2008年02月14日

ブルーマウンテン、ブルース。一話。




「どーにもこーにも、世知辛い世の中スよね。誰も彼も口を揃えて勉強勉強勉強勉強。まったく、嫌になるっス」


夜が訪れた街並みに、しかし、世界を支配する筈の暗闇は訪れない。街灯ビル街ネオンサイン。築き上げた人類の叡智が煌々と街を照らし、本来存在してしかるべき宵闇をこの世界から締め出している。夜の帳の下りない世界、それは例えるな停滞した演劇の舞台のようだ。緞帳の下りない舞台は街明かりと言う名の眩いばかりのスポットライトに照らされ、部隊の上に立つ俺達は自らに与えられた役割を知らぬまま、ただそれに目を焼かれていくだけなのだ。


「ガッコ行って勉強、予備校行って勉強、そのあと家で勉強スよ? 信じられます?……ってああ、そちらも同じようなもんスよね。失礼しました」


それでも観客は俺達に役を演じることを強制し続ける。棒立ちのまま時が流れるのを待つことを、彼らは消して許してはくれない。滞った舞台の上、場面の切り替わりも何も無い、凡そ変化と言うものの欠けるその場所で、それでも何かを演じて見せろと、蚊帳の外から無責任に言い放つ……「渡した物が有ったろう」。ふざけるな。それはお前等が勝手に押し付けたものに過ぎないだろう、俺たちが望んだものじゃない。


「本当に、嫌な渡世っス。昔はそれこそ男は度胸、女は愛嬌で渡って行けたって言うのに、今は男も女も勉強スよ? はぁ〜あ、夢も希望も見当たらないとは、正にこの事っスね」


ああ、でも――今、舞台の上に立つ俺には、自分の、自分なりの役割など見つけられはしないのだ。どんなに探したって、舞台の上には閑散とした空間と白々しい静寂が有るだけ。空虚よりも空虚な、スポットライトが当たるだけ。だから、なのか。だからこそ。


「それには同意するが、だが」

「だが、なんスか?」

「……お前は女だというのに愛嬌が足りないな」

「はは――それもま、愛嬌と言うことで一つ」


だからこそ、こうやって。舞台に取り残された者同士、傷を舐め合うのかもしれない。同じ傷跡を擦り合わせて、同じ痛みに涙するの、かも。自分だけが道に迷った孤独な旅人ではないと確かめるように。誰かと寄り添いぬくもりを感じようとする、ように。



そして俺たちはそうやって。涙しながら、それでも何かを、求め続けるのだろう。日常と言う名の舞台の上、いつか、いつか、自分を演じきれる、その日まで。



夢を見つける、その日まで。








ブルーマウンテンブルース。







高校も三年生となると色々なしがらみが増えてくる様に思えたのだが、実際そうでも無いらしい。全くない、訳ではない。要は細々とした問題など全て飲み込んでしまう大きな壁が目の前に立ち塞がってくるからだ。受験、と名の付くそれは今まで構築した高校生活の記憶と人間関係を全て無碍に扱い、三年間で磨きだされた個性を、再び受験勉強と言う名の没個性の底に押し込んでいく。丁度、この俺のように。



「なぁ、鷹屋。帰りゲーセン寄ってかね?」


授業が全て終了した、所謂放課後と呼ばれる時間帯。着々と帰宅の準備を進める俺に誰か話しかけてくる物が居た。その細面と頭の派手な金髪には見覚えが有る……確か、俺の前の席に座る男だったか。こんな風に話しかけられているが、実は前の席に座るその男の名前を、俺は知らなかったりする。特別中がいい訳ではない……と言う訳ではなく、寧ろ知人関係で付き合いが一番深いのはこの男だ。よく話もするし、昼食だってよく一緒に食べる。もうちょっと前は一緒に遊んで帰ったこともあったはずだし、確か、家に遊びに行ったこともある……だというのに、名前だけはどうしても思い出せない。いや、ひょっとしたら最初から覚えていなかったのかもしれない。容量の節約のために。受験生の記憶野は貴重なのだ、色々な単語や歴史上の事件を記憶しなければならない。故に、無駄な事を覚えておく余裕は欠片も無い。


「いや……折角だが断らせて貰おう。俺はこれから予備校で勉強しなければならないんだ」

「っかー。いやはや、残念無念」


そう言って、その男はからからと笑う。そこには残念そうな様子は全くと言っていいほど見当たらない。……と、いうことは先程の言葉は社交辞令、と言うことか。まぁ、この男の性格からすると他にも友人が居るのだろうから、そいつらと遊べばそれで事足りるのだろう。別にそこに居るのが俺である必要は無く、ならば俺がそこに居る必要は無い。勝手に楽しく遊び呆けていればいい。


「しっかし、今日も予備校かー……いや、ま、文句は言わねぇけど、程々にしとけよ? あんまりカツカツに根詰め過ぎっとその内ぶっ倒れるぜ?」

「心配は無用だ。体調管理に抜かりは無い」

「んなら良いけどな。じゃ、程々に頑張りたまへよ、少年」


偉そうな言葉を残し、男は鞄を担いで教室から出て行った。その間誰にも声をかけなかったということは、そのまま真っ直ぐ帰るということなのか、それとも別のクラスに用事が有るのか……まぁ、俺には関係ないだろう。俺も鞄に荷物を詰め終えたので、鞄を背負い、予備校のマークが入ったブリーフケースを手に取り、コートを羽織って教室から立ち去る。

冬になり、陽が落ちるのが早くなったそんな季節。補習も過ぎれば陽が落ち切り暗闇となる。無機質な白熱灯の照らす放課後の廊下は、それでもざわめきに満ちていて、酷く五月蠅い。教室から聞こえてくる声、廊下で興じられる立ち話、誰かの急ぎかけていく足音、のんびりと歩く誰かの足音。それらが混沌と混ざり合いけれど決して溶けあおうとはせず響くその音は不快で、心の表面を波立たせるには十分だった。自然、そこを抜ける俺の足も早いものとなる。そうすれば当然足音は響く訳で、余計に俺を苛立たせた。昇降口にたどり着き、靴を履きかえ、足早に不快な空間を後にする。校庭を突っ切って出た学校に面する大通りを、右へ。駅前の商店街に向かう道だ。そこの東通りに、目的地である予備校の青山学院が有る。

徒歩でおよそ十分ほど。目的地である青山学院に到着する。それはビルに囲まれて存在する頭一つ分低い建物で、それ以外に特筆すべき個所は無い。普通の、何処にでもある様な何の変哲もない予備校だ。予備校の生徒で賑わうコンビニを通り過ぎ、名前が書かれただけの意匠を凝らしていない看板の下へ俺は急ぐ。と、


「……」


予備校の出入り口の近く、予備校の生徒を狙ったものなのであろう、二つ並んだ自販機の前に誰かがぼんやりと佇んでいた。何か飲み物を買う訳ではなく、ただ自販機の姿を茫然と眺めている……髪の長い少女。普段の俺なら迷わずに通り過ぎているのだが、目を留めた要因としては一番それが大きいだろう。髪が、異常に、長い。最早地面に届くのではないかと、寧ろそれこそが目的だと言わんばかりの長くて量の多い髪は、梳りもしてないのだろうか、縛られもせずに所々が跳ねている。百六十あるかないかくらいで、それでも自販機の上のボタンまで手が届かない訳ではないだろう。

結論から言うと、不審者だ。だから俺も気になったと、それだけの話。

関われば即面倒事、な危険なオーラを発し続ける彼女に、正直関わり合いになりたくはない。だから俺は、足の速さはそのままに横を通り抜けようとする。


「あーちょと。そこの人」


通り抜けようとした、のだが。それよりも早く俺の足音に気付いた彼女がこちらを振り返り、愛想笑いのようなものを口に浮かべて話しかけてきた。それでも無視して行こうとする俺に、もう一度「貴方スよ。貴方」と今度は肩を叩くオプション付きで声を掛けられた。……仕方ない。込み上げる嫌な予感を押し殺しつつ、俺は少女に向きなおる。真っ向から見た彼女の顔の印象は、


「……貞子」

「へ? なんスか?」

「何でもない」


そう、あのホラー映画に出てきた女にそっくりなのだ。青白い、まで行かなくとも真っ白な肌、鼻と口以外の顔パーツを隠す長い髪。これであれを思い浮かべない方がどうかしてると言えるだろう。その不気味さと言えばまぁいいです、などと呟く姿がそれだけでホラーになるくらいだ。


「あの、ちょっと訊いていいスか?」

「断る」


逡巡は無い。心の底から関わりたくないと叫ぶ自身の声が頭の中に木霊し、それに従って反射的に否定の声が出た。表情は軽く胸元まで届く長い前髪に隠されて読み取れず、驚いたのか傷ついたのかどうなのか全く分からない。いや、喜んでないのだけは確かだろうが。実際傷ついていたのだろうか、貞子少女は俺からふいと視線を背け、


「この自販機、エメラルドマウンテンって無いんスかね」


隣にあった自販機を指さした。俺の肩から、力が失われるのがはっきりと分かる。


「人の話を聞け」

「知んないスか? ジョージアのエメラルドマウンテン。あれ好きなんスよ、自分」


更に脱力。どうにもこいつには話を聞く気が無いらしく、断ろうが注意しようが話を止めようとはしない。恐らく言いたいことを全て言いきるまで止まらないのだろう、相手の望む答えを以外を口にすることに何ら意味は無いようだ。となれば速やかに此処から離脱する方法は一つ、だ。


「……俺が知る訳ないだろう」

「あ、そスね。初対面の人が私の好みなんて知ってるはずないスよね。すんません」

「違う」

「? エメラルドマウンテンを知んないんスか。ひょっとして自販機使わない人で?」

「その自販機のことなんて、俺が知る訳がないだろう。業者に聞け」

「ああ、納得っス」

「……もういいか? 用が済んだなら俺はもう行くぞ。無駄話に付き合っている時間的余裕は無い」

「ああ、そスか。それは残念です……じゃ、最後に一つ」


並べば頭一つ分は低い位置にある、俺が見下ろす貞子の表情に口元以外の変化は見えず、やはりそこからは何の意思も読み取れない。口元が愛想笑いみたいに歪むのは失望なのか、それとも……自嘲、なのか。そんなこと、俺が、







「変な事聞いて、すんませんでした」







知る訳がない。













―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



えー。割と本気でここまでしか出来ていません。にぇおー((奇声

夕暮れに比べたらかっちりした文体なので進みが遅いのやも。というか、僕はボーイミーツ的な何かを書くのは苦手なんです。特に一番肝心な出会いの部分を書くのが苦手なんです。駄目人間がッ!!

自分の才能の無さに絶望するよ……誰か僕に文才をください。





あ、あとこんなのが出来ました。よかったら覗いてせせら笑ってやってください。

http://clackhanded.web.fc2.com/



clearvoice1989 at 21:12│Comments(9)TrackBack(0)小説 | 宵闇

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by 和紀   2008年02月15日 01:29
 「どうしてお空が青いの?」とか「どうして海が青いの?」とか聞かれるのはまだいいが、「どうして山が青いの?」と聞かれたら流石に困る(何


 ひーさん(暫定雲雀)の身体的特徴を見て、くーとの年齢不詳を思い出してしまった。今やイメージはそれ。
 
 人間というのは不思議なもので、学校・予備校・塾の人間は劣化はすれどほぼ同じことしか教えていない。だというのに文明は深化するのだ。まったく不思議だ。教えているのは同一だというのに。つまり、教える意味など……。


 さて、舞台に立たされた者達は何を歌うのか。
2. Posted by 和紀   2008年02月15日 01:38
 訂正:年齢不詳じゃなくて年齢詐称でした
3. Posted by くらげ   2008年02月15日 15:35
「どうしてエメラルドはグルーなの?」

グルーのパラドックスは好きかな?
僕はヘンペルのカラスのほうが好みだ。

人は教わるべきでなく学ぶべきなんだ。

人の知識は増えちゃいるが、賢くなっているとは一概に言いがたいのだね、フリン効果ってやつ。




リンク貼って良いかな?
4. Posted by 海   2008年02月15日 23:33
どうも、戦闘力5のゴミが来ましたよ>挨拶
あすぼく、いい加減滞りすぎで本当申し訳ないです…m(__)m
週明けまでには素材とともに送りますっ。

あ、読んでてひとつだけ気になったんですけど

>普通の、何処にでもある様な何の変哲もない予備校

なんとなく意味が被ってるような…と、出過ぎた指摘でした(汗)
5. Posted by 夢見月   2008年02月16日 07:34
山が青いのはきっと仲間外れを嫌ったからですよ、という素敵に無知な逃げ台詞が。そんな、理由なんて分かる訳無いじゃないか!((何

歌うのは宵闇に相応しい絶望、退廃的な彼らの世界を有りのままに綴った……退廃的絶望論。

……ところで予備校なんか行ったことも無い僕は授業のシステムすらわからんのですがどうしよう。まぁいいか。<和紀
6. Posted by 夢見月   2008年02月16日 07:39
グルーもカラスもフリン効果も分からんのですが不勉強。

大切なのは増えた知識をどう使うか、なんだろうなぁ。僕は主にこーいうことに使ってるけど。

リンクは好きにするといいよ。貼るも剥がすも。……地味に名前とかについては謝っとく。ごめんなさい<くらげ
7. Posted by 夢見月   2008年02月16日 07:43
こちらこそごめんなさいこんなことしてて! あすぼくやれよとか言うね!

素材はガチ感謝です。こっちで集めてイメージと違ったら大変ですし。


指摘の件。実際装飾過多って言われたことがあるので、気をつけることにします……<海
8. Posted by マツモト   2008年02月21日 19:19
あくまで主観的なものなのですが、
面白い。です。
言葉選びがヘタなので多くは言えませんが、すごく面白いです。
思わず次を求めてしまいます。。。
9. Posted by 夢見月   2008年02月29日 11:10

自己表現は割と得意ですが他人を表現するのは苦手なのです。僕も同じく、ですね。そこは。

続きは今抱えてるのが終わり次第書いていこうと思います。過度な期待せずに待ってみてください<マツモト

コメントする

名前
URL
 
  絵文字