◇ジョン・スタージェス監督

◆スティーヴ・マックィーン、ジェームズ・ガーナー、リチャード・アッテンボロー、ジェームズ・コバーン、チャールズ・ブロンソン、ドナルド・プレザンス、デヴィッド・マッカラム、ジェームズ・ドナルド、ハンネス・メッセマー、ゴードン・ジャクソン、アンガス・レニー、ナイジェル・ストック、ジョン・レイトン

 

 o0468046910865923077『大脱走』(1963年)は第二次世界大戦中の戦争映画だが、戦地での戦闘映画ではなく、戦地から遠く離れたナチス・ドイツの捕虜収容所での話である。その点ではビリー・ワイルダー監督の『第十七捕虜収容所』(1953年)と似ていなくもないが、喜劇と冒険アクションという風にジャンルが全く異なり、別個の面白さがある。両作品とも傑作だが、個人的には『大脱走』の方が断然面白いと思う。

 『大脱走』の舞台になっているのは、ベルリンの南東約160kmのザーガンにあったコルディッツ収容所である。第二次世界大戦中の捕虜収容所の一つだが、ここは連合国軍の航空兵で捕虜となった者ばかりを収容する施設で、ドイツ空軍の管轄下にあった。

映画の冒頭、各地の捕虜収容所から移送されてきた連合国軍捕虜たちのまとめ役・ラムゼイ英空軍大佐(ジェームズ・ドナルド)に対して収容所長のドイツ空軍大佐ルーガー(ハンネス・メッセマー)が「腐った卵を一つの籠に集めるのだ」と宣言する如く、コルディッツは各地の捕虜収容所で脱走を繰り返す常習者ばかりを集めて監視を強化するために設置されたのである。

ドイツ軍側のこの目論見は、しかし、脱走の“プロ”たちを集約してしまい、大がかりな脱走を却って助長するような結果になった。ちなみに、イギリス王位継承権順位第七位のジョージ・ヘンリー・フバート・ラッセル子爵も1944年に短期間、この収容所に収容されていたことがあるそうだ。

捕虜たちが何度失敗しても懲りずに脱走を試みるのは、拘禁状態を脱して自由になりたいという本能的な欲求からだけではなく、連合国軍が脱走を兵士の義務として勧奨していたからである。捕虜が脱走すればドイツ軍はその捜索に多大な兵士を充当しなければならず、その分、連合国軍側の前線に対する負荷が軽減されるようになるという狙いだった。

映画のタイトル・クレジットが終わると、「この映画は実話に基づいており、登場人物のキャラクターなどに多少の映画的脚色はあるが、脱走の手順は忠実に再現されている」という趣旨の字幕が出る。映画の中で大脱走を立案・指揮するビッグこと英軍少佐ロジャー・バートレット(リチャード・アッテンボロー)は実際に大脱走を指揮した英軍少佐ロジャー・ブッシェルを直接のモデルにしているらしい。

ビッグは脱走常習捕虜たちが移送されてきたその日、僅かに遅れて手錠まではめられて連行されてくる。その夜早速、彼は情報屋、調達屋、偽造屋、トンネル掘りなど特技を持つ主だった捕虜たちを集めて250人を一気に脱走させるビッグ・プランを打ち明け、「大勢の脱走者がドイツ各地に散ることによってドイツ軍の後方攪乱を狙うとともに、前線兵士を多数、捜索に割かせるためだ」と目的を説明する。

ビッグというニックネームに反して、演じているリチャード・アッテンボローは随分小柄だが、その存在感は大きい。ビッグは沈着冷静、しかも剛毅でものに動じない。ビッグというのはグレートと同義で使われているのだろう。彼が手駒の如くに動かす特技の持主たちのキャラクターが面白く描けていることも見どころの一つである。

jamesgarner中でも“調達屋”ヘンドリー(ジェームズ・ガーナー=写真左)は一見気難しそうな大男だが、とぼけたようなところがあり、社交性もあって頼まれればどこからか脱走用の資器材ばかりでなく、コーヒー、ミルク、チョコレートといった嗜好品まで手に入れて来る。あげくに気のいいドイツ軍監視兵をたらしこんで財布を抜き取り、身分証明などの偽書類を作る元本を入手する。ジェームズ・ガーナーはオールラウンド・プレイヤーだということだが、この役でもなかなか味のある人物像を描出している。

炭鉱夫上がりのチャールズ・ブロンソンが地下トンネル掘りのプロを演じているのは切って嵌めたような配役である。

その他、特技の持主はそれぞれの役割に応じて、特技のない者は集団で一致結束してTOMDICKHARRYと名付けた三つの地下トンネル──実際にそういう名前だったらしい──を掘り進めるプロジェクトに従事する。

great_escape01アメリカ陸軍航空隊大尉ヴァージル・ヒルツ(スティーヴ・マックィーン=写真右)だけは一匹狼で、単独で監視の盲点になっている金網を破って脱走を図るが失敗する。アメリカ人が一匹狼というのはやや意想外の設定だが、マックィーンが演じると、いかにもヤンキーという風に見える。ヒルツも最後にはビッグに協力し、大脱走には地理に通じた彼が先導役を務める。

史実では地下トンネルは1944年3月に完成、同月24日に脱走が決行され、うまくいくかに見えたが、77人目で監視兵に気付かれた。脱走した76人のうち、国境を越えて逃げおおせたのは3人だけで、残りはドイツ各地でばらばらに拘束された。そのうちゲシュタポに捕まった50人は元の収容所へ連行される途中、ゲシュタポによって銃殺された。

抵抗しない捕虜を銃殺するのは国際法違反だったが、ゲシュタポはそういうことに頓着しなかったのだ。映画では、ゲシュタポに銃殺された者の中にビッグが含まれ、元の収容所へ連れ戻された10人余りの捕虜の中にはヒルツやヘンドリーらが混じっていた。

収容所帳ルーガーはナチス・ドイツ軍将校という立場を守ってそれなりに誠実で良心的な男である。彼は常日頃からゲシュタポや親衛隊の所業を快く思っていないことが映画の冒頭部で示唆されている。それだけにゲシュタポが50人を銃殺し、その名簿だけを送ってよこしたことを恥じて、ラムゼイ英空軍大佐に申し訳なさそうに報告する。

こういう公平な人物描写や、脱走者たちの身の決着を最後の最後まで生真面目すぎるくらいの姿勢で描いているところが、単なる娯楽活劇映画に終わらせていない、そして173分の大長編を退屈に感じさせない理由だと言える。

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