すでに「温暖化は止まった?」(2011年1月31日)「続・温暖化は止まった?」(2011年12月18日)の記事で話題にしたことですが、最近15年ほどの全球平均地上気温の変化は、その前の20年ほどの上昇と比べて、だいぶ小さいです。もし「地球温暖化」を「全球平均地上気温の上昇」で定義するとすれば【わたしはこの定義はうまくないと思うのですが】、「地球温暖化は止まっている」という記述は正しいということができると思います。しかし、気候変化を因果関係のほうから考える人の多くは、地球温暖化をひきおこす原因が止まっているとは考えにくいので、今「止まっている」のは一時的な現象であり温度上昇は再開するだろうと予想しています。

近ごろ気候変化の専門家のあいだで、この「温度上昇の停滞」をさして「hiatus」という表現が使われています。これはラテン語で「ヒアトゥス」ですが、英語の中では「ハイエイタス」と読むのだそうです。
このブログの直前の記事「IPCC第5次報告書はどこまで出ているか」で紹介したIPCC第5次報告書の第1部会の部の技術的要約(TS)では、囲み記事の題名として「Box TS.3: Climate Models and the Hiatus in Global-Mean Surface Warming of the Past 15 years」(TSの囲み3番: 気候モデルと、最近15年間の全球平均地上気温上昇のhiatus) という形で使われています。
2007年に出たIPCC第4次報告書では(出てきそうなところを見た限りでは)この用語は使われていません。わたしが見落としている可能性はありますが、そのころ、気候変化専門家は、だれもhiatusという用語を使っていなかったと思います。温度上昇の停滞はすでに認識されていたのですが、とくに現象の名まえはつけられていなかったのです。

【わたしはたまたま学生のころ(1970年代)にhiatusという語を本で読んだことはありました。(日本語の文章中にわざわざ原語つづりで書いてあったと思います。耳から聞いたことはありませんでした。) ひとつは、地質学で、水の底での泥などの堆積が一時的に止まることをさします。堆積物は古気候の記録であるという立場で見ると、このhiatusは記録の欠損であり、気候の変化の停滞とは違います。もうひとつは、言語学のうちの発音に関する話題で、母音が子音をはさまずにならび、それぞれ独立に発音されることをさします。わたしのかんちがいでなければ、hiatusという語自体の「ia」の部分がその例になっています。「iha」のように中間に子音がはいるのでも、「ヤ」のようにくっついて発音されるのでもなく、「イア」のように発音されるのです。このような発音をする際には、iとaの間に何かをはさもうとしながら実際には何もはさまない、というような意識が働いている、と考えられたので、このような用語が使われたのだろうとわたしは推測しています。この意味と気候の変化の停滞との間ではとても連想が働きません。】

わたしは、地球温暖化を、定常状態ではなく時間変化を含めて考える際には、地表面あるいはその付近のごく薄い層に対応する地上気温ではなく、気候システム(大気・海洋・雪氷などをあわせたもの)のもつエネルギーに注目するべきだと思います。これまで・これから数十年の時間スケールでの気候システムのもつエネルギーの変化の大部分は、海洋の温度変化と、雪氷の凍結融解により、どちらかというと海洋の温度変化が大きな割合をしめます。

海洋の(表面でなく)内部の温度の観測は、気象観測よりもずっと少ないのですが、これまでに船から機器をおろして観測したものを丹念に総合する努力が行なわれてきました。2000年以後はアルゴ(Argo) フロートという無人観測機器が加わり、観測はだいぶ充実してきました。それをもとに、海洋にたくわえられたエネルギーの変化の推計が、世界のいくつかの研究グループによって行なわれています。

そのひとつがアメリカ合衆国海洋大気庁(NOAA)国立海洋データセンター(NODC)のグループです。NODCのウェブサイトは(10月16日現在)アメリカ連邦政府予算が執行停止中のため更新されていないそうですが、幸い公開は続けられていました。「Global Ocean Heat and Salt Content」のページhttp://www.nodc.noaa.gov/OC5/3M_HEAT_CONTENT/の図の部分の「3」を選択してみると、全世界の海のエネルギー量(1955-2006年の平均を基準とした偏差、5年移動平均)が、海面から深さ700メートルまでと、海面から深さ2000メートルまでとの比較で示されています。これはLevitusほか(2012)の論文で述べられた集計の期間を延長したものだそうです。グラフの0-700mの線は2005年ごろから上昇がにぶっていますが、0-2000mはにぶらずに上昇が続いています。

Abrahamほか(2013)のレビュー論文には、これを含む複数の研究グループの成果がまとめられています。そのうちの図15がわかりやすいと思いますが、これは先ほどのと同じNODCのLevitusたちの結果を1980年以後について表示したものです。ただし、0-700mの全期間と、0-2000mの2005年以後については、細かい時間刻み(3か月)の値が表示されています。この図は、Real Climateブログに2013年9月25日に出たStefan Rahmstorfさんによる記事「What ocean heating reveals about global warming?」にも、「Changes in the heat content of the oceans. Source: Abraham et al., 2013.」として紹介されています。

エネルギー量がふえているのにもかかわらず全球平均地上気温や海面水温が上がっていないのはどんなしくみによるものなのか、いろいろな研究が行なわれています。まだ決定的な答えは得られていませんが、気候システム、そのうちでも海洋が、システム外からの強制作用がなくても起こしうるような内部変動が重要であるとは言えそうです。

一例として、東京大学の大気海洋研究所(AORI)の渡部 雅浩さんほかによる論文(Watanabeほか, 2013)が出ました。その論点はAORIのウェブサイトに2013年7月22日に「 学術ニュース 」として出た近年の地球温暖化の停滞は海洋熱吸収の増大によるものかという記事でも紹介されています。

大気海洋結合の気候モデルによるシミュレーションでは通常、気候システムの内部変動は現われますが、その位相(注目している場所の水温がいつ高くなるかなど)は現実と合いません。よく似た初期条件から複数のシミュレーションを行なう「アンサンブル実験」をすると、内部変動の位相がさまざまなものが現われます。

渡部さんたちは、MIROC5という気候モデルでアンサンブル実験を行ない、アンサンブルのメンバーのうちで結果として全球平均地上気温の上昇が少なかったものはどういう性質をもっているかを調べました。そのうち海面水温(1961-1990年の平均を基準とした2001-2010年の偏差)の分布が図3a (「学術ニュース」のウェブページでも図3a)に示されています。北太平洋の低緯度で負、中緯度で正、高緯度で負となっており、PDO (太平洋十年規模振動)として知られた特徴を示しています。なお、観測による2001-2010年の海面水温の偏差が「学術ニュース」の図3bに示されています(論文自体にはない)。こちらは、北大西洋の高温、南大洋の低温が目立ちますが、北太平洋について見ると図3aと同様な特徴が見られます。このような解析から、気候システムがもつエネルギーはふえているのに全球平均地上気温が上がらない事態が起きた要因として、PDOが、全部ではないが、ひと役買っているだろうと考えているわけです。

他方、アメリカのスクリプス海洋研究所の(ハワイ大学の国際太平洋研究センター(IPRC)から異動) 小坂 優さんと謝 尚平さんの論文(Kosaka and Xie, 2013)も出ました。こちらの理屈をわたしはまだ追いきれていないのですが、ENSO (エルニーニョ・南方振動)が重要だと言っています。

PDOとENSOは同じ現象ではありません。ENSOは、大気の変動としては全球におよびますが、海洋の変動は熱帯太平洋に集中しています。他方、PDOのほうは中高緯度が重要です。たとえば、北太平洋で冬に冷やされた水がどこまで沈むかに関係しているでしょう。統計的解析で、PDOとENSOが統計的に独立と仮定して解析しても、それぞれに対応するモードが見られます。(完全独立とみなすのが最適なとらえかたかどうかはわかりませんが、完全従属ではありません。)

原因をひとつにしぼる必要はないので、おそらくどちらも働いているのだと思います。このほかのしくみもあるかもしれません。それぞれの寄与を明確にする必要があるならば、さらに研究が必要です。

文献

  • J. P. Abraham, M. Baringer, N.L. Bindoff, T. Boyer, L.J. Cheng, J.A. Church, J.L. Conroy, C.M. Domingues, J.T. Fasullo, J. Gilson, G. Goni, S.A. Good, J.M. Gorman, V. Gouretski, M. Ishii, G.C. Johnson, S. Kizu, J. M. Lyman, A.M. Macdonald, W.J. Minkowycz, S.E. Moffitt, M.D. Palmer, A.R. Piola, F. Reseghetti, K. von Schuckmann, E. Trenberth, I. Velicogna, J.K. Willis, 2013: A review of global ocean temperature observations: Implications for ocean heat content estimates and climate change. Reviews of Geophysics, 51:450-483. doi: 10.1002/rog.20022

  • Y. Kosaka and S.-P. Xie, 2013: Recent global-warming hiatus tied to equatorial Pacific surface cooling. Nature, 501:403-407. doi:10.1038/nature12534.

  • S. Levitus, J. I. Antonov, T. P. Boyer, O. K. Baranova, H. E. Garcia, R. A. Locarnini, A.V. Mishonov, J. R. Reagan, D. Seidov, E. S. Yarosh, M. M. Zweng, 2012: World Ocean heat content and thermosteric sea level change (0-2000 m) 1955-2010. Geophysical Research Letters, 39, L10603, doi:10.1029/2012GL051106. 研究室の著作リストhttp://www.nodc.noaa.gov/OC5/indpub.htmlにPDFファイルがある。

  • M. Watanabe, Y. Kamae, M. Yoshimori, A. Oka, M. Sato, M. Ishii, T. Mochizuki, and M. Kimoto, 2013: Strengthening of ocean heat uptake efficiency associated with the recent climate hiatus. Geophysical Research Letters, 40:3175-3179. doi:10.1002/grl.50541



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