10月4日の第2報に続き、IPCCの「再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書」(SRREN) [本家はここ]の「技術的要約」(TS)を見ていきます。

今回は、TSの第8節、報告書本文では第8章、 SPM(政策決定者向け要約)では第4節の、「現在および将来のエネルギーシステムへの統合」です。

エネルギーシステムという用語は文脈によって違う意味を持つと思いますが、ここではおもに、エネルギーの利用者のところにエネルギーを届けるしくみをさしているようです。それを次のように分けて、それぞれについて、エネルギーの源として再生可能エネルギーを使う場合にどんな問題があり、どんな(技術的)対策があるかを論じています。

  • 電力網 (発電・送電・配電) . . . 8.2節

  • 地域給湯・冷暖房 . . . 8.3節

  • ガス管網 . . . 8.4節

  • 液体燃料の供給 (おもにガソリンスタンドとそこへガソリン類を運ぶしくみ) . . . 8.5節

  • 自給自足的エネルギー利用 . . . 8.6節


それぞれの供給の形についての議論があるのですが、予想どおりのものが多かったです。電力に太陽光・風力をとりこむためにいわゆるスマートグリッドが必要だということ、バイオマス燃焼発電は石炭火力や原子力に比べて小規模なので電力とともに熱を(お湯などの形で)地域に供給するいわゆるコジェネが望ましいと考えられること、燃料の種類が変わるとガス管やガソリンスタンドの改修が必要になること、などです。

自給自足型のエネルギー利用をふやす必要があるとわたしは思っていますが、SRRENではそれほど重視されておらず、離島などには適しているだろうと言っています。

このあと、長い8.7節があり、エネルギーを利用する側で変えていくべき点を述べています。

8.7.1節は運輸です。内燃機関を使った(電気とのハイブリッドを含む)自動車の燃料としてバイオ液体燃料やバイオガスを使うことと、他の再生可能エネルギーからの電力を鉄道や電気自動車で使うことが主になると考えています。水素燃料電池も将来は可能と見ていますが、供給システムの構築が必要で普及には十年単位の時間がかかると見ています。(わたしも将来は燃料電池が使われると思いますが、エネルギー輸送媒体として水素が適当とは思えないので、輸送に適していてそのまま燃料電池に使える媒体を見つける研究開発がまず必要だと思います。)

8.7.2節は建物(オフィスを含む)と家庭でのエネルギー利用についてです。冷暖房について、石炭などの化石燃料への依存を減らす方法として、地域冷暖房、バイオマスペレットによるストーブ、ヒートポンプ(地中熱の季節変化の小ささの利用を含む)、太陽熱の直接利用、太陽熱による冷房(ヒートポンプの一種だと思いますが入力が仕事でなく高温熱)などの選択肢をあげています。また、省エネルギーも重要です。

いわゆる途上国の農村地域では、薪を手で運んで家のかまどで燃やすといった伝統的バイオマス燃料利用が多いのですが、SRRENでは、このような利用形態は減っていき太陽熱と近代的バイオマス燃料を含む他の再生可能エネルギー源に置きかえられていくことを想定しています。伝統的バイオマス利用は、(薪の場合であれば森林の)持続可能性が心配なこと、エネルギー利用としての効率がよくないこと、調理する人やそのまわりにいる人が煙を吸いこむなど健康上よくないこと、などの理由で、望ましくないとされます。この伝統的利用方法に否定的な態度は、もっともな場合もあると思いますが、それぞれの地域ごとに、近代的システムへの切りかえを勧める前にほんとうに改善になるかを評価する必要があると、わたしは思います。

8.7.3節は工業です。再生可能エネルギーへの移行がむずかしいのは、エネルギー消費の多い工業で、鉄鋼、その他の金属、化学・肥料、石油精製、鉱業、紙パルプがあげられています。むずかしさのひとつは、大量に集積できる再生可能エネルギーは水力や地熱などに限られ、バイオマスや太陽エネルギーは広く分散していることです。それから、化石燃料と比べて約400℃をこえる高温を得にくいことです。集光による太陽熱利用ならば可能ですが、その条件の整ったところ以外は、高温熱を利用する工程から電気を利用する工程への変更が必要になることが多いでしょう(電気で高温熱を作ることはできますが、むだが多いので)。また、バイオマス加工産業はバイオマス燃料あるいは電力の供給源にもなりうることも指摘しています。

8.7.4節は農林水産業です。肥料の製造を工業に含めることにすると、農林水産業のおもなエネルギー消費は灌漑ポンプ、冷蔵などで、それを各地それぞれの事情に応じてどう再生可能エネルギーでまかなうかが課題になります。また、農家は、バイオマス燃料に特化した農業を別としても、農業残渣バイオマスや風力のエネルギー生産者になりえますが、資本の不足、供給地と需要地の距離などが制約になっています。それを克服する政策が必要だと言っているようですがあまり具体的には述べていません。

今回はここまでにいたします。

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