◇ビリー・ワイルダー監督

◆マリリン・モンロー、トニー・カーティス、ジャック・レモン、ジョージ・ラフト、ジョー・E・ブラウン、ジョーン・ショウリー、パット・オブライエン

 

「お熱いのがお好き」2映画研究者や評論家、熱烈な映画ファンらの中には、ビリー・ワイルダーを並み居る巨匠・名匠を差し置いて映像作家として高く評価する人たちが少なからずいるようだ。映画は大衆娯楽としての要素が大きいから、芸術家として評価するというよりは多分に自分の感性、嗜好などを本位にして評価を下している面もあるだろう。

現に、先ごろ『サウンド・オブ・ミュージック』について新書版ながら一冊の本を書いた明治大学教授・瀬川裕司氏(映画学)は、2012年2月に「ビリー・ワイルダーのロマンチック・コメディ」と題するかなり大部な本を刊行し、「ビリー・ワイルダーの諸作品の中でもとりわけ鮮やかな輝きを放つ恋愛喜劇におけるテクニックを観察する作業」として『お熱いのがお好き』(1959年)、『アパートの鍵貸します』(1960年)、『昼下りの情事』(1957年)の3作品を取り上げ、さらにこれらの作品に主演したマリリン・モンロー、シャーリー・マクレーン、オードリー・ヘップバーンの3女優についても論じている。

論じる順番が映画公開年次順ではないところから見て、瀬川氏の好きな作品順だろうとも想像される。3作品とも恋愛喜劇として傑出していることは確かだが、映像芸術として歴史に残る傑作というほどのものではない。

個人的には、ワイルダー作品の中では『サンセット大通り』(1950年)の方が映像芸術としては優れていると思うが、喜劇作品に比べると、さほど人気がないようだ。人気の点では、オールド・ファンの間では『お熱いのがお好き』が最も人気があるらしい。

「お熱いのがお好き」1『お熱いのがお好き』は、トニー・カーティスが演じるジャズ・バンドのテナー・サックス奏者とジャック・レモンのベース奏者の仲良しコンビが、ギャングの追跡を逃れるために女装して女性ばかりのバンドに潜り込み、フロリダへツアーに出る間中、女性として振る舞う可笑しさを中心にした作品で、トニー・カーティスがバンドの歌手マリリン・モンローに恋して、保養地のフロリダでは富豪の二世に早変わりして恋を語り、ジャック・レモンは本物の富豪の老人に女性だと思い込まれて恋されて結婚を迫られる。ついでながら、実は男性である自分が求婚されたことに困惑したジャック・レモンが女性ではない旨を告白すると、相手の老人が泰然として“WellNo man is perfect”(完全な人間なんていないさ)と答えるオチは映画史に残る傑作だ。

こういう風にギャグ一辺倒で押し通す軽快なコメディだから、観客銘々の嗜好で評価は大きく割れるだろう。

当初はフランク・シナトラとミッチー・ゲイナー主演で企画されたが、ビリー・ワイルダーがこの喜劇にピッタリのジャック・レモンを見つけて出演者が変更されたそうだ。マリリン・モンローはカラー映画だと思っていたのにモノクロと知って失望したという。当時のモンローは情緒不安定で奇行が多く、撮影そのものは難渋したということだ。

                           ☆☆☆