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Scott

今だからこそ読みたい漫画「国民クイズ」

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(「週刊メルマガクリルタイ」Vol.84 (2011/06/01 配信分) の原稿を再掲)

こんにちは、Scottです。

いきなりですが、私は1年に1回ぐらいのペースで「国民クイズ」という漫画を読み返しています。今年は、震災後しばらくして読み返してみました。改めて、これほどまでに「日本人と政治」というテーマについて描き切った作品も無いと思います。
この偉大な漫画について、良い機会なのでちょっとつらつら書いてみようと思います。

とりあえず、本作についての軽い説明から。全力でネタバレ注意。


■「国民クイズ」とは

加藤伸吉・画。杉元伶一・作。1993年モーニング連載。単行本全4巻、現在は愛蔵版上下巻が手に入りやすいです。この「連載開始時期が1993年」というのは本作品を理解する上でのポイントです。バブル崩壊中、まだバブル絶頂期の記憶が色濃い時期の作品である、というのが。


■背景・あらすじ

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日本国憲法
第12章  国民クイズ(国民クイズの地位)
第104条 国民クイズは国権の最高機関であり、その決定は国権の最高意思、最高法規として、行政、立法、司法、その他あらゆるものに絶対、無制限に優先する。本憲法もその例外ではない。
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冒頭の文章です。これが1ページ目に無背景の黒地に白で書かれており、設定のベースになっています。設定を簡単に説明すると「バブルが崩壊せず、そのまま世界ダントツの経済大国になった日本が、『国営放送のクイズ番組で合格すると何でも願いがかなう』という全体主義国家(以下、国民クイズ体制)になる」というものであり、あらすじは「そのクイズ番組の司会者、K井K一がこの国民クイズ体制を終わらせるべく革命を図る」というものです。


■「"国民クイズ" 予言」約 4,780 件

こう、あらすじを一言にまとめてしまうと割と淡白なストーリーですが、突拍子も無い舞台設定のわりには小ネタなどに妙にリアリティがあり、予言書的な風情があります。
例えば、作中にはストーリーとは関係無く番組のCM(国営番組なので政府広報)が入るのですが、その中身。

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「放送料を払わない家を衛星からのレーザーで爆破するNHK」

「歌え君が代,掲げよ日の丸 義務教育に期待するな -文部省-」

「今月の年金受給者は年金手帳番号の末尾が『2』の方です!」
「年金の支給は抽選制になりました -厚生省-」

「建設省高級官僚天下り先公開入札のお知らせ」
「私の天下り先には大規模工事発注の特典がついてきまーす」
「合理的入札には経験豊かなOB官僚を -建設省-」

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・・・繰り返しますが、1993年の作品です。
NHK受信料の強制徴収は近年しばしばネットで話題になりますし、日の丸君が代問題(広島県立世羅高校の校長自殺事件と国旗国家法の公布ですら6年後の99年)やゆとり教育、年金崩壊危機など見事に言い当てています。ヤバいぐらいに。

また、アメリカ大統領が日本国民に向けて対外債務の支払いを待ってくれと土下座するCMを流すのですが、このときのセリフも凄い。

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「在米自衛隊基地の設営については 全面協力をお約束します」
「ハワイは差し上げます」
「本家のディズニーランドも差し上げます」
「自由の女神も返してくれとはいいません」
「その代わり対外債務の利子支払いをしばらく停止させてください」
「我が国の財政再建は日本のご協力にかかっているのです!」

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さすがにここいらは荒唐無稽ですが、「本作品における世界の中の日本の立ち位置」というものをたった2ページかそこらで見事に表現しきっています。そして、バブルの絶頂期というものが「この先にはこれぐらいあるかもしれない」と思わせるだけの狂乱であったことも。


■「一生働いて家の一軒も持てない社会は狂っている!!」

そんなこんなで物語は謎の迫力で読者を圧倒し続けながら、K井K一の「打倒国民クイズ体制」は順調に進み、「国民クイズ省」に乗り込むことになります。ここでの、ラスボス的存在である内藤編成局長の叫びがアツい。

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「国民クイズを打倒していったい誰にこの国の運営を任せるつもりだ!?アホな政治家どもにか!?それとも投票すらしないこの一般市民とやらにかあ!?」
「奴らは腹をすかせた豚と一緒だ!!残飯を投げ込めば喜んで食らいつく!!」
「課せられた義務はゴミ同然に無視し与えられた権利だけを宝石扱いする そんな輩にこの国の運営を任せられると思うのか!?」
「国民クイズがなければふくれあがった日本人の利己主義と欲望はとっくの昔に抑えきれなくなっていたぞ!!」
「聞けK井!サラリーマンが一生働いて都内に家の一軒も持てない社会は確かに狂っている!!しかし住宅が欲しいという当然の欲求をあきらめろとは誰にも言えない!!」
「クイズに合格すれば夢が叶うと信じられるからこそ 国民はなんとか折り合いをつけて日々を送れるんだ!!」

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この漫画全編を通してのキモが、これなのですね。今までの話の全てがこの内藤の叫びにリアリティを持たせるためのフリだったと言っても過言ではありません。

日本人において、政治とは何か。誰ならこの国の舵を取れるのか…?


■内藤の問い

「国民クイズ」は、この内藤の叫びをクライマックスに、結局革命は失敗でオチが付きます。革命は失敗、日本は大多数の国民が望む通りに国民クイズ体制を存続、むしろ世界に国民クイズ体制が樹立、というオチです(革命に失敗したK井はシベリア送り&終身労働)。

現実の日本には国民クイズ体制は無いわけですが、しかし、この妙にリアリティのある作中における内藤の問いは、現実にも適用できるものとして残ります。

「日本人の利己主義と欲望」
「いったい誰にこの国の運営を任せるのか」

話を一番最初に戻します。
つまり、「今だからこそ読む国民クイズ」に。

国民の欲望を抑えるためのシステムとして国民クイズ体制があった。国民クイズ体制には、その存在を当たり前のものとする圧倒的大多数による国民の日常、そして現地で反対する活動家があった。そして、その国民クイズ体制が、ある日突然の革命騒ぎにより崩壊しそうになるも、結局は何事も無かったように今まで通りに戻り終結。

…ちょっと改変してみましょう。

国民の欲求を実現するために高度経済成長があり、そのリソースのひとつとして原発があった。原発には、その存在を当たり前のものとする圧倒的大多数による国民の日常、そして現地で反対する活動家があった。そして、その原発が、ある日突然の事故により崩壊するも、結局は何事も無かったように今まで通りに戻り終結。

あまりにも暗示として的確すぎやしませんか、と。

自分はこの内藤の問いを常に自分の中に持っています。日本が震災を乗り越え、原発事故を乗り越え、この問いに答えられる日が来ることを望みます。

最後に、震災後にTwitterで見かけたポストで一番印象に残ってるものを引用して終わります。

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最悪のシナリオというのは完全なメルトダウンでも大不況でも大停電でもなく、この事態から日本人が結果として何も学ばず「今まで通り」がまかり通り、同じことを繰り返すこと。そういう意味で最悪のシナリオを辿る可能性ってすごい高いと思うんだ。。。

http://twitter.com/#!/soundmile/status/53104770264727553

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・・・この「最悪のシナリオ」を少しでも回避できますように。

ネット議論カルチャー放浪一代記

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(「週刊メルマガクリルタイ」Vol.19 (2009/11/23 配信分) の原稿を再掲)

どうもはじめまして。Scottと申します。
今回、「元2chニュース議論板住人」という看板を掲げる身として、自身の「ネットの議論場の放浪歴」など振り返ってみようと思います。題材が題材なので自分語り全開ですが、しばしお付き合いを。

■2ch以前

自分が初めてPCとネットに触ったのは97年です。ネットは深夜11時からつなぐものだったり、テキストサイトで面白いところが百花繚乱だったり、アングラが本当にアングラでスーパーハカーがとてもネタには思えなかったり、ファミ通が堂々とエミュレータを紹介してたりという時代でした。
そういやGoogleも無くてYahooが一人勝ちで、ホームページ作った個人がSEO対策(当時はそんな言葉無かったけれど)として最初にやることが「Yahooにサイト登録願いを出すこと」でした。・・・今からは色んな意味でとても考えられない時代ですわな。

で、ネット議論的にはどうかというと、2chも無かった頃はteacupの無料掲示板(teacupは今も健在のようで、普通に凄いことだと思います)が点在してました。あとは自分はやってなかったけどニュースグループとか。お題は時事的にもイデオロギー的にも「所沢高校から端を発したひのきみ議論」なんかが活況だったように記憶してます。個人が勝手にやってるBBSが大したハブも無く点在してた割には、不思議と書き込み数も多く盛り上がってたように思います。
「ハブも無いのに何となく勝手に人が集まる」というのは今からするととても不思議ですが、まだネットが狭くて相互リンクが十分に機能していたが故になせた業なんでしょう。

ちょっと簡単にまとめてみます。

時代:97年頃
媒体:teacup無料レンタルBBS
状況:探せば活況の場所が簡単に見つかる。質は当時から普通に煽り交じりで玉石混淆。AAなんて文化は当然まだ。コピペ荒らしもまだ無いけれど、「スルーしてねーでコイツにサッサと答えやがれ」という意味で同じ文章が連投されることは良くあったと記憶。今思うとこれがコピペ荒らしの起こりではなかろうか。

■古き良き「ニュー議」といふもの

自分にとって生まれたての頃の2chは「怖いアングラ」の延長であり書き込むなんてのは以ての外で、煽りでも何でもなく文字通り「半年ROM」ってました。それがどういうきっかけで初書き込みを行い、ニュース議論板に常駐するようになったのかは全く覚えてません。

ニュース議論板は非常に良い場所でした。
自分はよくネット議論を「格ゲー対戦」に例えますが(*1)、二ュース議論板はまさに「24時間、何時行っても一定以上のレベルの対戦相手が常駐してるゲーセン」のようなものです。当然煽り合いに終始するスレもたくさんありましたが、それでも探せば確実に良スレが見つかり、「暇ならとりあえずここ行けば何かしら話ができるだろう」という安定感がありました。

(*1)http://scott.seesaa.net/article/5000611.html

言葉をいくら並べても伝わらないものがあるでしょうから、2つほどスレのログを出したいと思います。

まずは雑談スレ。

http://chacha2s.hp.infoseek.co.jp/zatsudan2.htm

ここで特筆したいのはコテハンの馴染みっぷりです。これだけの数のコテハンが、荒らすでもなく罵倒されるでもなくマッタリと存在する板は、当時の2chでも稀有であったと記憶しています。
個人的な思い入れの話をすると、( ・∀・)氏にはインフレ・デフレ景気・インタゲ等、経済の基本的な考え方を教えてもらって随分お世話になった記憶があります。もっとも自分はただのイチ名無しだったので、誰も自分のことを知るわけがないのですが。

そしてもう1つ、金魚ミキサースレ。

http://news10.2ch.net/news2/kako/1053/10534/1053480654.html

自分がリアルタイムで参加していたスレとして記憶に濃く残ってるスレなので、あえてサンプルとして挙げます。
ここで言いたいのは「速さ」ですね。特に深夜の時間帯で盛り上がってる、>>100~と>>250~、>>550~辺り。煽りも少なく長文も多いのにもかかわらず、チャットより速くスレが進んでることに着目していただきたいです。後にも先にも、この速さで議論が成立した場所というのは、自分は今のところ知りません。

・・・という辺りで、またまとめましょう。

時代:01~04年
媒体:2chニュース議論板
状況:議論場所としての理想形。適度な人口と質と速さと量。

■ブログの盛衰

そんな自分にとっての理想形だった2chニュース議論板ですが、ずっとそういう状態が続いているのならば、自分が議論場所探しに放浪するはずも無く、数年でこの理想状態は崩れ去ります。原因として今でも覚えているのは「ニュー速難民の大量流入により煽りとコピペが横行し、クソスレが乱立」というものです。ウィキペディアで2chの歴史を調べてみると「2004年4月6日-ニュース速報板閉鎖」とありますから、おそらくこの余波を喰らったということですかね。確か自治スレで「いっそのこと復活したニュー速の下請け化して、ニュー速の続きスレだけしか立てられないようにすっか」みたいな議論もあった気がしますが、とはいえ、別段権限があるわけでもない自治スレ如きが荒廃しきった板をどうにかできるわけもなく、自分はニュース議論板を見限ってブログを作り(04年にSeesaaで。07年にはてなに移りました。)、丁度盛り上がってたブロゴスフィアに流れることになります。まさに「元2chニュース議論板住人的ブログ放浪雑記」という状態。

で、そのブロゴスフィアですが。
振り返ってみると───現在のブロゴスフィアは衰退の一途をたどっている、ということを前提にしますが───トラックバックセンターの衰退と共に議論場としての勢いも衰退しているように感じています。というより、トラックバックセンターの衰退理由を考えれば「トラックバックスパムの氾濫によりトララックバック機能が不全に陥ってしまい、『つながる機能』を失ったブロゴスフィアが衰退の一途をたどった」と言った方が正確なのかもしれません。
これにより星の数ほどのブログが孤立して点在する状態になり、「ブログ参加者は多いのにスケールメリットはまったく出ない」という状況に陥っています。同じ話題について語ってる人は物凄く多いのに、それをつなぐものがないので個々人のつぶやきに終わってしまっている、という。
私自身ははてなブックマークの「このエントリーを含む日記」はその「同じ話題を扱っている個々のエントリをつなぐ」という役割をトラックバックに代わって担える唯一の機能だと考えてます(自分がSeesaaからはてなに移ったのはまさにこの機能のためです)が、今のところアクセス数を見る限りほとんど活用されてないですね。使い勝手の問題もありますが、もったいないと感じています。

また、今「個々人のつぶやきに終わってしまっている」と表現しましたが、まさに「つぶやくためのツール」であるところのTwitterがポストブログのように台頭してきたということは、「そもそも人は議論をそんなに望んでいない」というミもフタも無い事実の証明かもしれないなぁ、とも思ってます。

そんな感じに諦め半分ですが、まとめてみましょう。

時代:05年~
媒体:ブログ
状況:昔は活況。今は微妙。2chの名無しと違って、ハンドルでやる分「伸(の)るか反るか」が激しい面がある。「伸る」は炎上も含めた超活況状態。「反る」は徹底的な過疎。伸っている時は議論場としては嬉しい反面、逃げられないので消耗が激しいが、その消耗に見合うだけの実のある議論になるかどうかもまた微妙。スレを自分で選べる2chと違ってエントリを書いてその反応を待つ側になるため、活況と過疎を自分でコントロールできない点が一番ツラいかもしれない。

■はてブってなんだろな

話の終わりに、自分が今一番使ってるツールとして「はてなブックマーク(以下はてブ)」について少し。

私の認識としてははてブはあくまでも「ニュースサイト自動生成ツール」であり、議論場になりうるものではありません。特に自分の場合はネットに吐き出すようなつぶやきは基本的に「ネット記事ドリブン」なので、「記事を読む→感想を一言で吐き出す」という使用感覚で言えば、むしろTwitterにかなり
近いです。ともかく、はてブにしろTwitterにしろ、ツールの性質上これらが議論場そのものになりえるとは思えません。が、議論をドリブンするものとしては有力な候補になりえる(というか既になっている)と思います。

・・・ただ、はてブというツールは、一つのツールで、

1「個人ニュースサイト」
2「コメント欄」
3「自動トラックバックセンター(エントリーを含む日記)」
4「ポータルサイト(はてブトップ・ホッテントリ)」

…と、いう実に様々な面を持っているので、こういう題材で軽く語ろうとするのも難しいですね。

■まぁそんなわけで。。。

最近は「はてなもちょっとなー」と思いながら次を求めてネットを放浪してます。ブログは自サイトの一部であり「ネット放浪から帰るための家」なのでブロゴスフィアの盛衰とは無関係に消したりする事はありませんが。2chに回帰して社会・世評板に行ってみたりしてもいまいちピリッとしないし、どうしますかねー。

(Scott)
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