2008年11月12日

春色恋歌 -A Song of Wheel-:girl's side:2


「……ねぇ、一つ聞きたいんだけど」

きぃ、きぃ、とチェーンが軋む。響くタイヤの回転音、回転音。身に受ける陽光は麗らかで、切る風にたなびく髪は、まだ、長い。いつもの朝の光景。何時からか習慣付いたルーチンワーク。代えがたい日常の証左、恙無く日々を過ごしている証に、けれど、何処か不安になる。

この時間が終わりを告げてしまうこと。訪れた明日からこうして二人で自転車に乗る時間が消えてしまっていること。彼があたしの下から離れること。その全てが恐ろしく、耐えられる物じゃない。

胸中に抱いた畏れを掻き消すためなのか。あたしは、気が付けば口を開いていた。殆ど無意識に近い問い掛けだったために、「何?」と聞き返されて逆に言葉に詰まってしまう。言葉を探して、視線が泳いだ。

聞きたいことが無い訳じゃない。でもそれを口にして良いか分からない。答えによっては、今此処にある幸福な時間が、壊れてしまいそうで……どうしても、言葉にするのを躊躇ってしまう。

でも、とあたしは思う。でも、このまま悶々としていても駄目だ、と。二人きりの穏やかな時間。ただ在るだけで幸福な世界で、こんな……こんな醜い感情を、抱いていたくない。嫉妬なんかで、汚してしまいたくない。それは裏切りだ。ただあたしが此処に居たいがためだけに事実から目を背けることは、あたし自身への……あたしが抱くこの感情を裏切ることになる。


そんなのは、嫌だ。


「……ね。あんたさ、いんちょーさんの事好きなの?」

心臓が跳ねた。不安と鼓動が加速する。……怖い。答えを聞くのが……とても、怖かった。

「……なんで、そんなこと聞くんだ?」
「だって、最近仲良いじゃん。お昼だって一緒に居るしさ」
「それは、向こうが一緒に居ようって言うから」
「……っ! 断ればいいじゃん、そんなの!」
「……どうしたんだ、お前。ちょっと変だぞ?」
「……変じゃない……全然変なんかじゃないよぉ……っ」

自分でも何を言っているか分からない。喋れば喋る程不安は増して、少し、泣きそうになる。不安に圧し負けて逃げたくなって、彼の腰に回した手に力が篭った。近付いた背中に顔を埋める。

周囲の音が遠くなる。錆びたチェーンの軋む音も。タイヤの回転音も。風音も小鳥の囀りも、全て。


どくん、と。音が聞こえた。


聞こえて来たのは鼓動の音。どくん、どくんと鳴っている、彼が生きている証の音。不安を、溶かしていくようで。聞いているうちに覚悟は決まった。私は彼の答えから逃げない。例えそれがどんな物であっても。私は、彼が好きだから。

「お、おい?」
「……お願い。こたえて」

それきりあたしは口をつぐんだ。彼もあたしの様子から何かを悟ったのか、それ以上何かを言うような事は無い。黙って、答えを探している。だからあたしも何も言わずに、彼の背中から伝わる心音にじっと耳を澄ませて答えを待った。やがて口は開かれ、






「         」

――――――――――――。


答えは静かに、耳朶の奥へと染み込んだ。

「そか」

それだけ返して、あたしはゆっくり目を閉じる。全面に伝わる彼の温もりが、少しだけ哀しかった。



錆びた車輪が哀しく唄う、静かな静かな朝の町を…………自転車は、ゆっくりと進んでいく。






















…………死体となったいんちょーさんが自宅で発見されたのは、それから数日後の事だった。










―――――――――――――――――

べ、ベタにやるっていったじゃないか――――――――――!

済みません物凄い嘘つきました。全然ベタじゃねぇ。王道でもねぇ。邪道、ってか外道だ、これ!

てなわけでお送りしました夢式車輪ガールズサイド二話。如何でしたか? ちなみにこんなことになって一番驚いてるのはこの僕です。

ボーイズサイドの構想練ってたらこんな事に! に!
ち、違うんだ! 僕がやったんじゃない! 僕の右手が勝手n((ry

ええと、一応次でガールズサイド終了の予定です……こんなことになってしまいましたが、どうかよろしくお願いします……。

clearvoice1989 at 13:11│Comments(2)TrackBack(0)小説 

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この記事へのコメント

1. Posted by 和紀   2008年11月12日 22:24
と、飛んだ!こ、これは実に予想の斜め下!(下かよっ

真逆そうなるとは、という感じですね。お菓子好きないいんちょー南無。


何気に話が長くなるフラグが立ったような気がするけれど、ガールズサイドは終了したらしいですね。
ところで、恋愛物であってたよネ?
2. Posted by 夢見月   2008年11月12日 23:05
どうも、貴方の予想の遥か斜め下を行く夢見月です(挨拶

あと一話残ってるですよガールズサイド……今書いてる途中ですが! そして恋愛物であってます。多分。

いんちょーさんまさかの退場。顔すら見せてません。哀れいんちょー、でもボーイズサイドでは出番有るですよ! その活躍に期待せよ!

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