読売新聞の2月25日朝刊に「地球温暖化 不信を広げる研究者の姿勢」という社説が出ました。
最後の文
>地球規模の気候変動を正確に把握し予測することは、もともと容易でない。研究者には、冷静な議論が求められる。
は、もっともです。
この研究者として大賛成の結論をもつ文章に対して、研究者として認めがたい表題をつけられてしまいました。新聞の報道記事を書く人と見出しをつける人はふつう別だと聞いていますが、社説の場合もそうなのでしょうか。
研究者としては、不信を減らすために、釈明しなければならないと思います。とりあえず、とても気になるところについて、個人として発言します。
まず、クライメートゲート(Climategate)というあだ名がついてしまった、イギリスのイーストアングリア大学の事件です。
>ことの発端は「ウォーターゲート」事件になぞらえた「クライメート(気候)ゲート」事件だ。
どう「なぞらえた」のでしょう? (これは単なる疑問、わたしがなぞらえるとこうなるのですが。)
>昨年11月、この研究者が在籍する大学から大量の電子メールなどが漏洩(ろうえい)し、データをごまかす相談個所が見つかった。温暖化を裏付けるのに都合の悪いデータを隠蔽(いんぺい)したと疑わせる文言もあった。
「...と疑わせる文言もあった」は、実際疑った人がいたわけですから、事実とされてもよいと思いますが、前の文も同様に「データをごまかす相談と疑わせる箇所」というべきです。
>英議会もデータ隠蔽などの調査に乗り出した。
これもデータ隠蔽などの疑いの調査です。(「情報公開法違反の疑い」という表現のほうがよかったと思いますが。)
つぎにIPCCの件になりますが、
>その騒ぎの最中、地球温暖化対策の基礎となるこの報告書に、科学的根拠の怪しい記述や間違いが指摘された。「ヒマラヤの氷河は2035年までに解けてなくなる可能性が非常に高い」との記述はその例で、根拠がなかった。
>IPCCも公式に誤りを認めている。
この件はわたしは別のブログの記事(1)(2)に書きましたので、そちらをごらんください。
>日本人研究者も関与した記述とされるが、詳しい経緯は明らかにされていない。
確かに、問題のIPCC第4次報告書の第2部会のアジアの章の編著者や執筆者には日本人研究者が含まれています。おそらく追って事情の説明はなさると思います。どうか、回答要求を急ぎすぎないように、また責任追及はお手やわらかにお願いします。IPCCの仕事はいわゆる手弁当なのです。それぞれの所属機関が職員のIPCCへの貢献を公用と認めることが多いですが、個人としても本来の業務に加えてIPCCの業務を引き受けています。まちがいを減らすのに重要なのは、まず、忙しい人をますます忙しくしないことだと思います。
>さらに、IPCC幹部が、温暖化対策で利益を得る企業から多額の資金提供を受けていた疑惑も報じられている。
詳しいことはわかりませんが、パチャウリ議長のことだとすれば、彼はインドのTERI (エネルギー・資源研究所)という非政府・非営利の研究機関から給料をもらい、TERIの仕事とIPCCの仕事を兼任しています。(IPCCからは給料をもらっていないそうです。議長職もボランティアなのです。) 問題になっているのは、議長個人ではなくてTERIへの欧米(日本もあるかもしれません)の企業からの資金提供です。
(なお、TERIは昔は「タタエネルギー研究所」でしたが、今はタタ財閥とは関係ないそうです。略称TERIは変えていませんが、今の名前のTは英語の定冠詞Theです。)
(きょうの記事はすべてわたし個人の見解ですが、とくにここから先は不確かです。今後考えが変わるかもしれません。) 議長およびTERIの倫理観からは、非営利の研究組織が使うのだからやましいところはないようです。他方、欧米の倫理観からすると、国連のIPCCが「公」であるのに対してTERIは「私」であって、TERIがIPCC議長の役得を得るのは許せないのでしょう。このあたりの判断は文化圏によって違う可能性があります。日本人としては、欧米の判断をうのみにするのではなく、事情をよく知ったうえで、日本人の立場から世界を見すえた倫理観を持って、判断をくだしていくべきだと思います。
>国内でも、CO2による温暖化説を疑問視する研究者が、東京大学の刊行物で自説を誹謗(ひぼう)中傷されたとして、東大を東京地裁に訴える事態が生じている。
ここで確かなのは、原告が誹謗中傷だと言っている、ということです。(誹謗中傷の対象は「説」ではなくて人だと思いますが。) 判決は出ていませんし、読売新聞が誹謗中傷を事実と認定しているわけではないと思います。
[2010-02-27 補足: 昨日は署名を忘れましたが、これは climate_writers のひとりである masudako の個人的見解です。]
masudako
最後の文
>地球規模の気候変動を正確に把握し予測することは、もともと容易でない。研究者には、冷静な議論が求められる。
は、もっともです。
この研究者として大賛成の結論をもつ文章に対して、研究者として認めがたい表題をつけられてしまいました。新聞の報道記事を書く人と見出しをつける人はふつう別だと聞いていますが、社説の場合もそうなのでしょうか。
研究者としては、不信を減らすために、釈明しなければならないと思います。とりあえず、とても気になるところについて、個人として発言します。
まず、クライメートゲート(Climategate)というあだ名がついてしまった、イギリスのイーストアングリア大学の事件です。
>ことの発端は「ウォーターゲート」事件になぞらえた「クライメート(気候)ゲート」事件だ。
どう「なぞらえた」のでしょう? (これは単なる疑問、わたしがなぞらえるとこうなるのですが。)
>昨年11月、この研究者が在籍する大学から大量の電子メールなどが漏洩(ろうえい)し、データをごまかす相談個所が見つかった。温暖化を裏付けるのに都合の悪いデータを隠蔽(いんぺい)したと疑わせる文言もあった。
「...と疑わせる文言もあった」は、実際疑った人がいたわけですから、事実とされてもよいと思いますが、前の文も同様に「データをごまかす相談と疑わせる箇所」というべきです。
>英議会もデータ隠蔽などの調査に乗り出した。
これもデータ隠蔽などの疑いの調査です。(「情報公開法違反の疑い」という表現のほうがよかったと思いますが。)
つぎにIPCCの件になりますが、
>その騒ぎの最中、地球温暖化対策の基礎となるこの報告書に、科学的根拠の怪しい記述や間違いが指摘された。「ヒマラヤの氷河は2035年までに解けてなくなる可能性が非常に高い」との記述はその例で、根拠がなかった。
>IPCCも公式に誤りを認めている。
この件はわたしは別のブログの記事(1)(2)に書きましたので、そちらをごらんください。
>日本人研究者も関与した記述とされるが、詳しい経緯は明らかにされていない。
確かに、問題のIPCC第4次報告書の第2部会のアジアの章の編著者や執筆者には日本人研究者が含まれています。おそらく追って事情の説明はなさると思います。どうか、回答要求を急ぎすぎないように、また責任追及はお手やわらかにお願いします。IPCCの仕事はいわゆる手弁当なのです。それぞれの所属機関が職員のIPCCへの貢献を公用と認めることが多いですが、個人としても本来の業務に加えてIPCCの業務を引き受けています。まちがいを減らすのに重要なのは、まず、忙しい人をますます忙しくしないことだと思います。
>さらに、IPCC幹部が、温暖化対策で利益を得る企業から多額の資金提供を受けていた疑惑も報じられている。
詳しいことはわかりませんが、パチャウリ議長のことだとすれば、彼はインドのTERI (エネルギー・資源研究所)という非政府・非営利の研究機関から給料をもらい、TERIの仕事とIPCCの仕事を兼任しています。(IPCCからは給料をもらっていないそうです。議長職もボランティアなのです。) 問題になっているのは、議長個人ではなくてTERIへの欧米(日本もあるかもしれません)の企業からの資金提供です。
(なお、TERIは昔は「タタエネルギー研究所」でしたが、今はタタ財閥とは関係ないそうです。略称TERIは変えていませんが、今の名前のTは英語の定冠詞Theです。)
(きょうの記事はすべてわたし個人の見解ですが、とくにここから先は不確かです。今後考えが変わるかもしれません。) 議長およびTERIの倫理観からは、非営利の研究組織が使うのだからやましいところはないようです。他方、欧米の倫理観からすると、国連のIPCCが「公」であるのに対してTERIは「私」であって、TERIがIPCC議長の役得を得るのは許せないのでしょう。このあたりの判断は文化圏によって違う可能性があります。日本人としては、欧米の判断をうのみにするのではなく、事情をよく知ったうえで、日本人の立場から世界を見すえた倫理観を持って、判断をくだしていくべきだと思います。
>国内でも、CO2による温暖化説を疑問視する研究者が、東京大学の刊行物で自説を誹謗(ひぼう)中傷されたとして、東大を東京地裁に訴える事態が生じている。
ここで確かなのは、原告が誹謗中傷だと言っている、ということです。(誹謗中傷の対象は「説」ではなくて人だと思いますが。) 判決は出ていませんし、読売新聞が誹謗中傷を事実と認定しているわけではないと思います。
[2010-02-27 補足: 昨日は署名を忘れましたが、これは climate_writers のひとりである masudako の個人的見解です。]
masudako