これまでにコメントを書いてくださったみなさま、どうもありがとうございます。コメントやトラックバックには個別の返答を書かないことを原則にしているのですが、まだブログを始めて日が浅いもので、コメントをもらうとうれしくて、ついつい返事を書いてしまうことがあります。
今回は、いただいた質問のいくつかにお答えすることにします。
まず、kawaさんからのご質問について。
浅井冨雄先生の著書(p.53)に数値が載っていましたので、ご紹介しておきます。年あたりエネルギー供給量で、古い数字なのですが、太陽放射と人工廃熱のエネルギー量は桁が違う(4つも)ことを確認するためには十分ですね。現在では、1970年当時と比べて化石燃料の消費量は倍増に近い(?)と思いますし、化石燃料以外に人工的な核分裂(おもに原子力発電)の熱も加わっていますが、それでも地熱より小さい程度でしょう。もちろん、都市のヒートアイランド問題を軽減するためには人工廃熱を減らすことも重要なことの一つです。
nanaさんからの2点のご質問について。
産業革命前は 280 ppm 程度で変化の小さかった大気中の二酸化炭素濃度は、その後は上昇をつづけ、380 ppm を超えてしまいましたが、このような長期的変化はほとんど人為的なものだと考えられます。
地球温暖化懐疑論者(否定論者)の槌田敦さんなどが強調されているように、年毎の短期的な変化に着目するならエルニーニョや火山噴火の影響といった自然要因も重要です。しかし、そのような要因で長期的な濃度上昇を説明することはできません。海洋や陸上生態系は、正味では人為起源の二酸化炭素を吸収・貯蔵しているはずですので、むしろ人為的な長期の影響の一部を打ち消しているというのが正しい認識です。メタン、一酸化二窒素、ハロカーボン類(いわゆる「フロン」を含みます)など寿命の長い温室効果ガスの濃度上昇も、おもに人為的要因によるものと考えられます。

地球の気候システムを加熱したり冷却したりする要因を放射強制力と呼び、単位面積(m2)あたりの加熱率として表します。産業革命以降、地球に放射強制力をもたらした要素としては、二酸化炭素を含む各種の長寿命温室効果ガスのほか、成層圏・対流圏のオゾン、エーロゾル(大気中の微粒子)など多数ありますが、それらをひとまとめに示したのがこちらの図です(気象庁のIPCC日本語訳より)。この図は、1750-2005年の期間を対象に評価したものです。負の放射強制力(地球を冷やす効果)を持つ要素は正の放射強制力と打ち消しあっているはずなので、「何パーセントが人為的要因」と言うのは難しいです(算数の問題として…)が、人為起源と考えられる要素を正も負もぜんぶ合わせるなら +1.6 W/m2 になります。自然起源の要因が太陽放射の変動による +0.12 W/m2 だけだったと仮定するなら、人為起源の影響は約9割という計算になります。ただし、図中に示されているように不確実性の幅(推定幅)が大きいので、この9割という数字は参考程度とお考えください。また、この図には含まれていない自然起源の要素としては、数年程度の時間スケールでは重要となる大規模火山噴火の影響や、まだ定量的な見積もりが困難な銀河宇宙線が雲に及ぼす影響なども考えられるでしょう。
対流圏の水蒸気は重要な温室効果ガスですが、海面からの蒸発、雲からの降水といった自然のサイクルによって濃度が激しく変動するので、放射強制力にはカウントせず、気候システムに内在するフィードバック過程として取り扱われています。
むむむ・・・、どのような趣旨で「うまく取り込めていない」とおっしゃったのでしょうね?
推測するなら、「大気モデル内部で表現される水蒸気量は、温度や気圧などの物理量に比べて精度が低い」「天気予報用のモデルに入力する水蒸気(湿度)の観測データは精度が低い」といったことでしょうか。
私が以前のコメント欄で、水蒸気や二酸化炭素の放射特性が「十分な精度で」考慮されていると書いたのは、水蒸気量やその他の温室効果ガス濃度が正しい場合には放射による加熱や冷却がかなり正確に表現できる、という意味です。なので、水蒸気量が正しいかどうかということの方が問題になりますが、地球温暖化のフィードバック過程として考えるならば、気温上昇にともなう飽和水蒸気量の増大については良く理解されていますし、気候モデル間の差異も小さいので、「だいたい正しいはずだ」と答えることはできるでしょう。少なくとも、フィードバック過程としての不確実性が大きいという意味では、雲の変化の方がずっと重要だと考えられています。
まったく蛇足ですが、一般論としては、気象庁職員は正直な人が多いと思います(^_^;)
では、また。
吉村じゅん
今回は、いただいた質問のいくつかにお答えすることにします。
まず、kawaさんからのご質問について。
「化石燃料の燃焼に際しては、二酸化炭素と一緒に相応の熱量が排出されます。当然、この熱が燃焼の大きな目的であるわけですが、地球の生態系が何億年もかけて、太陽光エネルギーを浴びて大気中の二酸化炭素を吸収し、有機炭素として固定したものを、人類が再び二酸化炭素と熱にして一気に解放しつつあると言えるのではないでしょうか。果たしてこの熱は温暖化には寄与していないのでしょうか。その影響は太陽熱や地熱に比して無視しうる程小さいのでしょうか。」
浅井冨雄先生の著書(p.53)に数値が載っていましたので、ご紹介しておきます。年あたりエネルギー供給量で、古い数字なのですが、太陽放射と人工廃熱のエネルギー量は桁が違う(4つも)ことを確認するためには十分ですね。現在では、1970年当時と比べて化石燃料の消費量は倍増に近い(?)と思いますし、化石燃料以外に人工的な核分裂(おもに原子力発電)の熱も加わっていますが、それでも地熱より小さい程度でしょう。もちろん、都市のヒートアイランド問題を軽減するためには人工廃熱を減らすことも重要なことの一つです。
地球の表面で吸収される日射 90,000,000◇引用元: 浅井冨雄 著「気候変動 −異常気象・長期変動の謎を探る−」(「気象学のプロムナード」シリーズ 第2期9)、東京堂出版、1988年、ISBN 4-490-20138-9
地熱(地殻からの伝導分) 32,000
化石燃料の燃焼(1970年) 8,000
化石燃料の燃焼(1910年) 1,000
(単位:10億ワット)
nanaさんからの2点のご質問について。
1)「温暖化における二酸化炭素の寄与について、人為と自然を区分し、それを定量的に教えてください。二酸化炭素を減らしましょう、というには、自然がどのぐらい影響を与えていて、人間が何パーセントぐらい影響を与えている、という「割合」がわからないと、より効果的な具体策は考えにくいですから。」
産業革命前は 280 ppm 程度で変化の小さかった大気中の二酸化炭素濃度は、その後は上昇をつづけ、380 ppm を超えてしまいましたが、このような長期的変化はほとんど人為的なものだと考えられます。
地球温暖化懐疑論者(否定論者)の槌田敦さんなどが強調されているように、年毎の短期的な変化に着目するならエルニーニョや火山噴火の影響といった自然要因も重要です。しかし、そのような要因で長期的な濃度上昇を説明することはできません。海洋や陸上生態系は、正味では人為起源の二酸化炭素を吸収・貯蔵しているはずですので、むしろ人為的な長期の影響の一部を打ち消しているというのが正しい認識です。メタン、一酸化二窒素、ハロカーボン類(いわゆる「フロン」を含みます)など寿命の長い温室効果ガスの濃度上昇も、おもに人為的要因によるものと考えられます。

地球の気候システムを加熱したり冷却したりする要因を放射強制力と呼び、単位面積(m2)あたりの加熱率として表します。産業革命以降、地球に放射強制力をもたらした要素としては、二酸化炭素を含む各種の長寿命温室効果ガスのほか、成層圏・対流圏のオゾン、エーロゾル(大気中の微粒子)など多数ありますが、それらをひとまとめに示したのがこちらの図です(気象庁のIPCC日本語訳より)。この図は、1750-2005年の期間を対象に評価したものです。負の放射強制力(地球を冷やす効果)を持つ要素は正の放射強制力と打ち消しあっているはずなので、「何パーセントが人為的要因」と言うのは難しいです(算数の問題として…)が、人為起源と考えられる要素を正も負もぜんぶ合わせるなら +1.6 W/m2 になります。自然起源の要因が太陽放射の変動による +0.12 W/m2 だけだったと仮定するなら、人為起源の影響は約9割という計算になります。ただし、図中に示されているように不確実性の幅(推定幅)が大きいので、この9割という数字は参考程度とお考えください。また、この図には含まれていない自然起源の要素としては、数年程度の時間スケールでは重要となる大規模火山噴火の影響や、まだ定量的な見積もりが困難な銀河宇宙線が雲に及ぼす影響なども考えられるでしょう。
対流圏の水蒸気は重要な温室効果ガスですが、海面からの蒸発、雲からの降水といった自然のサイクルによって濃度が激しく変動するので、放射強制力にはカウントせず、気候システムに内在するフィードバック過程として取り扱われています。
2)「別エントリで「水蒸気をきちんとモデルに取り込んでいる」と書かれていますが、気象庁に勤める知人は「水蒸気はうまく取り込めていない」といっています。吉村さんの言われる「きちんと」とはどの程度を意味しているのか、お教え頂ければ幸いです。」
むむむ・・・、どのような趣旨で「うまく取り込めていない」とおっしゃったのでしょうね?
推測するなら、「大気モデル内部で表現される水蒸気量は、温度や気圧などの物理量に比べて精度が低い」「天気予報用のモデルに入力する水蒸気(湿度)の観測データは精度が低い」といったことでしょうか。
私が以前のコメント欄で、水蒸気や二酸化炭素の放射特性が「十分な精度で」考慮されていると書いたのは、水蒸気量やその他の温室効果ガス濃度が正しい場合には放射による加熱や冷却がかなり正確に表現できる、という意味です。なので、水蒸気量が正しいかどうかということの方が問題になりますが、地球温暖化のフィードバック過程として考えるならば、気温上昇にともなう飽和水蒸気量の増大については良く理解されていますし、気候モデル間の差異も小さいので、「だいたい正しいはずだ」と答えることはできるでしょう。少なくとも、フィードバック過程としての不確実性が大きいという意味では、雲の変化の方がずっと重要だと考えられています。
まったく蛇足ですが、一般論としては、気象庁職員は正直な人が多いと思います(^_^;)
では、また。
吉村じゅん