気候変動・千夜一話

地球温暖化の研究に真面目に取り組む科学者たちの日記です。

IPCC第5次報告書はどこまで出ているか

2013年9月末、IPCC (気候変動に関する政府間パネル)の第5次報告書が出たというニュースがありましたが、2007年の第4次報告書のときほど話題にならないまま来ています。これはひとつには、まだ報告書の一部分(第1作業部会のぶん)が出ただけだからです。

IPCCは大きく分けて、

  • 気候変化に関する自然科学的知見を扱う第1作業部会
  • 気候変化が生態系や人間社会におよぼす影響と適応策を扱う第2作業部会
  • 気候変化の原因を抑制する対策(慣例として「緩和策」と呼ぶ)を扱う第3作業部会

に分かれています。
第4次のときは、3つの作業部会の報告書を同時に発行する日程を組み、それぞれを承認するためのIPCC総会を2か月程度の間隔で開きました。
ところが、この日程では、せっかく第1部会が新しい自然科学的知見を整理しても、それが同時に発表される第2・第3部会報告に反映されなかった、という反省がありました。
それで第5次は、第1部会と第2.・第3部会の報告書完成を半年ずらすことになりました。第1部会報告書が完成した時点で、第2・第3部会報告書はすでに原稿ができて査読を受けている段階ですから、根本的書きなおしはできませんが、重大なくいちがいがないように改訂できると期待しているわけです。
第1部会報告がこの9月にストックホルムで開かれた総会で承認されたのに続いて、第2部会報告は来年3月に横浜、第3部会は4月にベルリンで開かれる総会で承認される見こみになっています。

「承認」と書きましたが、報告書の「政策決定者向け要約」(英語の略称でSPM)と、その他の報告書本体とでは扱いが違います。各国政府代表が集まる総会では、SPMについては文章表現まで確認して「承認」(approve)しますが、報告書本体については著者たちによる文章を「受諾」(accept)します。

IPCCのウェブサイトhttp://www.ipcc.chを見ると(10月16日現在)、「Fifth Assessment Report (AR5)」のうち「Climate Change 2013: The Physical Science Basis」の部分に、「Summary for Policymakers」「Report」「Media Portal」の3つのオレンジ色のわくがあります。
Summary for Policymakers」のリンク先は政策決定者向け要約のPDFファイルです。まだ印刷用割りつけができていませんが文章は完成版だそうです。
Report」のリンク先には「Report by Chapters」というページがあって、報告書本体の章別のPDFファイルがあります。ただし、その内容は今のところ2013年6月7日現在の原稿です。別に「Changes to the Underlying Scientific/Technical Assessment (IPCC-XXVI/Doc.4) 」というファイルがあり、9月の総会で求められた修正点が書かれています。この修正点が取りこまれ、さらに印刷用割りつけがされて、報告書が完成するわけです。
この報告書本体のうちに「Technical Summary」(TS、技術的要約)というものがあります。わたしは、地球温暖化に関する科学的知見の現状を理解するには、まずこのTSから読むのがよいと思います。
Media Portal」のリンク先には、IPCCが報道関係者向けに出した説明資料があります。

別にhttp://www.climatechange2013.orgというウェブサイトがありますが、これはIPCC第1部会のサイトです。ここにある報告書はIPCCのサイトにあるのと同じものですが、説明資料には独自のものもあるかもしれません。

日本語では、10月17日に、気象庁が、SPMの日本語訳の暫定版を発表しました。
ホーム > 気象統計情報 > 地球環境・気候 > IPCC(気候変動に関する政府間パネル)http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/index.html からリンクされた
IPCC 第5次評価報告書(2013年)http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar5/index.htmlのページに
IPCC第5次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約(暫定訳)(PDF 3.37MB)http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar5/prov_ipcc_ar5_wg1_spm_jpn.pdfとして置かれています。

その前、9月27日に、文部科学省、経済産業省、気象庁、環境省の共同の報道発表がありました。どの役所のウェブサイトを見にいっても同じPDFファイルが置かれています。
たとえば、気象庁では、上記の
IPCC 第5次評価報告書(2013年)のページの
報道発表資料(平成25年9月27日)
というリンクの先のページhttp://www.jma.go.jp/jma/press/1309/27a/ipcc_ar5_wg1.html
気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第5次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について [PDF:1000KB] http://www.jma.go.jp/jma/press/1309/27a/ipcc_ar5_wg1.pdfというファイルがあります。

この文書には、SPMからさらに要点を抜き出した日本語訳が「別紙1 (5-12ページ)」として含まれ、そのさらに要点を抜き出したものが本文中(2-3ページ)に含まれています。また
「別紙2 (13ページ)」にはIPCCの組織構成などについて、
「別紙3 (14ページ)」には「可能性」と「確信度」の表現について、
「別紙4 (15ページ)」には(第4次報告書まで使われたSRESシナリオに代わって使われている)「RCP(代表的濃度経路)シナリオ」についての説明があります。

なお、IPCCの報告書がつくられる手続きについては、
IPCCのウェブサイトの「Principles and Procedures」のページhttp://www.ipcc.ch/organization/organization_procedures.shtml
「可能性」や「確信度」の表現についてもう少し詳しくは
IPCC Cross-Working Group Meeting on Consistent Treatment of Uncertainties (Michael D. Mastrandrea et al.), 2010: Guidance Note for Lead Authors of the IPCC Fifth Assessment Report on Consistent Treatment of Uncertainties. https://docs.google.com/a/wmo.int/file/d/0B1gFp6Ioo3akNnNCaVpfR1dKTGM/に、英語で説明があります。

環境省の
地球環境・国際環境協力http://www.env.go.jp/earth/の下の
地球温暖化の科学的知見http://www.env.go.jp/earth/ondanka/knowledge.htmlのページには、「IPCC第4次評価報告書について」のページへのリンクはあるのですが、まだ「第5次」は作られていません。これから整備されると思います。

masudako 【10月17日夕方、SPM日本語訳について加筆しました。】

オリンピックを東京で7月・8月に開くことには賛成できません。

(必ずしもclimate_writersの間でも一致するかどうかわからない、わたし個人の意見ですみませんが、やはりここで述べておきたいです。)

東京都知事が代わりましたが、今度の人は前の人よりもさらに強くオリンピックを誘致したがっているようです。

[約1年前の記事]に書きましたので詳しくはくりかえしませんが、7月下旬から8月の東京は、日本に住む多くの人にとって野外活動に適しない気候条件であり、(室内だけでも条件をよくしようとする努力の結果)電力需給がいちばんきびしい季節でもある(2020年までにこの条件が変わるとは考えにくい)ので、この時期の開催には賛成できません。

masudako

「パリティ」2012年12月号、河宮未知生氏によるモデルの話

丸善出版から出ている物理の雑誌『パリティ』の企画「温暖化問題、討論のすすめ」が、毎号ではありませんが、続いています。2012年12月号(56-59ページ)に、河宮未知生さんによる「気候モデルの『しつけ』に関する説明と考察」という文章が出ました。河宮さんは気候モデルに生物地球化学サイクルの表現を組みこんだ「地球システムモデル」とそれを利用した研究にかかわっているかたです。

「しつけ」という表現は、2011年12月号(わたしによる紹介は[2011年11月28日の記事])で安井至さんが温暖化懐疑論者の主張として紹介した「気候モデルはすべて温暖化が算出されるようにしつけられている」という議論に由来するようです。その号での安井さんは「研究者をばかにしている」と怒っただけで内容的な反論をしていませんでした。

気候モデルは大まかに分けて2種類の部分があるのです。物理法則をすなおに数値計算に置きかえている部分と、経験式を使っている部分です。経験式を使っている部分を「パラメータ化」あるいは「パラメタリゼーション」と呼んでいます。パラメータというのは大まかにいうと経験式の係数のようなものです。パラメータの値は過去の経験によって決めますので、この部分についてモデルが「しつけられている」という表現はもっともなところがあります。ただし、そこで使われている過去の経験はそれぞれの部分の動作を確認するのに適したものであって、気候全体のふるまいを観測値に合わせているわけではありません。

モデルとパラメタリゼーションに関しては、わたしも別のブログの記事として説明を試みました。

masudako

電力を太陽光でまかなう島 トケラウ

南太平洋の島国が電力を太陽光でまかなうことになった、というニュースがありました。トケラウ(Tokelau)という南緯9度、西経172度付近にある3つの環礁です。人口は約1500人です。国といっても独立国ではなくニュージーランド領ですが、自治政府をもち、インターネットの国別ドメイン「.tk」を持っています。島に行ったことがなくてもこのドメイン名を使っている人もいると思います。(Wikipedia日本語版「トケラウ」、英語版「Tokelau」を参照しました。)

AFPの2012年11月09日の記事「南太平洋トケラウ、電力源を太陽光100%に 世界初」によれば、ニュージーランド政府の事業でニュージーランドの企業が施工し、費用は約5億6000万円かかったそうです。しかし、これまでディーゼル発電に頼っていて燃料を供給するために1年あたり約6500万円かかっているので、その10年以下のぶんでできたことになります。

技術的にもう少し詳しいことが、pinponcomというサイトの2012年8月6日の記事「トケラウが太陽光発電により全電力を供給へ」にあります。ここにはPV Magazineというサイトの2012年8月3日の英語記事Tokelau: World’s first 100 percent PV territoryというリンクがあり、それが情報源のようです。「システムには4032枚の太陽光発電モジュール、392機のインバータ、および1344機のバッテリーを用いる。さらに、悪天候に備えてココナツオイルを用いた発電機も準備される」のだそうです。(なお、「約6300万ドル」は「約6300万円」のことでしょう。)

やはり、蓄電池(バッテリー)でエネルギーをたくわえることが重要ですね。どんな原理の電池なのかの情報はまだ見つけていません。

同じことが日本の島でもできるだろう、という議論に対して「温帯モンスーン気候と熱帯域では晴天率も当然違うでしょうね。」という人もいました。こういうとき、トケラウと日本の地点の日照時間なり雲量なりのデータをすぐならべて示せるとよいのですが、残念ながらその用意ができていません。一般的知識で述べると、(東太平洋でなく)中部太平洋の南緯9度なので、雲はけっこう多いと思います。しかし熱帯の特徴として、それぞれの場所で雲が出やすい1日のうちの時刻が(ここでは朝、ここでは夕方というように)だいたい決まっていて、それ以外の時間は晴れていることが多いだろうと思います。その点では、持続してくもることの多い日本はやや不利かもしれません。しかし参考になることは多いと思います。

masudako

暑い! 温暖化のせいだ! という議論について

今年の9月は、おそらく日本のどこでも、暑かったですね。温度で見てどのように暑かったは、気象庁からも示されていますが、堀 正岳(ほり まさたけ)さんのブログ「Climate+」の2012年9月26日の記事「7月並の気温が9月まで…。2012年の残暑をデータで読む」と2012年9月28日の記事「暫定1位の暑さだった!2012年の残暑」がわかりやすく説明しています。

このような暑さや、大雨、たつまきなどの極端現象(いわゆる異常気象)があると、「これは地球温暖化のせいだ」「いや、そんなことは言えない」という議論が起こります。

2010年12月31日のわたしの記事「寒い! 温暖化なんかしてないだろう ... という議論について」で述べたのと同じ理屈があって、たとえ温室効果強化による地球温暖化が進行していても、そのほかにも気候を変動させる要因が同時に働いていて、人はそのすべてを知りつくすことができません。個別の極端現象と地球温暖化との因果関係は、わからないのが当然なのです。

しかし、今年の初めごろ(したがって今年の暑さの話題と直接には関係ない)ですが、NASA GISSのJames E. Hansen (ハンセン)さんは、極端現象について「人間活動起源の温室効果強化が原因だというべきだ」と言いだしたようです。Hansenさんは科学者であるとともに警告者であろうと決意したらしく、その発言は科学的知見が幅をもつうちで警告となる側を強調していることが多いです。表現はともかくHansenさんが伝える科学的情報を見ると、個別の極端現象ではなく、同類の極端現象の群れに注目して、「地球温暖化によって確率が高まると期待されるような現象の頻度が実際にふえている」ことを指摘しているようです。

「Planet 3.0」というブログのカナダのDan Moutalさんによる2012年8月19日の記事「Shifting norms」 に含まれたアニメーションがその例になっています。これはHansenほか(2012)の論文の結果をもとにしているそうです。北半球を地理的に分けてそれぞれの場所の夏(6,7,8月)の気温について、まず1951-80年の期間について場所ごとに平均値と標準偏差を求めます。そして、気温の値から平均値をひいて標準偏差で割った「規格化された偏差」をつくります。多数の地点の30年それぞれの規格化された偏差を集めて頻度分布を見ると、正規分布に近い形をしています。このグラフで、平均プラスマイナス「標準偏差の半分」の範囲を灰色、上を赤、下を青で塗ってみます。データの期間を延長しますが、規格化する際の平均値と標準偏差の基準期間は1951-80年のまま変えないことにします。また、色の塗り分けの基準も変えないことにします。期間をずらしながら頻度分布のグラフを見ていくと、1980年ごろから赤の部分がふえていくことがわかります。

このグラフは平均から標準偏差の半分だけ離れたところから色をつけてしまっていますが、これはアニメーションを見やすくするために色のつく面積を大きくしたかったからだと思います。「異常気象」の頻度がふえているかどうかを問題にしたいのならば、たとえば標準偏差の2倍以上離れた値に色をつけて議論したほうがよいと思います。しかし、基本的理屈は同様です。

このグラフが示すのは、気温が上昇しているという事実だけです。それと温室効果気体の増加を結びつける理屈は、これとは別の、大気物理の理論や数値モデルに基づくものです。

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