こんばんは、じゅんきちです。近未来の気候予測について「もう少し紹介したいこともある」と予告しておきながら、先延ばしにしているうちに時が過ぎてしまいました。すいません。
紹介したかったのは、Nature誌の2008年5月1日号に掲載された Richard Wood氏 (英国気象局ハドレーセンター, UK Met Office Hadley Centre) による近未来気候予測についての論説です。正味1ページほどの短いものですが、専門外の方にも理解してもらえるよう平易に、予測可能性(predictability) の問題を含む重要ポイントをまとめた高品質の解説と言えるでしょう。興味ある方は英語の原文(リンク ←本文は有料です)を読んでいただくのが良いとは思いますが、以下、日本語で要点を書いておきます。私なりの解釈も少しまじえて。
◇水資源、エネルギー資源、沿岸地域の管理などに関する数10年先までの計画を立てるにあたって、気候変動が考慮に入れられるようになってきている。しかし、このような時間スケールでは(とくに地域的には)温暖化は直線的なものにはならず、自然な気候のゆらぎ (natural climate variations) の影響を受けることになる。最近になって、このような自然現象としての温暖化や寒冷化を含めた近未来気候予測の試みが始まった(論文としては、Smith et al. 2007 や Keenlyside et al. 2008)。
◇海洋は、数10年という時間スケールにわたる気候の状況についての「記憶 (memory)」を持つため、高温偏差や低温偏差などが長期的に持続することがある。このような海洋の状態を的確に表現することができれば、近未来に起こりうる気候のゆらぎを予測できる可能性がある。
◇このような気候予測を実施するためには、数日スケールの天気予報に似た手順が必要となる。まず、全球的な気候システムに関する数値的モデルを構築し、観測データを利用して現在の気候状態を表現する(初期化)。次に、高速なコンピュータ上でモデルを走らせる(時の経過にともなう変化を計算する)ことにより、来るべき将来の状態を表現していく。しかし、手順が天気予報と似ているとは言っても、数年先の年月日まで特定して天気の変化を予測できるわけではない(この種の予測可能性は1〜2週間程度で消えてしまう)。それでも、例えば、ある地域で今後10年間の夏季には雨が多くなるといったような、気候の変化傾向が予測できる理論的可能性はある。
◇Keenlysideらの研究では、海面水温を対象とした簡単な初期化手法を採用し、10年先まで、欧州や北米を含む広い地域で気温予測能力が向上すること示した。この予測結果によると、今後10年間には、北大西洋で深層循環 (MOC = meridional overturning circulation) が弱まることで寒冷化の影響があるとされており、長期的な温暖化傾向を打ち消すことになる可能性がある。
◇このような近未来気候予測の試みは始まってから間もないため、今後の課題も多い。初期化の手法が適切なものかどうか、気候モデル自体が持つ欠点はどうか、これまでに発表された2つの研究結果では予測能力が比較的高いとされた地域が異なるのはなぜか、といったことが指摘できる。
◇ただし、10年スケールの気候予測においては、ある程度の不確実性がつねにつきまとう。自発的な気候のゆらぎの予測可能性には固有の限界があり、大規模な火山噴火の影響のように事前予測の困難な外部的要因もある。このため、予測として意味があるのは、確率論的な情報のみとなる。
では、また。(吉村じゅんきち)
紹介したかったのは、Nature誌の2008年5月1日号に掲載された Richard Wood氏 (英国気象局ハドレーセンター, UK Met Office Hadley Centre) による近未来気候予測についての論説です。正味1ページほどの短いものですが、専門外の方にも理解してもらえるよう平易に、予測可能性(predictability) の問題を含む重要ポイントをまとめた高品質の解説と言えるでしょう。興味ある方は英語の原文(リンク ←本文は有料です)を読んでいただくのが良いとは思いますが、以下、日本語で要点を書いておきます。私なりの解釈も少しまじえて。
◇水資源、エネルギー資源、沿岸地域の管理などに関する数10年先までの計画を立てるにあたって、気候変動が考慮に入れられるようになってきている。しかし、このような時間スケールでは(とくに地域的には)温暖化は直線的なものにはならず、自然な気候のゆらぎ (natural climate variations) の影響を受けることになる。最近になって、このような自然現象としての温暖化や寒冷化を含めた近未来気候予測の試みが始まった(論文としては、Smith et al. 2007 や Keenlyside et al. 2008)。
◇海洋は、数10年という時間スケールにわたる気候の状況についての「記憶 (memory)」を持つため、高温偏差や低温偏差などが長期的に持続することがある。このような海洋の状態を的確に表現することができれば、近未来に起こりうる気候のゆらぎを予測できる可能性がある。
◇このような気候予測を実施するためには、数日スケールの天気予報に似た手順が必要となる。まず、全球的な気候システムに関する数値的モデルを構築し、観測データを利用して現在の気候状態を表現する(初期化)。次に、高速なコンピュータ上でモデルを走らせる(時の経過にともなう変化を計算する)ことにより、来るべき将来の状態を表現していく。しかし、手順が天気予報と似ているとは言っても、数年先の年月日まで特定して天気の変化を予測できるわけではない(この種の予測可能性は1〜2週間程度で消えてしまう)。それでも、例えば、ある地域で今後10年間の夏季には雨が多くなるといったような、気候の変化傾向が予測できる理論的可能性はある。
◇Keenlysideらの研究では、海面水温を対象とした簡単な初期化手法を採用し、10年先まで、欧州や北米を含む広い地域で気温予測能力が向上すること示した。この予測結果によると、今後10年間には、北大西洋で深層循環 (MOC = meridional overturning circulation) が弱まることで寒冷化の影響があるとされており、長期的な温暖化傾向を打ち消すことになる可能性がある。
◇このような近未来気候予測の試みは始まってから間もないため、今後の課題も多い。初期化の手法が適切なものかどうか、気候モデル自体が持つ欠点はどうか、これまでに発表された2つの研究結果では予測能力が比較的高いとされた地域が異なるのはなぜか、といったことが指摘できる。
◇ただし、10年スケールの気候予測においては、ある程度の不確実性がつねにつきまとう。自発的な気候のゆらぎの予測可能性には固有の限界があり、大規模な火山噴火の影響のように事前予測の困難な外部的要因もある。このため、予測として意味があるのは、確率論的な情報のみとなる。
では、また。(吉村じゅんきち)