「相葉さんの所に黙って行ったのは
 悪かったよ。謝るよ。でも・・・
 あれから、俺なりに色々考えたんだ。
 ピアノは何時でも出来るって・・・
 でもあなたと過ごす時間はピアノなんかより
 大切なんだって・・・だから・・・」

「たったの3ヶ月じゃん。
 一生逢えないってわけじゃないし。」

「本当にあなたはそれでいいの?」

「え・・・うん。」

「そう・・・分かったよ。それがあなたの出した
 結論なんだ?だったら俺、もう何も言わない。」

「俺はニノが待っててくれるって信じてるから・・・」

信じてるから・・・
実はそうじゃない。
俺はニノを信じたいだけ。
本当に待っててくれる保証なんて
何処にも無いし、3ヶ月というのは
今回に限っていえばそうだけど
もしかすると、この先俺はもっと
長期で違う土地に派遣されてしまうかもしれない。

ただ、それに一生付き合わせてしまって
本当にニノにとって、それが幸せなのかどうか・・・
自信が持てないだけなのかもしれない。






この話をしてからというもの
ニノから笑顔が消えてしまった。
ずっと考え事してるみたいに
時々溜息をついて悲しそうな表情を見せる。
もう、これ以上彼の辛そうな顔を見たくはない。

なんとも中途半端な二人の関係・・・
この関係に終止符を打つ時がやって来た。

それは、俺がオーストラリアに出発する
5日前の夜だった。

「智、ちょっと話があるんだけど・・・」

「ん?何だ?」

「NYに居た時に、スカウトされたの覚えてる?」

「あ、ああ、あれだろ?北海道のレストランの・・・」

「うん。実はあの人と連絡が取れたんだ。
 俺、来週智が出発した後、北海道に行く事に決めた。」

「えっ・・・し、翔君が世話してくれるっていう
 ホテルのラウンジの話は?」

「あー、あれ?あれはとっくに断ったよ。」

「何で?」

「俺ね、ピアノは続けたいけど、ヒッソリと
 知らない人達の所で続けたいんだ。」

「ここで・・・待っててくれると思ってた・・・」

「俺もそのつもりだった。でも、あなたは
 例えここで待ってても、また直ぐに
 何処か遠くへ俺を置いて行ってしまうかも
 知れないでしょ?
 だったら、北海道だろうが、東京だろうが
 何処で待ってても同じ事じゃないかなって。
 あなたに相談も無しに勝手に決めて
 悪いとは思ってる・・・だけど、もう俺も
 誰にも頼らないで生きて行こうって決めたんだ。」

「そうか・・・そうだよな。
 ニノがそう決めたんなら、俺は反対しないよ。」

「ゴメンね・・・智・・・」

俺は何も言わずに首を横に振ると
ニノを抱き寄せた。
ニノもギュッと力一杯俺を抱き締めた。
それは・・・お互いに「さよなら」
を決断してるかのような
辛くて切ない沈黙の抱擁だった気がした。
 





to be continued 
 
 
  
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