前の記事いわゆるClimategate事件、渡辺(2010)への反論(3)の中で、「地球温暖化懐疑論批判」という出版物については別の機会に論じる、と書きました。裁判の材料ともなっておりますので慎重にする必要がありますが、まずひとこと述べておきたいと思います。
ここで述べるのは共著者のひとりであるわたし個人の発言です。(わたしは他の著者の考えも近いと思っておりますが、確認をとっておりません。)
この本は題名のとおり「地球温暖化懐疑論」と通称されるさまざまな「論」を批判しようとしたものです。「懐疑論者」あるいは「懐疑派」と呼ばれる「人」を批判する態度はとらないようにつとめました。
批判対象について、著作物を文献リストにあげ、著者名と発行年でたとえば「渡辺(2005)」のような形で表記しました。懐疑論といわれるものの内容は多様なので、それぞれの議論の対象となる「論」の例を明示したかったのです。必要なのは「論」であって著作物の表現ではないので、原則として文章を引用せず要約して表現しました。
渡辺さんは「発言を指弾した」と表現されていますし、読売新聞社説も「研究者が...自説を誹謗中傷されたとして...」と書かれており、説が誹謗中傷の対象となりうるのか疑問ではあるのですが、わたしたちが人ではなく論を論じようとしたことはわかってくださったのだろうと思います。
ただし、第1章の議論1の証拠1・2のところ、とくにFrederick SeitzとFred Singerに対する記述は「人」の批判になっていると思います。この章は担当執筆者を明示しており文章はその人の判断によったものですが、わたしがこの部分はそれでよいと考えた理由は次のとおりです。
北アメリカ(アメリカ合衆国とカナダ)には、地球温暖化の科学に関するさまざまな疑いをふりまく活動をしている団体がいろいろあります(たとえばHoggan 2009の本を参照)。その多くはシンクタンク(think tank)に分類されていますが、むしろ宣伝機関です。SeitzやSingerは、かつては科学者として業績をあげた人なのですが、最近はこのような温暖化懐疑論宣伝機関の論客となっているのです。宣伝機関が発信する懐疑論を批判するには、論の中身よりも宣伝という人の行動に注目するのが適当です。
わたしの知る限り、日本語圏にはこのような組織的な温暖化懐疑論宣伝活動は見あたりません。日本語圏内の温暖化懐疑論を批判するには、「論」に注目するのが適切だと思っています。
文献
masudako
ここで述べるのは共著者のひとりであるわたし個人の発言です。(わたしは他の著者の考えも近いと思っておりますが、確認をとっておりません。)
この本は題名のとおり「地球温暖化懐疑論」と通称されるさまざまな「論」を批判しようとしたものです。「懐疑論者」あるいは「懐疑派」と呼ばれる「人」を批判する態度はとらないようにつとめました。
批判対象について、著作物を文献リストにあげ、著者名と発行年でたとえば「渡辺(2005)」のような形で表記しました。懐疑論といわれるものの内容は多様なので、それぞれの議論の対象となる「論」の例を明示したかったのです。必要なのは「論」であって著作物の表現ではないので、原則として文章を引用せず要約して表現しました。
渡辺さんは「発言を指弾した」と表現されていますし、読売新聞社説も「研究者が...自説を誹謗中傷されたとして...」と書かれており、説が誹謗中傷の対象となりうるのか疑問ではあるのですが、わたしたちが人ではなく論を論じようとしたことはわかってくださったのだろうと思います。
ただし、第1章の議論1の証拠1・2のところ、とくにFrederick SeitzとFred Singerに対する記述は「人」の批判になっていると思います。この章は担当執筆者を明示しており文章はその人の判断によったものですが、わたしがこの部分はそれでよいと考えた理由は次のとおりです。
北アメリカ(アメリカ合衆国とカナダ)には、地球温暖化の科学に関するさまざまな疑いをふりまく活動をしている団体がいろいろあります(たとえばHoggan 2009の本を参照)。その多くはシンクタンク(think tank)に分類されていますが、むしろ宣伝機関です。SeitzやSingerは、かつては科学者として業績をあげた人なのですが、最近はこのような温暖化懐疑論宣伝機関の論客となっているのです。宣伝機関が発信する懐疑論を批判するには、論の中身よりも宣伝という人の行動に注目するのが適当です。
わたしの知る限り、日本語圏にはこのような組織的な温暖化懐疑論宣伝活動は見あたりません。日本語圏内の温暖化懐疑論を批判するには、「論」に注目するのが適切だと思っています。
文献
- 明日香 壽川ほか, 2009年:
地球温暖化懐疑論批判 (IR3S/TIGS叢書 1)。東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)・東京大学地球持続戦略研究イニシアティブ(TIGS)。80ページ、非売品。PDF版がウェブサイトhttp://www.ir3s.u-tokyo.ac.jp/sosho にある。[読書ノート] - James Hoggan, 2009: Climate Cover-Up: The Crusade to Deny Global Warming. Vancouver BC Canada: Greystone Books (D&M Publishers), 250 pp. ISBN 978-1-55365-485-8.
[読書ノート]
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