ル・オタク フランスおたく物語 (講談社文庫)ル・オタク フランスおたく物語 (講談社文庫)
著者:清谷 信一
販売元:講談社
(2009-01-15)
販売元:Amazon.co.jp
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本書は1998年に出版されたものに一部加筆を加えて2008年に再出版されたものです。オタク文化が世界に広がっている!と世間でも言われ始め、それまでネガティブな評価しかなかったのが一転して普段の生活に馴染み出し、オタク趣味であっても迫害されない市民権を得たのはここ数年ですが、本書の実質な執筆時期は1998年ということで、まだまだオタクと言うことが世間から恥ずべきこととして扱われていた時代です。
一方で海外でのオタクな人たちの実態はどのようなものだったのでしょう。フランスでアニメが始めて放映されたのは1974年でアニメのタイトルは『サファイア王子』、日本では『リボンの騎士』と呼ばれた手塚治虫原作のアニメです。とりわけフランスの子どもたちに衝撃を与えたのは、78年夏に放映された『ゴールドラック』(UFOロボ・グレンダイザー)でした。このアニメの影響力はすさまじく、スペインやイタリアの子供たちまで巻き込んで一大ブームを作り上げました。これを視聴した子供たちが後に第一世代のオタクたちになっていったのです。
本書では1985年創立の「トンカム」というフランスやベルギーのマンガ(バンデシネ)と日本のマンガを中心に扱う本屋が登場します。この店を経営するのがドミニクというフランス人で、彼は早くから日本のマンガは売れると自身をもち、彼の一流の経営センスで80年代から日本のマンガを売る努力をしますが、様々な規制や嫌がらせを受けていました。そのような逆境をはねのけて、「フランス・オタク界のボス」とまで本書で書かれるような人物になりました。

98年当時フランスのオタクの第1世代は『ゴールドラック』や『宇宙海賊キャプテンハーロック』などを視聴していた世代で、ドミニクもこの世代です。第2世代は同人誌を作ったり声優ファンが多い世代です。特徴としては自ら日本語を学んでいく行動力の高さです。第三世代は『北斗の拳』のような刺激の強いアニメやゲームに影響をうけるローティーンだそうです。この世代も日本に対する興味が強いようです。
最終章は2008年に書かれていますが、フランスのオタクについてそれほど掘り下げて書かれていません。こういう事件があって、こうなったというような書き方がほとんどです。しかもあとがきでこれ以上オタク文化は広がらないだろと予想しています。しかし著者はオタク文化が世界で日本の現代文化として扱われるようになったことに満足しているようです。変人扱いされ、迫害された時代を知るオタク世代には、オタクとその境目がよくわからなくなり、いろんな方向に分散している現在の状況に満足しているか、それともオタクは死んだという認識でしょう。新しい時代のオタクは、日本も海外もオタクという言葉からはみ出していくような気が僕にはします。

greengoke