフは揚げ物だけはダメですが、他はどれもいいです。
それに、品書きになくても、季節ものを適当に作ってくれたりもします」
そう言うふじもとさんは、既に何度も通って全体の傾向まで掴んでいたのだった。
「何と言うこともない品ですが、ここのは旨いです」とふじもとさんが言った秘制醤黄瓜は、
確かに見た目は何の変哲もないキュウリの甘酢漬けで、特に江南料理とも言えないものだが、
甘さを恐れずつけた甘さが酢の酸味を上手く丸め込んで、「秘制」の名に恥じぬ味わいだ。
↓タレを吸ってしっとりしたキュウリの皮がポクポクとして旨い!
旬のタケノコを目当てに頼んだ涼拌双笋は、油と塩のバランスがいい。
双笋と言うからには2種類のタケノコが出るのかと思いきや、片方は緑のセルタス(窝笋)。
「なるほど、窝笋の『笋』だったわけですね」
「そういえば、セルタスも今が旬ですねえ」
小気味よくも微妙に異なる2つの食感が混じり合うのが楽しい。
色目も明るく鮮やかで、何とも春らしい爽やかな一品だ。
↓当たり前だけど、中華料理にだって「旬」はあるのだ!
定番・糖醋排骨(スペアリブの甘酢揚げ)がべらぼうに旨くて嬉しくなる。
黒酢をぐぐぐっと効かせていながらも、その酸味に尖ったところがまるでない。
その風味はあくまで柔らかく、下揚げした豚肉と旨みと溶け合って、噛むたびに美味しい。
この料理も列記とした涼菜で、冷ます過程で味が馴染んで美味しくなるのだ。
↓上海ならどの店にもある料理だが、それだけにレベルの高さが光る!
アヒルの卵を燻製にした熏鴨蛋は、この写真を載せておけばもう言葉は不要だろう。
鶏よりも濃厚なアヒルの卵が燻すことで更に風味を増して、喰ったら笑いがこみ上げてくる。
↓見よ、このトロリとした黄身!これに紹興酒を合わせるところを想像してくださいな!
どれもが見事に「酒の肴」。料理が「飲め飲め大いに飲め」と語りかけてくるようだ。
「紹興酒、もう1本いきましょう!これはもうやむを得ないですよ」
そういきり立つ僕にふじもとさんは笑って同意してくれて、目出度く2本目に突入した。
この店は熱菜(温かい料理)も実に美味で、咸菜黄魚脯はふじもとさんオススメの一品だ。
青菜の漬物とイシモチのとろみスープで、主な味付けは漬物の塩気だけだろう。
「これは酒が飲めるスープですね!漬物の料理って本当に偉大ですねえ」
「こういう料理は難しいんですよ。漬物の漬かり具合は毎日変わりますからね。
今日は少し塩辛いかもしれません。もう少し浅漬けのときの方が良かったです。
本当は漬かり具合を見て他の分量を変えるべきなんですが・・・」
「なるほど、分かる気はします。でもまあ、酒に合わせるならこれでもありですよ」
「酒があれば何でもいいんじゃないんですか?」
ぐは。最近は、すっかり僕の性根がバレてしまっている。。
↓たまらん!漬物が旨い店じゃないと、どうにもならない料理だ。
ふじもとさんには「本当はあと1、2カ月早い方がいいんですが」と言われたものの、
「上海でしか食べられないんで是非!」と押し切って頼んだのは、酒香草頭。
草頭とはクローバーのことで、クローバーを食べるの!?と思う人もいようが、
上海では極普通に食用されているもので、他の青菜にはないほろ苦さと香りが魅力だ。
特に草頭をジャッと炒めて白酒の香りを乗せた酒香草頭は上海時代の僕の大好物で、
これをほお張ると「上海の春」が口一杯に広がるような幸福感に包まれる。
「炒め方、いいですね!白酒と草頭の香りが混じった感じがたまらんのですよー」
「本当に好きなんやなあ(笑)」
最後は、ふじもとさんが「旨過ぎないところが今頼むにはいいかもしれない」と評した葱油拌面。
如何にもこの人らしい表現に思わず笑ってしまったが、現物を食べてみて納得。
確かに、この店より美味しい葱油拌面を探すのは難しくないだろう。
麺の専門店に行けば、葱をもっと香ばしく軽やかに揚げ、醤油と油の香りをぶわーんと立たせて、
「さあ、私をお食べなさい!」ってな感じに派手に仕上げたやつが、いくらでも食べられる。
ただ、そういう葱油拌面は、空腹時にそれだけを食べてこそ美味しいものなんだよな。
このときみたいに、さんざん飲み食いした後に〆として食べるには、
この店のちょいともそっとした地味な味わいが意外にハマッたのである。
考えてみると、ふじもとさんと外で中華料理を食べるのは初めてだったのだが、
厳しくも的確な中華料理の批評眼は、レストラン選びでも十全に発揮されていたのだった。
「いやあ、旨かったですねえ・・・!」
ふじもとさんの家で食後のプーアル茶を頂きながら、満たされた気持ちでため息をついた僕。
ここ数回の上海出張では接待で日本食ばっかり喰わされていたのだが、
その不満を補って余りある充実した一食となった。ふじもとさん、ありがとう!
■今日のお店■
『朵馥苑酒家』
住所:上海市昭化东路52号东方剑桥会所餐厅
電話:5237-1587
■今日の料理■
秘制酱黄瓜 mi4zhi4jiang4huang2gua1
凉拌双笋 liang1ban4shuan1sun3
糖醋排骨 tang2cu4pai2gu3
熏鸭蛋 xuan1ya1dan4
咸菜黄鱼脯 xian3cai4huang2yu2fu3
酒香草头 jiu3xiang1cao3tou2
葱油拌面 cong1you2ban4mian4
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昨日ちょっと「中国事情」を聞かせていただいたN氏は、奥さんが上海にある日本料理店チェーンの共同経営者(中国の方です)らしいです。
「私は妻に会いに年に数回は上海に渡りますので、今度ご一緒しませんか?」ということだったので、行く気マンマンになっています。日本料理店に行く気はないですけど。
バブルが弾けても北京や上海は景気が悪くならないのに、なぜ深センなどの経済特区では倒産が続くのかなど、実に興味深い話でした。
こういうおいしい店があるのであれば、ますます行きたくなりますね。そしてついでに貴州にも!
ツアーでは決して美味しい中華料理を食べることはできませんから、是非是非その方といらっしゃることをオススメします!特にご友人の奥様が上海人ならば、心強いナビゲーターになりますね。
最近のレストランは幅広い需要に応えるため、○○料理屋と銘打っていても他地域の料理もたくさんメニューに載せてますので、どれが何料理か分かる人が注文をしないと、ピントを外したことになってしまうのです。
この記事の店は、知名度は低いと思いますが、いい店でした。貴州は・・・一回目では大変でしょうから、まずは上海を堪能されてください!
つぎはこれを揚州料理でやりましょう。
飲みましたねえ。あの日は、広州に帰るまでの時間がまるで飛行機がワープしたかのように感じました。
揚州料理、いいですねえ。5月に上海に行きますので、そのときにでも。