私の生まれ育ちは名古屋市の今池。少し前にはドン・キホーテもでき、地下鉄の駅も小ぎれいになりましたが、御存知の通り古くからの繁華街です。
最近はオフィスビルと庶民的なお寿司屋さんやラーメン屋さん、焼肉屋さんなんかが入り乱れて何かと賑やかなところで、ライブハウスも集まっている地域です。そのせいか、いろんな人が集まってきます。夢を追う若者からサラリーマン、夜の店で働くおねーさん…。通りを一つ深いところに入れば、昭和のまま残る居酒屋やあんな店、こんな店があり、戦後のままのような雑居ビルもひしめきあい、どことなくレトロな猥雑さを残した通好みな香りのするところでもあります。
40年ほど昔は市電が走り、映画館も多く、また今とは違う庶民的な賑やかさがあったものです。

当店の「高松」という屋号はかつて今池にあった地名がその由来です。
当店の辛カレーそばや台湾そば、台湾まぜそばなどの激辛メニューには固定ファンがいておかげさまで人気なんですが、これらが人気な名古屋人の辛味好きを語る上で絶対に欠かせないお店の本店が今池なのです。
その名もズバリ、味仙。
今や名古屋以外でも見かけるようになった台湾ラーメンの元祖にして、数々の名物料理をほこる台湾料理屋。
私も個人的に大きくリスペクトしています。 

料理の煙が立ち込める熱気のある店で食べる台湾料理は、今池の呑み屋をはしごして練り歩く大人の雰囲気とも合っていて、いかにも古き良き名古屋の風情を感じたものです。庶民的と言いつつも大体好きなものを食べると一人あたり1500〜2000円ほどになるので、高校生が通うにはちと辛い。
そこで、自分で稼いだ金で味仙で腹一杯食うぞ!と夢見た名古屋っ子も多いはず。
私も、味仙に親に連れられて行った頃からから青春時代のたくさんの思い出があります。時々、なにかちょっとした食事をしたくなるとバイトの子や知り合いを誘って出かけます。「若いんだからもっと食え、食え」。
いつの間にか私がそれを言う側になってしまった。
うちのバイトの九州男児もうまかうまかとよく食べます。彼の中でも思い出深い店になったかな。
また若い子も同じようにその次の子に味仙でテーブルを囲む情景を繋いでほしい、と思うのは私だけではないはず。 
本店は今では立派なビルですが、往年の雰囲気を残した店もあり、家族連れから酒呑みの締めまでたくさんの人に愛されています。

◆台湾ラーメンの元祖味仙

味仙も東京に進出するなど、台湾ラーメンの代名詞とも言える存在感をほこるわけですが、
私が若かった当時から独特の小さなお椀に入った台湾ラーメン、甘辛く煮付けた手羽先は定番。

お冷はたっぷりとビールや紹興酒の空き瓶に入れて出されます。台湾ラーメンで口中辛くなって、このビンから冷え冷えの水をコップに注ぎ辛さをしのぐ、そしてまた一口。これが醍醐味なんです。

もちろんビールにもぴったりです。店によっては男一人で行くと「まずビール飲む?」と聞かれるようなところもあります。

◆店によって微妙に違う台湾ラーメンの味比べ

味仙は今池の本店以外名古屋市内に10店舗あります。同じ看板を支えるのは創業者の郭さんファミリー。
メニューは同じですが、最近のフランチャイズ店とは違い、お店によってそれぞれ味に微妙な違いがあり、マニアにとっての話題になります。


◆台湾ラーメン以外にも名物だらけで食べきれない


他にも、たいていのお客さんが注文する名物料理が多く、特にアサリ炒め、コブクロは必ず食べたいところ。
あちこちのテーブルで大量の貝殻が積み上がる様子が見られます。コブクロも独特のコリコリした食感とニンニクが良く効いた辛味ソースがくせになる、ここでしか食べられない味です。


また、台湾ちまきも欠かせない存在で、特に子供に人気です。

熱々の竹の皮に包まれたもちもちしたちまきは旨味がぎゅっと詰まっています。
台湾ラーメンそのものは台湾にはないそうですが、これは本当の台湾料理の一つです。


 

◆名古屋市内の味仙

今池本店
名駅店(柳橋)
JR名古屋駅店
大名古屋ビルヂング店
矢場店
下坪店
八事店
焼山店

番外、東京神田
郊外にも何店舗かありますが名古屋市内にもこれだけの数があります。
それぞれ創業者の子にあたる兄弟たちが独自に営業していて、同じメニューでも味が少しずつ違っているのです。
今回は台湾ラーメンの店ごとの違いを私の知る範囲ですが特におすすめしたい一部を紹介したいと思います。あくまでも私が食べた感想で、その時々でも味や辛さが少しずつ違っていたりするので参考程度ということでお願いします。

 

◆不動の存在の今池本店

今池本店は人気も高く、さすがフラッグシップといったところ。台湾ラーメンはスープが透明で真っ赤に見えます。
辛さもトップクラス。間違いなく汗ダラダラです。これが台湾ラーメンの基準と言えるので、他店と比較するというのは難しいですが、醤油のコクの強さと系列トップクラスの激辛具合が特徴と言えるでしょう。

◆人気の矢場店は辛さも最強

矢場店は大須の買い物のついでに寄れる立地にあり、いつもかなり混雑します。
台湾ラーメンは本店に似て赤くて透明なスープに濃いめの色合いのミンチ。辛さは多くの人が口を揃えて一番だと言いますが私もこれは辛いと思います。
本店もかなり辛い部類になりますが、矢場店のものが一番辛いのは間違いないでしょう。 
観光客が多い場所でもあり、今日もなごやめしを体験しにきた観光客を激辛で驚かせているのです。

◆柳橋店は会社帰りや飲み会のあとに人気

柳橋店は名古屋駅エリアでは最も人気だと思います。赤みを感じるやや濁るスープににんにく、唐辛子は大きめでたっぷり。辛さはどちらかと言うと辛い方です。食べたいものをテキパキと注文するのがこの店で気分良く食べるコツです。回転が早いのでやや玄人向けか。それでも名駅方面で食べたいなら多少歩いてでも行く価値あり。

◆味の人気が高いものの玄人向けの藤が丘店

私はしばらく行ってないですが、ネット上では味の評価が高いようです。ただ、ここは常連レベルの行動力が必要で、店員さんとの会話でメニューが決まって行くというパターンがちらほらあります。
オススメをバンバン推してくる感じです。どんなメニューがあるか知らないよ、という方には下調べをお勧めします。
台湾ラーメンの辛さはまずまずですがニンニクや唐辛子の大きさと具の多さと透明で赤みの強いスープが特徴です。これが好き!という人も多いので、味仙に慣れてきたらチャレンジしてみたいところです。

◆学生からファミリーまで人気、安くて安定感ある八事店

八事店は学生街にあるからか、台湾ラーメンが税抜500円と安くなっています。辛さはトップクラスで、見た目濁り気味の茶色系で大人しそうなスープに騙されないことです。また、他店よりやや甘酸っぱさを感じます。この程よい酸味がシメのラーメンとして非常に食べやすく個性もありユニークな存在です。しかし、見た目以上にかなり辛く仕上がっています。駐車場に限りがありますが回転が良いので気長に待つのがいいでしょう。
 

◆塩台湾がある焼山店

焼山店は塩台湾ラーメンがあるところが特徴です。それもあってか、ミンチは他店に比べて色が濃い目。しっかり味付けしている感じです。塩台湾はまだ食べてないのですが、台湾ラーメンもスープの色は淡く、茶色系。こちらも藤が丘店同様ここしか行かないという固定ファンが多い個性的な店です。
 
◆ファミリー人気の高い下坪店

ご多分に漏れず週末の夜ともなると順番待ち確定。 
具材はややおとなしいがにんにくが強く、スープはやや濃いめ。辛さは日によって多少のむらがあるものの基本おとなしめ(だからといって辛くないわけではないので注意)。





◆まとめ 行きつけの味仙を見つける作業も楽しい



同じ系列で同じメニューということで、極端な違いはないにしろ細かいところに注目していくとそれぞれ仕上がりのスタイルが違うのが味仙の面白いところ。私は今池の本店に行くことが多いですが、好みの辛さに合わせてお店を決めるのもいいでしょう。 


久しぶりにデータを引っ張り出して整理していたら、食べたくなってきたのでまたビールでも飲みながらコブクロ、青菜炒め、アサリ炒め、手羽先、台湾ラーメンのフルコースを食べたくなってきたのでまた近いうちに行くでしょう。


この寒い時期に、辛いものをいっぱい食べて、冷たいビールで流し込んで、満腹のお腹をコートで包む。
そして騒々しく、キンキンに冷えた今池の夜空ににんにく臭くなった白い息をたなびかせ気の合う友人とゆっくり歩きながらアホ話で盛り上がるのがこの時季の最高の贅沢なんじゃないかなと思いますね。

この古き良き名古屋の伝統をいつまでも。