日経サイエンス」の2012年8月号には「太陽異変」「竜巻の脅威」という2つの特集があります。ここでは太陽のほうをとりあげます。これはScientific Americanからの翻訳ではなく日本独自の企画です。

気候変化の研究者から見て、太陽の変動は注目すべきもののひとつです。5月の気象学会の中で行なわれた講演会でも、天文学者との意思疎通をもっと進める必要があるという発言がありました (わたしの覚え書きは[別ブログ6月23日の記事])。だから、この企画がされたことはありがたいことなのです。ただし、雑誌編集者がつけたと思われる表題や導入文に、地球の気候が寒くなるだろうという期待をもたせそうなことばがならんでいます。中身を読んでみると「かもしれない」とは言えますが「だろう」というほどの主張にはなっていません。また、二酸化炭素そのほかの温室効果の変化の効果との重みの比較はされていません。蛇足かもしれませんが、これは人為起源温室効果強化による地球温暖化を否定する根拠になる記事群ではないことに注意しておきたいと思います。

常田 佐久「特異な磁場出現 活動 未知の領域へ」は、太陽観測衛星「ひので」の観測でわかったことの報告です。このブログではすでに[2011年9月6日の記事][2012年4月12日の記事]でふれていますが、その後の進展も含めて、雑誌記事のほうがよくわかると思います。太陽磁場の「2重極構造」(わたしの4月12日の記事では「双極子磁場」と表現しました)つまり自転軸と磁石のN・S極の軸が一致するような構造が弱まり「4重極構造」が強まっています。また、黒点周期が通常の11年よりも長くなっています。これらの特徴が、過去に黒点が非常に少なかったMaunder極小期(1650-1700年ごろ)やDalton極小期(1800-1820年ごろ)に似ていると言っていますが、その根拠は次にのっている宮原さんの研究のようです。常田さんは太陽がそのような極小期に向かいつつある可能性があると言っていますが、断定してはおらず、あと11年くらい観測を続ければはっきりするだろうと言っています。なお、これらの極小期をさして「寒冷期」ということばも見出しには出てきますが、本文にはなく、見出しは編集者がつけたものではないかと思われます。

宮原 ひろ子「地球は冷えるか」は、地球に達する銀河宇宙線と太陽活動の関係の説明と、それが気候におよぼす影響に関する考えを述べたものです。宮原さんはもともと宇宙線の研究者であり、太陽磁場の変化によって宇宙線の動きがどう変わるかは専門家としての確かな知見なのだと思います。太陽活動周期はふつう約11年ですが、その回ごとに太陽磁場の向きが逆転します。太陽磁場と地球磁場が同じ向きか逆向きかによって、地球に達する宇宙線への影響は対称的にならないそうです。(これは古気候指標から原因をさぐるうえで重要なヒントであるとは思いますが、確かめるのはとてもむずかしいと思います。今回の解説ではそこはふれていません。)  宇宙線が気候に影響を及ぼすしくみについては次の草野さんと同じように考えているようです。そのうえで、因果関係を示唆する傍証というつもりだと思いますが、45ページの図では、2009-2010年の世界の異常天候(大雨・かんばつ・寒波など)の分布を定性的に示し、Maunder極小期中に宇宙線が異常に多かった時期の同様な分布とならべています。この部分については、ネット上で、気候に関して何かを主張する論法としてはあまりに雑だという匿名の論評を見ました。実際、最近の古気候学研究の中には、過去のさまざまな記録を温度などの定量的変数にそろえて統計的にパタンの類似性を見るものがふえています。わたしは定量的扱いと定性的扱いのどちらがよいかわかりませんが、45ページの図は「研究する価値がありそうである」ことを示唆するものではあるが研究成果として引用できるようなものではないと思います。

草野 完也 「雲と太陽 深い関係」は、太陽活動が気候に影響を与えるしくみに関する説を、(太陽光のエネルギー流の変動は小さすぎるとことわったあとで) 宇宙線と雲を介するものにしぼって述べています。まずSvensmarkの説を好意的に紹介しています。ただし、よく読むと、雲凝結核(草野さんの表現は「雲凝縮核」、たぶん「凝結」が気象用語で「凝縮」が物理用語)として働くには50 nm (ナノメートル)以上の大きさがほしいのですが、SvensmarkのSKY実験で得られた「3 nm以上」やCERNのCLOUD実験で得られた「1.7 nm以上」では小さすぎ、その成長過程が起こることはまだ説明できていません。草野さんはこれと並列に、雲の中にたまった電荷が重要だというTinsleyという人の説も紹介しています。わたしは、太陽磁場の変化は宇宙線を介するよりももっと直接的に電荷の動きに影響しうるだろうと思うのですが、草野さんは宇宙線を介する因果連鎖にこだわっているようです。気候への影響の定量的見積もりとしては、Svensmarkが前に示した銀河宇宙線と海上の対流圏下部の雲量との相関によるものを紹介しているだけで、そのデータは代表性に乏しいという気候学者からの批判にはこたえていません。

masudako