【や行】

October 15, 2008

容疑者Xの献身

西谷弘監督

ある冬の日。身元不明の死体が発見される。顔を潰され指も焼かれたその男は、しかしすぐに身元がわかる。容疑者として浮かび上がったのは、元妻・花岡靖子。彼女には鉄壁のアリバイがあった。さて、彼女の部屋の隣には、高校教師の石神という男が住んでいた。彼は草薙の同窓生で、つまりはガリレオこと天才物理学者・湯川の同級生にして、湯川が一目置く天才数学者でもあったのだ。

ミステリのオチって、知ってしまうと、心の底から楽しめないもので。

昔、誰かの4コマ漫画で、
「推理小説の犯人を喋って大ブーイング」というネタがあった。

わかる。とてもよくわかるー。
わたしも以前、新聞の書評を読んでたら、
未読の推理小説のオチが書かれていて、
クヌヤローと破り捨てたことがあったから。
(以来、映画も小説も、前情報はなるべくシャットアウトを心がけてますよ。まったく某新聞め!)

というわけで、原作既読組としては、どんなもんだろうかなーと思って臨んだこの映画。

ところが思ったよりずっと良かった。
じゅうぶん楽しめました。
もちろん落としどころは判っているのだけど(但し、読んで3年近く経ってるので細かな部分は忘れている)、
映像ならではの感情の揺さぶり方がうまい。
とある場所の天井で「四色問題」を考える石神、
そして警察署の玄関のシーンなど、かなり感動するつくりになってました。

まったくの白紙から物語に酔うということは出来なかったけど、
どの部分でどの伏線をどう演出するのか、など、別の眼で楽しめたので満足。

内容について書いちゃうと、ヒントになってしまうので割愛。

俳優については、とにかく堤真一の「惨めなオジサンぶり」演技がうまい。
プラス、北村一輝演じる草薙の出番がかなり多かったのでハナマル。
テレビ版のように、華を作るために設定を女性にしちゃう、という考え方もわからないでもないけど、
ここは「石神=花岡親子」の筋をメインにすべきでしょうから。

そうそう、本来のガリレオにおけるワトソン役は草薙なんだけど、
新刊で出る「聖女の救済」「ガリレオの苦悩」では内海薫が出てるそうで。(文藝春秋のサイト「倶楽部ガリレオ」より)


ちなみに、映画に同行した相方は、
「読んだかどうか、さっぱりわからない」と言ってたのだけど、
石神の通勤経路を見たとたん、トリックすべてを思い出したとか(笑)

たしかにあのシーンは長すぎたかも(爆)


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August 15, 2008

闇の子供たち

阪本順治監督

とあるタイの売春宿。そこで商品として扱われているのは、貧しい農村部から売られてきた幼児たち。しかしその店ではもうひとつ、別の商品も扱っている。
日本新聞社バンコク支社に勤務する南部がその情報を得たのは、「商品」を「買う」人間がいるという東京からの取材依頼だった。一方、日本で社会福祉を学んだ恵子は、タイでのNGO活動に身を投じている。南部は情報収集のなかで恵子の属するNGOと関わり……。

で、その商品とは……。(以下ネタバレ)
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July 31, 2007

夕凪の街 桜の国

佐々部清監督

原爆投下から13年後の広島で暮らす皆実と、彼女の姪で現在に生きる七波。50年の時を隔てても、そこに横たわる原爆の影。生き残ったことを負い目に思う皆実は、同僚に愛を告白されるがなかなか踏み込むことができず、そして運命が彼女を襲う。七波は活発な女性だが、しかし悲しい過去を持っていて……という話。
原作は、こうの史代による漫画。

うーん、ううーん、感想を書くのが辛いよ。

原爆そのものの衝撃、阿鼻叫喚をそのまま描くわけじゃなく、
そこからの「影響」を日常に忍び込ませて語ってる。
なんというか、ボディブローのように利いてくる話。

原作の漫画(第9回手塚治虫文化賞新生賞だそうだ)は読んでいないので、
原作者のアイディアなのか脚本家の案なのかわからないけど、
セリフがものすごいパワーを持ってるんですよ。

被爆して、でも生き残った彼女に、生き残ったことを申しわけなく思う彼女に、
「生きとってくれてありがとう」という(想い人の)男。
男のセリフは、まあ、予想範囲だと思うよ。

でもその後が怖い。

「原爆を落とした人は、(13年後に原爆症で逝く自分を見て)
 やった、またひとり殺してやったー、て、ちゃんと思うとる?」

どこからこんなセリフ、思いついたんだろう。


戦争なんて、どんな美辞麗句を尽くしたって、
単なる殺し合いだって、思う。思わせる。

こんなメガトン級のセリフがあると、それだけで参ってしまいますよ。


ってまあ、これだけで終わると本当に辛いので、ちょっとだけ笑った話。
「打越」という青年(吉沢悠)が50年前と現在に出てくるんだけど、
50年前に「お父さんに似てるから、将来、禿げるかもね」と言われるんだよね。
で、50年後の現在(田山涼成)。
……ちゃんと禿げてました。スバラシイ!


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July 08, 2007

46億年の恋

三池崇史監督

刑務所で起こったひとつの殺人事件。殺された男・香月は荒くれで幾多の犯罪に関わってきた。殺した……とみえた男・有吉は初犯。勤めていたゲイバーで客の男から性的暴行を受け殺人を犯した人間。同日に入所した対照的なふたりだが、むしろ気弱な有吉を香月は庇っていたのだった。

舞台風のセットの中で語られていくふたりの絡み合い。
純愛っぽいBLモノですね。
ふたり主演の安藤政信(香月)、松田龍平(有吉)ともに美しい。

でまた、衣装がステキ。北村道子。
囚人服の設定なんだけど、グランジでセクシー。
彼女の衣装は黒沢清監督や浅野忠信などとも相性がいいのだけど、
松田龍平も凄く似合ってる。
(って、前もIZOの感想で書いたっけ。恋の門も彼女だったような)

美しい(刑務所だけど)舞台で、美しい男の切ない恋心が行き場なくさまよってしまう話。
有吉のとった行動が悲しいですね。
まあ、ミステリ的な部分にひねりがないので
BLがダメなヒトには全然ダメだろうけどね(笑)


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July 07, 2007

不良少年(ヤンキー)の夢

花堂純次監督

居場所をなくした不良少年が、北海道の高校に転入する。そこは廃校寸前だったが、全国から不良や不登校の生徒を集めることによって、生き残りを賭ける学校だった。熱い教師や暖かな地域の人々に、不良少年たちは癒されていく……という話。

松山ケンイチ初主演作というふれ込みで、スカパーで放映していましたので、観てみました。

不良>>周囲の救いなし>>疎外感>>最後の求め>>北の大地>>暖かな人々>>ひねて反発>>リンチにシカト>>さまざまに学園生活>>ゆっくりと培われる仲間意識>>揺さぶられる心>>気持ちの転換>>俺もやれる>>やれるんだ。おおおーーーっ!
という、爆笑もののパターンでしたね。古っ! 浅っ!

正直これが2005年製作だってことに驚きました。
いや、舞台が88年だってことは最初にでてましたけど、しかし。
いまさら、そんな黴の生えたパターン話を誰に見せたいんだろう?
なんたって、不良少年たちが奏でる歌が、尾崎豊だよ。ブルーハーツだよ。
あうー、どっちも好きなんだよー。
好きなだけに、そういう「ここで使えば盛り上がるはず」ってひねりのない使い方、かんべんしてほしいですよ!(山下監督の「リンダ×3」などはひねってるから許せる)

加えて、各エピソードがとびとびで、
感情の流れも、「こういうエピソードがあるんだから、当然、こういう気持ちになるはず」という、観客におもねた展開。(ただし、エンドロールの動画から、撮影から編集までの間にカットされていた様子が伺える。脚本より編集の問題??)

ともあれ、松山ケンイチ主演という以外になんの魅力もない映画でした。
なんで高校生も20代の教師も、おなじよーに自然体なんだろ、このひと。つかめない役者だなあ。
カメレオン役者という言葉はよくあるけれど、
それを通りこして「色」どころか形も変える「変体役者」かもしれん。(変態じゃないですからね、念のため!)

最後に、エンドロール見て、「え??」

ああ、あの先生の自伝映画でしたか。なるほど。ってことは実話ですか? あれもこれも実話だといわれると、はあ、そうですか。と言うしかありません。
実話の映画化って、むずかしい。
道徳の時間に見せればウケるかもねって感じですが、エンターテインメントとしては古いストーリー展開ですわ。


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February 18, 2007

ユメ十夜

夏目漱石原作の、「こんな夢を見た」で始まる「夢十夜」10編を、別々の監督が個性豊かに仕上げたオムニバス映画。

なんせ10作品ですから。
合う映画もあれば??な映画も。

それぞれの監督がそれぞれの「一夜の夢」をどう解釈したのかが、楽しみどころでしょうか。
原作を読んだのは相当前なので、細かいところまでは覚えてないのだけど、かなりアレンジがされている模様です。
漱石がこれを書いたのが100年前で、理解されずに酷評されたため、「100年経てばわかる!」といったそうです。が、少なくとも私にはよくわからないままやわ(苦笑)

一部上映館では、旧札(漱石札)を持っていったら、1000円で観られるとありました。
レディスディに行ったので、野口英世のブロマイド一枚で観られましたが。

第一夜
実相寺監督お得意の「舞台風」演出が美しい。小泉今日子が老けてるのはわざと?

第二夜
原作の、悟れずにじっとりと汗がにじんでくる様子が、いまひとつ表現できてなかったような気がする。

第三夜
原作もホラーです。一番記憶に残ってて、原作の中で一番好きな話。
映画は夢と現実が交差する様子がプラスされてて、よりエンターテインメント。本当に七人目の子どもは亡くなったんですか??

第四夜
ハーメルンの笛吹きみたいな印象が(原作には)あった。
風景とか時代とかごった煮になってるところがいいですねー。どーでもいいけど、漱石はペンネームなので金之助と呼びかけて欲しかった。

第五夜
愛しい男の元に駆ける女と天探女と、そして夫と、関係がリンクしてるのが面白い。
けど、……よくわかんない。

第六夜
とっくの昔に死んでるはずの運慶が仁王を彫る様子を(漱石が)見物に行く話。たしか原作でも鎌倉時代と明治時代が混在していることを、漱石も夢とはいえ不思議がっていた。だからここに、さらに現代ネット用語を混在させ、そのうえ漱石お得意の英語の字幕を付けるってのは、正しい演出かも。(そういえば漱石は造語を作ってたって話だし、今生きてたら2ちゃん用語を操ってたかも)
ビートに溢れる「いまどき感」強い話。落ちも最高。

第七夜
これだけアニメ作品なのは、まるで「ZOO」のオムニバスだなあ、なんて思った。
虚無感の強い話だったけど、ラストの印象がまったく逆。

第八夜
正直、わかりませんでした。
色んなヒトが「漱石」を演じていたこのオムニバス映画だったけど、一番違和感あるぞ、藤岡弘、は。

第九夜
お百度を踏んで夫の帰りを子どもとともに待つ女。しかしそのとき、既に夫は死んでいた。
というのが100年前の悲しい話。
今現代の、悲しい話は、そのとき夫は別の女の元にいる、という落ちなんですね。
緒川たまきのじっとりした色気と狂気がすてき。

第十夜
女にふらふら着いて行ったら、山で豚に襲われたという話。
田舎モノのわたしは、原作を読んだときに、脳内で勝手に「豚=猪」に置き換えてました。だって、うちの実家にはいるんだもんさ、山に猪。遭ったことはないけど。
それはさておき、ちょいと「チャーリーとチョコレート工場」が入ってて、グロくてナンセンスで可愛くて(松山ケンイチと本上まなみが)、終わりをしめくくるに相応しい一編でした。

好みは、第三夜、第六夜、第十夜。


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August 17, 2006

ユナイテッド93

ポール・グリーングラス監督

その日。2001年、9月11日、午前。アメリカで4機の飛行機がハイジャックされ、目標地点に向けて突撃をかけた。しかし、ユナイテッド航空93便だけは、目標地ではないところにおちていた。そのときなにが起こっていたのか……。

そのとき。自分は。
別に見るTVもないしな……と、ニュースステーションをだらけて見ていたんじゃないかな。記憶がはっきりしないけど、一つめのアメリカン航空11便が突っ込んだ後の映像をいきなり見せられて、え?? と感じたような気がする。
たしかこの映画でもあったように、最初は民間の飛行機がぶつかったようには報道されてなかった。そして番組が終わりかけた頃だったか、チャンネルを切り替えた後のニュース23だったか、もうひとつの塔に、二つめの、ユナイテッド航空の175便がぶつかって炎を上げた……ような気がする。その後のニュースは推論ばかりで、ずっとは見ていられずに寝てしまったのだけど。

そのとき。
フライト時間から遅れて飛び立ったユナイテッド航空93便でなにが起きていたのか。管制センターや、軍や、いろいろなところで(<すいません、公式サイトが見れなくて記憶だけです)、ひとりひとりがどう感じて行動したのか。

エンドロールを見てる限り、「AS HIMSELF(本人出演)」という方が何人かいて、また、以前に観た、93便に乗っていた家族の人が証言するルポ番組(墜落前の便から電話がかかってきたらしい。留守電に本人の声が残っているのも聞いた)から考えても、想像の入る部分はあるとはいえ、かなり事実に忠実に描かれた映画なのでしょうね。

そのとき起こったこと。選択した行動。それ自体に、そとにいる私が感想を挟む余地はないように思う。
それぞれが、それぞれなりに最善の道と信じて、必死に動いたのだろうと思う。
あえて、乗客の彼らをただのヒーローにはしない、ドラマチックな演出を避けるかのような構成に、
単なる歴史の「ある日」にしてはいけない、物語のひとつにしてはいけない、という製作者の意図を感じました。

テロリストたちも、乗客たちも、飛行機が落ちるその寸前にそれぞれの神に祈っていたのが印象的でしたね。
テロリストはとても敬虔な信者として描かれています。そしてその思いに殉ずるために行動を起こしたかのように。
他人を犠牲にすることが、どうしてその神のため、宗教に殉ずることになるのか、私にはどうにも不思議でなりません。理屈はわかるけど、感情がついていけない。
八百万の神がおわす日本に、平和なこの時代に生まれた、ぼよーんとした人間だからでしょうね。
でも、彼らがそう考えてしまう、教えられてしまう、追い込まれてしまう理由を考えると、哀しくも感じます。宗教だけでない、圧力とか貧困とか差別などもあるんでしょう。

当時のことを思い出そうと思って、以前の日記(主に12日から14日が該当部分)を読んだけど、
あのころも「彼らが理解できない」って書いてました。
もやもやとした「納得できないこと」を、抱えたまま覚えておきたいとも思ってます。


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August 05, 2006

ゆれる

弟・猛は東京で写真家として成功している。兄・稔は地元で家業を継いでいる。
女出入りの激しい弟。地方という要因もあり、30半ばにして嫁もない兄。
母の一周忌で帰郷した弟は、兄の思い人・智恵子に手を出す。そして三人が遊びに行った渓谷で、智恵子は吊橋から落ちる。そばにいたのは兄。はたして事故なのか殺人なのか。

映画以外の情報を入れたくなかったし、記事にもメディアにも目を通してなかったので
(そしてサイトは、うちの98頭脳では見れないのねえ(笑))
映画本編を予備知識なく観ることができ、大変楽しませていただきました。

いや、これ、すごいわ。
映画ならではの、映像ならではの作品だと感じました。
語られるものが「言葉」じゃなく「仕草」「映像」なんです。
どうやら小説版を監督自らが書かれているようす、……ですが、私はしばらく封印したいな。(興味はあるけど)
映画として、ビジュアルとして、この余韻をもうしばらく楽しみたい。

猛が、母親の一周忌のために東京から故郷に帰っていくシーン、稔のGSに寄るシーンでまずやられました。

東京で成功した自分を誇示したくて、胸張ってGSに入った猛。
けれど、幼馴染で過去になにかがあった女性(智恵子)がフロントガラスに見えると、サングラスをかける。
灰皿を返されなかったこと(<後からわかることだけど)にも気づかないほどの動揺が。
一方女性のほうも、声で彼だとわかる。ウインドウを叩こうとしてタイミングがあわず、サイドミラーに映るなにか言いたげな女性の顔。それを無視して走る車。
わー、このシーンだけで、猛のプライドの高さと屈折、智恵子の一歩を踏み出せない暗めの性格が透けて見えるよ。

その後も、あれもこれもと気持ちを掻き乱す映像の連続で、うならされました。
稔のズボンに落ちる日本酒のしずく、忙しいといいながら、法事の後処理をこなす甲斐甲斐しさ。
智恵子は更衣室の鏡を見る。車内でもぎこちない。化粧っけのないその日の自分に、田舎で暮らす自分に自信がない。しかし、一方で行為が終わった後に嫌らしいほどの馴れ馴れしさを見せる。
そして猛のワガママなことといったら。彼女の部屋で自分の写真集を目にした途端に気持ちは萎える。やばい女に手を出しちゃったと思ったことが、ありありと感じ取れる。猛は終始、保身に流れている。なにかしらの責任から逃げている。女性関係、故郷、家。重いものには背を向ける。

そのすぐ後のシーンもいいんですよね。
洗濯物をたたんでいる兄の、背中と首筋。ぞわぞわします。あ、こいつは「気づいてる」と観客にはわかる。嘘をついて、フリをして生活している人だとつきつけられる。
酒に強いか弱いかの前に、匂いでわかってるはずなんだよね。
チェーンの居酒屋の匂いと、シャワーを浴びたあとの匂いって、……もう、全然違うから(笑)。
そして、その後に畳み掛ける「風呂は?」の台詞。
ぞっとしました。

……って話を続けるとどれだけかかるかわからないので以下略。

ともかく、兄弟の確執や心に秘めたものが、シーンごとに浮き上がってきて只者でない!
のです。

ってわけで、割愛してキモ部分の解釈。
事件のなりたちや、兄弟の心のうちは、観る人によって解釈が違ってきそうですね。
一回目を観終わった今の自分なりの答えですが…………以下ネタバレ↓↓続きを読む

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July 15, 2006

やわらかい生活

廣木隆一監督

バリキャリだった優子は人生の底に落ちた。精神に捻挫を負い、薬が手放せない毎日。だがそれをそのまま受け入れようという気分もあったのか、蒲田という「粋」のない下町に移り住む。やりたいことだけやって生きてみるために。そして出会い、再会もする幾人かの男たち……という話。

話の骨子は単純だけど、風景の妙とか、各キャラとか、ちりばめられているもののセンスがよくて、それがいい味を出してます。
孤独な優子が出会うさまざまな出来事や、人とやわらかに触れあうそのここちなどは、まあ、普通に面白く、女の人に受けそうね。という感想。

しかしなによりも、この映画の収穫はトヨエツ!! 

今まで、それほど凄い役者さんというイメージは持ってなかったんですよ。すいません。
あまりTVドラマを観ないので「愛しているといってくれ」も「弁護士のくず」も観ておらず、認識不足は承知してるんですが。
「妖怪大戦争」の加藤、「疾走」の神父様、「日本沈没」の田所博士など、
それぞれ巧く、しっかりとはまってはいるんだけど(<もちろんそれは達者だからできることですが)、
自分の中での彼は、物語のファクターとして綺麗に機能する人という位置だったのです。
与えられたものは充分にできているけれど、
そこから突き出るほどの、役をはみ出して話の印象を変えてしまうほどの、
もっとあおるなら、彼の演技があったからこそこの映画が面白いとまで思えるほどの、
大きな存在ではなかったのですね。
「きらきらひかる」の、医師でゲイで偽装結婚する男(名前忘れました)は好きなのですが、それでも、美青年でエリートっぽい見かけと相まって、上手いな、見事に収まってるな、という印象でした。
「12人の優しい日本人」も、役者役だし、あの話ははみ出しては反って拙いでしょう。

そこでこれだ。
副主人公だからこそ多くのスポットライトがあてられていたのだけど、
でも、役柄の中の役を演じているのではなく、「役」から「人」が滲み出してましたね。
あの役がトヨエツでなかったら、きっと印象は違ってました。

「40にして惑う!」と映画の中でも言ってましたが、
40「にして」じゃないだろ、あんた40までずーと、ふいたかふーたか生きてきてその始末なんだろ? ホンマだいじょうぶか?
と思わせるダメっぷりが、仕草や表情に表れてましたね。
福岡の田舎で派手な外車乗って、イカした服着て、仕事にかこつけてできちゃった結婚した奥さんと家庭を省みず、別居して、女作って、店潰して、逃げた女に「ついてきた」つもりで入れてもらえず、従妹の家に転がり込む。
田んぼのまんなかでスカイブルーの車走らせてるところで、また、東京にその車で出てきたところで、
彼の背負ってきたもの(というよりも背負わなかったもの)が見えてきて、お見事、と感じました。
しかし主人公・優子に見せるさまざまな優しさや甲斐甲斐しさ、親の死の話をしている時の様子は、しっかりと地に足がついているようにも思わされます。
その、ダメ男ぶりとの落差が、不自然ではなく地続きのものとして、
トヨエツは巧く埋めていました。

そして、
困ってしまった時の顔、言い辛いことを言う時の顔や間が、なによりよかったですね。
カッコつける顔、怒った顔、そういうはっきりした顔って、誰でも上手にできるのだけど、
正か負かのどちらかに触れかかる微妙なあたりって、幅が出るように思います。
過去のある真実を告白された時、胸を見せられた時、最後に車の中で帰ると言った時。
どれも、頭の中に一瞬で回り巡るごちゃまぜの感情が、そのまま観るものに手渡されたようでした。

えー、というわけで、これからちゃんと注目していきます。


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June 08, 2006

雪に願うこと

根岸吉太郎監督

帯広ばんえい競馬場。東京での事業を失敗した青年は、捨てたはずの故郷に逃げ帰り、調教師の兄を訪ねた。厩舎での労働、潰される予定の馬、様々な人との出会い。青年はやがてゆっくりと変化していく……という話。

というストーリー紹介から、誰もが予想するだろう範囲内の展開でした。

だから、すごーく心揺さぶられたとか、すごーく興味深いとか、そういう映画ではないんですけど。

けれどとても丁寧でした。風景や、各キャラクターや、時間の流れが。

なにより感動したのは、馬です! 馬!
サラブレットじゃなくて、身体のごつい、足も尻も顔もでかい馬。農耕場・荷役馬が元だったようですね。その馬で競馬をするとのこと。
そんな「ばんば」が、
土に足を取られながらも一歩ずつ、力強く歩いていく。
障害(上り坂)がつくってあって、そこで皆がそれぞれに戸惑う。駆
け上がれなくて止まってしまう馬。頂点の手前でにっちもさっちもいかなくなる馬。周囲の馬の様子に焦る馬。もちろん一気に駆け上がる馬もいる。
……多分、人生を投影してるんでしょうね。

スポットライトの当たるレースの時はもちろんだけど、早朝の情景もすばらしいです。
日の昇る前の、青い空気の中。周囲の気温と馬や人の出す温かみとの差が生み出した蒸気が、もやのように漂う。
幻想的なシーンでした。

佐藤浩市ほか、各キャストの表情もよかったです。

ばんばそのものの力強い兄役、佐藤浩市。覚悟や意志が確固としている顔つき。先日観た「陽気な……」とはまったく違う面を見せています。
対する弟は、都会のにおいをひきずっている薄っぺらい男。伊勢谷友介。骨太な世界に身をうずめるわけではないのだけど、彼の世界のなかで、再起へと一歩を踏み出していきます。
吹石一恵の馬を操る顔もよかったです。とても凛々しい。
そしていろんなものを身のうちに取り込みながらも、笑顔を見せる小泉今日子。

話の内容が地味だからこそ、俳優の力量が問われるタイプの映画だったと思います。


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May 24, 2006

陽気なギャングが地球を回す

前田哲監督

嘘を見抜く男、成瀬。演説の天才、響野。動物好きのスリの名人、久遠。体内時計を持つ女、雪子。銀行強盗事件の被害者として偶然出あった4人は、よりスマートな銀行強盗を計画する。ロマンを求めて。無事成功を迎えたミッションだが、その後……。

楽しい!! 粋!
92分という、つっぱしってサクっと終わる短い尺だったのもいいですね。
うさんくさいキャラによる、うさんくさくもオシャレな物語。

冒頭からかなりオーバーなエピソードが並んでますが、
その「ありえんだろ」が実に楽しい。
カーチェイスシーンとかファッションとかタイトルバックとか、
ちょっとアニメっぽさを意識してるのかな?
「ルパン三世」のようなノリを感じました。
今の日本でこんなネアカな銀行強盗、いますか?
リアリティを求めるものではないのだから、とことん楽しまなきゃね。

そういえば、原作者・伊坂幸太郎が新刊「終末のフール」のあとがきでこう書いています。(現時点での新刊は、「陽気な……」の続編のようですが)
「フィクションは嘘が多くても、楽しい」
本映画は、原作とは違うところが多々あるのだけど、
そんなノリや方針は共通してるように感じます。
(「陽気」のあとがきでも90分くらいの映画が好きってありましたね。
 ちょうどいい時間に収めてあるようです。
……あまり頭を使わないで済む内容も好ましいとか、も)

とにかくキャラがいいですわ。
なにより響野がいいですわ。
原作はクールな成瀬がお気にでしたが、
映画版はだんぜん響野、響野です!!
でたらめばかりを喋る様子、金髪アロハという外見、
佐藤浩市、この、人をくった怪しげなキャラに見事にはまってます。

彼の口癖、「ロマンはどこだ」
ロマン。
夢・そして冒険に満ちた事柄。
たっぷり溢れてました。
……ま、ロマンスは要らんかったように思いますが(笑)

最後に、
響野も言ってましたが、映画の終わりはどこかというと、明るくなる直前です。
「キリン」に関するクイズの答えが提示されるので、ラストのラストまで座っていた方がいいですよ。


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March 08, 2006

四日間の奇蹟

佐々部清監督

不慮の事故で指が動かなくなった青年ピアニスト。一方、彼が救った心を閉ざした少女はサヴァン症候群らしくピアノの天賦の才を持つ。二人で慰問の旅をしつつも自分の心は癒せずにいた青年。ある日訪れた脳疾患の患者をケアする施設で、ひとりの女性と出会う。演奏会が終わり突然の事故が起き……という話。

原作もDVDも、でてずいぶん経ちますし、ネタバレしていいですかね。↓↓
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March 02, 2006

夢のチョコレート工場

メル・スチュアート監督 (製作:1971年アメリカ)

「チャーリーとチョコレート工場」に先んじて作られた30数年前の映画。
基本的には同じ……って、原作ものだからあたりまえだけど。
ラストは割とシンプルでした。
ウィンカ氏の裏事情(?)がなかった。
やや教育的な雰囲気は漂うなあ。

30数年前の映画なのかあ。

当然、CGなんてないです。
ないけど、工場内の不思議な世界とか例のウンパルンパなオジサンのダンス&ミュージックとか
(別人に同じメイクして、キモカワ系のダンスをしてるんすよ)
と〜っても魅力的な映像。

もちろんCGがある分、
そしてキャラの濃さの分、
ティム・バートンの映画の方が、華やかで空想的で、
並べてみれば、後者の方が今の子供たちにはうけると思う。ずっとね。
でも映画という別世界が見せてくれる想像力のすごさって、それに驚く気持ちって、
いつの時代でも変わらないんだろうな。
視聴した当時の子供たちは、きっとワクワクしたことだろうな。(日本で公開してたかどうかは知りませんが)

大人になって、色々なマジックの裏側を知ってしまったけど、
ファーストコンタクトの感動は忘れたくないなあ、
……なんて、映画とは違うことを思ってしまったのでした。


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February 16, 2006

夢の中へ

園子温監督

芽の出ない俳優、スズキ(32歳)。小劇団の宴会に参加し、愛人とケンカ別れし、同棲相手との仲も怪しくなり、自堕落な生活を続けている。
そんな彼がたびたび見る不思議な夢。俳優のはずの自分が、刑事に取り調べられている容疑者だったり、テロリストだったりする。やがて彼は、どれが夢でどれが現実かわからなくなり……。

痛いけど、共感できる映画でした。

スズキは三つの人生の間を行き来します。
それぞれの人生すべてに、旧友や同棲相手や親が登場。
なにがなんだかわからなくなってくるけれど、でも、
もしかしたらあったかもしれない別の世界をイメージしてます。

――今の自分になるまでの間に様々な選択肢があった。それをチョイスしてきたのは自分じゃない。金星人だ。
彼が演じるだろう芝居のセリフ(意訳)です。

どうして自分は今ここにいるのか、自分は正しい道を歩いているのか。
金星人という、なにか別の力が、自分を間違った場所に追い込んだのではないのか。
役者の道をこのまま進んで、はたして今後の展開はあるのか。
しかし別の道を行くほど、もう若くない自分。

そんな抜き差しならない気持ち、追い込まれてどうしようもない叫びが、
おまえはどうよ、おまえは自分で人生を選び取ったのかよと、
観るものにも刃を突きつけてきます。
……そう感じてしまいます。

スズキの三つの人生で、登場人物たちも2つから3つの役を演じてました。
同級生役の、村上淳&オダギリジョー、振り幅大きくて面白かったっすよ。


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September 26, 2005

予言

鶴田法男監督

原作の恐怖新聞を読んでいないので、
元ネタは基本(未来のことが書かれた新聞が届くが、その代わり寿命が縮まる)しか知らないけど、
この映画はあまり面白くなかったですね。

原因、結果、法則。
それらの整合性が、なさすぎて。

もちろん、理由が明白すぎると、
太陽の元にいる幽霊みたいに怖さを感じないってことがあるんだけど、
なんでもありではちょっとねー。

ラストも変に救いを持たせないで欲しかったな。

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August 21, 2005

妖怪大戦争

三池崇史監督

忌野清志郎、最高!
彼の歌声だからこそ、あのオチが響いてくるのでしょう。
世界に平和を。

トヨエツの加藤保憲。
嶋田久作の『帝都物語』があまりのインパクトだったので、
「加藤」は彼以外にイメージできなかったのですが。
また、最初のシーンの顔がデカすぎて
『キューティハニー』での手塚眞のように見えて
しばらくノレなかったのですが。
でもトヨエツだからこそ、あのオチが綺麗に着地するのでしょう。
……嶋田久作じゃ浮いてしまうし。
改めてトヨエツの奥深さを感じました。
世界に平和を。

なぜかエロとか、いきなりシュールとか、とんでも破壊力とか、
そういう三池監督っぽさは残したまま、
適度にソフトになってましたね。
その分、話はスピード感に欠けて、展開に締まりがなかったけど、
大人版・妖怪大戦争めいた『以蔵―IZO』より全然判り易い。グロくもない。

希望を言うなら、
あの後、妖怪音頭でも踊って欲しいところです。
ミュージカル仕立ての『カタクリ家の幸福』のように。
当然ボーカルはキヨシロさまですよ。他にいませんよ。拳、つきあげます。<いや、それは盆踊りじゃないよ

ああ、もう、この映画は忌野清志郎に尽きます。
ラヴ! ラヴ! ラヴ&ピース!!







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