2007年01月30日

『人間蒸発』 5

生活情報番組 「発掘!あるある大事典 II 」 (関西テレビ制作) で
データ捏造などの、悪質なヤラセが発覚した。
同番組は打ち切りとなったが、「納豆」 の放送回に限らず、今後も番組の信憑性が取りざたされることになろう。

ダイエットや健康といった言葉に踊らされ、スーパーの在庫が底をつくくらい 「納豆」 に殺到する人々の盲信ぶりもどうかと思うが、視聴率至上主義で番組を制作しているTV局サイドの 「視聴者を小バカにした態度」 が許せないのは言うまでもない。

では、私たちはどの情報を信用すれば良いのだろうか?
果たして、どこまでが真実で、どこからが虚構なのだろうか?

昨年暮れに追悼特集をした今村昌平の未見作品を入手した。
ドキュメンタリーである。
ドキュメンタリーでありながら、ノンフィクションではない!?

いやはや、噂には聞いていたが・・・
今平がこんな問題作を残していたとは、全くもって驚きなのである。


人間蒸発  67年
  監督・企画: 今村昌平
  協力: 浦山桐郎
  撮影: 石黒健治
  編集: 丹治睦夫
  音楽: 黛敏郎

  出演: 露口茂
      早川佳江





【ネタばれ注意】

「蒸発」 という言葉をご存知だろうか?
水が気化する現象ではない。今で言えば 「失踪」 である。
昭和のある時期、人が忽然と姿を消し、行方不明となる蒸発が社会問題として大きくクローズアップされた。

大島裁 (ただし) は32歳の営業マン。
家族や婚約者に何も告げず、突如として蒸発してしまった。残された婚約者、早川佳江は露口茂を後見人として、大島の行方を捜すべく聞き込みを開始する。

「おとなしい、気の弱い男だった」 とある者が語れば、またある者は 「仕事はできなかった」 と辛辣に証言する。
そのうち、会社の金を使い込み給料から返済していたといった事実や、酒飲みでだらしない一面、過去の女性問題など婚約者が知らなかった大島の素顔が明らかになっていく。

しかし、関係者へのインタビューで構成された展開は平板で面白みを欠く。後の 『ゆきゆきて、神軍』、『全身小説家』 といった原一男の衝撃的なドキュメンタリー作品と比べると、かなり物足りない。
しかも、インタビューの録音状態がなにせ悪い。その上、登場する人たちの東北なまりも手伝って、彼らの証言は聞き取りづらく、前半の内容は冗漫になりがちである。

ところがところが・・・
監督が今村昌平であることを忘れてはならない!

若き日の野心的な今平がカメラの前に姿を現し
「情念の世界に持ち込みたい!」
と、スタッフに号令をかけるのだ。
なんとも目新しきは、スタッフ会議の映像までもが挿入されている点である。自ら楽屋裏を暴露して見せるのである。

ドキュメンタリーでは中立な立場を守らねばならぬはずの作り手が、積極的に内容を操作しようとしているのだから、これはある意味 「発掘あるある・・・」 と同じである。
いや、同じと言えば語弊があるかもしれない。ウソをマコトにする気はないわけだ。
しかし、この辺りにドキュメンタリーの危うさが、逆説的に浮き彫りにされている。純然たるドキュメンタリーなどありはしないのだ。

例えば・・・
ある殺人事件の容疑者がテレビのインタビューに答えている。
「私が殺しました!」
衝撃の自供がお茶の間に伝えられる。テレビ局のスクープ映像である。

だが、容疑者の発言が、本来は以下のようだったらどうだろう。
「私が殺しました! でも、Aという人物に殺しを指示されました。殺したのはAなんです!」

テレビ局はインタビューの 「私が殺しました!」 という部分を編集で抜き出し、視聴者に見せたに過ぎない。であるから、事実には違いない。しかし、情報は明らかに操作されている。

「殺したのはAなんです!」
この部分だけを放送に使用したなら、真実までもが歪んでしまう。
かように、報道であろうとも、カメラを通じて語られる言葉は、真実でありながらも真実ではない。

後半は監督の狙い通り、俄然、面白くなる。
さながら、今平が得意とした重喜劇の世界が、ドキュメンタリーであるにもかかわらず展開していくのだ。

テレビのワイドショーに出演して以降、早川佳江はどんどんと身綺麗になっていく。しかも、こともあろうに後見人として共に行動を続ける俳優、露口茂に想いを寄せはじめるのだ。
今平は言う。
「それも新しい事実。ならば、丸ごとひっつかみたい!」 と。

さらには、佳江の姉、サヨと大島の隠された密接な関係が、次第に浮かび上がってくる。同時に姉妹の生い立ちと、二人の間に横たわる根深い憎悪も。
後半のほとんどは、姉妹による骨肉の醜い争い、猜疑心に満ちたドロドロの人間模様がクローズアップされている。

妹の婚約者、大島との親密さを裏付ける証人たちが次々と登場する中、頑なに関係を否定し続けるサヨ。
姉の嘘を執拗に追求する妹、佳江。
カメラの前で展開される凄まじいまでの姉妹対決!

「女という生き物の凄み」 は、今平が生涯、追い求めた作品テーマでもある。こうして今平は 「情念の世界」 に、まんまと持ち込んでしまったわけだ。

それを加速させるがごとく、イタコや占い師を登場させ、本作は一気にメタフィクショナルな様相を帯びていく。
真実と虚構、現実と非現実のはざまを照射する隠し撮りカメラ。
「これはフィクションだ!」
監督自身が何度も声高に叫ばねばならなくなった騒然とした現場。その映像は、人間という名の餓鬼のルツボ、地獄絵図のごとしである。

本作がノンフィクションなのか、フィクションなのか・・・
その答えは観る者には判らない。いや、作り手や登場人物たちでさえ、見境が付かなくなっているのだろう。
しかし、これは紛れもなくカメラを通じて記録された事実であり、ドキュメンタリーである。

少なくとも私に言えるのは 「本作は今村昌平の映画だ!」 という事実だけである。
本作を未見の方、かつて観たという方。あるいは、今平を一度もご覧になられていない方に等しく告げたい。

どうか、今村昌平の世界を本作でご堪能ください!
そこに見えてくるものは 「人間の真実の姿」 に他ならないから。

(DVDにて鑑賞)

cinema_antlion at 10:13│Comments(2)TrackBack(0)clip!★★★★★ 

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この記事へのコメント

1. Posted by 豆酢   2007年01月30日 22:40
おおおおおお…

入魂のレビュー、ずしんときましたよ。この作品に関しては、名前だけは聞いたことがあるという程度の認識しかございません。しかし、これは…。優一郎さんの解説でがぜん観たくなってまいりました!

ドキュメンタリーとモキュメンタリーの間にどう境界線をつけるのかは、確かに難しい問題ですね。ドキュメンタリーと銘打っていても、対象をカメラの前に晒した時点で、すでにあるがままの姿ではなくなるのですから。ならば、違う意味での、違う次元での普遍的な“真実”をあぶりだすために、意図的に脚色を施そうと企むなんて、今村監督は豪胆な作家なんですね。改めて感銘を受けました。
2. Posted by 優一郎   2007年01月31日 14:46
こんにちは!
書き込みありがとうございます^^

これ面白いですよ!
モキュメンタリーって表現では言い表せない、もっとスレスレなドキュメンタリーです。
ただし、レビューでは全く触れておりませんが、一歩間違えれば人権無視に抵触してしまう危うさ。というか、ほとんど人権蹂躙かもです^^;

ご覧になる機会があれば、前半だけガマンして観てください。前フリだと思って。そこを堪えた鬱憤が、後半で一気にカタルシスへと変わりますから^^

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