2008年11月14日

恋歌終想 -A Song of Wheel-:boy's side:1


朝、騒がしい物音で目が覚めた。憂鬱な思いを抱えながらも、寝れやしないので身体を起こす。時計を見れば午前四時、今日も目覚めは最悪だ。苛立ちに舌打ちを一つ零し、階下へと向かう。

「おはよう」

リビングのドアを開き、挨拶をする。けれど返事が返ることはない。そこにいる人間に、そんな余裕はないからだ。片や熱心に何事かを喚き散らし、片や苛立たし気にそれを聞き流している。よくある、いつもの風景。夫婦喧嘩なんてこの家じゃ、別段珍しいことでもない。こんなことには、とっくの昔に慣れている……まぁ、喧しいことには変わりないが。近所迷惑も考えずに騒ぎやがって。

冷蔵庫を開け、栄養剤とゼリー飲料、そしてミネラルウォーターを手に取った。栄養剤はその場で飲み干し、空になった瓶はシンクの中に置く。部屋を出ようとして、

「あら。起きてたの」

声をかけられた。気付かれないように歯噛みし、何でもない風を装って振り返った。

「……ああ、起きてたよ」
「そう」

会話とも呼べないような言葉の応酬。それを遮ったのは父親の罵声だ。母親が面倒そうに視線を移し、俺はその隙に二階へと上がった。自室に入ってドアを閉め、

「…………っ糞がぁッ!」

手にしていたミネラルウォーターを、床へと叩き付けた。何回かバウンドして転がり、止まったそれは割れもしない。殊の外、ペットボトルは丈夫だった。

ドアに背を預け、そのままずるずるとへたり込む。耳には両親が言い争う音ばかりが聞こえて、小鳥の囀りは、聞こえそうにない。窓の外ではようやく日が昇り始めたようで、カーテンの隙間からは朝日が弱々しく差し込んでいた。



夜が明け、朝が来て。





世界は今日も、醜かった。






学校に行くまでの時間を自室で潰し、朝食も食べずに家を出る。車庫から引っ張り出すのはオンボロの自転車。所々錆が浮き、チェーンに至ってはもはや錆の塊といっても過言ではない程、その車体は古く、みすぼらしかった。押すだけできぃ、きぃ、と鳴くそれを、けれども捨てずに使っているのは、一重に詰め込まれた思い出の所為なのだろう。

数え切れないほど刻まれた時間、記憶。車体を覆う錆の数はそれを指し示しているようで。撫でればざらざらとした感触を手に返すそれは、思わず笑ってしまいそうになる程、愛おしい。

「……って、これじゃただの変態だな」

自分の姿を客観的に省みて、苦笑する。自転車を撫でながらニヤニヤ笑いを浮かべるなど、常人の所業ではない。自重せねば。

「こんな所見られたら、あいつに何言われるか」

この自転車が引き合わせてくれた、一人の少女。車体に刻まれた記憶の殆どは、彼女との思い出で占められている。その姿を頭に浮かべ、ひとりごちた。きっと、頭でもおかしくなったんじゃないか、って言われるんだろうな。脳裏にその光景がありありと浮かぶ。細部まで詳細に思い浮かべられるのは、彼女の真っすぐな気性が成せる業だ。……良く言うのなら、だが。悪く言うなら単純。故に反応も読みやすい。

「……それよりも、遅れたら怒られるよな」

これも想像するに易い事。だからそうなる前に、俺は自転車を漕ぎ出した。






頭痛い。風邪引いた。






あ、アルプラ体験版が完成しました。そのうちアップします。

clearvoice1989 at 21:08│Comments(2)TrackBack(0)小説 

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この記事へのコメント

1. Posted by 和紀   2008年11月15日 14:05
キャー、この少年思ったよりも重い子だわー。

勝手な妄想だが、少年が殺したのは両親じゃないかと。だったらいいなぁ。(誰か殺す前提かぃ
2. Posted by 夢見月   2008年11月15日 21:58

それっぽいこと言ってますからねガールズサイドで。本人にもわからぬですが。

まぁ、アルプラの片手間に頑張るですよ。

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