ヨーロッパ
2016年11月21日
欧州解体 ドイツ一極支配の恐怖
本書の著者はロジャー・ブートル(Roger Bootle)氏、英国シティーのNo.1エコノミストのひとりであるそうだ。
本書は、町田敦夫氏の翻訳により東洋経済新報社より2015年9月に発行されている。
今年6月23日の国民投票の結果、英国はEU
離脱を選択した。まさかの結果で、英国は二つに分断され、今後どうなるかが世界的に注目されている。
この問題は、単に英国だけの問題に止まらず、残されたEUそして、世界の大問題となった。
そして今月、まさかの米国でのトランプ大統領誕生のニュースが世界を駆け巡り、今後の世界情勢は益々混沌化して来ている。
本書の原書は、ブレグジットが決まる前の年に出版されている。著者は、その時点で、「不確定要素があることは認めるが、国民投票でEU離脱後の英国は成功する」と断言している点が興味深い。
ブートル氏は「EUは本来、誤った決断をするようにできているのだ。ユーロのつまずきがEUの内的矛盾の結果として起こった必然的なできごとと見なすべきだろう」と力説している。
なお、ブートル氏は、英国がEU離脱後、以下のアクションを取るべきだと提言している。
- EUとの FTA
- NAFTAへの加盟
- 世界のできるだけ多くの国々(中国を含む)とのFTA
- 英連邦諸国との連携強化
今後の英国のアクションを注意深く見守りたい。
2016年06月10日
揺れる大欧州ーーー未来への変革の時
本書は2014年ヨーロッパブック賞受賞の話題作で、著者は英国ロンドン生まれのアンソニー・ギデンズ(Anthony Giddens)氏。本書は、脇阪紀行氏の翻訳で2015年10月岩波書店より発行されている。
ギデンズ氏は、英国のケンブリッジ大学やLSEなど著名大学の要職を経て、現在は上院議員を務めておられ、現代社会学の泰斗と言われる人物だそうだ。
英国の「EU離脱に関する国民投票」の日(6月23日)が間近に迫り、新聞やTVニュース 等を通じ事の重大性が喧伝されている。
もし、英国のEU離脱が現実のものとなれば、英国やEUだけに限らず全世界に影響するものと言われている。そのような問題意識から手にしたのがこの本である。
本書ではまず、ユーロ危機を中心に著作全体を俯瞰し、構造的矛盾を抱えるEUのあり方、緊縮政策による各国の苦悩、改革を迫られる欧州社会モデル、移民・難民の増大による排外主義の台頭、深刻化する地球温暖化とエネルギー政策の未来、ヨーロッパ外交と安全保障政策、ユーロ離脱シナリオの検討と、現在ヨーロッパが抱える課題を取り上げ、その現状と将来の展望を論じている。
ウィンストン・チャーチルが、戦後、スイスのチューリッヒ大学で「ヨーロッパ合衆国のようなものを作らなければならない」と演説し、それがEU誕生にもつながったとの話が紹介されている。今の英国・EUの現状を考えると、何とも皮肉めいた話に聞こえる。
英国民がEU離脱の方向に動き、それを引き金にEUが解体しないことを強く望む次第だ。
2016年06月03日
新・100年予測 ヨーロッパ炎上
本書は、以前(2016年5月13日)本ブログでご紹介した「100年予測」を出版したジョージ・フリードマン氏の最新作。夏目大氏の翻訳で2015年7月に早川書房より出版されている。
原書のタイトル「Flashpoints-The Emerging Crisis in Europe」の「Flashpoints」は「引火点」という様な意味だが、本の内容は必ずしも和文タイトルにある「新・100年予測」の内容にはなっていないので注意が必要だ。
本書は、ヨーロッパの今後の100年を予測すると言うよりも、ヨーロッパ史を踏まえたヨーロッパの地政学・国際政治学の本であると思う。
フリードマン氏は、本書を通じ、次の三つの質問とその回答を準備している。
1.なぜヨーロッパ人達は数々の発見をし、自分自身を変革することができたのか。
2.偉大な文明だったはずのヨーロッパがなぜ悲惨な31年間(第一次世界大戦ー第二次世界大戦)をすることになったのか、どこに欠陥があったのか。
3.今後、ヨーロッパの紛争の火種になるのはどこか、どのような紛争の火種があるのか。
フリードマン氏は、ユダヤ人としての自らの生い立ちを振り返りながら、ヨーロッパの国際政治の動員をわかりやすく解明している。
ヨーロッパは、「ウクライナ問題」、「ギリシャ支援問題」、「難民問題」、「英国のEU離脱問題」など多くの問題を抱えており、EUそのものの存続が危ぶまれている。
本書は、現在のヨーロッパを良く理解し、ヨーロッパの近未来を予測する為に必要な優れた武器を我々に提供しているように思う。凄い本だ。