前回の記事で、日本人の肥満率は先進国の中では断トツに低いと書きましたが、実は、アメリカやオーストラリアなどの白人より肥満になりやすいんです。

 

現在、基礎代謝量に影響する肥満関連遺伝子は10種類あることがわかっており、特徴的なものとして次の3つがあります (タニタ, 2013)[ 注:下記3つの遺伝子はタニタのページからコピペしていますが、各遺伝子自体は誰でも持っていて、その変容したものが肥満に関係するということです。タニタさん、誤解を生まない言い方に変えてください。]


●β3アドレナリン受容体遺伝子(β3AR
・日本人の34が保有し、基礎代謝が1日200kcal低い
お腹周りが太っており、糖質の代謝が悪い
・糖尿病、高脂血症、脂肪肝に注意

●アンカップリングプロテイン遺伝子(UCP-1
・日本人の25が保有し、基礎代謝が1日100kcal低い
下半身が太っており、脂肪の代謝が悪い、痩せにくい
・がん、女性は子宮関係の病気に要注意

●β2アドレナリン受容体遺伝子(β2AR
・日本人の16%が保有し、基礎代謝が1日200kcal高い、逆肥満遺伝子
・ほっそりとしており、筋肉がつきにくい。
・心臓病、うつ病、低血圧などに注意

 

これらの遺伝子に異常があると、それぞれ太りやすかったり、太りにくかったりします。

飽食の時代にあっては、この痩せやすい遺伝子が変異している人を羨むことが多いようですが、痩せすぎてもいろんな病気を引き起こしますし、減量ダイエットが流行る中「太れない」という悩みを理解してもらうのはなかなか困難です。

また、日本人の3人に1人がβ3AR、4人に1人がUCP-1の変異体を持っており、肥満症に陥ってしまったときに,減量の難しい人が多いことが問題となっています。

 

京都府立医科大学病院教授の吉田医師は、日経サイエンスの記事の中で次のように述べています。

日本人は高度肥満になる前に糖尿病などを発病してしまうので、高度肥満になる時間的余裕がないのだ。日本人は肥満に弱く、健康な肥満になりにくいと言い換えてもよい。白人ではBMI25以上になっても、それほど深刻な状態にはならないことが多いが、日本人ではそうはいかない。

だから、日本人には200kgを超えるような高度肥満の人が少ないんですね。
obese people
source: イギリスの番組 “Supersize vs Superskinny” より

 

さらに吉田氏は、

肥満症の治療では,食事療法を続けられずにドロップアウトする患者が非常に多く,またせっかく減量してもその体重を維持できない場合が多い。臨床医として多くの肥満症患者を診ている経験からすると,遺伝的な体質を本人に知ってもらった上で減量計画を立てた方が成功する率も高く,その後も維持しやすい。

と主張しています。

肥満症の治療を受ける人や肥満で悩んでいる人は、遺伝子検査を受けて、まず自分の体について知るのもいい手ですね。ただし、肥満遺伝子の検査は大きな病院など、限られた所でしか出来ないそうです。

 

ところで、肥満遺伝子を持っていると、どういう具合に肥満に陥ってしまうのでしょうか?

某大学病院の医師によると、

通常では、身体活動や精神的な興奮によって交感神経から放出されるノルアドレナリンが、脂肪細胞のβ3アドレナリン受容体に結合すると、脂肪細胞に蓄えられた中性脂肪は脂肪酸に分解され、脂肪酸はエネルギーや熱に変換されることによって代謝されます。ところが、β3アドレナリン受容体が機能しないと、脂肪細胞に蓄えられた中性脂肪の消費が減少し、肥満しやすいのです。」

                                   

じゃ、「食べすぎないようにすればいいじゃないか!」と安易に思いがちですが、β3アドレナリン受容体がちゃんと機能しないと、「脂肪細胞の蓄積で分泌する食欲低下促進物質のレプチン分泌も低下して、脳の満腹中枢への刺激も低下し、褐色脂肪組織にも、満腹中枢からの刺激が伝わらないために、エネルギーがうまく消費されず更なる肥満に繋がる・・・」、つまり「お腹がいっぱいになりましたよ」という信号がうまく伝わらず食べ続けてしまうわけですね。食欲は「本能3大欲求」の一つ。本能からくる欲望を意思の力で封じ込めるのは大変です。

 

先に、日本人はアメリカ人の白人より太りやすいといいましたが、ここにイヌイット、ピマインディアン、日本人、アメリカ白人、フィンランド人、スエーデン人のβ3受容体の遺伝子変異を調べた結果があります。

肥満遺伝子の研究

イヌイットおよびピマインディアンは両方あるいは片方の染色体の遺伝子が変異している割合がほぼ6割近くになっている。日本人は彼らと比較すると、少ないものの、他の国のヒト達に比べると遺伝子変異が多いことに気付くと思う。アメリカ白人は変異が少ないものの、フィンランド人、スエーデン人は何故か多い。ここからは完全な想像だが、昔、ジンギスカンがヨーロッパ全体をかなり長期間支配しなかったか。フィンランドという国名は、フン族から来ていると何かの本で読んだ記憶があるし、フィンランド人の中には黄色人種の顔の特徴がたまに見られる。(Kamata, n.d.)

 

前回の記事で紹介したForbesの記事にも載った15歳以上の肥満人口のランキングによると、世界で一番、肥満率が高いところは南太平洋ミクロネシアのナウル島で94.5% (Streib, 2007). 肥満大国アメリカの中でも、肥満者の割合が最も多いのは上の研究の対象にもなっているピマ・インディアンで、成人の9割が肥満かやや肥満となっています。どちらの場合も自然の中で暮らしてきた伝統的な生活が崩壊し、離農によって消費エネルギーが減少、高カロリー高脂肪な食生活に変化したことが肥満の原因とされています。(Nissui, n.d.)

 

その他の論文を見てみると、自分の大学のデータベースにも日本人を始めとするアジア人研究者の名前が目につきます。(*オーストラリアの大学なので英語です)

 

Yoshihara, Sugita, Iwasaki, Miyazaki & Nakamura (2014)

The PRR (prevalence rate ratio) of the beta-3 adrenergic receptor genotype for the number of sites of CAL≥6 mm showed a positive association in subjects with BMI≥25.0 and increased markedly with BMI. The PRR in subjects with BMI≥30 was 3.10 (p < 0.0001).

β3アドレナリン受容体遺伝子型は肥満と関係があるというデータが出たようですね。

 

Yoneshiro, Ogawa, Okamoto, Matsushita, Aita, Kameya & Saito (2013)

UCP1  3826 A/G and b3AR 64 Trp/Arg substitutions accelerate age-related decrease in BAT (Brown adipose tissue褐色脂肪組織) activity, and thereby may associate with visceral fat accumulation with age.”

(痩せにくい「アンカップリングプロテイン遺伝子」と「β3アドレナリン受容体」(の代替) が褐色脂肪組織の活動の加齢による減少を加速し、そのため加齢に伴う内臓脂肪の蓄積に関係する)

 

Chou, Tsai, Lee & Pei (2012) によると、

Among the three ADRB polymorphisms, only Arg16Gly polymorphism was found to be significantly correlated with adolescent obesity, especially in girls.”

「3つのアドレナリン受容体の型のうち、Arg16Glyという型のみ、特に女性の青春期の肥満にかなり関係していることが見つかった」そうです。

 

もちろん、上記の肥満につながる遺伝子の変容がなくても、食べすぎれば誰でも太ります。

 

 

参考:

 

Chou, Y., Tsai, C., Lee, Y., & Pei, J. (2012). Association of adrenergic receptor gene polymorphisms with adolescent obesity in taiwan. Pediatrics International : Official Journal of the Japan Pediatric Society, 54(1), 111-116. doi:10.1111/j.1442-200X.2011.03516.x

 

Kamata, K. (n.d.). 脂肪細胞とインスリン抵抗性. Retrieved from http://polaris.hoshi.ac.jp/openresearch/kamata%20(adipocyte)--2.html

 

Nissui. (n.d.). 肥満を生む生活環境. Retrieved from http://www.nissui.co.jp/academy/eating/04/02.html

 

TANITA Corporation. (2013). 日本人は太りやすい?肥満遺伝子チェックをしよう!. Retrieved from http://www.karadakarute.jp/tanita/diet/diet055.jsp

 

Yoneshiro, T., Ogawa, T., Okamoto, N., Matsushita, M., Aita, S., Kameya, T. & Saito, M. (2013). Impact of UCP1 and β3AR gene polymorphisms on age-related changes in brown adipose tissue and adiposity in humans. International Journal of Obesity (2005), 37(7), 993.

 

Yoshida, H. (2002). 肥満に弱い日本人. 日経サイエンス. Retrieved from http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0211/sp1.html

 

Yoshihara, A., Sugita, N., Iwasaki, M., Miyazaki, H., & Nakamura, K. (2014). The interaction between beta-3 adrenergic receptor polymorphism and obesity to periodontal disease in community-dwelling elderly Japanese. Journal of Clinical Periodontology, 41(5), 460-466. doi:10.1111/jcpe.12235

 

知っておこう、「メタボ」になりやすい日本人の体質. (2014). Retrieved from http://blog.goo.ne.jp/otanihajime/e/902e819b68678a7545d450c85ac4c455