◇山田洋次監督

◆渥美清、香川京子、ハーブ・エデルマン、倍賞千恵子、前田吟、下條正巳、三崎千恵子、太宰久雄、林寛子、犬塚弘、中村はやと、佐藤蛾次郎、笠智衆

 

第二次世界大戦の一局面である太平洋戦争で日本はアメリカに敗れて敗戦国となったが、終戦後の日本の経済復興と技術革新に裏打ちされた国際競争力の伸長によって日本製品がアメリカへ大量に流入するようになり、1960年代後半の繊維製品、70年代後半の鉄鋼製品などの日本側からの大量輸出で日米経済摩擦が激しくなった。

シリーズ第24作目の『男はつらいよ 寅次郎春の夢』が公開されたのはまさにそういう経済摩擦が激しくなっていた19791228日だった。社会の潮流に敏感な山田洋次が日米経済摩擦に関心を抱いていたかどうかまでは判らないが、アメリカに次いで世界第二位の経済大国にのし上がった日本とアメリカの関係が緊張をはらんでいることには意識が向いていただろうとは推測できる。

経済問題では喜劇シリーズである『男はつらいよ』はさすがに作りにくいから、『寅次郎春の夢』は日米の文化の違い、特に心に思うことの表現の仕方の違いによって起きる摩擦を主題としたのではないかと想像するのも一興だろう。この作品では、“アメリカ人版のフーテンの寅”とでも言うべきセールスマンが登場して、本物のフーテンの寅と絡んでいるのである。

帝釈天(題経寺)の境内でホテルを探しあぐねていたアメリカ人セールスマンのマイケル・ジョーダン(ハーブ・エデル寅次郎春の夢1-2マン)を、英語が全く解らない午前様が「とらや」へ連れてきた。さくらが賢い子供だったから英語が解るだろうという単純な発想からだった。

さくらも実は英語が解らなかったが、息子の満男が通っている近所の英語塾の先生・高井めぐみ(林寛子)とその母で未亡人の圭子(香川京子)がたまたま草団子を買いに来合せて事情が判り、結局、マイケルは「とらや」に当分下宿することになった。

旅先から帰ってきた寅次郎は「アメリカ人は嫌いだ」と言って悶着を起こしかけるが、圭子に会った寅次郎は例のごとく一目惚れしてしまう。

一方、マイケルはさくらの優しく親切な振る舞いに博の妻であることを知りながら思わず「アイ・ラブ・ユー」と口走ってしまう。人妻への愛情の告白という倫理的問題を寅次郎は、「アメリカ人は日本人のように許されぬ想いを心の奥に秘めておくという“粋”を持ち得ない」という日本人の文化的優位性として片づけてしまう。

一方、アメリカ・アリゾナ州にいるマイケルの母親は東京のマイケルに「日本はカミカゼとハラキリの恐ろしい国」と偏見に満ちた手紙を寄越し、相手国への文化的偏見では相見互いといった感じである。

その寅次郎の恋は心に秘めたまま、圭子に再婚相手になるらしい船長が現れてあっさり終わった。マイケルの告白に対して、めぐみからそういう場合は“It is impossible”とはっきり言うべきだと教えられていたさくらはその通りに答え、傷心のマイケルは仕事もうまくいかずアメリカへ帰ってしまった。

ちなみに、マイケル・ジョーダンの名前は、当時アメリカのバスケット・ボールのプロ・リーグで大活躍していたエアー・ジョーダン(空飛ぶジョーダン)ことマイケル・ジョーダンの名前を拝借したに違いない。

      ☆☆☆