[8月28日の記事]の続きです。
9月26日、RealClimateブログに、雲凝結核となるエーロゾルを研究しているJeffrey Pierce (ピアス)さんによる記事Cosmic rays and clouds: Potential mechanisms (宇宙線と雲: どんなしくみが考えられるか)が出ました。
CERNのCLOUD実験の動機になっているのは、(太陽変動→)宇宙線→イオン→大きさ1ナノメートル程度の硫酸エーロゾル粒子→雲凝結核(大きさ50ナノメートル程度のエーロゾル粒子)→雲という因果関係です。Pierceさんはこれを「雲・エーロゾルの晴天仮説」と呼んでいます。もともと雲がないところで、凝結核が多いほうが雲粒ができやすいという考えです。
深井 有 (2011) 『気候変動とエネルギー問題』(中公新書) [わたしの読書メモ][わたしの補足的コメント]の図1-17で紹介されているのもこれです。
Pierceさんは段階を追って考えていきます。
1. 太陽活動の例として約11年の黒点周期の極大と極小をとると、その宇宙線の違いによってイオン形成には5%から20%の違いが生じると見積もられています。
2. イオンがふえるとエーロゾル粒子形成はふえますが、そのふえかたはイオン数に比例するよりはやや弱いことが、Kirkbyほか(2011, Nature)の論文に示されたCLOUD実験の結果からわかります。
3. 形成されるエーロゾル粒子数が多ければ雲凝結核の数も多くなると考えられますが、そのふえかたの関係も比例よりは弱いです。大気中には、1ナノメートル級の粒子から成長するもののほかに、もともと数十ナノメートルの大きさをもつ硫酸や有機物のエーロゾルが供給されているからです。Pierceさんの見積もりでは、黒点周期に伴う雲凝結核数の相対変化は1%未満です。
4. 雲凝結核の数が多いと、同じ水の量でも細かい粒子がたくさんある雲になるために、太陽光を反射する働きは強くなると考えられます。しかし、雲凝結核数の1%未満の相対変化が、雲量(雲に覆われた面積比率)の1%よりも大きな相対変化をもたらしているとは思われません。
そこでPierceさんは、宇宙線が気候に影響を与えるとすれば、「晴天仮説」ではなく、「雲の近くで起こることについての仮説」を考えるべきだろうと話を進めています。電場・電流・電荷分布・電気容量がからむ話で、雷が起きるしくみとも関係がありますが、必ずしも雷が起きない状況を考えるようです。これ以上詳しいことはわたしにはよくわかりません。
ともかく、宇宙線あるいは太陽活動が気候に大きな影響を及ぼしている可能性があるとすれば、これまでにあまり追求されてこなかった因果関係を考える必要がありそうです。
(ただし、それで最近50年間の全球規模の温暖化傾向を説明できることはなさそうだ、ということは8月28日の記事で書いたとおりです。)
masudako
9月26日、RealClimateブログに、雲凝結核となるエーロゾルを研究しているJeffrey Pierce (ピアス)さんによる記事Cosmic rays and clouds: Potential mechanisms (宇宙線と雲: どんなしくみが考えられるか)が出ました。
CERNのCLOUD実験の動機になっているのは、(太陽変動→)宇宙線→イオン→大きさ1ナノメートル程度の硫酸エーロゾル粒子→雲凝結核(大きさ50ナノメートル程度のエーロゾル粒子)→雲という因果関係です。Pierceさんはこれを「雲・エーロゾルの晴天仮説」と呼んでいます。もともと雲がないところで、凝結核が多いほうが雲粒ができやすいという考えです。
深井 有 (2011) 『気候変動とエネルギー問題』(中公新書) [わたしの読書メモ][わたしの補足的コメント]の図1-17で紹介されているのもこれです。
Pierceさんは段階を追って考えていきます。
1. 太陽活動の例として約11年の黒点周期の極大と極小をとると、その宇宙線の違いによってイオン形成には5%から20%の違いが生じると見積もられています。
2. イオンがふえるとエーロゾル粒子形成はふえますが、そのふえかたはイオン数に比例するよりはやや弱いことが、Kirkbyほか(2011, Nature)の論文に示されたCLOUD実験の結果からわかります。
3. 形成されるエーロゾル粒子数が多ければ雲凝結核の数も多くなると考えられますが、そのふえかたの関係も比例よりは弱いです。大気中には、1ナノメートル級の粒子から成長するもののほかに、もともと数十ナノメートルの大きさをもつ硫酸や有機物のエーロゾルが供給されているからです。Pierceさんの見積もりでは、黒点周期に伴う雲凝結核数の相対変化は1%未満です。
4. 雲凝結核の数が多いと、同じ水の量でも細かい粒子がたくさんある雲になるために、太陽光を反射する働きは強くなると考えられます。しかし、雲凝結核数の1%未満の相対変化が、雲量(雲に覆われた面積比率)の1%よりも大きな相対変化をもたらしているとは思われません。
そこでPierceさんは、宇宙線が気候に影響を与えるとすれば、「晴天仮説」ではなく、「雲の近くで起こることについての仮説」を考えるべきだろうと話を進めています。電場・電流・電荷分布・電気容量がからむ話で、雷が起きるしくみとも関係がありますが、必ずしも雷が起きない状況を考えるようです。これ以上詳しいことはわたしにはよくわかりません。
ともかく、宇宙線あるいは太陽活動が気候に大きな影響を及ぼしている可能性があるとすれば、これまでにあまり追求されてこなかった因果関係を考える必要がありそうです。
(ただし、それで最近50年間の全球規模の温暖化傾向を説明できることはなさそうだ、ということは8月28日の記事で書いたとおりです。)
masudako