前回は、一月末の正月の終わりを告げる物売りとして、「餅網売り」と「扇箱買い」の話をしました。今日は、来る二月の行事を待ち、備えるための物売りをご紹介します。

「太鼓売り」です。どんどんと叩く、あれです。

 威勢のよいオジサンが、〆太鼓やカンカラ太鼓の類を天秤棒に荷います。ドンドンと打ち鳴らしながら、江戸の町を売り歩くのです。例年二十五、六日ごろからの風景です。

110129_1951~01 左の絵は、『絵本江戸風俗往来』からです。

 売りながら叩く太鼓は一番大きなやつで、これは売り物ではありません。商品は、小さいやつのほうです。

 絵には子どもの姿が見えますが、この太鼓は子どものおもちゃです。子どもを相手にして、大人に買わせます。

 二月、初午稲荷祭の売り物です。初午太鼓、手遊び太鼓と呼ばれました。


 
 一月も終わりごろになると、歌カルタや双六、おかめつけ、つく羽根、凧などといった正月遊びにも飽きてきます。初午には、太鼓はなくてはならないものです。
 子どもたちは、これを打ち鳴らして踊り遊びます。

 太鼓売りがくると、ああ二月になるなと、江戸の人々は感じました。
 
 ちなみに江戸一番の太鼓問屋は、浅草新町の高又(たかまた)でした。幕末江戸で売られていた太鼓のほとんどはこの店のもので、小判形に高又の烙印が捺してありました。
 
 そういえば、おもちゃの太鼓は家にもありました。何をして遊んだのでしょうか。覚えていません。大石内蔵助の真似でもしたのでしょうか。